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 2004年 2月20日 午前 1時 13分
 偵察機ミッドナイト・アイ機内

 次元の海の中を、一機の白い機体が進む。
 早期警戒システムを備えた、大型の円盤のようなものを背負ったR戦闘機。
 人間ですら、BETEですら、この機体の位置を把握することは出来ない。何故なら、今ヴァジルカの搭乗するこの機体は、浅異層次元潜行の真っ最中なのだ。
 新潟基地のヨルムンガンド級輸送艦「サクラ」から出発したヴァジルカは、佐渡島ハイヴ付近を飛行していた。

 「反応増加、か。連中もそろそろ来るってか」

 生体反応の増加。元々はバイドの反応を計測するためのその機器は、BETEの数の増加を確かにとらえていた。レーザーから要塞まで、とんでもない数が産み出されている。
 その数、旅団規模。
ハイヴの内部は、エネルギー波の多重干渉によりスキャンが難しくなっている。
ヴァジルカは、その奇妙な形のモニュメントを舐めるように通過した。

「気色悪い」

 モニュメントは、いくつもの「結晶」のようなものから構成されている。どことなく手裏剣を思わせる形状の「結晶」が重なり合い、一つの山のようにそびえたっている。
 スキャンの結果、強度こそ十分だが構造的に、一か所を集中して狙われたら崩れるということがわかった。まぁ、大体の建築物にも言えることだが。
 ヴァジルカは、機首を大空へと向けた。そして、その機体は誰にも気がつかれることなく次元の海を飛び去って行った。
 ――そのヴァジルカの予想は的中することとなる。



 凄乃皇六型。
 それの「改良」作業は、「サクラ」の面々が来た時から既に始まっていた。
 元々二型と四型がオリジナルハイヴ攻略作戦で大破してしまい、その後継機として作られ始め、そのほとんどが完成、対BETE戦の切り札として期待されていた。荷電粒子砲でハイヴのモニュメントを一撃にて破壊するその力。しかしそれを凌ぐ兵器がある。
 すべてを超越した兵器。
 R戦闘機。
 それに搭載されている「波動砲」である。
 地形すら変えるその力は、凄乃皇のように巨大な機体を必要とせず、発射できる。
 「ラグナロックⅡ」という機体に搭載されている「ギガ波動砲(最終波動砲)」は、限界まで収束させれば、上級の対エネルギー装甲を一撃にて破り、大形のバイドを「消滅」させ、地形すら貫通する。
 それも、単機で。
 ――そして今。
 横浜にてその「巨人」は、波動砲の換装作業を行っていた。
 波動砲とは、「波動粒子」と呼ばれる高エネルギーを特定の力場の中で増幅、発射したい方向の力場を崩して解放するという、正確には「砲」ではない兵器である。
 よって、荷電粒子砲のように物理的な射出口が必要なく、R戦闘機にはそれがない。だが、長時間の照射や、射程を延ばすとなると物理的な「砲」で整流してやらないといけない。そうでもしないと、「暴発」してしまう危険性があるのだ。したら最後、その巨体ごと大きな太陽と化す。
 今「巨人」の荷電粒子砲は取り外され、代わりに大きな二つの無骨な「棒」がその位置から突き出ている。
 「整流」するため、そして高エネルギーを必要とする「力場」の安定のためのものだ。
 波動粒子を使用する「波動兵器」は、この世界の技術では到底理解の及ばない代物であった。
 そこをBETEのG元素と、「サクラ」の技術を掛け合わせることで、極めて短時間での波動砲の開発に成功したのだ。その代償として高い生産コストがかかってしまったが、それはやむをえないことだ。
 高いコストを払ったところで、惑星すら破壊する波動砲の威力には遥かに及ばない上に、このぐらいの高性能かつ巨大な兵器でないと発射できない。つまり、「ゲインズ」シリーズのように携行可能なサイズに小型化するのは、今この世界では不可能ということだ。
 凄乃皇六型が装備している、この世界での正式名称「波動粒子圧縮放出砲」の波動粒子濃度は、「R」の初期型のアロー・ヘッドが装備しているスタンダート波動砲と同じか、それ以下。
 それですら荷電粒子砲を超える威力というのだから、波動砲という武装の異常性がうかがえる。
 凄乃皇六型は、さらに装甲が厚くなり、安定性を増すためにフロート部下の方向には短く、横へ大きくなった。火力でも波動砲は勿論、多数の火器が追加され、ハリネズミのようになっている。そして波動砲発射時の異常過熱防止のための翼のような「冷却板」が後部から突き出しており、大きさはそれ程ではないが、それのお陰で地上に舞い降りた天使のような風格を醸し出している。
 そう、「圧倒的火力と防御力にてハイヴを制圧する」というコンセプトの元に改良されたのだ。結果として全長は150メートルにまで引き下げられた。何故なら、大きすぎると小回りが利かなくなるからである。
 その「巨人」の改良終了予定日は2月22日。
 はたしてその巨人は、人類の未来を切り開くことができるのか。
 今は何も知らぬと言った様子で、彼はただ眠る。



