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姉なせつなと妹なイースと【1】/そらまめ




昨日は特別な事があったわけではないと思う。自分の中にある昨日の記憶は、いつも通りに学校に行って、授業を受けて、体育の時間にラブが跳び箱に失敗したのを慌てて助けにいって、放課後ミユキさんのダンスレッスンを受けて、お母さんの作った夕食を食べて、ラブと寝る寸前まで話をした後はそれぞれの部屋に戻って眠った。
…おかしなところや記憶が抜け落ちている所はない…ならこれは、私が目にしている光景はいったいなんだろう。頭がおかしくなったのかもしれない。

「なんだそのとぼけた顔は。目覚めたのならサクサク支度をしろ」

起きたら部屋の真ん中で仁王立ちしながら腕を組んで文句を言っている私がいた。最初は目の前に鏡でもあるのかと思ったが、鏡は突然喋ったりしないし、新手の嫌がらせとしか思えない。横を見ていた顔を天井に向け両手で覆った。夢だったらいいなぁと思いながら、指の隙間からチラッとそちらを見る。
…やっぱり仁王立ちしている私がいた。

「えーと…確認したいこととか聞きたいことがたくさんあるんだけど、まずあなたの名前を聞いてもいいかしら」
「なんだ貴様、私のこともわからないのか」

そんな呆れた顔されても、こっちは今の状況判断すら難しい中必死で平静を保ってるっていうのに。見た目私だけどイラっとするな。

「我が名はイース!……我が名はイース!!」
「何で二回言った」
「貴様のそのアホみたいな顔では、どうせ頭の中もお花畑で理解できないだろうと判断した私の配慮も解らないとは…とんだマヌケだな」
「見た目一緒のくせに何言ってんのよあんた。そこにある鏡で自分の姿見ながら今と同じ事もう一回言ってこい」
「うるさいぞ!」
「…というか今自分の事イースって言ったわよね。どういうこと?…まさかっ!ラビリンスの仕業!?」

とっさに上半身を起こして近くにあったリンクルンを構えながら、寝ぼけた頭をフル回転させる。私をどうにかするためにクラインあたりが送り込んできたのだろうか。クローンなんてラビリンスの技術なら造作もないことだ。反逆者の私に何を仕掛けてきてもおかしくはない。

「私もよくわからん。気付いたらここにいた」
「…そんなの信用できるわけないでしょ!」
「そんなこと言われても私にも解らないし、お前を信用させうるだけの確たる何かも持っていない」
「あくまでシラを切るつもり…?」
「貴様人の話聞いてないだろ」

しらばっくれるというならこちらにも考えがある。力ずくで目的を聞き出してやろうとリンクルンを構えた状態のまま、慎重にベッドからでて立ち上がった。

「…ねえ、あなた…なんだか小さくない?」
「貴様なぜそんなにでかいんだ…?」

自分の正面に立つイースの身長は、私の胸くらいまでしかなかった。身長だけの年齢で言うなら十歳くらいだろうか。そういえばよく見ると心なしか顔も幼いような…二人とも唖然としてお互いを見ていたが、イースが部屋の隅にある姿見を慌てて見に行った後、キッとこちらを睨みつけてきた。

「ぐっ!貴様、私に何をしたか知らないがそっちがその気ならこちらにも考えがある!スイッチオーバー!!」

今しがた私が思っていたことをそのまま口にだしたイースは、瞬く間にスイッチオーバーと叫びだし姿を変えた。
銀髪に黒い衣装、そして黒いブーツに身を包んだその姿は私の時とまるで一緒だった。
…身長以外は。

「なぜだっ!なぜ身長がかわらないんだ!?姿を変えれば身長だって伸びるのはお約束じゃないのか?!貴様私に何をした!」
「混乱してるのは解ったから別シリーズを例に出すのはやめなさい。あと私にも何が何だか…それにしてもそんな小ささで凄まれても全然怖くないわね」
「なんだと貴様―!」

「このー!」と言いながらこちらに向かってきた拳をせつなは片手で受け止めた。「はなせ!」とか聞こえてくる上に私の足を蹴って暴れてくるが、体格の差は力にも及ぶらしく、スイッチオーバーしているはずなのにまるで戦闘力と言うものがなかった。
しかも体の小ささは精神と比例しているようで、暴れても腕を振りほどけないことに少し涙目になっていた。

「は、はな…う…ぐすっ…」
「ええっ!?ごめんそんなに腕いたかったの!?」

イースの声が震えだしたことで思わず手を離した。小さな子への力加減なんてよく分からない。シフォンは意識して加減をしているから別だけど。

「ふははっ、馬鹿め!隙あり!!」
「なにっ?!ぐっ!…鳩尾は…さすがに痛いわ…イース、ちょっとこっち来なさい…」
「やめろ!いたたっ…!ちょっ、待て待て」

一瞬の隙を突かれて鳩尾にパンチされた。これはさすがに痛かったし出し抜かれたことにイラっときたので、とりあえずお灸をすえてやろうと逃げるイースを捕まえる為に部屋をどたばたと走り回る。

「せつな~、さっきからなんか物音がすごいけどどうし…た……の…」
「「あ…」」

パジャマ姿のまま部屋のドアを開けたラブは、腕の中で暴れるイースとそれを捕まえているせつなを見た瞬間、その場で硬直してしまった。

「え…あれ…?私せつなのこと好きすぎたせいでせつなが二人に見えるよ?」

「ら、ラブこれはねっ!?その…」
「ラブ!!こんな奴と一緒にするのはやめろ!私はイースだぞ!!」
「んぇえっ!?よく見るとイースだ…イースとせつなのツーショットってどうなってるの?」
「私にもよく解らないの…でも気をつけて!ラビリンスが何か仕掛けてきたのかもしれないわ!!」
「だからっ!違うって言ってるだろ!!貴様に耳はついているのか!!?」


