並んで歩こう/そらまめ
「今日会うのって、えっと…」
「のぞみちゃんたちだよ! 今日は5人? あれ6人だっけかな? ほんとはもっといるんだけど用事で来れないらしくて」
「アタシ7人って聞いたけど」
「わたしは5人だったような」
「なんでちょっと曖昧なの…? …まあいいわ。で、その5人くらい?は私達と同じプリキュアなのよね?」
「ええ。せつながプリキュアになる前に知り合ったから、今回はせつなを紹介するのが目的の一つかしら」
「みんないい人ばかりで、とっても賑やかだよ」
「そう…」
今日はよつば町に自分たちと同じプリキュアの人たちが遊びに来るらしい。聞けば、自分がまだイースの頃に出会っていたようで、例えば、もしあのままラビリンスにいたとしたら、戦うことになっていたかもしれない。だが、相手のグループは5人もプリキュアがいて、こちらにはラブたちもいて、対してラビリンスは当時三人。ラブたち相手ですら苦戦していたのに、それに加えてともなれば…
「プリキュアになってよかった…」
「なに? どうしたの突然? あたしたちもせつなが仲間になってくれて嬉しいよー!!」
抱き付いてくるラブに、ニコニコと笑う祈里と美希。この時ばかりは乾いた笑いしか出なかった。この気持ちがわかるのは元敵である自分だけだろう。数の力って恐い。
「あれ、まだ来てないみたいだね」
「約束までまだ時間あるし、待ちましょう」
約束の場所であるいつもの公園にやってきた。ここは街の中でも比較的分かりやすい場所にあるし、バス停の停留所にもなっているからとのことだった。
それから他愛もない話で時間を潰していたが、約束の時間になっても来る気配のない人達。
「何かあったのかな?」
「迷った…とか?」
「のぞみちゃんとうららちゃんだけならともかく、かれんさんもいるんだよ?」
「そうだよね…んー、駅からここまでの道探してみようか?」
「そうね。だとしたら、ルートが多いから手分けした方がいいかも」
「よし。じゃあ各自別れて駅で集合しよう。誰か見つけたらリンクルンで連絡だよ!」
「「「うん!」」」
そういう話になってお互い違う道を歩きだした。せつなもいつものように駅に向かいながら、なんとはなしに道行く人を眺める。と、そこで気付いた事が一つ。
「そういえば私、その人たちの顔知らないわ…」
道の真ん中で思わず頭を抱えてしまった。なぜそんな初歩的な事に気付かなかったんだ自分。これではもしこの道を誰かが通ったとしても、スルーしてしまうじゃないか。
「どうしよう…」
誰かの後を追う? でもそんなことしても意味ないし、ここは駅でみんなの到着を待ってから帰りにこのルートを通るしかないだろうか。
「はーっ…」
「あの、どうかしましたか?」
「え?」
突然の声に警戒しながら振り向くと、自分と同い年くらいの女の子が首を傾げながらこちらをみていた。こちらをのぞき込むその顔に、何かモヤっとした、喉に骨が刺さっているような感覚がする。
「道の真ん中で立ち止まってたから、なにか困ってるのかなって」
「え、それだけで?」
「うん」
当たり前のようにそう言ったその子は、ニコニコしながらこちらを見る。その人懐っこい顔に敵意の無さを感じて警戒心が薄れた。ピンク色の髪をしたその子は、リュックを背負って、手には駅で配布されているよつば町周辺の地図が印刷されたコピー用紙を握りしめていた。
「あなた、もしかしてこの町の人じゃないの?」
「あ、うんそうだよ。よくわかったね」
自分も知らない土地なのに臆することのないその行動力が、まるでラブのよう。というより、初めてプリキュアのみんなに会った時の気持ちに似ていた。
「あ、あの、あなたはこの町の人だよ、ね?」
「ええ。そうよ」
「よ、よかった~、あの、よければ道を教えてほしいなーって思って…」
「あ、ええ。いいわよ」
「わあ! ありがとうっ!! みんなとはぐれてどうしようかと思ってたんだよっ」
あれ、いつの間にか私が彼女を助ける事になってる。困ってることがないか声を掛けられたのって私よね確か。
それにしても…
「あの、地図を裏から見ても、意味ないと思うけど…」
「あ、あはは。ほら、実は太陽に透かすと秘密の道が見えてくるとか…」
「ないから」
「で、ですよねー」
待って。何このデジャヴ。
確か前にも、結構前にも、こんな事があったような気が…