 2004年 2月23日 新潟基地 
 ヨルムンガンド級輸送艦 メインデッキ

 「………」
 「メイゼか。どうしたんだ?」

 一人黙々とパック式の携帯食料を口に吸い入れるメイゼ。手入れもしていないのにツヤのある肩までの髪が僅かに揺れる。
 メイゼは不機嫌そうに答える。あのナノマシンの稼働実験を兼ねた演習から暫く時間がたっているが、彼はまだ不機嫌なままであった。

 「なんでもねぇよ」
 「あれだろ? 合崎から話は聞いた」

 子供みたいな体のヴァジルカが、どっかりとメイゼの隣の椅子に座る。そしておもむろにタバコを口にくわえる。そしてどこから持ってきたのか、ライターに点火。タバコに火を灯した。
 こう見えてヴァジルカは大人なので、メイゼは口を挟むことなくパックからゼリーを吸っている。

 「連中のやり方か?」

 タバコの煙を肺に吸い込んで宙に吐き出し、メイゼに問う。メイゼは、食べ終わったパックをゴミ箱に投げ捨てる。

「ああ」

 あれから11日。
 メイゼは確かに協力はした。訓練にも付き合った。
 だが、どんなに声をかけられても事務的な受け答えをし、そこに感情は入れない。
 事情をリンから聞かされて知っているナイトメア隊の面々に対しては、口を開くことすらない。全て頷くか、もしくは手を振る程度で止めている。
 気に食わないのだ。だから、そういう対応にした。

 「まーいーけどよ。あんまり気張りすぎるなよ?」

 ヴァジルカはそう言うと、タバコを口に銜えて立ち上がる。紫煙が空間に香りを残す。
 その場には、ただ「サクラ」の主機関の稼働する音だけが響いている。
 だがその沈黙は、すぐに破られることになる。

 ≪緊急事態発生! BETEの接近を確認! 各員戦闘態勢!≫



 状況は、最悪とも最善とも言えない状態に陥っていた。
 佐渡島ハイヴから侵攻してきたBETEの群れは、待機していた防衛艦隊に対してレーザー攻撃を慣行。なんとか数十分持ちこたえた防衛艦隊だったが、あえなく撃沈。防衛網を突破したBETEは、新潟の海岸まで迫っていた。
 水際で警戒していた、撃震がほとんどを占める戦術機部隊および、不知火の部隊が応戦開始。
 遠距離から自走式ロケット砲部隊、そして戦車隊が支援を開始するも、5万という数に押されて徐々に前線が後退しつつあった。

