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いっしょ ~ プリキュアオールスターズ NewStage 3.0a 第4話:夢の世界へ




〈あゆみ〉
「なに?」
〈バクのお母さんは、バクの子供のためにやっている〉
「え?」
「フーちゃん、どうしたって言うんですの」
 リボンは、慌てている、という様子を隠して言った。
〈バクの子供が、たくさんの友達を作れるように、人間の子供たちを夢の世界に閉じ込めている〉
「まぁ、フーちゃんったら突然おかしなことを」
〈そして、プリキュアも〉
「よさないか!」
〈プリキュアもみんな捕まっている!〉
 大きな声が交錯した後、一瞬の沈黙。
「みゆきちゃんたちも…?」
〈うん〉
「助けに行かなきゃ」
「どうやって」
「友達が困ってるんです。助けに行かないと」
《…》
 そのとき、聞いたことのない声が胸に響いた。また誰かが強い感情を持ったのだろう。だが、何を言っているのかはわからない。あまりにかすか過ぎた。
「君は夢の世界に行くことができるのか」
〈ブルーはプリキュアを夢の世界に送り届けることができる!〉
「どういうつもりですの?」
 リボンが鏡の前に立ちはだかった。
「そんな余計なことを言って。あゆみさんが危険な目にあうかもしれないのに!」
〈フーちゃんは、あゆみに嘘はつかない。隠し事もしない!〉
「だからって」
〈あゆみは、大事な子供達を助けたい。困っている友達を見捨てたりしない。
 それを邪魔する人は、あゆみの敵!
 邪魔したら、リボンもブルーも、フーちゃんの敵!〉
 その剣幕にさしものリボンも怯えた。ブルーは小さくため息をついた。
「フーちゃん」
 あゆみは再び鏡を抱きしめた。
「ありがとう。フーちゃん」
〈あゆみ…〉
「でも、フーちゃんに心配かけちゃうね」
「本当に行くつもりなのか」
 ブルーが訪ねるとあゆみは、今度は力強く頷いた。
「友達を助けたい。
 子供たちを助けたい。
 そして…。
 お母さんも助けたい」
「お母さん?」
「私も前に、お母さんとケン力して…それで、あんな事件を起こしました。今だったら、それがとてもつまらない原因だったことがわかります。
 多分、バクのお母さんと子どもも、気持ちの些細なすれ違いが原因だと思うんです。
 その思いを私が届けることができたら…」
「だが、君はプリキュアではない」
「…」
 あゆみは唇をかんだ。
 あの時は、フーちゃんにどうしても会って話をしたかった。
 そして今は、自分が行くことで助けられるかもしれない人が大勢いる。
 あの時と今とで思いの強さに違いがあるとは思わない。
 だが、ふたたびキュアエコーになれるのかどうか、その方法は。それはわからなかった。
〈フーちゃんが手伝う〉
「え?
 フーちゃんも一緒に行くの?」
〈違う。あゆみをキュアエコーにする〉
「どうするの?」
〈キュアデコルを作る〉
「キュアデコル…」
 みゆきたちが変身するために使っていた小さなアクセサリー。あゆみ自身はそれを使ったのではないし、後で「キュアデコルはないの?」と聞かれて、それは何? と聞いたほどなのだが、フーちゃんは見た記憶があるらしい。
 フーちゃんがそれを作る?
 そうだ。フーちゃんはキュアハッピーたちと戦って、その力を吸い込んだことがある。だから、それがどういうものかを知っているのだ。
「そんなことできるの?」
〈できる〉
「それだったら…」
 あゆみは、希望を見つけた思いで顔を上げた。しかし、ブルーもリボンも難しい顔をしていた。
「それではフーちゃんが」
 リボンの言葉に、あゆみは鏡の中のフーちゃんを見た。
 そうだ。フーちゃんは、バクの妖精のために弱っているのではなかったか。
〈フーちゃんは平気だ〉
「フーちゃん」
〈みゆきたちもフーちゃんの友達。フーちゃん、友達を助けたい。でも行けない。だから、あゆみにキュアデコルを渡したい〉
「でも」
〈でも、フーちゃんは夢の世界に行けない。みんなを助けられない〉
「だから、私が」
〈だから、あゆみにお願いする。
 あゆみがまたキュアエコーになれるように、キュアデコルを作るから、フーちゃんの代わりにプリキュアみんなを助けてほしい〉
「フーちゃん…」
 初めて聞いた。
 フーちゃんがあゆみにお願いをするのを。そして。
「僕は賛成できない」
 ブルーが低い声で言った。
「僕はその『キュアデコル』というのものがどういうものかは知らない。
 だが、誰かをプリキュアにする、というのは大変なことだ。この世界のすべての存在とコンタクトを取り、この世界に満ちている愛と勇気を自分の中に誘導し、光をまとう。それがプリキュアになる、ということだ。そのために必要なアイテムを自ら作り出そう、というのも同じように大変なことの筈だ。
 今の状態を見る限り、フーちゃんには相当の負担がかかることになると考えざるを得ない」
「そうですわ。バクの妖精のことは、ハピネスチャージプリキュアにお任せくださいな」
「フーちゃんは」
 あゆみが、鏡の中を見つめたまま言った。
「プリキュアのみんなを助けたいんです」
「それはわかる。しかし」
「フーちゃんがそんなことを言ったのは初めてなんです!」
「…。
 どういうことだい」
「初めて出会ったとき、私たちはたぶん、一緒だったんです。
 私は、転校したばかりで、友達がいなくなって、新しい街に新しい学校にもなじめなかった。
 フーちゃんも、プリキュアの攻撃でバラパラになって、仲間と離ればなれになってしまった。
 だから…。
 あの事件で私たちは友達になって、その時はたぶん、お互いのことしか考えてなかった。
 そのあと、たくさん友達が増えたけど…フーちゃんが、誰かのために何かをしたい、って言ったのはこれが初めてなんです」
「そうでしたの…」
「だから私は、フーちゃんの願いをかなえてあげたいんです」
「そのことによってフーちゃんが苦しむことになってもかい?」
〈あゆみ。
 あゆみがフーちゃんのことを心配してくれたのと同じ。
 フーちゃんは、みんなのことが心配〉
「うん。
 私、フーちゃんのキュアデコルでみんなのところに行く。
 フーちゃんと私の友達のプリキュアを助けてくるよ」
 ブルーは、やむをえない、という顔で息を吐いた。リボンも心配げな表情が抜けない様子である。
「フーちゃん」
〈うん〉
 フーちゃんは鏡の中で目を閉じた。その小さな体が輝き始める。
(?)