「ねえ、あなたってもしかして、掃除とか苦手だったりする?」
「え?! なんでわかるのっ?」
「頼まれた事、よく失敗したりとか」
「うんうん、いっぱいあるよ! って、なんで私がドジな事まで?!」
思い出した。
日本地図を持ってドーナツ買いにきたあの子だ。髪型なんかが違ったからわからなかった。彼女の方は気付いてないみたいだけど、あの時は私もイースの時で結構気が立っていたし、雰囲気が違うからだろうか。それとも、単にアホなだけなのか。
「あなた、以前この街に来たことあるわよね?」
「うん? それは、ないかなあ。私この街に来るのは初めてだよ?」
「あれ?」
人違い?それにしてはよく似ている。双子かドッペルゲンガーかっていうくらい。
「あの、もしかして私の顔に何かついてる? あ、さっき食べたシュークリームとか?!」
「あ、いえ、そういうわけじゃないの。ごめんなさい」
眉を寄せながらその子を見ていたら、何か勘違いしたようで口周りをごしごしと拭きだした。ちょっと見過ぎだったか。
とりあえず引っかかる事は置いて、彼女に行先を聞くことにしよう。もしもここから遠いのならみんなへ連絡しなければならないし。
「それで、あなたはどこに行きたいの?」
「えっと、○○公園って所なんだけど」
「公園? なんだ。私もそこに用事があるから一緒にいきましょう」
「ほんと!? ありがとう!」
案外近く、というより公園は目的地のようなものなので寄り道程度で済むだろう。ラブたちの友達探しは一旦置いて、二人並んで歩く。ただ、目的地とかこの光景とか一緒にいればいるほど記憶の中のあの子とダブる。
「そういえば公園には何をしに? あそこは観光するにはお店とかもあまりないけど」
「友達に会いに来たんだ。この街に住んでる子たちなんだけど、私と同い年だからあなたとも一緒かも。っていうか、私まだ名乗ってなかったね。夢原のぞみって言います。よろしくね!」
「あ、私は東せつなです」
「せつなちゃんだね! あ、あと、友達に会う他に、その公園にあるドーナツ屋さんのドーナツも食べたいと思っててね!」
「ドーナツ…」
「そう! 前に一回だけ食べたことあったんだけどもうおいしくて、今度はできたて食べるんだってずっと思ってたんだ!!」
「ねえ、あなた本当にこの街に来たことないのよね?」
「うん。無いよ。あと、私の事はのぞみでいいからね」
「もしかしてだけど、双子だったりしない?」
「え? 私は一人っ子のはずだけど…」
なんだこれ。なんだこれ。もうよくわからなくなってきた。ドーナツを探しに来た女の子。迷い方も地図の見方もドジさ加減も何もかもがダブついて仕方ないのに、双子ですらないとか私は一体誰を追いかけているんだろう。
「さっきから難しい顔してどうしたの? 何か悩み事?」
「あ、いえ、別に」
「もしよかったら、聞かせてほしいな。ほら、人に話すと心が軽くなるってよく言うでしょ? これもいちごが…イチゴがお得って言うし」
「…一期一会でいいのかしら」
「そうそれ!」
無理やり感が半端ない間違え方だったけど、これが本気なら色々と残念な子だな。
「そんなわけで、せつなちゃんは私に話をするぞー、けってーい!」
「え、ちょっとそんな強引なっ!」
「いいからいいから」
「え、私によく似た女の子に会った?」
「…ええ」
押しの強さがすごすぎて結局話をすることになってしまった。人の話を聞かず我が道を行こうとするところとかほんとラブそっくり。
そんなラブにそっくりなのぞみに、日本地図を持ってきた子の事、聞いた会社での失敗談を語ってみる。
「会社…あぁ! その子、私の双子じゃないけど、知ってる子だよ。友達なの」
「そう、だったの…?」
どうやら実在したらしい。よかった。それにしても関係者だったとは。いやまあわかってはいたけれど。
「あの子に道を教えてあげたのってせつなちゃんだったんだねっ! 聞いたよその話。ありがとうあの子の事助けてくれて」
「いえ、お礼を言われるほどの事じゃないわ」
言えない。実はあの時困っている彼女を無視して行こうとしていたなんて。後ろめたさから若干の苦笑いになってしまったが、そのことには幸い気付かれなかったようでほっとした。
「言ってたんだ。ドーナツを買いに行ったら自分と似たような子に会ったんだって」
「だから似てないって…」
