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いっしょ ~ プリキュアオールスターズ NewStage 3.0a 第3話:ブルースカイ王国大使館




 あゆみは青年の後ろをついて中に入った。誰もいない。大使館というところに入るのは生まれて初めてだが、そんなものなのだろうか。
 通されたのは応接間のようなところだった。思っていたより小さい。普通の金持ちでもこれくらいの部屋は持っていそうだった。
〈あゆみ…〉
 部屋の中には鏡がいくつもある。正面の一枚が金色に光った。
「フーちゃん…?」
 あゆみは鏡に駆け寄った。鏡の中に花びらが舞っている。だが、それはいつもの美しい金色ではなく輝きを失っていた。
「フーちゃん。
 フーちゃん!」
〈あゆみ、どうしてここにいる?〉
「探したの。フーちゃんの声が聞こえなくなったから、いろんなところを回って。フーちゃんが感じられるところを探して。
 フーちゃん、どうして鏡の中にいるの? 誰かに閉じ込められているの?」
〈違う。フーちゃんは閉じ込められてない〉
「でも、どうして」
 後ろで陶器が小さな音をたてた。
「ブルー様がお話ししてくださいますわ。まずはお茶を飲んで落ち着いてくださいな」
 振り向く。
「あなたは、妖精さん…?」
 ぬいぐるみのようなものが宙に浮いていた。青年は、そのぬいぐるみと目を合わせた。
「フーちゃんが言った通り。私を見ても驚かないということは、あなたがプリキュアだというのは本当なのですわね。
 初めまして、私はリボン。ブルースカイ王国の妖精ですわ」
「ブルースカイ王国の妖精…」
「こちらは、ブルー様。
 地球そのものの神であらせられます」
「地球…?」
 それはさすがに直ちに理解するのは難しい話だった。だが、その青年の、言葉は悪いが浮世離れした雰囲気は、神と言われれば、そうかもしれない、と思わせるものがあった。
「まず、フーちゃんの話をしよう。
 座りたまえ」
 あゆみは勧められるままに中央のソファに座った。
「リボンが言った通り、僕はこの地球そのもの。だから、地球を愛し、地球を守ろうと考える者たちとは手を携えていきたいと思っている。
 だから、横浜の街を愛し、横浜を守ろうと考えているフーちゃんの存在は前から知っていた。
 だが、ここのところ、その力が弱くなっていることに気付いた」
 あゆみはフーちゃんのいる鏡を見た。弱くなっている? そのことと花びらの色が変わっていることとは関係があるのだろうか。
「だから、僕が保護した。フーちゃんがここにいるのはそのためだ。
 リボン、小さな鏡を持ってきてあげてくれ。その方が話をしやすいだろう」
 言われた通り、リボンが鏡を持ってきて、あゆみの前に置いた。大きな鏡の金色が消えたと思うと、こちらの鏡が金色に染まった。
「フーちゃん」
〈あゆみ、ありがとう。心配してくれて〉
「当たり前だよ、フーちゃん!
 どうして言ってくれなかったの。具合が悪いんだったら、具合が悪いって」
〈ごめん〉
「おそらく、そんな余裕もなかったんだと思う。この事態は、僕たちが考えていたより急激に進行している」
「事態…?」
「夢の世界で事件が起こっている」.
