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 シーナ=アッシェル技術担当員らは基本的に、ワーカーホリックである。
 というか、人類の未来がかかっている時に働きすぎもクソをあったものではなく、一日中整備や武装の換装作業をしていたため、自然とそうなったのだ。
 彼女は「04式突撃砲」もそうだが、「改悪」と名高い「量産型不知火」の「改良」を行い、さらに87式突撃砲を改良した。
 具体的に言うと、各部装甲の新型合金への置き換え(サクラ部隊のいた22世紀の地球では既に使い古された技術)、電子機器類の改良、OSの換装や、全体装甲の対レーザー耐性上昇加工、跳躍ユニットの軽量化・推進力増加などだ。
 一から作り直したわけではないので、新潟基地に存在する量産型不知火のほとんどが一カ月と少しの間に改良された。ただ、最も多い撃震は、各部の補強だけにとどまった。
 これらの作業の指揮などにシーナ達技術屋が奮闘した。
それでもケロリとしているとしているあたり、彼らのタフネスは侮りがたい。
 「間引き作戦」から一か月。
 新潟基地内の戦術機の主兵装はシーナが改良した「04式突撃砲」になった。
 04式は、従来より爆発力が20パーセント上昇した新型のガンパウダーの使用に耐えるために87式を改良した突撃砲であり、銃身が延長され、新たにレーザーポインターがつけられた戦術機専用の銃である。もちろん反動も20パーセント増しなので、重量バランスや各部改良が加えられている。
 レーザーポインターは、自分よりもむしろ周囲に「今ここを狙っている」ということをアピールし、どこにBETEの付け入る隙があるのかを味方に教える為ということで追加された。
 いつBETEが攻めてくるか分からないという恐怖が、新潟基地に勤務する人たちの体の疲労を無視した労働を行わせたのだ。過労で担ぎこまれる人もいたほどだ。
 人類は、確実に力を増しているのだ。
 では、BETEはどうか?
 佐渡島のハイヴにヴァジルカのミッドナイト・アイによる浅異層次元潜行状態からの精密スキャンを行ったところ、活動は相変わらず続いているということがわかった。
 驚異的な速度で増殖を続ける醜い生命。
それは、全てを破壊するまで停止しないといわれているバイドを思わせた。
それは、地球という生命を食い尽くすガン細胞のように思えた。


 BETEについて我々が知っていることは、あまりに少ない。
 しかし、初期の段階で我々と同じ生命であるということは分かっていた。

―論文「BETEは何故地球を狙うのか?」序文より―



「……ヒュロスに誰かを乗せろ、と?」

 毎度同じようにヨルムンガンド級輸送艦「サクラ」で行われる「会議」。
 その会議の場で香月夕呼横浜基地副司令官は、とんでもないことを言い始めた。
 なぜ香月か、というと。まず、信じてもらえないということがあげられる。存在しない部隊があったら、イの一番に拘束されることは明白。なら、「英雄」の力でそれをなんとかすればよい。ということなのだ。
 次元うんぬんの話を理解のある人物以外に話せば、この世界では完璧に変人扱いになる。
 メインデッキ。数人の付き添いをつれた香月と、副艦長を隣に待機させるハーン。

 「そう。なにもよこせなんて言ってないわよ。ただ性能が知りたいの。もちろんそれ相応のモノは支払うわ」
 「乗せて、操縦させる、ということですね?」
 「そうよ。基本の動作だけでも構わないわ」
 「ふーむ」

 艦長が問うと、香月は頷いた。艦長はしばし沈黙する。
 この地球からしたら余りにも高性能なスペックを誇る人型兵器。
 それがどの程度のものなのか知りたい、香月は言う。

 「妙な真似は出来ませんがね。まぁいいでしょう。それで? いつにします?」

 妙な真似。
 ここで艦長が言うのは、機械に何かしらの工作や、技術を対価なしで得ようとする行為のことだ。
 もちろんそんなことは出来っこない。この世界の電子機器の性能はR戦闘機の電子機器に遥かに及ばず。工作しようとすれば、逆に死人が出る。