またしてもぎゃんぎゃんと言い争いを始めたので、とりあえずラブが仲裁に入る。
その後紆余曲折あり、今イースは体を縄でぐるぐる巻きにされた状態でラブの膝の上に座っていた。

「ねえせつな、この縄やっぱり解いてあげようよ…」
「駄目よラブ。まだ目的が解らないのに自由にさせたら相手の思うつぼよ!」
「でもさ~、まだ小さいんだし…」
「見た目に騙されては駄目よ!油断させることが目的かもしれないわ」
「はー、せつなは固いねぇ…イースもそう思わない?」
「ラブっ!頭を撫でるのはやめろ!」
「え?嫌なのイース?あたしのこと嫌い…?」
「うっ!べ、別にラブの事を嫌いだなんて言ってない…だろ…」
「じゃあいいよね!」
「あ、うぅ…」
「……」






「…なにこの空気」

美希がラブから連絡を受けてせつなの部屋を訪れると、なにやらよく分からないことになっていた。
デレデレなラブに小さいイースがひたすら頭を撫でられ、それを嫌だと言いながらも満更でもないような顔で照れながら受け入れているイース(ただし縄で縛られている)。
…を、「ちっ…」とか舌打ちしながら暗い目で二人を見つつどす黒いオーラを放っているせつながいた。
雰囲気だけで言うならせつながイースみたいだなぁとぼんやり思いながら、美希は改めてきりだした。

「聞いてはいたけど、ほんとにイースがいるとはねぇ…」
「何だ貴様、ベリーのくせに私を見下ろすな!」
「ベリーのくせにってどういう事よ」
「はっ」
「人を見下したように鼻で笑うのはやめなさい。イラつく子供ね」
「そうよ!もっと言ってやって美希!!」
「復活したのねせつな…」
「まあまあ美希たん落ち着いて。せつなも煽っちゃだめだよ?」
「ら、ラブがそう言うなら…」
「ちょろいなこいつ…」
「何か言った美希?」
「いえ別に…」









「で、どうなってるのこれ?」


祈里がせつなから連絡を受けて部屋に来ると、やっぱりなんだか変な空気になっていた。
小さいイース(縄で縛られている)とせつなが言い争い、ラブはそれをまるで保護者のように微笑ましく見ていて、美希はその全体の様子を注意深く観察していた。

「へらへらして情けない、貴様それでもラビリンスの人間かっ!」
「さっきまでラブに頭撫でてもらってデレデレしてたあなたに言われたくないわね!あと私もうラビリンス人じゃないから。ラブの世界の人間だから」
「はっ、どうせ怖気づいたか使えないから用無しになったんだろっ!アホのやりそうな事だ」
「あんたね…言っていい事と悪いことがあるのよ…そんななりしてるからって私は騙されないわ!」
「なんだやるのか?いいぞ返り討ちにしてやる」
「自力で縄も解けないのに偉そうじゃない…この際だから目上の人への対応の仕方を教えてあげるわ」


イースとせつなの間でバチバチと火花が散りだした。一触即発な雰囲気に美希も祈里もさすがに慌てだし二人を止めようと声を掛けるが、まるで効果がない。
その時、終始ニコニコしていたラブが、爆弾のような言葉を落とした。

「なんだか、イースとせつな姉妹みたいだね~、せつながお姉ちゃんでイースが妹!」

「「え…」」

その言葉にせつなもイースも思わず目を丸くして、口をぽかんと半開きにしながらラブを見た。

「ほら、反応も一緒だ!」
「それは多分遺伝子レベルで一緒だから反応が似ていても不思議じゃないってだけだと…」
「ふざけるな!こんなやつが姉だなんて私は認めないぞ!こいつと姉妹になるくらいならラブと……」
「どさくさに紛れて何言ってんのあんた。ラブはあなたになんか渡さないわ」
「別に貴様のものでもないだろ」
「なによ」
「なんだ」
  ・
  ・
  ・

その後も少しの争いがあったが、このままでは埒があかないと言った美希に賛同し、改めてイースに事の経緯を聞いて事情を把握したそれぞれは、結果的によく解らないという結論に落ち着いた。

「いやこれなにも解決してないし…」
「美希たん細かい事気にしないで」
「とりあえず整理すると、イースはなぜか気づいたらここにいて、なぜか幼い姿で、なぜかスイッチオーバーしても戦闘能力が皆無だったと」
「遺憾だがその通りだ」
「…仮にこの話を全面的に信用したとして、これからどうしようかしら…」
「よし、じゃあ細かいこと決まるまでせつなの部屋でこっそり住まわせるってことにしよう!」

「なっ!ラブ!こんな奴と一緒の部屋なんて我慢ならん!!」
「じゃああたしの部屋にする?」
「イース…私の部屋でいいわよね…?」
「い、いたたっ!やめろ!頭を片手で鷲掴みってプリキュアとしてどうなんだ…!?わ、わかったっ!お前と一緒の部屋でいいからっ!…割と本気で潰しにかかってるだろっ!?」
「ラブ、イースは私の方で面倒みるわ」
「う、うん…」
「せつなこわ…」
「せつなちゃんいいお姉さんになりそうね」








――――そんなわけで、イースとせつなの共同生活が始まった。



旧37-2
最終更新:2014年04月13日 11:11