 『こちらハーキュリー1 殲滅作業を開始する。エンゲージ』

 空に一陣の風が吹く。
 音速の5倍を超える速度で新潟の基地を飛び出した薄紫色の戦闘機は、この世界の常識を――つまり戦闘機は全て落とされるという常識を完全に無視して戦場に向かいつつあった。
 不可思議なオレンジ色の光を放つ球状兵器を機首に装備し、その機体の周りに小さな二つの赤い球状兵器を装備している。機首の方が「フォース」。機体周囲にあるのが「ビット」だ。
 ヒュロス、全スラスターを駆使して超高戦闘機動へ移行。その刹那、空に幾つもの光線が走る。回避成功。
 レーダーロックオン。ファイア。
 ヒュロスのミサイルユニットから6発のミサイルが同時に発射されるが、それらは全て空中で爆発する。光線級による迎撃だ。

 「いくぞゴミ共」

 ヒュロス、音速から一気に数百km域まで減速。変形。薄紫色の巨人が姿を現す。
 そしてその姿が一瞬で霞んだ。この世界では常識外での高速移動だ。

 「あそこか」

 海岸では、既に戦闘が始まっていた。
 必死に銃火を走らせる撃震と不知火達。それをあざ笑うかのようにBETEの群れが「壁」となって襲いかかる。
 管制ユニットにレーザーで大穴を開けられて倒れこんだ撃震を乗り越え、要撃級が近くにいた不知火に襲いかかる。必死に36mmを撃つ不知火だったが、強化された04式突撃砲でもその両腕を完全には貫くことができない。

 「死ね」

 轟音。
 上からヒュロスが着地し、その速度と重量で要撃級を挽肉にした。
 血が飛び散り、その薄紫色の大部分を赤色へと変える。
 両腕の先端から青い爪を展開すると、横から突っ込んできていた突撃級の体を面白いぐらいに綺麗に切り裂いた。
 フォースシュート。光を抱いたフォースが小型のBETEを「喰らい」尽くしていく。
 レーダーロックオン。ファイア。ミサイルが6発同時に真上に放たれる。
 それは、丁度波打ち際でレーザーを放とうとしていた複数の重光線級の目にとまり、全てが撃墜される。
 数は10前後か。メイゼが嗤う。
 次の発射まで時間がある。メイゼは、ヒュロスのビームバルカンを連射しながら後部大型バーニア作動。一瞬で肉薄すれば、一番近くにいた重光線級にビームクローを一振りしてその目を潰す。
 苦痛に身をうねらせる重光線級を、そのまま腕で殴って位置を変えて盾とする。BETEはお利口なことに、生きている味方を誤射することはない。その「盾」の横からビールバルカンを撃ちまくり、水際にいた重光線級を手当たりしだい殺しまくる。
 そして「盾」を斬り捨てれば、スラスターを作動させてそのまま後退。その空間を小さな光線級の閃光が四方八方から発射され、そして焼き尽くした。
波動砲をライトニング波動砲に切り替え。波動砲充填開始。波動粒子が増幅され始め、前方の 空間がゆがみ始める。
 もう味方の援護など必要ない。
 04式を撃ちまくる撃震など無視し、メイゼは駆ける。
 AIからの警告。光線級のレーザー発射時態勢時に観測されるいくつかの反応を検知。

 「当てて見せろゴミ野郎」

 サイドスラスター作動。
 蒼炎が吹き出し、その巨体を射線から遠ざける。砂浜の土が抉れる。
 次の瞬間、先ほど居た空間が白い光線で埋め尽くされた。丁度後ろにいた戦術機がレーザーの巻き添えを食らって大破、爆発。そして、ヒュロス前方のフィールドが解放される。