 「じゃあ今日の昼で」

 ずいぶんあっさりと会議は終了した。



 R戦闘機のRとは、すなわち「ラウンド型キャノピー」のことである。
 そのR戦闘機でありながら、ラウンドキャノピーを採用していない種類の機体がある。
 ――R-9W系列。
 その系列の機体は何故か、直線を描く「試験管型」のキャノピーを採用している。
 数、質、ともにR戦闘機を苦しめるバイドに対抗するために、ほとんどの操縦者は強化手術を施されている。
 が、それでもたりないのだ。
 R戦闘機のあまりの性能ゆえに、「人間の体が追い付かない」という事態が発生している。
 かといってR戦闘機の性能に制限をかけたままでは、バイドを打倒することはできない。
 そこからチーム「R-TYPE」は、一つの結論を導き出した。
 それ即ち、「機体に制限をかけるのではなく、人体の方が耐えられるように改造して操縦させる」ということである。
 初期のワイズ・マンに乗った、強化レベルの低いテストパイロットは、その多くが過労死した。
 偵察機並みの情報の奔流を精神に直に接続して処理しつつ、リミッターが解除されて機動力が大幅に上昇した機体を駆り、ナノマシン波動砲の制御を行い、さらに味方との膨大な量の情報の受け渡しを行う。
 ワイズ・マン(R-9W系列)にメイゼ程度の強化(B+)を行ったパイロットが乗った場合、一日の作戦行動で精神と神経に致命的なダメージを負うということが判明した。
 それに登場するためには、「レベルA+」以上の強化が必要となる。
 なら「ラウンドキャノピー」でもいいではないかという事を思うだろう。
 違うのだ。その強化をしないと乗れない、というのが正しいのだ。
 何故、「試験管型」なのか? ここで最初の疑問へと戻ろう。
 それは、「疲労のあまり、自力で機体から降りることができなかった」からである。
 降りれないなら、降ろしてやればいい。
 そういう考え方から、脱着が楽な試験管型が採用された。
 人間とは単なるR戦闘機の一部品。
 そういった考え方が色濃くでたのが、R-9Wシリーズなのだ。
 さて、メイゼの搭乗機「ヒュロス」に強化を受けていない人物が乗った場合はどうなのか?
 それについては、まったくデータが無く、それだからこそ艦長は香月の提案を飲んだ。
 情報とは近代戦闘に置いて重要視される要素の一つ。
 だから、である。



 銃声。それに何かを指導するように声が重なる。

 「もうちょい腕に力を入れて、しっかり狙え」
 「はいっ」

 一定の弾を的に撃ち終わったリンは、銃を下ろし、メイゼを見る。メイゼは、ふんふんと頷いてみせると、今度は自分が耳あてをし、9mm拳銃を構える。
 ――数瞬の静寂。と、唐突に引き金が連続で引かれる。
 ――パパパパパパパン。
 強化筋肉が反動を完全に殺し、発射された全弾が人型の頭部に穴を開けた。リンが感嘆の声を漏らす。

 「……やっぱり凄い! なんで連射でそこまで正確なのですか?」
 「じきに分かるかもな」

 ここは射撃訓練場。
 R戦闘機と戦術機。共に人間が扱う銃を使用しない軍人であるが、ここ一か月の合崎リンと御鞍衣メイゼの「デート」の場所は、主にここであった。
 そもそも体のつくりが違うリンとメイゼでは記録に差が出るのは当たり前だが、流石に今の段階で「異世界から来た」と言うことは出来ず、「訓練だ」と誤魔化している。
 もう一度銃を撃とうと思ったメイゼに、ナノマシン経由で通信が入る。

