「な、なんという……」
誰かが思わず溢した。
それも無理はない。なんという強さだ、と言いかけたのだから。
その薄紫色に塗装された、戦術機、なのだろうか、とにかくその機体は、跳躍ユニットを使用している様子すらないのにもかかわらず宙に浮遊し、しかも自分が搭乗している戦術機には絶対できないであろう戦闘機動でBETEの群れの中を「飛行」し、見たことがない光り輝く弾丸を、両腕から撃ちまくりながら次々に「屠殺」していく。
次々に崩れ落ちて物言わぬ元生物と化すBETEの群れ。
あれは戦闘ですらない。
あれは遊びだ。
ナイトメア隊の面々は、どこか現実味にかけた光景に機体を止めて「それ」を見ている。
BETEに感情があり、人間のように会話することができたなら、きっとこう叫んでいるに違いない。
そんなの理不尽だ、と。
戦術機よりやや全高が高く、手足が大きめに感じられる。肩を護っているのは、あれは――目らしき塗装、がなされた装甲板なんだろう。
とにかく、自分、そして隊のメンバーは、誰一人としてその戦術機を知らない。
いかなる世代の戦術機とも合致していないように思える。
その薄紫の戦術機の前方に――装着なのだろう、そもそも物理的に繋がっているように見えない、つまり一定の距離を置いて浮いているオレンジ色の球体が打ち出され、次々と小型のBETEを――汚く「喰らい」尽くしていく。
そのオレンジ色の球体は、まるで意思が有るかのように突撃級に飛びかかると、まぁ自分が乗っている戦術機と比較しても低速だが、とにかく飛びかかり、オレンジ色の球体の表面に装着されている部品が「光る何か」を宿し、数秒接触しただけで突撃級を喰らい、その場に横たわらせた。
あれは何という兵器なのだろうか。
該当する言葉が見つからない。
要撃級が球体兵器に攻撃を仕掛けると、逆に表皮を抉られる。
仕組みはわからないが、物理的に破壊できないのか。それともどうなのか。
『どうした。お前らの仕事をしたらどうだ』
皆がその「屠殺」「虐殺」に見惚れている時に、その薄紫色の戦術機から通信が入った。男性の声だ。私は再度操縦桿を握りなおした。
そうだった。私達がやるべきはBETEの殲滅。
何を惚けている。自分に鞭をうつ。
「全員攻撃開始!」
『了解!』
全員が各々の武器をあげて憎きBETEに攻撃を開始した。
やはりそうらしい。
俺は6連装ミサイルを、でかい10本の足が付いているバケモンにぶち込みながら思った。
バケモノはあっさりと胴体を吹き飛ばされて死んだ。
――この世界の技術は、極端に低い。
あのゲインズもどきの機体には、「ザイオング慣性制御システム」のような推進補助機構が組み込まれていないらしい。恐らく、作用反作用に頼った原始的な推進システムしかないのだろう。
しかも持っている機関銃の威力は、元の世界では比較的ポピュラーで、威力の低い「ビームバルカン」にすら及ばず。
よくあんな鉄屑で戦えるもんだ。
俺は逆に感心してしまった。
連携がうまく取れている。性能の悪さを腕で補っているらしい。
それはともかく。
あの足10本の奴の中にこのアンノウンが収納されているらしい。
さっき戦いながら中身をAIに調べさせた。なら、出てくる前に退場願おうか。
「フォースを突撃モードに変更。ミサイル発射一時停止」
≪了解≫
バーニア、最大推力へ。青い火炎が機体を推進させる。
ものの一瞬で風景が変わり、やたらとデカイもう一匹いた10本足――まぁこのバケモノどもを運ぶ上にデカイから、差し詰め「歩行要塞」か。その真上に俺は降り立った。
「死ね」
ビームクロー展開。空気を焼きながら青い爪が計6本両腕の先端に現れる。
俺は、躊躇うことなく腐れ要塞の足の付け根に突き立て、両断した。
何本も何本も何本も足を斬りまくる。
バランスを崩したらしく、悲鳴を上げて倒れる腐れ要塞。
確かに硬い。
しかし熱や特殊エネルギーに対しては対策がなされていないらしい。
こいつらきっとアホだ。アホは死ね。
「っと、アブッ、ねぇ」
デカブツから生えている触手らしきものが俺の機体に襲いかかり、空間を薙ぐ。だが俺は既に退避していた。
空間さえあれば、ものの一瞬で音速を突破できるR戦闘機にとって、あまりに遅い攻撃だ。
アクビが出ちまう。いや、出た。
