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 異形の生命体「バイド」。

 その遺伝子は、奇しくも我々と同じ

 二重螺旋構造のDNAを持つことが既に知られている。

 ――論文「バイド生命体」より抜粋――



 『こちらコールサイン「ハーキュリー1」、システムオールグリーン。ナノマシンによるリンク開始。全武装オンライン』
 『こちら管制塔。了解。グッドラック』

 振動が体に伝わったかのように感じる。
 もちろんそんな訳はない。これは、制御された衝撃だ。
 R戦闘機のラウンドキャノピーの中には、震動が決して伝わらないばかりか、いかなる物理的な問題も伝わらないように設計されているのだ。
 第一伝わってしまったら、瞬間的に超音速まで加速するそのGで内臓が血のジュースになって、即死するのは間違いない。ジュースの他にも骨の粉末が山ほど出来上がる。
 勿論、脳味噌も鼻や耳から噴水のように噴き出す。目玉もきっとつぶれる。
 ただ、何をやっても振動なし、どんな機動でもG無しでは現実剥離現象が生ずるとのことで、2G程度までの重力や、ある程度の震動が伝わるように設計されている。
 宇宙空間にいるヘイムダル級戦艦の側面の一部が開閉し、その白い機体数十機、「R-9A アロー・ヘッド」がスタンダートフォースを装備した状態で、音速を遥かに超える速度で矢のように射出された。
 量産機として、そしてバイドに対して最初に異層次元戦闘を行った機体、「アローヘッド」に乗ったメイゼは、トリガーに掛けている指を神経質そうに僅かに動かした。
 落ち着かない。
 メイゼは心で呟く。
 今回が四回目の実戦。
 太陽系内に確認された不明機体群を撃破せよ、というのが今回の任務。
 と、いっても最初は偵察機の護衛。次は小型バイド体の掃討任務。次は哨戒。今回が実質初めての実践だともいえる。
 新システムを装備したヘイムダル級改、「ヘンゼル」がつい一週間前に改装終了し、その護衛としてメイゼは火星の基地から異動、宇宙の海に漕ぎ出した。

 『こちらハーキュリー2、今回が二度目の新人だ。よろしくたのむ』
 『――――、ん。よろしくたのむ』

 アロー・ヘッド12機の隊、ほぼ全員新人という部隊の隊長としてメイゼは任命され、気分が高揚しつつも、一つ気がかりなことがあった。
 それは、木星の衛星基地にて消息を絶った自分の恋人の存在だった。
 哨戒任務中の行方不明。ありがちなことだ。
 そんなことはしょっちゅうという訳ではないが、敵に襲撃されれば、通信が繋がらなくなるのは当たり前なのだから。
 しかし、どうにも不愉快なナニかが心にのしかかっている。文章化することはできないが、とにかく嫌な胸騒ぎがする。
 ただ、生存していないことは、なんとなく理解している。
 なにせ、SOS信号すら発信されていないのだから。
 でも―――

 『――全機、浅異層次元潜行開始』

 やらなくてはならないのだ。
 自分の両腕には、地球の生命全てがかかっているのだから。
 敗北はすなわち、人類の滅亡に繋がる。
 絶対零度の宇宙空間を飛行していた白い機体編隊が一瞬で掻き消えた。



 それからどれだけの時間が経過しただろうか―――浅異層次元潜行中のアローヘッド小隊「ベル」は、木星付近にて人為的に発生した次元の歪みにより通常次元へと浮上させられていた。
 AIからの警告。
 「次元バスター」の発動の前触れを検知。浅異層次元潜行強制解除。

 『全機、エンゲージ』

 各機が唐突に通常次元へと姿を現し、宇宙空間に編隊を組んで表れ、交戦命令と共に散開する。
 交戦を指示したメイゼは、自分も一気に速度を増して、その敵を見やる。
 超微細カメラによる画像拡大―――あれは。まさか。
 赤く塗装されたキャノピー。その上に黒い十字架が塗装されている。自分の趣味で機体に塗装するという、とんでもないことをして報告書を泣く泣く泣いていた彼女。
 十字架のアクセサリーを常に首にかけていた、「かつての」恋人のなれの果て。