 『メイゼか。これよりヒュロスにこの世界の誰かを乗せることが決まった。今すぐ演習場にこい』

 ハーン艦長だ。メイゼは銃からマガジンを引き抜くと、新しいのを押し込む。そして発音することなく通信を返した。

 『冗談だろ?』
 『……冗談で言うと思うのか?』
 『分かった。三分で行く』
 『ああそれと、ナイトメア隊の合崎リンを連れて来い』

 メイゼの眉間に皺が寄る。何でだ? 銃を構え、狙いをつける。

 『合崎リンがヒュロスに乗ることになった。ランダムで決定された』

 ――パパパパパパパン。
 銃を下ろしたメイゼは、真っ直ぐと的を見詰めるリンに視線を当てる。
 硝煙の臭いに顔をしかめていたリンが、少し頬を染めて首をかしげた。

 「え、あの、どうかしたんですか?」



 ここは演習場の入り口(ということになっている)。
 私、合崎リンは、戦術機についてそれなりに詳しいつもりだ。
 77式「撃震」のカタログデータや癖はもちろん、陽炎、そして自分が乗っている量産型不知火の詳細なデータや、使用されているOS、構造なども熟知している。
 しかし、演習場に静かに佇むこの「ヒュロス」という機体については、ものすごく高性能という他にデータが無く、知らない。
 初めて佐渡島の間引き作戦で見たときは戦術機と同じように二足歩行の形体をとっていたが、今はなんと、BETEに対しては自殺行為ともいえる「戦闘機」の形になっている。
 というかこれは戦闘機なのだろうか。航空機は航空力学的に有利である流線型でなくてはならないのに、この機体はそんなことお構い無しな形をしている。
 ひょっとすると人型が本命で、この戦闘機の形状になっているときは、場所を取らないようにという配慮なのだろうか。どうにもしっくりこない。
 そもそも変形する戦術機なんて、海神以外に知らない。
 白いヘルメットを被り、白衣をはためかせながら香月がやってきた。
 演習場入口の、基地の内部。薄紫色の機体を囲むようにツナギを着た男たちが作業をすすめ、傍らにメイゼとリンと香月が立っている。

 「じゃあ取りあえず乗せてあげて」
 「分かりました。合崎、こっちに来い」

 メイゼに手招きされたリンは、いつも着ている99式衛士強化装備の準備を整え、ヒュロスの前に立つ。瞬間、戦闘機としてはずんぐりと見えるヒュロスのラウンドキャノピーが恐ろしい速度で開閉した。
 戦術機と明らかに違うその操縦席を見たリンは、どう乗ればいいのか分からず沈黙した。
 椅子に近い戦術機と違い倒れこむようなタイプの操縦椅子はいい。その他理解できない電子機器関係はいい。問題は操縦桿だ。

 「操縦桿が無いんですけど……」
 「あるから問題ない。ま、とにかく座れよ」

 メイゼが手を貸してリンを操縦席へと誘う。体重が軽かったこともあり、リンはあっさりと席に座ることができた。

 ≪――認証。システムオールグリーン。……テストモード起動します。暫くお待ちください≫

 メイゼの体内から送信された情報がヒュロスのメインシステムに伝わり、テストモードが起動される。ヒュロスの主機関が目を覚まし、周囲に甲高い音を上げ始めた。熱機関と違って排気音が無く、単純な高音。
 結局運搬作業しか出番がなかった新潟基地の作業員が離れていく。
 その様子を香月は興味深そうに見つめている。

 ≪ナノマシン等の通信系統が確認出来ません。調整――完了。バイタルサイン正常――≫

 AIの声に続いて音もなく操縦席の両手を置くあたりのカバーがスライドし、操縦桿がせり出す。
 ためらいながらもそれをリンが握る。

 「じゃあいいか。こいつは戦術機じゃない。今はあんまり言えんが、R戦闘機っていうんだ。初めて乗ると色々戸惑うだろうが、がんばれ」
 「え」
 「じゃあキャノピーを……」
 「あの操縦方法はどうなんですか?」
 「大して変わらん」
 「分かりました」
 「GOOD」

 短く会話が終わる。
 メイゼが席から離れると、これまた素早くラウンドキャノピーが閉じた。
 さて、操縦席の方はというと。

 「え? え? え??」

 当然、リンが座っていた席や周辺の単純な、つまり速度などの情報表示モニター以外の一切合財が透きとおり、あたかも自分が空中に浮いているかのようになった。網膜投射方式なんてものじゃない。操縦席内部そのものが透明になる。
 本来なら脳内の電子機器および体内のナノマシンによって直接外の景色を見させるのだが、今回はそういった強化を行っていないリンの為に席を透過処理させた。
 各部のスラスターや、武装や周辺の情報などを表示しているモニターが、これまた操縦席内部の空間に「浮いて」いる。
 もう訳分かんない。
 リンは頭を抱えたくなった。
 こく一刻と変化するモニターに一通り目を通すと、基地の管制塔へ通信を入れる。入れ方が分からなかったが、ただ「基地へ通信」と言うだけで繋がった。こんな曖昧な表現でいいのか。

 「じゃあ……メイゼさんに通信」
 『おうどうした』
 「まさか無線機すら持ってないのに――え?」

 少し離れた所で腕を組んで立っているメイゼから通信が返される。驚愕の表情を浮かべるリン。今度はメイゼの口元に注目してみる。

 「どうやって通信を?」
 『それはまだ言えないな』
 「そう、ですか」

 まるですぐそばに居るみたいにクリアに聞こえる。それはいい。何故メイゼは口すら動かさずに「通信」出来ているのか。――分からない。
 どうやらこの機体には自分が知りえない高度なテクノロジーが使われているらしい。これも 「あの」香月横浜基地副司令官のプロデュースなのだろうか。ハイヴのモニュメントすら一発で粉々にする荷電粒子砲を装備した浮遊要塞「凄乃皇」の企画・担当したのも香月だという。
 やっぱりこの機体もそうなのだろうか。
 リンは、取りあえず機体を前進させることにした。