両腕のバルカンから弾をひたすらさっき地面に倒した腐れ要塞に撃つと、痙攣を起こして動かなくなった。
同時、機体をスライド。あらかじめ思考の一端で自動制御モードを解除して待機させておいたフォースを「後ろ」に装着。
エネルギー供給開始と同時に、フォースのパーツから黄色い剣が伸びる。
これで死角はない。前方はビームクロー。後方はフォース。俺はとりあえず近場にいたサイ(に見えた)っぽいアンノウンを切り刻んでやる。
サイっぽい奴はハラワタぶちまけて死んだ。
さぁ、ほら。お楽しみはこれからだ。
――そして力天使は、剣を構える。
「ヤッてやがるな、アイツ」
誰にも聞こえず。そして誰にも気がつかれず。
隠密に、静寂に。
「でもまぁその方が後で交渉しやすい」
浅異層次元潜行による偵察。
隣接する(それ以外に適切な表現がないので使用する)次元に機体を移動させることで、気が付かれることなく接近していたヴァジルカの機体、ミッドナイト・アイは、円盤状の大きなパーツをゆっくりと回転させながら情報収集をしていた。
これがバイドだったら、既に攻撃を受けていただろうが、このアンノウンは、気がついた様子もなく、ひたすら突進を続けていた。
一匹一匹の詳細なデータを、貪欲に吸収する。しかも敵は絶対に気がつかない。
戦闘ができないといってもいいミッドナイト・アイにとって、今回の敵は実に楽だった。
早期警戒システムを備えた、初期の機体だが、量産しやすく、太陽系の外側の基地に多く採用されている傑作機。
殺して殺しまくる戦友の姿を、彼の機体は、地面から突き出た大きな「岩の中」から見ていた。
次元が違えば、障害物など意味をなさないからだ。
大量の情報の奔流を、彼はすべて目を通していく。
そんなことをすれば、常人であれば、オーバーブローをおこして昏倒するだろうが、彼の脳は既に電子的に強化を受けており、さらに血中のナノマシンがその他の機能を補ってくれる。だから平然としていられる。
「お。敵が撤退し始めたか。さぁて、オレも帰るとするか」
機体が地面へと潜り込み、そして、消えた。
痕跡すら残さずに。影のように。
喰い足りない。
それが彼の率直な感想だった。
「………」
≪バイタルサイン正常。機体の損傷皆無。敵性因子撤退開始――≫
機体のAIが人間そっくりの声色で現在の状況を解説している。
弱かった。
それも、彼の感想だった。
≪不明機から通信です。電子戦用意――接続≫
どこか緊張した面持ちで、女の声がヒュロスのキャノピー内部に、正確には、彼の頭の中に響く。
彼は、それをとりあえず聞いてみることにした。
警戒したようにヒュロスの周りを取り囲んでいる不明機、その内の一機。リーダーらしい塗装(なんとなくそういう感じの)がなされたその一機が、前に少し進み出る。これで包囲しているつもりなんだから、やはり性能差が歴然とわかる。
真上がガラ空きだ。
今一斉に襲われても、全員を返り討ちにすることは実に容易い。
『こちら国連太平洋方面第11軍 横浜基地所属ナイトメア隊 隊長「富士 キサラギ」と言います。その――え~~戦術機、に搭乗している衛士、応答願います』
『こちら国連軍所属第1333試験部隊、御鞍衣(ミクライ)メイゼ。感度良好。そちらの話をわかるやつを頼む』
相手は少し戸惑ったように言葉を詰まらせ、
『話のわかる奴、ですか。――少々お待ちください』
さぁて、どんなヤツが来るか楽しみだ。
メイゼは、一時的に不明機との通信を切り、「サクラ」につないで指示を求めることにした。
通信が変わる。ハーン艦長だ。
『こんなんでいいんだったか?』
『ああ。引き続き頼む』
『了解』
通信が戻る。そこから、まだ若い女の声が聞こえてきた。
『初めまして、私は国連軍横浜基地副司令、香月夕呼よ』
『こっちは―――さっき言ったから省略だ』
『そう。で、いきなり本題に入るけど』
通信の向こう側で、理知的な声の主が多少身じろぎをするのを感じた。
『国連軍所属第1333試験部隊なんて部隊、存在していないわ』
『ほぉ、それで?』
『貴方の乗っている兵器、それはどこで製造されたの?』
『……地球ですが、それが?』