 『リン』

 それは、自分の恋人である「リン」の搭乗機、量産型の傑作機、「サンダー・ストライク」だった。
 拡散波動砲を装備した、使いやすく整備しやすい機体。
 かつての優美な曲線を描くキャノピーの表面には血管が浮き出し、小さなスタビライザーは訳のわからない生体部品と化し、ミサイルの射出口は、呼吸するように常に蠢いている。
 そして、もはや肉の塊としか思えなくなった程侵食をうけたフォースが、その機体の前に接続されて、心臓が脈打つように動いている。
 手を振るように奇妙に動くのは、「元」コントロールロッドか。

 『――――リン!』

 アローヘッドに搭載された量子コンピューターが、様々な反応を検知。総合的に判断・処理した情報を、強化されたメイゼの脳に直接送信する。
 メイゼ、サイドスラスター作動。機体を素早く滑らせて回避をはかる。
 同時に、元サンダー・ストライクの元フォースから赤い閃光が走りぬけたかと思えば、先ほど自分の機体があった場所を貫通していた。直撃していたらただでは済まない。いくらフォースがあるからといっても、今のレーザーは、フォースを貫通していただろう。
 冷汗が噴き出る。
 AIに対して命令し、眼前の「敵」にサーチをかける。答えは直ぐに出てくる――「バイド係数異常値」。これは。
 レーダーに感あり。無理矢理思考を戦闘へと引き戻す。

 ≪警告。大量の兵器群を確認≫
 「わかってるよ、分かっている」

 どこからわき出たのか回転するリングを持った、赤く塗装された小型兵器が宇宙空間を埋めつくさんとばかりに現れる。
 轟、とでも音を立てそうな勢いで味方の発射した追尾ミサイルがそれを落としにかかる。
 分かっている。
 「汚染」されたら最後。「人間」ではなく「バイド」と化す。
 例外なんてあり得ないのだ。
 仮に帰還したとすれば、波動砲を備えたRの大歓迎を受ける。つまり、殲滅対象となる。
 空間をメイゼの機体、そして仲間達が駆ける。
 量産型とおぼしき兵器達が次々とその後を追いかけていく。
 スラスター作動。青い火炎が機体から噴き出し、しつこく追いかけてくる元サンダー・ストライクがシュートしてきた腐れフォースを危ういところで回避する。
 フォースに生えている触手がこちらをに手招きをしているように見えた。

 『――――メイ……ゼ、――――待って』
 『リン……』

 意識があるのか、それともバイドに操作されているのか、彼女の機体から通信が入る。
 メイゼ、しっかりしろ。あれは敵だ。バイド係数だって異常値を越える値が検出されたではないか。
 「敵」が腐れフォースを呼び戻して再接続。機体位置を微調整した。

 『悪い』

 波動砲チャージ開始。
 波動粒子が前方に凝縮され、前方の空間が歪み始めるが、すぐさま補正され、通常の視界へと修正された。
 機体の側面を量産兵器の、赤い弾丸が走り抜ける。
 後部ブースター作動。すぐさま超高速戦闘機動へ移行。一瞬でアローヘッドが体勢を変え、固まっている量産兵器へ円形を描く対空レーザーを叩き込む。

 『今、楽にしてやる』

 心を閉ざせ。希望を捨てろ。常に最悪のことを想定せよ。

 AIから被ロック警告。
 目玉型ミサイルがサンダーストライクのミサイル射出口から二発同時に放たれる。
 メイゼは、それを真正面からフォースで受け止め、対空レーザーを「彼女」の機体へと連射する。
 しかし、彼女はそれを発射寸前にサイドスラスターによって回避した。
 腕は衰えていないらしい。
 冷静と激情の間でメイゼは思考する。

 ≪スタンダート波動砲 MAXチャージ≫

 フォース分離、シュート。
 スタンダートフォースがアローヘッドから剥離し、彼女の機体を喰らわんとばかり、というか、食らうために襲いかかる。
 スラスターから青い火炎を吹き出して回避した彼女の機体に、メイゼは波動砲の発射トリガーを強く引いた。
 そう、回避は、きっと難しい距離まで彼は機体を接近させていたのだ。
 直後、ノイズだらけの通信。

 『メイゼ、ありがとう』

 それは人間としての最期の言葉なのか。
 人として殺してくれてありがとうということなのか。
 彼にそれを知る術は無い。
 ひょっとすると、彼女にも無いかもしれない。