 「やっぱ凄いわねー」
 「あれでも制限付けたんですがね」

 制止した状態から目玉が飛び出るような速度まで加速した戦闘機型のヒュロスをみた香月は、風で揺れる白衣を押さえつけながら、実に能天気に感想を言った。
 性能に振り回されているらしく、リンの操縦はとんでもないことになっている。
 右へ左へ演習場の空をヒュロスの薄紫が飛びまわる。それはもはや戦闘機とは言えない。
 そもそも後ろに飛べるという段階で、香月のいる地球上に存在する兵器ではありえない。

 『ひゃあああああああああああああ!!』

 絶叫マシーンに乗っているような、そんな可愛い叫び声が体内通信を通してメイゼにだけ聞こえてくる。少しニヤニヤしているメイゼを、香月がじっとり湿った不審そうな眼で見る。メイゼは慌てて口元に力を入れ直した。

 「何笑ってんのよ。正直気持ち悪いわ」
 「いやちょっと。お次は人型にしてみましょうか?」
 「お願い」
 「了解、副司令官殿」
 「だからそれも気持ち悪いって何回言わせるの?」
 「へいへい了解」

 体内通信でAIに呼びかける。操縦しているのはリンだが、権限はメイゼが握っているのだ。AIから了解したとの返事が返ってくる。

 『きゃあああああーー!!!』

 一方のリンは、機体に振り回されていた。本人が止めようと思えば止まるというのに、一度興奮すると中々冷めないもので、結果として空に音速が奏でる不協和音が響くことになっている。
 そこに、容赦なく機体が変形し、刹那、人型の巨人へと姿を変える。
 空を見上げていた作業員からおお! という声が漏れる。

 『このッ!』

 興奮しつつも、というかパニックに陥りながらも流石は戦術機乗り。空中で減速、さっと体勢をととのえ、そのまま地面へと着地。地面を深く抉りながら停止する。
 それを見計らったように香月は、無線機の電源をいれ、そして語りかける。

『どう? この新型の機体は』

 正しくは新型ではない。
 異世界の「R」の血を引く機体なのだが、香月はこう言った。異世界の機体は、なんて聞ける訳ないからだ。
 答えは直ぐに返ってきた。

 『凄いです !まるで別世界の兵器です! これさえあればハイヴだって落とせます!』

 興奮冷めやらぬリンが、少しいつもより早口で香月に言った。別世界、という表現に僅かに顔を緊張させた香月は、静止している巨人の様子を双眼鏡で確認する。異常はないようだ。

 『別世界でなんであれ、とにかく、使いこなせそうなの?』
 『無理です。これで戦うのはちょっと……。景色が回りすぎて気持ち悪いです。それになんか妙な疲労感が……』

 戦術機が出せるのは精々700km前後で、しかもそれは「最高速度」であり、平均した速度となると大きく低下する。一方R戦闘機は大気圏内で音速を超える速度での戦闘機動を常識的に行う。
 いくらGがほとんど軽減された状況とは言え、気持ちが悪くなっても仕方がない。平素の数倍は早い判断が要求されるうえ、自分がいる現在地も平素の数倍早く変動する。
 そもそも戦術機のような人型ではなく戦闘機形態での操縦なのだから。
 第一、サイバーコネクターによるシンクロシニティなどが行われおらず、先ほどの動きですら本来の「R」の力ではない。

 『そう。じゃあ戻っていいわよ』
 『了解しました』

 香月はそう言うと、無線機の電源を落とす。そして、傍らで同じようにヒュロスを見つめていたメイゼにむかって口を開いた。

 「決めた。貴方達の世界のR戦闘機を真似て作る。うん、決めたわ」
 「……は?」
 「聞いてなかったの?」

 やれやれといった口調で香月は言うと、何を言っているんだ、という表情のメイゼに体を向ける。香月は僅かに口の端を上げてみせる。

 「メイゼ、すぐハーン艦長に連絡して。取引をしましょう」






 あとがき。

 さて、今回もサァいくか。(何
 名前こそ出ていませんが、「R計画」発足、みたいな感じですねw
 さて、人類側の兵器が(戦術機)などが強化され始めています。そのうちに「アレ」もこの世界の兵器に搭載したいな、なんて思っています。
 それにしても小説書くのは大変です。それでは。
 あ、矛盾とか誤字脱字とかの指摘お願いします。
最終更新:2009年01月24日 15:00