「前の自分にそっくりだから、きっとのぞみみたいな子もいるよ! そしたらあの子もきっと笑えるよねって。言われたんだ」
見透かされたような気がした。
あれだけの時間で、あの時の気持ちを、イースでいた時の虚無感を悟られていたなんて。
思わず立ち止まってしまう。数歩先で止まるのぞみがこちらを見る眼が、イース時代、ラブに向けられたものと同じような気がして目を見開いた。それでも、その視線から目を逸らさなくなった自分は、ラブに会えたことできっと変われたんだろうと思い、同じように笑顔で返した。
「んー、みんなどこかなあ…」
公園へと戻ってきた私たちは辺りを見回す。
「あなたの友達って何か特徴とかないの?」
「だからのぞみでいいってばー、んースポーツが得意な子とー歌がうまい子、物語を書くのが上手な人とすっごく頭のいい人とかあ、あ、あと一緒にいると楽しい!」
「いや、出来れば見た目の特徴を教えて欲しいんだけど…」
そんな外見で判断できない情報をもらっても、自分はエスパーではないので活用のしようがない。
「えー」とか「うーん」とか唸るのぞみ。悩むほど身体的特徴が見つからないのだろうか。
と、その時、こちらに向かって走ってくる影をみつけた。
「おーい! のぞみー!!」
「あ、いたー!!」
呼びかける声に反応したのぞみは指さしたあと大きく手を振る。どうやら一人発見らしい。
と、近づいてくる人が途中で転んだ。
「あぅっ!! うぅ…」
「わー、大丈夫―!? ってうわっ!」
転んだ様子を見て心配しながら慌てて走り出したのぞみも躓いて転んだ。
「…なにこれ」
転び方までそっくりで、鏡でも置いてあるのかと思った。
そんな二人はやっぱり双子かドッペルゲンガーにしか見えなくて、改めて見比べてみても最初に間違えてしまったのはしょうがないのではないかと思えた。
「いたた…のぞみ、なんで先に行っちゃうの。一緒に行こうって言ったじゃん!」
「ごめんっ、なんか先の方であまーい、いい匂いがしたからつい我慢できなくなっちゃって…」
「のぞみがいきなり走っていくから他のみんなともはぐれちゃったんだからね! 私また道に迷うとこ、ろ…あれ? あなたどこかで…」
二人の会話が途切れ目線がこちらに移る。ようやく存在に気付いてもらえたようだ。にしても見た瞬間に私の事を思い出すとは意外と鋭い。
「久しぶりね」
「…どこかで会った気がするんだけど…んー、やっぱり気のせいかな」
「私久しぶりって言ってるわよね。ナチュラルに無視するのやめてもらえるかしら」
「なんだろう、こう、腰のあたりまでは思い出せてるんだけど」
「それ全然思い出せてないわよね」
腰ってまだ体の半分残ってるんだけど。鋭いは前言撤回しよう。この微妙にズレた感じ、やはり日本地図を持ってくるだけの事はある。
彼女はそれから五分ほど悩んだ末、両手でぽんと閃いた時のような仕草をとった。
「覚えてたよ? ただちょっと眠かっただけ」
「最早言い訳かすらわからないわそれ」
「それにしても、なんだか前とは随分雰囲気変わったね」
「そう、かしら…?」
「見つかったみたいだね。ね、のぞみ! 私の言った通りになったでしょ?」
「そうみたいだねっ」
「えっへんっ!」
両手を腰に当て胸を張るような恰好と得意げな顔。そんな彼女を見るのぞみも嬉しそうに笑っている。
そうして褒めて褒めてと言われるがままに頭を撫でるのぞみを見ていて、ふと気づいた。
「そう言えば、結局名前聞いてなかったのよね」
「へ?」
あの時はもう二度と会う事なんて無いと思っていたし、例え知ったとしても記憶の彼方に追いやっていただろう。だってあの言葉を聞いた時の苦しさに、その意味を考えることをやめてしまったのだから。
【そこから連れ出してくれる人が、早く来てくれるといいね】
連れ出してくれる人を望んでいたのかどうかもわからないけれど、それを素直に受け止めきれなかった時点で感じるものはあったということだ。
「私さっき自己紹介したよっ?!」
と、そんな事を考えていたら目の前ののぞみがショックを受けたような感じで悲しんでいた。
「いや、あなたの事じゃなくて」
「だからのぞみだってばー!」
さすがに先ほど自己紹介してもらった人の名前は忘れないが、そんな弁解をしようとした矢先に「のぞみって呼んでよー」コールで騒がれる。いやだって今日知り合ったばかりの人の名前を呼ぶなんて、ねえ…?