 『リン、ごめんな。救ってやれなくて』

 青い波動砲弾が機体前方の固定用フィールドから解放されて射出、膨大な光の奔流が彼女の機体を包み込んだ。
 血管が走るキャノピーから順番に、彼女の機体が弾け飛び、跡形もなく爆散した。
 ―――さよなら、俺の愛した人。
 ―――そしてさよなら、ケダモノ、バイド。人類の敵。跡形もなく消えろ。
 メイゼは呟く。
 死体は死体でしかない。タンパク質とカルシウムの塊。
 お前のやった事は正しい、と。
 メイゼは、味方の機体を追いかける量産型兵器に向かって機首を向け、電磁投射砲を乱射し、それを破壊する。いつもどおりにやればいい。教えられた通りにやればよい。そう考えながらも、メイゼは泣いていた。
 声は出さない。でも、非情な現実に対して泣いていた。
 基地の仮眠所で、シリアスに、そして無言で交わした最後のキスを思い出した彼は、こみ上げてくる涙を拭おうともせずに、敵をフォースから発射されるレーザーで吹き飛ばすことで自分を誤魔化した。
 激しさに身を任せれば、きっと忘れられるだろうから。
 そしてそれが、きっと―――力になると思うから。

 「バイドを殺す、有効な攻撃の一つ。それは波動砲である」

 ――入隊マニュアルより。



 結論からいうと、メイゼはイラついていた。
 遅いのだ。
 あまりに遅い。
 一番遅いR戦闘機ですら、楽に音速を超えるというのに、この――不知火という人型兵器は、たかが700kmが限界だというのだ。
 繰り返し言うが、こんな鉄くずでよくまぁ戦える。
 R戦闘機なら本の数分ですむ補給をやたら時間をかけて行い、現在ナイトメア隊は、噴射装置が作動していないのに700km以上で「飛行」するメイゼの後ろをついて、長距離噴射で移動していた。

 『噴射ユニットを使っていないのですか?』
 『さぁなぁ』
 『ところでその球体兵器の名前はなんて?』
 『さぁなぁ』
 『あの光る爪のようなものは?』
 『さぁなぁ』

 そしてメイゼは、移動中は部隊からの質問攻めにあっていた。
 勿論、上の人間ならともかく、下の人間に答えるわけもいかず、メイゼは「さぁなぁ」の一点張りで返答していた。つまり、すっとぼけることにした。
 無駄な情報を与えてもしょうがない。
 知る必要のない情報は知らせず、教えない。
 と、AIからの警告が入る。

 ≪敵性因子との相対距離接近。注意してください≫

 『他の部隊が戦闘をしているようです。ハーキュリー1、救出に向かいましょう』

 キサラギの提案が聞こえる。メイゼは、通信越しにわかったと答える。
 できる限りBETEを殺そう。
 そうすれば、こちらの立場は大きく跳ね上がる。後の交渉の時のいいエサになる。
 万が一、この世界の人間が敵対した場合、それも殺そう。
 できる限り醜くなるように殺してしまおう。
 あの不知火とかいう機体は対して耐久性がなさそうだ。性能テストのため、装甲の厚そうなところを蜂の巣にしてやるのもいいかもしれない。それとも操縦席でもビームクローで突いてやるか。それで、片腕をむしって持ち帰って研究材料にするか。研究材料はあればあるほどいい。
 メイゼは、そう考えながらも、ヒュロスに「BETEを殺せ」と命じる。
 敵対しない限り、敵にはならないからだ。


 やっぱりあの機体もそうだが、操縦者も相当すごい。
 コールサイン「ナイトメア2」、ツインテールの少女、検非違使 あやの は、自然とそう思った。
 近くにいる戦車級を36mm機関砲で牽制しながら、あの機体が量産されればいいのに、なんて追加で思う。
 脚部ユニットを損傷し、片腕が無い味方の不知火をかばい、次のBETEに狙いを変更する。今は光線級に狙われる心配はない。
 何故か?
 それは、ハーキュリー1が、片っぱしから殺しまくったお陰だ。
 レーザーの射界を見抜き、発射までのタイムラグを思考して回避なんて普通は出来ない。
 さらに他のBETEを生きたまま盾にするなど、通常では考えつかない。
 考えついたとして、出来るわけではない。
 だいたい、BETEを持ち上げるなんて、あの戦術機は一体全体、どれだけの馬力を秘めているのか。怪力なんてレベルではない。
 加えてあの超高速の戦闘機動。
 一体何Gがかかっているのか、見当すら付かない。
 戦術機の宙返りなんて初めて見た。
 しかも、あれから一時間以上が経過しているというのに、武器の弾切れらしき兆候は一切なし。
 本人の疲労も見られない。
 反則。
 あやのは思わず呟く。
 でも今はそんなことを考えている暇はない。もうじき支援砲撃が始まると隊長は言っていた。その間にできる限り救出せねば。


