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姉なせつなと妹なイースと【2】/そらまめ




「…なんだこれは?」
「あれ? 知らないのイース? これはね、ドーナツって言うんだよ」

ラブが抱える袋の中には様々な色のドーナツが入っていた。そのうちの一個を手に持ち、興味深げにいろんな角度から眺めるイース。しばらくしてパクッと食べだしたかと思うと、後は一言もしゃべらずもぐもぐと咀嚼していた。
一生懸命にドーナツを頬張る様子にラブは、「やっぱりドーナツは好きなんだね」と嬉しそうに言い、「まあ、私も最初に食べた時は驚いたし…」とせつなは苦笑いしながら見ていた。

「ふむ…なかなかだな…」
「でしょ? カオルちゃんのドーナツはそこらの黄色いチェーン店よりおいしいんだから!」
「やめてラブ! ドーナツのチェーン店とか数えるくらいしかない上に黄色とか言ったらもうピンポイントに攻撃してることになるわ!」
「気にしちゃだめだよせつな? こういうのは解る人だけほくそ笑んでればいいものだから」
「いやだからこれじゃ万人がほくそ笑んじゃうから…」
「お前たちは一体何の話をしているんだ…?」









「…で、これからどうする?」

ラブのその一言にさっきまでのおちゃらけた雰囲気を消し、スッと真面目になるせつな。イースも表情を硬くしたが、本日2個目のドーナツを食べることはやめなかった。

「イース…ちゃんと聞いてるの?」
「聞いてる聞いてる…」

明らかにどうでもよさそうな返事をして、こちらを見もせずにドーナツを無心に食べる姿にどれだけ気にいったのかと少し驚いた。両頬が膨らんでいる感じがなんだかハムスターみたい…だがこの勢いで食べられたのでは自分達の分までとられそうだったのでくぎを刺す。

「ドーナツは一人二個までよ。あと、これからあなたに関わる話をするってちゃんとわかってる?」
「うるさいな…もしゃもしゃ…小姑か…むぐむぐ…」
「食べながら話をするのはやめなさい」
「……ばーか」
「なんで唐突に馬鹿って言われなきゃいけないのよ…」
「普段もバカなんだからいつどこでバカと言おうが別におかしくないだろ」
「おかしいでしょ。主にあなたの頭が」
「私の頭がおかしいならオリジナルのお前の頭はさぞかし空っぽなんだろうな」

「……いい加減どちらが上なのかはっきりさせるべきね…」
「…そうだな。これ以上格下に色々言われるのはさすがの私も我慢できない…」




「はーいストップっ!! もう! 二人とも喧嘩ばっかりで全然話が進まないじゃん!! いい加減にしなさい!!」

「「す、すみません…」」

ラブのお叱りにせつなもイースもしおらしく謝った。
イースが来てから早数日、こんな風にせつなとイースは事あるごとにいがみ合い、その度にラブが叱りつけていた。そんな事ばかりしているせいで一向に話は進まず、未だにイースのこれからも決まっていない。幸運な事にあゆみにも圭太郎にも気づかれてはいないが、それも時間の問題じゃないかというのは三人の意見として一致している。

「それにしてもイース、あなたどこまで私の記憶を引き継いでいるの? ドーナツの事は知らなかったみたいだけど…」
「どこまでと言われても…ラビリンスにいた頃の事は知っていて…後はプリキュアに関しての事も解る。ただどうしてお前がラブと一緒に暮らしているのかは解らない」
「そう…ラビリンスの頃のデータと任務に必要な事を記憶させたのかしら…?」
「さあな。だが私は任務を言い渡された覚えはないし、こんな姿だし、どうしていいか解らないというのが正直なところだ」
「んー…疑問は尽きないねぇ…でも、イースの事はそろそろお母さんたちに話すべきだと思うんだよなあ」
「ラブそれは…少し難しいんじゃないかしら」
「ラブ、不本意だが私もこいつと同意見だ。こんな見た目だが私が普通ではないことは理解している。それに見知らぬ人間をそう何度も受け入れるとは思えない」

イースはさも当たり前のようにそう言った。こうやって自分についてでも客観的に捉えるところはせつなと同じだとラブは思う。こういう時のせつなは冷静で、その時々で自らが出来る最大限の事を考える。イースも同じだとしたら、割と正しい事を言うのだろう。でも、それでも譲れない。

「そうだな…出来れば人目に付かないような場所があればそこで過ごしたい。廃屋など近くにあればいいんだが…」
「だめだよイース」

これからのビジョンを考えて話していたイースに、強い意志のこもった言葉と眼差しが向けられた。せつなもその声音に少し驚いたが、ラブの顔を見ると困ったように笑った。こういう時のラブは自分の想いをしっかりと持っていて、その想いは誰にも譲らないと知っていたから。