「もしかして私の事?」
と、今度はそれまで頭を撫でられていた方の子が自身を指さしながら聞くので頷く。少し考える素振りを見せてから、またしても思い出しましたとでも言うような顔で、
「そういえば私あなたの名前知らないわ」
先程自分が言っただろう事をそんな驚いた声音で言われた。
「だからさっきからそう言ってるじゃない…」
あまりにも不毛なやり取りに、がくっと肩を落とす。ワンテンポ遅れるのは最早仕様なんだろう。気にしたら負けな気がする。
なんだろう。この二人と話をしていると怒るのとかも馬鹿らしく、もとい無駄なような、つまりは毒気を抜かれるような感覚になる。
ただ、不思議と嫌な気はしなくて、この空間に居心地のよさすら感じるのは二人の人となりのせいなのだろうか。
「私はね、ダークドリームって言うの」
「ダーク、ドリーム…?」
と、名乗ってくれた声に思わず聞き返してしまった。日本の人ではなかったのか。のぞみが夢原と名乗っていた手前、似た容姿の彼女もそんな名前なんだろうと勝手に推測していた。
「そ、ダークドリーム。あなたは?」
「私は、東せつなって言うの」
「せつなか…うん、覚えたよ! あの時は道案内してくれてありがとうせつな」
まあ、名前なんてどうでもいいか。ダークドリームの顔を見ていたら、そんな風に思えた。だって彼女は今、とても楽しそうだから。
「どういたしまして。…ダークドリーム」
「あー!! ズルいっ! 私の方が早く自己紹介したのにー!!」
ダークドリームの名前を呼ぶとのぞみが悔しそうに地団太を踏んだ。そんな様子がおかしくて笑いが止まらなくなったのは余談だろう。
しばらくの間のぞみをあしらいつつダークドリームとの会話を楽しんでいたが、何やら背後からバタバタと大人数の足音がこちらに向かって大きくなってくるのが聞こえた。何事かと振り向くと、やたらとカラフルな集団が息を切らせながらやってきていた。
「のーぞーみー!!!」
「うわヤバっ! りんちゃんなんか怒ってるよっ」
「そりゃあのぞみが勝手にどっかいったせいで集合時間にも遅れたんだし」
「このままじゃりんちゃんからすんごい怒られて、かれんさんから説教されてこまちさんには笑いながら正座させられちゃうよっ、ってことは私の味方はうららだけ?!」
「いや、うららすら怒るんじゃないかな…」
「ふえーん、助けてせつなちゃんっ!」
「ちょっ、巻き込まないでよっ」
迫りくる集団との盾になるように私を置いて背後に身を隠す。そっと頭だけ出して様子を窺うが冷や汗が出ているのを見て思わずその視線の先を追った。
鬼気迫る集団の気迫になんとなく身の危険を感じる。
「ちょ、ちょっと離れてっ、あの人たちなんだか怖いわっ」
「そうだよっ怒るとみんな怖いんだよっ!」
「あなたのせいなんでしょ!? おとなしく説教されなさいよっ」
「やだーっ」
嫌々と首を振り必死にその場から動こうとしないのぞみと押し問答になる。意外と力が強くこちらも押したり引いたりの一進一退を繰り広げていた。
そんなことをしている間も近づく集団。その様子を見つめるダークドリームはなんだか頬をぷくっと膨らませてこちらを見ている。
「なんか二人とも楽しそう…」
この状況のどこが楽しそうなのか。必死さが伝わらないの? 私、今血迷ってアカルン使いそうなのをギリギリのところで思いとどまっている程度には気が動転しているんだけど。
「私も混ざる―っ!!」
「えぇっ!? ちょっとこの状況を更に混乱させる気?!」
ダークドリームまで参戦してもう何が何だか分からなくなってきた。三人で同じところをぐるぐる回りながら集団の盾が次々変わる。このままではトラが三頭のようにバターになってしまいそうだ。というかいい加減疲れてきたし目が回ってきた。
「だから、もうっ、ダークドリームも…のぞみも、いい加減にしてーっ!!」
そうやって叫ぶと、ピタッと二人の動きが止まった。肩で息をしながら、怒った訳ではないのに叫ぶのは、キツく伝わってしまったのではないかと一気に不安になった。もしかしたら泣かせてしまったかもしれない。
と、顔を挙げるとなぜかのぞみがキラキラとした目でこちらを見ている。もしかして罵倒されると喜ぶタイプなのだろうか。