『そうね、貴方、異世界の人間でしょう? そんな無茶苦茶な高性能の兵器、この地球上には存在していないし、そもそも造れないわ。しかも突然現れたし』
正しくは並行世界の人間ね、と香月は最後に訂正した。
『よくわかりましたね。正解です』
しかし、兵器に関してあんなボロ鉄の骨董品しか製造していないのに、次元に関することだけはある程度の知識があるとは。多少呆れつつ、メイゼは相手の反応を待つ。
『まさか正解なんて言われるなんてね』
『そこで取引といきましょうか。香月殿?』
『殿なんて気色悪いわ。香月さん程度にして』
『では香月さん。我々は今行くあてがなくて困っているので、当分の間の衣食住と物資の補給を約束してください。そして勝手に機器を弄らないことも』
言いたいことを先に言われたのか、香月は黙って聞いている。そうなると、自然とこの先の展開は読めてくる。
『見返りに、あのアンノウンを適当に排除します』
『ああ、あれはBETE。アンノウンじゃあ不都合が生じるからそうしておいて。排除、というよりは、部隊の撤退を支援して、それと出来るだけの部隊の救出をお願い。で、補給は必要?』
『BETE、ですか。了解しました。いえ。補給なんていりません。あのノロマどもを屠るのに、補給なんて必要ない』
神だって殺して見せる、と。
メイゼは楽しそうに無線越しに笑った。
本当に、楽しそうに、血で濡れて真っ赤になった力天使は笑った。破壊衝動を満たせると、彼は笑う。
戦場は、まだ眠らない。
インターフェースを通じて直接メイゼの脳内に情報が入り込んでくる。その内の一つ。通信回線を開く。
『こちらミスリル1。アンノウンの種類は大まかにわけて7種類ということが判明。今そちらに情報を送信している』
ヴァジルカの独特の声だ。偵察から帰ってきたらしい。
『こちらハーキュリー1。……受信した。レーザーを発射するやつがいるのか』
『そうらしい。この世界の部隊を護衛するんだろ? どうするんだ?』
ヴァジルカの言葉にメイゼは少し沈黙する。どうするんだ? 決まっている。
バイドを殺すために、初めてアロー・ヘッドに乗った時から、完全では無いにしろ、心に決めていた。
否、バイドを殺すことを生業にしている連中は、皆そうなのだ。決して枯れることがない感情、憎しみを胸に抱いている。俺だってそうなのだから。
バイドで無くてもいい。人類に敵対するなら、脳漿をブチまき、内臓を焼き尽くして殺す。骨を砕いて体液をミサイルで蒸発させる。
だから、
『皆殺しだ』
国連軍横浜基地副司令、香月夕呼は、闖入者にとある情報を渡していなかった。
それは、戦術機の装甲を楽に焼き切るレーザーを発射する種類のBETE、レーザー種の存在を言っていないということだ。
しかし。
香月は考える。
並行世界について知っていて、しかも重力制御機関を搭載しているらしき人型兵器を駆る、彼なら、きっとこの状況を潜り抜けられるはずだ。
殺されたなら回収して解析、生き残れば手を結ぶ。
どちらにしろ、悪いようにはならない。
香月は、科学者である以前に、日本人だ。
会ったことがない、しかも所属不明の連中に、一発で心を許すような人物ではなかった。
ひょっとすると、人類を殺すために派遣された連中である可能性もあるではないか。
しかしまぁ。
彼女はそんなことを思いながらも、どことなく心が弾むのを感じていた。
送られてくる映像をチラリと見ただけで分かる、その戦闘力―――これは使える。
鬼神が如くの力で敵をことごとく肉の塊へと変化させる薄紫色の鉄の巨人。見たことがない兵装を扱い、要塞級の外殻ですら、加熱したチーズにナイフを入れるような、キュウリを包丁で輪切りにするような威力の光の爪。突撃級の甲羅を一撃にて貫通する腕部の兵装。攻撃をうけても壊れる様子のないオレンジの球体。
彼女の脳裏に「希望」という文字が微かに点滅した。
『聞いていなかっただろうが、お前らは俺と一緒に他の部隊の救出して撤退する。いいか? 富士 キサラギ隊長』
通信を切ったメイゼは、改めて待機させてあった通信を開きなおし、キサラギに声をかけた。
『それは香月副司令官の命令、もしくは指揮官の命令ですか?』
多少緊張を孕んだ声が返される。
『ああ』
『では、少々お待ちください』
通信が途切れる。恐らくは、上に連絡をとって、事実の確認をしているのだろう。
