いっしょ ~ プリキュアオールスターズ NewStage 3.0a 第1話:保育園で
「『ごめんなさい』は?」
「…」
「順くん。
一恵ちゃんを叩いた、その手はものすごく痛いでしょ?
それは『ごめんなさい』しないと絶対に消えないんだよ」
「…」
「順くん!」
「ごめんなさい…」
あゆみは振り向いたが、一恵は保育士の腕の中で背を向けて泣きじゃくっている。謝罪を受け入れられる状態ではないようだった。
もう一度、視線を戻すと、順はあゆみの腕から離れて、もう一人の保育士の元に駆け寄った。同じようにべそをかきはじめる。
「はいはい、おしまーい。
じゃ、お外で鬼ごっこする人ー」
あゆみの仲間のまりが声を上げると、今のケンカなどなかったかのように子供たちは元気な声と共に手を上げた。
去年の秋から、あゆみたちはこの保育園へボランティアとして手伝いに来ている。
あゆみにとっては大冒険であったが、物おじしない子供たちは、どちらかと言えば物おじする方のあゆみの戸惑いなどお構いなく、全身でぶつかってくる。垣根などあっという間に取り払われてしまった。
学校で実施している体験授業の一環だったが、真面目な彼女たちは保育士たちからの評判がよく、中学校と保育園が取り決めた期間を過ぎても、こうして時々手伝いにやってくることになった。やがて、鬼ごっこはまりとみな、絵本を読むならあゆみとめい、というような分担ができ、「あゆみ先生、ご本読んで」などとせがまれるようになった。
(またやっちゃった…)
あゆみは部屋の隅で肩を落とした。隣に、さっきまで順をなだめていた保育士がやってきた。
「まぁ、そう落ち込まないで」
「すいません…」
叱るときに真面目に叱りすぎる、という問題をあゆみは抱えていた。そんなに血相変えて怒らなくても、とめいにも言われた。
だから嫌われる、ということもないのだが、おそらく順は今日帰るとき、あゆみには小さくしか手を振ってくれないだろう。あるいは無視されるかもしれない。
「叩いた手が痛い、っていうのはいい言葉だと思うよ。
まぁ、向こうが理解できるかどうかは別として」
そう言って笑ってくれる。だが、あゆみはさらに恐縮するばかりだった。
(あれじゃ、あのころのあたしとお母さんと一緒だよ)
この町に引っ越してきたばかりのころ、母親と衝突ばかりしていた。
転校させられ、以前の友人と引き離された。そして新しい学校に溶け込まなければならない。母は、頑張れ、というだけで何もしてくれない。
そう思っていた。
だが、そんなことはない。母はあゆみのことを一番に心配してくれていたのだ。それを疑い、反発して、勝手に鬱憤をためていた自分が恥ずかしい。申し訳ない、と感じる。
その一方で、わかりやすくはなかった、とも思う。それで母を責めようというつもりはないが、親の子供への愛情の示し方がもっとわかりやすいものであったら、世の中の親子の間のトラブルも減るのではないか、という気がした。
そう思っているくせに「血相変えて怒る」「子供には難しい言い回しをする」になってしまっているのは、同じように恥ずかしい。というか、情けない。きっと順くんには自分の気持ちは伝わってないだろうな、と思う。
「でも、よく気づくねぇ」
「はい?」
「あの剣幕だと順くん、ほっといたらもう一発くらいいってたかも。止めるの早くてよかったよ」
「はぁ…」
あゆみは、順が手を上げた時にはもう立ち上がっていた。一恵を叩くのを止めるのには間に合わなかったが、一度だけで済んだ。その保育士はそのことを言っている。
(その理由は言えないな)
人が強い感情を持った時、あゆみにはそれがわかる。「思いを届ける」プリキュアになった影響だと思われた。人々の気持ちがあゆみにも届くのだった。
それは、感情の発生がわかる、というだけで、どういう感情なのかが読めるわけではない。テレパシーなどとは違うようだった。
今回も、その気配に気づいて辺りを見回したら、順が真っ赤な顔をして手を上げていた、ということだったのだが、見当違いだったことは何度もある。
それは確かに便利と言えるかもしれないが、その結果、自分が血相を変えて怒っていれば世話はない。
(あたし、まだまだだよ、フーちゃん)
あゆみがため息をつくと、フフフ、という笑い声がかすかに聞こえた。
「え、お昼寝ですか?」
ある土曜日、休日保育の手伝いにきたあゆみたちは、保育士の話を聞いて思わず声を上げた。
「もうすぐお弁当の時間なのに」
「そうなのよ。
子供たちが、お昼寝したいってきかなくて」
「普通、逆ですよねぇ」
「そうなのよねぇ」
遊びたい盛りの子供たちは、お昼寝しよう、と言っても耳を貸さない。寝かせるのが一苦労なものだ。それが、自分たちからお昼寝したいと言い出すとは。しかも、お昼前のお腹が空いているはずの時間に。
「睡眠、暁を覚えずってやつ?」
「春眠だよ、みなちゃん」
そう言えばほかの日のお昼寝でも、目覚めが悪くなかなか起きようとしない子供がいる。増えているような気もするが、数えているわけではないので、なんとも言えない。
「じゃぁ、あたしたちは…」
「お弁当持ってきてるんでしょ? 今のうちにゆっくり食べててよ。ちびども、起きたらまたいつもの調子だと思うから」
「はい」
(そう言えば、フーちゃんも最近は、眠ってることが多いな)
呼びかけても返事がないことがある。何度か呼ぶと、慌てて返事をする、という感じである。
(フーちゃんも春眠なの?)
あゆみは返事を待った。
(フーちゃん?)
最終更新:2014年05月13日 23:04