いっしょ ~ プリキュアオールスターズ NewStage 3.0a 第2話:都会へ
一睡もできなかった。
あれから何度も呼んでみたが、フーちゃんからは返事がなかった。
フーちゃんは「生物」ではないから、夜になったから寝る、というものではない。休息が必要な状態になったら眠るので、あゆみが呼んでも返事がない、あるいは、深夜に呼びかけたらすぐに返事がきた、ということは何度もあった。だが、こんなに長い間、ずっと返事がない、というのはこれまでになかったことだった。
あゆみは窓を開けた。薄暗い街から冷たい空気が飛び込んできた。目を閉じて手を合わせる。
(フーちゃん。
フーちゃん!)
同じだった。返事がない。
何が起こったのだ。
あゆみは、街が動き出すのを待って出かけた。まりたちとの約束はメールでキャンセルすることにしよう。
駅から電車に乗る。
北の方向にフーちゃんの気配を感じた。感じた、と思うだけで、それが本当にフーちゃんであるかどうかはわからない。フーちゃんのことを心配するあまり思い込んでしまっているだけかもしれない。だが、ほかに手がかりはない。休日の、空いた列車の中であゆみはフーちゃんを呼び続けた。
あゆみは改札を出た。
全国で一番の乗降客数を誇る駅。
そこにフーちゃんがいる、というのではない。だが、何かの気配を感じた。
時折、自分のそういう感覚が気持ち悪くなることがある。
保育園で、子供たちが怒ったり泣いたりする前兆を感じ取れるのはまだしも、このような都会に出ると、見ず知らずの人の強い感情にさらされて疲れる。
以前、助けてくれたキュアハッピー・星空みゆきと話したときには、変身していない時にプリキュアの能力が使えた、ということはない、と言っていた。自分だけがどうやら特殊らしい。
だが、今はその能力がフーちゃんを探す役に立つはずだった
通路から階段を上って外に出る。大きなテレビ画面がある広場に出た。
《子供たちが眠りから覚めないという不思議な現象が報告されています》
あゆみは足を止めた。あのボランティアを始めて以来、子供の話題には敏感になっていた。
待ち合わせをしているらしい少女たちも同じようにニュースを見ている。紫のベストを着た少女は、目深にかぶった帽子を上げていた。
画面には、どこかの病院の病室が映っていた。子供たちが静かな顔で眠っているのに対して、医師やナースは厳しい顔で、親は今にも泣き出しそうな顔でそれを見つめている。子供たちの腕には針が刺さっていた。目が覚めないということは食事もとれないわけだから、それは点滴だろう。
「あ…」
保育園での出来事を思い出す。
突然、お昼寝好きになった子供たち。
起こすのに一苦労になってしまった子供たち。
あれは、このことと関係あるのか? いや、保育園ではまだ、目が覚めなくなってしまった、という子供はいないが。動悸が激しくなる。
(落ち着いて。あたしは今)
フーちゃんを探しているのだ。それが最優先のはずだ。この件は、今度、保育園に行ったときに話してみよう。いや、保育士たちはこのニュースをすでにキャッチして対策を始めているかもしれない。今はフーちゃんだ。
さっきの少女たちが何か歓声を上げていたが、あゆみは先を急いだ。遠ざかるにしたがって、ここに降りるきっかけとなった「何かの気配」が弱くなっていったことには気づかなかった。
あゆみはフーちゃんのかすかな気配を追いかけて、電車を乗り継ぎ、走った。時間はとっくに正午を過ぎている。空腹のはずだが、それどころではなかった。
「ここは…お城?」
高い塀の向こうには背の高い木、そこから透けて見えるのは城のようである。あゆみはその周囲を回ってやっと門を見つけた。
「
ブルースカイ王国大使館…」
申し訳ないが、聞いたことがない。それに、門に誰もいない、というのはどういうことだろう。大使館というのは普通、門番のような人がいるものだと思ったが。
さっき、今までよりは強い気配を感じたのはこちらの方向なのだが、さすがに、フーちゃんと大使館が関係あるとは思えない。この向こう側だろう。向こう側と言っても、広い敷地なので、またグルっと回らなければならないのだが。
やむを得ずあゆみは大使館の周りの道路を進んだ。随分と遠回りしてしまったが、さて、と歩き出そうとしたところであゆみは足を止めた。
フーちゃんの気配が消えた。
あたりを見回す。
「…」
いや、消えたのではない。気配はあゆみの背後にあった。木々の向こうのお城。
「どうして」
フーちゃんがなぜ外国の大使館に。
それとも、フーちゃんの気配を感じ取れているということが勘違いか、単なる思い込みなのか。
あゆみは柵の向こうの城を見つめた。
(フーちゃん)
〈あゆみ…?〉
「フーちゃん!」
聞こえた。今のはフーちゃんの声だ。
「フーちゃん、そこなの? そこにいるの? フーちゃん!」
〈フーちゃんは…フーちゃんは〉
「フーちゃん!」
草を分ける音がした。どこからやってきたのか、柵の向こうに美しい青年が立っていた。
「坂上あゆみさんだね」
「え…」
一瞬、寒気を感じた。それは、彼の透き通るような肌のせいだけではない。なぜ、この人はあゆみのことを知っているのだろう。
「君の友達が、会いたいと言っている」
「フーちゃんが?」
「はいりたまえ。
歓迎するよ」
最終更新:2014年05月13日 23:05