 ブルーは眉をひそめた。自分でもなぜかはわからない。だが、かすかな疑問がそうさせる。
 鏡の中から滲み出した光があゆみの顔を照らし出す。
 ブルーは自分の疑問の正体に気付いた。それは確かに「プリキュアの光」だった。めぐみがキュアラブリーに、ひめがキュアプリンセスになるときに発するのと同じ光である。なぜ、フーちゃんがその光を発することができるのだ。それはどんどん明るさを増し、あゆみは目を細めずに鏡を見ることはできなくなっていた。
 光は回転し、うねり、波打った。フーちゃんの体の色を反映したものか金色だった光はやがって白色光となったが、まもなく薄いピンク色と緑色が混じるようになった。
「そういうことか」
 ブルーが立ち上がった。
 光の渦はまったく唐突に消えた。あの明るさに慣れた目が室内の光景をとらえられるようになるにはしばらくかかった。
 鏡の前に白いリボン。
「これがキュアデコル…」
 あゆみはそれを両手に乗せた。暖かい。
「フーちゃんは、妖精になったんだね」
 ブルーが言うと、あゆみの大きな目がブルーを見た。
「何がどう影響したのかはわからない。
 だが、フーちゃんは、キュアエコーのパートナーであるために妖精になる必要があった。
 プリキュアと友達になった、ということはその妖精と友達になったということでもあるだろうし。君がさっき言ったように、プリキュアの光を吸収したことがあるのなら、それも関係があるかもしれない。
 まさにフーちゃんは、自分の夢をかなえたんだろう。自分の手で」
「え、フーちゃん?」
 鏡の中に誰もいない。この部屋の壁と、不安そうなあゆみが映っているだけである。
「フーちゃん?!」
「妖精には、リボンのようにアイテムを管理したりプリキュアをサポートしたりする種類と、自分自身が変身アイテムである種類とがあるようだね。
 フーちゃんは、後者を選んだんだ」
「どういうことですか?!」
「そのキュアデコルがフーちゃんだ」
「え?!」
〈あゆみ…〉
「フーちゃん!」
〈キュアデコルを作るより、フーちゃんがなったほうがずっと楽。これでいつもあゆみのそばにいられる〉
「フーちゃん、大丈夫なの?」
〈フーちゃんはちょっと疲れた。だからおやすみするけど、大丈夫。キュアデコルがあれば、あゆみはキュアエコーになれるから〉
「おそらくフーちゃんが、あゆみ君の内側の力を引き出す。この世界の愛と勇気をあゆみ君の中に誘導するには、また別の妖精の力がいる。そういうことだね?」
〈うん。
 でも、大丈夫。
 あゆみはきっとプリキュアになれる。フーちゃんがー緒だから…フーちゃんが…〉
「フーちゃん!」
 声が途切れる。あゆみは目に涙をためて、何度もフーちゃんの名前を呼んだ。
 ブルーは、キュアデコルを乗せたあゆみの手の上に自分の手をかざした。
「心配ないよ。フーちゃんは眠っているだけだ」
「本当ですか?」
「あぁ。ただ、目覚めるまでにはちょっと時間がかかるとは思う」
「バクの妖精に、悪夢をなんでもかんでも吸収するのをやめてもらえばいいんですね?」
「そうだね」
 あゆみは涙をぬぐった。そうしてあげた顔に、リボンが「まぁ」とつぶやいた。
 なんという強さだろう。この少女は本当に、友達と一緒に、友達を助けるために異世界へ行こうとしているのだ。プリキュアになれる、という確証もないのに。
「その心配はないようだ」
 リボンの驚きを見抜いたのか、ブルーが言った。
「あゆみ君、聞こえたね」
「はい」
《僕らの友達を、絶対に守るんだ!》
 はっきりと聞こえた。あれは妖精の声だ。妖精たちが、同じように自分の友達を守ろうとしている。
 さっきの気配はこれだった。あの時は、何だったかの見当もつかなかったが、今はわかる。それはおそらく、あゆみがキュアデコルを得たからであろう。
 あゆみはフーちゃんのキュアデコルを胸に付けた。眠っているフーちゃんのぬくもりが伝わってくる。大丈夫だ。心配ない。
 フーちゃんと一緒にキュアエコーになってプリキュアたちを助け、子供たちを夢の世界から救い出す。バクの妖精には、それが正しくはないことを分かってもらう。
「行きます」
「お気をつけて」
「はい」
 ブルーが大きく手を振ると、鏡の中に夢の世界への通路が生まれた。
「行くよ、フーちゃん」
 あゆみは口元を引き結ぶと、鏡の世界へと踏み出した。



最終更新:2014年05月13日 23:08