「何だラブ、このままでは周りを巻き込まずに過ごすのは無理だと解っているだろ。それとも、施設か占い館に行った方がいいのか?」
「違うよ。そう言う事じゃない」
「ならなんだというんだ」
「イースはさっきどうしていいか解らないって言ってたじゃん。一人でどこかに行くことで解決しようとしないで。ひとりじゃできないならあたし達を頼っていいんだよ?」
「頼る…?…なにを言って…私に出来ないことなんて無い!」

思わず叫んだ。
ラブは何を言っているんだ。私一人で出来ないことなんてあるわけないだろ。いや、あっちゃいけない。誰かの助けを借りるなんてそんな事…私は完璧なんだ、完璧でないといけないんだ。でないと私は…

「イース、大丈夫よ」

せつなの手がポンと優しくイースの頭の上に置かれた。

「ここはね、失敗しても出来ない事があってもいいところなのよ」
「そん…な…」

失敗しても出来ないことがあってもいいなんて…ありえるのか…?
信じられないといった風に驚いてこちらを見てくるイースの頭を、せつなは優しく撫でた。

少し前の私も、そうやって驚いていたっけ。この世界に来て教えてもらうまで、自分も信じられなかった。
失敗する事は見放される事。ラビリンスにいた頃は苦手なものを作る事すら許されなかった。全てにおいて秀でていなければいけなかったから、助けを求めるなんて自分の弱みをさらけ出すようなこと出来るはずがなかった。
でも、ここは違うから。苦手なものがあっても、それを克服できるように頑張ればいい。失敗しても次がある。それだけだから。


「イース、あたしね、こうやってイースと話ができてすごく嬉しいの。だから、隠れながらとかじゃなく一緒に暮らせたらもっと幸せゲットできると思う。それに…イースとせつなと一緒のテーブルでご飯食べたいもん」

にっと笑いながら見てくるラブは、本当に裏表もなくそう思ってくれていると解る程に清々しかった。

「ラブ……ふん…」

イースはびっくりしたようにラブを見てつぶやいたが、すぐにそっぽを向いてしまった。

…あれ?もしかしてほんとに一人で居たいだけとかこの家が嫌だったのかな…

と不安になったラブだったが、本当に控えめに、ラブの上着のすそをそっと摘まんでいたイースの手に気付き、嬉しくなって思わず抱きしめた。

「かわいいっ!かわいいよイース!!」
「うわっ?! ラブ、くるしい………っていうか痛い! 頭やめろ!!」

抱きしめられてやっぱり嫌そうに言いながらも嬉しそうにしていたイースだったが、先ほどから頭の上に置かれていたせつなの手が、撫でることをやめぎりぎりとイースの頭を締め付けていた。

「貴様! 今割と感動的なところだろ?! 空気を読め!!」
「甘いわねイース、私は空気を読んだ上でこうしてるのよ!」
「偉そうに言う事じゃないだろ! なんだその性格の悪さは!!」
「私はラブに関する事ならいくらでも性格悪くなれるのよ。覚えておくといいわ」
「うわー…」

「せつな、イースにあまり意地悪しちゃだめだよ。ほらこっちおいで、せつなもぎゅーってしてあげるから」
「ラブ…!」
「なんだこれ…」

明確なツッコミがいなかったのでしばらくイースもせつなもラブに抱きしめられました。




「さて、お母さん達にイースを紹介することになったわけだけど…ためしに自己紹介してみてイース」
「ああ…我が名はイース! ラビリンス総統メビウス様が僕!!」
「ちがう!」

スパーンとせつなの手がイースの頭に振り下ろされた。

「いったっ! おい!! なんでも暴力で解決しようとするのはやめろっ!」
「くっ…! ちょっと正論なのが腹が立つわ。でも、その自己紹介の仕方はおかしいでしょ。一般家庭で何する気なのよあなたは」
「自分を紹介しろと言ったのはそっちだろ。なにが悪いんだ」
「百歩譲って我が名はイースまではいいけど、その後がなんだか侵略者みたいじゃない」
「いや、侵略者だったじゃん実際…」
「ラブはちょっと黙ってて」
「はい…」
「お母さんとお父さんに紹介するんだから礼儀正しくが基本よ。普通に私はイースです。とかでいいのよ。後は私たちがフォローするから」
「なら最初からそう言え」
「あと、メビウス様が僕とか今後言ったら叩くわよ」
「なぜだっ?!」
「言うなら、ラブの僕って言っときなさい」
「せつなこそ何言ってるのっ?! びっくりだよ!? やめて! 町内に変な噂が流れそうっ!」
「ラブの…し、し、しも……べ…」
「イースもそんな練習しなくていいから!」










「ただいまー」

「あ、お母さん帰ってきたみたい。よし! じゃあ気を引き締めて行くよ二人とも!!」
「ええ!」
「ああ」




――割愛――




「…私お母さんの器の大きさに畏怖を感じるわ…」
「あたしもちょっと真似できそうにないや…」
「なんだかよくわからんうちに終わったな」





―――――あゆみお母さんの寛大さで割とあっさりイースは桃園家の一員になりました。



旧37-3
最終更新:2014年04月13日 11:14