「…」
 この人は、いや、この神は一体、何を言おうとしているのだろう。
「バクという動物は知っているかい?」
「はい。
 悪い夢を食べてくれる、っていう言い伝えがあるとか」
「それは単なる言い伝えではなく、実際にそういう妖精がいる」
「はい」
 あゆみは素直に納得した。プリキュアに出会ってたくさんの妖精と知り合いになった。悪夢を食べてくれる妖精がいることに何の不思議もない。
「ところがその妖精は、自分の役割に忠実になるあまり、子供たちを夢の世界に留めておくようになってしまった」
「夢の中に…」
 最近、そんな話を聞いたような気がする。あれは。
「まさか、眠ったまま目覚めない子供たちって」
「子供たちにとって、叱る大人がいない夢の世界は理想郷だ。それが悪夢になることもないということになれば――」
「!」
 そうだ。保育園の子供たち。お昼寝をするとなかなか目覚めなかったり、お昼寝をせがむようになったりしているのはそのせいだ。夢の世界にとどまっていたい、夢の世界に早く行きたい。今はまだその段階だが、そのうちに。
「帰ってこなくなる…」
「心当たりがあるようだね」
 あゆみは力なくうなづいた。
 リボンがブルーに意味ありげな視線を投げてきた。わかっている。その子供たちを助けるために今、プリキュアが夢の世界に行っている。それはあゆみに話す必要がないことだった。まして、ほとんどのプリキュアが夢の世界に捕えられてしまっていることなど。
「え。ちょっと待ってください。それとフーちゃんのこととはどういう関係が」
〈フーちゃんが前に街をリセットした時〉
「あれは私が悪いの。フーちゃんのせいじゃないよ」
〈でも、やろうとしたのはフーちゃん〉
「違うよ」
「すまない」
 ブルーが割って入った。
「それは本質ではない。
 僕が説明しよう」
 鏡の中のフーちゃんが視線を落とす。あゆみは、それを心配そうに見た後、ブルーに目をやった。
「つまり、その事件が起こった時。
 多くの人が恐怖を覚えた。それは理解できるね?」
「…はい」
 辛そうに頷くあゆみ。リボンも目を落とした。
「特に子供たちだ。その時に抱いた恐怖心は心の中、深いところに残っている。
 それは時々、夢の中に現れる」
「…。
 悪夢ですか。
 フーちゃんの記憶が、子供たちの悪夢になってしまっているんですか…?」
「そうだ。
 そして、その悪夢をバクの妖精が手当たり次第に吸い込んでいる。その結果、フーちゃんの力が少しずつ弱まっているんだ」
「フーちゃん」
 あゆみは鏡を抱きしめた。
「ごめんね、あたしのせいで。
 あたしがフーちゃんに変なことを言っちゃったせいで。
 ごめんね、ごめんね!」
 ブルーは黙って泣きじゃくるあゆみを見ていた。
 不思議な少女だと思う。
 フーちゃんがいなくなった、と言って、遠い町まで探しにやってくるほどの行動力を持ちながら、その一方で、何もかも自分の責任と考える傾向も持っているようだ。
 確かに、この「フーちゃん」が行動を起こしたのはあゆみのためかもしれないが、フュージョンの欠片はほかにもあった。町中に飛び散った数多くの欠片の中で、同じような状況に陥ったものがない、という可能性は低い。いや、あったはずである。あの町がなくなってしまえばいい、と考えたものはあゆみ一人ではなかったと考えるべきだ。そうでなければ、あれほどの大きな事件になるはずがない。
 さらに言えば、フーちゃんの事件に先立って、巨大なフュージョンも暴れている。悪夢の対象となるのは、むしろその記憶の方である。だが、フーちゃんもフュージョンの一部、消された悪夢の影響を受けない筈がなかった。
「フーちゃんはどうなるんですか」
 あゆみは鏡を胸に抱いたまま、顔を上げた。目はまだ濡れている
「鏡の世界にいれば、もう影響を受けることはない。しばらく、そこで休んでもらおうと思っている」
〈フーちゃん、ここでお休みする。ここは暖かいよ〉
「うん…よかったね」
 あゆみは、鏡の中で笑っているフーちゃんを見つめた後、ゆっくりと鏡を置くと、涙を拭いた。
「フーちゃんは、鏡の中から出られなくなったりはしないんですか」
「…。
 どうしてそう思うんだい?」
「だって、あの事件を夢に見る人がいる限り、フーちゃんの力は」
「普通は、悪夢は乗り越えられるものだ」
「はい…」
「本人が克服するのである限り、バクの出る幕はない。したがって、フーちゃんにはなんの影響もない。
 問題は、バクの妖精が吸い込む必要のない悪夢まで吸い込んでしまっている、ということなんだ。
 それは子供の心にも悪い影響を与えてしまうんだが」
「どうしてですか」
「悪夢を乗り越えて精神的に成長するチャンスを奪ってしまっていることになる」
「バクの妖精はどうしてそんなことをしているんでしょう」
「…。
 わからない」
 ブルーは嘘をついた。
 どうやらあゆみは落ち着きを取り戻したようだ。頭がいい子のようでもある。彼女の大事なフーちゃんの件と、世間を騒がせている子供たちの件とが関係ある、ということも理解している。ここで原因を知らせるのは、プリキュアの今の状態を知らせるのと同じくらい危険なことである。
「フーちゃんは鏡の世界を移動できますから、あゆみさんのおうちでも会えますわ。よかったですわね。
 あ、新しいお茶を淹れますわね」
〈あゆみ〉



最終更新:2014年05月13日 23:07