だからメイゼは待つことにする。
『わかりました。皆聞いていたな? これよりコールサイン「ハーキュリー1」に続いて部隊の救出、そして撤退を行う』
『―――ちょっと待って』
静かな声が無線を通して聞こえた。なんだこいつ、とメイゼは考えながら、並列して走る思考を使って周囲の状況の分析を始めた。ナノマシン稼働率良好。うむ、実に素晴らしい。
『こんな怪しい奴に追従する、と?』
02とペイントされた機体からの通信。
どうも怪しんでいるような声色だ。むしろ、火事の現場でおいしそうにタバコを吸っている男を見ているような、そんなイメージを受ける声色。
『あやの、今は作戦中だから』
01とペイントされた機体のキサラギがたしなめると、あやのと呼ばれた人物は沈黙した。
まぁ当然かもしれない。唐突に高性能機で乱入してきて、しかも勝手にコールサインを名乗ったら、兵士なら誰だって怪しむ。
それにしても、なんでこの部隊は全員女なんだ? メイゼは首を傾げそうになった。
と、フワフワと、ヴァジルカ曰く愛嬌のある動きでフォースが戻ってきて、そして機体の後部に接続される。
アンノウン―――この世界ではBETEという名称らしいそれらの死体を喰わせていたのだ。
ゲージに「OVER DOSE」と表示が出ている。
情報量の増加。脳内機器の過負荷増加。処理率上昇。処理開始。
赤い光が興奮したかのようにフォースの周囲を惑星のように回っている。これで、攻撃力はけた違いに上昇する。
「フォース」は、純粋バイド素子を培養、コントロールロッドや光学チェーンにより制御されている「生体兵器」である。
吸収したエネルギーを咀嚼し、変換。光学兵器を乱射したり、ほとんどの金属を溶かす溶液を発射したりする兵装で、Rを駆るものにとっての盾であり、剣でもある。
そして、フォースにはデルタ・ウェポンという、オーバードーズ時にしか使用できない「戦術兵器」が搭載されている。
戦闘機の装備としては余りに強力な狂気の奔流。
それは、対象空間へ特殊増幅したエネルギーを解放、人為的に次元の歪みや核融合、重力の歪み、対消滅現象に、分子などの結合を原子レベルまで分解させるという、キチガイ染みた兵器。
今、もしもメイゼがデルタ・ウェポンを発動した場合、半径数百メートル、地面も含めて、全てが消えうせることになる。BETEなど関係ない。全てが無に還る。例外は、対策のなされているバイド体くらいか。
もちろん、今そんな愚かなことをしようとは思っていない。
奥の手は最後まで取っておくべきだ。
奥の手、といえば、まだ「波動砲」を一回も使用していない。
元々はアステロイドバスター、つまり掘削機として開発され、対バイドミッション発令と共に兵器として改良されたそれは、最上級のものに至っては、惑星すら破壊しかねない力をもった、人類の刃だ。
メイゼの搭乗機、「ヒュロス」にはハイブリッド波動砲システムが搭載されており、スタンダートⅡ波動砲と、バウンドライトニング波動砲がある。
スタンダードは、直進性に優れ、バウンドライトニングは、障害物にぶつかると、ダメージを与えつつ反射、しかも敵対因子をサーチするという優れものだ。
この世界において、まさに最強の兵器と呼べる。
元の地球では、この波動砲を凝縮、機銃弾のように「超連射」する機体や、長時間にわたって「照射」する機体、射程「38万km」の機体などがいた。
そう、
R戦闘機とは、全ての兵器の頂点に立つべく作られた存在なのだ。
『さて、いくぞ』
『了解』
そして不知火を駆るナイトメア隊は、他の部隊の救出のため、まずは補給コンテナを回収すべく動き始めた。
あとがき。
N式です。
なかなか性格が安定せず、困っているという……。それはともかく。
ここまで過剰な装備を使っても殺しきれないバイド。その存在について少し書きましょう。
元をたどれば、26世紀――銀河系中心域に確認された明らかに敵意を持った生命体に対して使用される予定だった、空間を汚染せずに生態系を破壊する局地限定生体兵器、ということになっています。
速度を殺さずに、しかも分かりやすく戦闘シーンを書く、ということが難しいです。ハイ。
では、また次回。
最終更新:2008年11月09日 18:28