なんて思っていたら、両手を広げてこちらにダイブしてきた。
「せつなちゃんが名前で呼んでくれたー!!」
「うわっ!」
飛びかかるかのように抱き付いてきたせいで全体重が圧し掛かる。突然の事だったので支えきれずに尻餅をついた。
名前を呼んだくらいでこんなに喜ばれるなんて思わなくて、さっきは無意識だったからなんとも思わなかったが、だんだんと恥ずかしくなってきた。顔が熱くなるのを感じる。
「あー、せつな顔真っ赤ー」
「う、うるさいっ」
こちらを指さしながらけらけら笑うダークドリームに、気迫のない声で怒る以外に今の自分にできることはなくて、一緒になって笑い出したのぞみの腕を振り払うことも出来ず、ただされるがままになっていた。
そんな様子を駆け寄ってきたカラフルな集団が、お互いに顔を見合わせながら首を傾げたり振ったりしていて、この状況に鬼気も鳴りを潜めたようだった。
と、思ったのだが…
「のぞみっ! あんたッて子はっ、どうして人の話を聞かないのっ!」
「い、痛いよりんちゃんっ! こめかみぐりぐりしないでっ」
「そうだよのぞみ。ダメじゃない勝手にどっか行っちゃ」
「あんたもよダークドリーム! 待ちなさいって言ったのにのぞみの後を追いかけて。あんただけじゃ迷子になるのがオチでしょ」
「そ、そんなことないもんっ!」
「まあまありんさん、そのくらいで。ふたりともこうして見つかったんだしいいじゃないですか」
「うららはこの二人に甘すぎ。もっとビシッと言ってやんないと同じ事繰り返すでしょ。そうですよねかれんさん」
「そうね。私はりんの意見に賛成よ。本当ならもっと早くにここに来られていたはずなのに、待ってくれている人たちにも迷惑が掛かってしまったわ」
「あの子たちなら謝ればきっと大丈夫よかれん。それにしても、この公園広くて集合場所がよくわからないわね」
「それなら大丈夫よこまち。ね、東せつなさん」
「っ! どうして私の名前、知っているんですか…?」
到着した集団の会話を少し離れた所で聞いていた。知り合いなのはのぞみとダークドリームだけで、他の四人は初めて会ったから、さすがにこの人数の中に飛び込んで会話をする勇気は自分にはなかった。それよりもそろそろラブに連絡をするべきだと思い、リンクルンをポケットから出したところで名前を呼ばれる。呼んだ青い髪の女性を私は知らない。無意識にリンクルンをギュッと握った。
「そんなに警戒しないで。私があなたの事を知っていたのは事前に写真を見せてもらっていたからよ。ラブたちに、と言えば分かるかしら」
「ラブに…?」
【5人? あれ6人だったっけ?】
【今日来るのは、のぞみちゃんたちだよ】
【のぞみちゃんとうららちゃんだけならともかく…】
「あ…」
ラブたちとの会話で何度か出てきたのぞみと言う名前と同年代の女の子達。約束をしているグループはこの人たちだったのだと今気付いた事に、これではダークドリームのことをとやかく言えないと本日二回目の頭を抱えた。
「改めて紹介するねせつな。端からのぞみちゃん、うららちゃん、りんちゃんにかれんさんに、こまちさん、そしてダークドリーム。今日は六人だけど、他にも紹介したい人はいるんだよ」
「東せつなです。よ、よろしくお願いします」
リンクルンで連絡をとりようやく合流できた私たちは、カオルちゃんのドーナツを食べながら座っていた。六人のテーブルに置かれているドーナツの量が尋常じゃないけど、誰一人として突っ込まないので、この人たちにとってはこれが普通のことなのかと少しだけ戦慄する。
そんな戸惑いと共に挨拶をすると、口々にこちらこそと返ってきた。ただ若干二名は口にもごもごとドーナツを詰めながら言うので何を言っているのかが定かではない。そしてそんな二人にりんが注意している姿は、これまたいつも通りというような自然なやりとりだった。
「そういえばせつなってダークドリームと知り合いだったんだって?」
「え、ええ。そうよラブ」
むしゃむしゃと隣でドーナツを食べながら思い出したように聞いてきたラブに、少しだけ気まずさを感じた。だって一番最初にダークドリームと会ったのはイースの時だったから。
「あーあの時のせつなはあれだよね」