 『キリがない。楽しいけど飽きた』

 あれから一時間。
 この世界において、殺したBETEの数は楽に千を超える。
 普通の衛士であれば、それこそエースに、部隊の戦果匹敵するという評価を受けるだろうが、彼にとってそんな些細なことはどうでもよかった。
 弱い。
 しかし死ね。
 バイドだったらもっと強いのに――と思いながら要撃級の尻尾をビームクローの薙ぎ払いで切り裂いて、その切り口にビームバルカン砲をブチこむ。
悲鳴が上がったような気がしたが、知ったことではない。
 むしろざまあ見ろ。
 さらに後部大型ブースター作動。
 ヒュロスの薄紫が糸をひくように霞む。
 一気にのそのそと歩いていた要塞級にヒュロスが飛びかかり、ものの一撃で頭部らしきモノを溶かし斬り、そのままビームクローで背中を一閃、血液らしき液体がヒュロスに降りかかる。
 勢いを殺さずにそのまま向こう側の地面へ着地。
 思考の一片を使用して敵の動作を一瞬で判別。高速演算開始。ミサイルロックオン。ファイア。
 6発のミサイルが、白煙を引いて音速を一瞬で突破。地面を走る小型のBETEの群れを一気に挽肉にさせた。
 背部に接続してビームサーベルを振っていたフォースを分離、シュート。
 後方にいた小型のBETEが、フォースの抱く黄色いエネルギーの塊に次々に蒸発させられる。
 だが、つまらなくても、徐々に疲労は溜まる。
 歩くという単純な動作を、何時間も続けたとしよう。
 どうなるか? 簡単だ。疲れる。
 自動で疲労物質は除去、無害化されるようにメイゼの体は「簡易」改造されているが、それでも筋肉や神経などの疲労は隠せない。
 人工筋肉や強化神経によってある程度は大丈夫だが、全てが人工ではないのだ。疲労する部位は必ずある。
 精神もその内の一つだ。
 キサラギからの通信。

 『ハーキュリー1、じきに支援砲撃がここに落ちる。BETEも撤退を始めている。そろそろ引き揚げるぞ』
 『分かった』

 ヒュロスが地上5メートル地点にて音もなくピタリと停止する。フォースがくるくる回りながらヒュロスの背後に接近、装着された。
 お駄賃頂戴とばかりに発射されるヒュロスの両腕のビームバルカン砲が、逃げていくBETEを後ろから穴だらけにしていく。
 救出出来たのは、数だけでいえば3つの部隊相等。
 もしもナイトメア隊がいかなかったら、BETEに文字通り喰われていたであろう。
 いや、訂正。
 メイゼが、だ。
 こうして、佐渡島の「BETE間引き作戦」は、多大な被害を追いながら幕を閉じた。

 そしてその日、どこから調達したのか、銀色の布を掛けられたふわふわ浮く謎の「巨大な箱」が複数の戦術機に付き添われて、新潟の基地に向かった。
 なんじゃありゃと首を傾げる人はモチロン大勢いたが、「新兵器かな」「浮くコンテナ?」程度の疑問を浮かべるだけで、特に考えもしなかった。
 もしも、その「中身」について知らされたら驚いたことだろう。
 それが宇宙空間を航行できるヨルムンガンド級輸送艦だと知らされたら、腰を抜かしたことだろう。
 それか、そんなの冗談だろ、と笑ったことだろう。当たり前だ。ただの輸送艦さえ、この世界ではオーバーテクノロジーの塊なのだから。



 あとがき。

 こんばんは? N式です。
 とりあえず戦闘終了ということで、ヨルムンガンド級輸送艦を新潟の基地へ移動させました。なぜ横浜基地の面々がここにいるのか、という点ですが、戦力の低下による――うんぬん、ということです。正直大して考えていませんでした。
 それと、R-TYPE FINALのエンディング曲を知っていたら、ニヤリとするような描写を入れておきました。サービスじゃないm(ry
 誤字脱字、矛盾に、おかしい表現などがあったら、報告ねがいます。では。
最終更新:2008年11月09日 21:17