「な、なに」
ダークドリームがうーんと腕を組みながら体を左右に揺らす。何を言われるのか気が気じゃなくてドクドクと心臓が鳴った。
「友達に誘われるがまま不良になったのはいいけど、やっぱり自分には合ってないんじゃないかと思い悩んでたところに昔の友達がやってきて、そんなの辞めなよって言われたどうしよう。みたいな」
「長い。あと意味が解らないわ」
ピンとこない言い方で一体何を伝えたいのかが謎なところだ。
「あーそれあれよね、無理して粋がってた。みたいな」
「あー何となくわかるよ美希ちゃん。道に捨てられている猫を見つけてソワソワと周りを気にしてからそっと近づく。みたいな感じだよね!」
「あれ、美希たんの言ってること分かりそうだったのに、ブッキーの話で混乱してきたよあたし」
「みんなまで何の話をしてるのよ…」
「ま、どんなせつなでもあたしは大好きだからねっ! あたしたちは四人そろってチームなんだから!」
くだらない会話から不意打ちのように言われた言葉があまりにも直球過ぎて、一気に体温があがった気がした。
「わ、私たちだってチームだもんっ、ね、みんなっ!」
「あんたはなんで張り合うのよ…」
ラブの発言を聞きがたがたと立ち上がったのぞみが負けじと自分のチームの仲を確認する。そんな姿に呆れながらツッコミを入れるりんだったが、その表情は柔らかい。
「確認するまでもないわよのぞみ」
「そうね。りんの言う通り」
「私たちはいつでも、」
「チームですからっ!」
「だよねだよねっ!!」
りんにかれんに、こまちにうららと、そんなの今更だとみんな揃って笑いあうのが仲の良さを表していて、結束力の強さを感じる。ただ、そんな五人を少し眩しそうに見ているダークドリームの笑みはなんとなく寂しそうで、視線がそこで固定されてしまった。
そんな顔をされたらこちらまで悲しい気持ちになりそうだったが、中心で笑いあっていたのぞみがこちらを見てふわりとほほ笑む。それから、さっきよりもとびきりの笑顔で彼女に手を伸ばした。
「もちろん、ダークドリームも私たちの大切な仲間で友達だからねっ!」
「のぞみ…! うんっ!!」
のぞみからの言葉にぱあっと明るくなったのを見て、心配は杞憂だったと感じ、同時に、何故か救われた気持ちになった。
「今日は誘ってくれてありがとうラブちゃん! すっごい楽しかったし、すっごいおいしかったよっ!」
「こっちこそ来てくれてありがとうのぞみちゃんっ! この街を案内できたしドーナツも一緒に食べられたし、すっっごく楽しくてあっという間だったよ!」
「今度は私たちの街に遊びに来てね。ラブちゃんたちに見せたいところたくさんあるんだ!」
「うん! 絶対行くよ!! みんなで!」
ラブとのぞみがお互い手を握り合いながらハイテンションで別れの挨拶をしていた。やっぱりこうして見るとよく似ている。のぞみと出会った時に感じた雰囲気は、同じプリキュアとしての何かを感じ取っての事だろうと思ったけど、それだけではなかったのだろうか。
「ねえ」
「え?」
不意に声を掛けられた。振り向くとダークドリームがラブを見ながら聞いてくる。
「あの子でしょ。せつなを変えた子」
「よく、分かったわね」
「わかるよ。だってのぞみそっくりなんだもん。私もあの強引さに助けられたんだ。どうせ、せつなもそんなところでしょ?」
「まあ、そうね。あの強引さ、意志の強さがなかったら、多分私は今こうして生きていられなかった」
「私もよ。私ものぞみが手を伸ばしてくれなかったらきっとあの時消えてた。やっぱり私たちって似てるね」
「…そうね。そうかもしれないわ」
驚いた。ここまで共感されるなんて思ってもなくて、これまでの過去を二人で語り合ったらきっともっと共通点は出てくる気がした。でも、言葉には出来ない気持ちもお互い持っているだろうから、すべてを伝え合うことは拙い今の自分では難しく、語り始めるにはまだ時間が掛かりそうだ。
「それじゃあ、またね」
あの時と同じような言葉で、手を振りながら去っていくダークドリーム。でもあの時とは違うことがある。それは、
「さよなら、ダークドリーム」
彼女の名前を知ったことだ。
最終更新:2014年09月24日 22:58