 「喰らえッ」

 ――ライトニング波動砲。
 敵性因子をサーチ、障害物に接触すると勝手に跳ね返って敵にもう一度当たりに行く、波動砲のバリエーションの一つ。
 鼓膜を破ってしまいそうな音と共に、海岸に雷が迸った。
 それは、海岸で戦術機に攻撃を仕掛けていた突撃級や要撃級、その他小型のBETEのかなりの数を一発で炭化させ、さらに地面や死体で反射。獲物に襲い掛かる猟犬のように飛びかかり、海水から次々湧き出てくるBETEを片っ端から殺しまくった。
 ヒュロスは背中から火を噴いて跳躍する。
 そして光線種を運搬してきていた要塞級の真上に乗る。
 数発のレーザーがヒュロスに襲い掛かるも、機体周囲のビットに受け止められてしまう。そう、このビットは防御に重点を置いているのだ。多少の損傷は関係ない。
 波動砲をスタンダード波動砲へ。
 チャージ完了前に撃つのはもったいない。なら、死ね。
 両腕の、片腕三本のビームクローが一本へ収束する。貫通特化形態、ビームランス。
 それを、身をよじる要塞級の体を貫通させる形で突き刺し、そして横に振り払った。
 硬さだけでこの兵器は止められない。
 結果、要塞級の体が中心から真横に切られることになった。
 それでもなお触手を振って抵抗しようとする要塞級に、メイゼは眉を歪める。
 気持ち悪い。なら死ね。
 収束して細く、そして長くなった青いソレをもう一度真上から突き刺し、そして横に振る。エネルギーの余波がつながっていた部分を壊し、要塞級が真っ二つに斬れ、前後がゆっくりと地面へ倒れこんだ。
 ビームランス解除。ビームクローへ移行。同時に、機体を地面へと着地させ、両サイドから突っ込んできていた要撃級の頭部らしき部分を斬り飛ばす。
 その腕を僅かに動かし、ビームバルカンで地上にいた鈍間な戦車級や闘士級を肉と骨の粉へと変える。
 機体をスラスターで滑らせて姿勢制御。

 ≪スタンダード波動砲Ⅱ マキシマムチャージ≫
 「よし」

 送信されてくる情報から、真横に要塞級が複数並んで立っているのを確認。
 バーニアで機体を海岸の横に向けさせる。地面でヒュロスに取りつこうとしていた戦車級が数体同時に跳ね飛ばされる。
 波動粒子解放。波動砲発射。蒼い光がヒュロスの前方で炸裂した。
 衝撃が海岸を動揺させる。暴虐的な威力を孕んだ青い波動砲弾がヒュロスから発射、不知火に触手を振っていた要塞級の横腹を食い破り、高エネルギーで吹き飛ばす。そして、その力を保持したまま、射線にいたもう一匹の要塞級の足以外全てを爆発、木端微塵にさせた。
 小型のBETEを喰らっていたフォースが戻ってきて、その背面に接続される。巨大な金色の刃がフォースのアームから出現し、手近にいた闘士級を「消滅」させる。そのフォースには衛星のように赤い光の球体が回転している。
 オーバードーズ。この状態での攻撃力は、数段跳ね上がる。ダイアモンドと同等の硬度であれ、そんなの意味をなさない。
 味方の04式のレーザーポインターは、遠慮しているのか彼の付近を照射しない。
 もっとも、その必要はない。
 今彼は、5万ものBETE相手に一人で戦線を維持させているのだから。



 ナイトメア隊は、メイゼが前線に行った、それから暫く後に到着した。
 当然だ。戦術機は音速を出すことは出来ないのだ。ましてやM5なんて出せるわけがないし、出したら最後、どうなるか分からない。
 ナイトメア隊隊長の富士キサラギは、取りあえずは前線より後ろからの狙撃を行うことにした。男子二人組に命令する。

 『支援狙撃を開始しろ!』
 『了解したゼ!』
 『お任せ下さい!』

 地味な茶色の量産型不知火改の二人が87式支援突撃砲を構え、狙撃を開始する。
 ナイトメア隊の周囲には地面が抉られた、無機質な地面が広がっている。BETEは侵攻のさい、建築物から植物まで、根こそぎ破壊していく。結果、こういった地面が現れるのだ。
 白夢と宗一の狙撃は極めて正確だ。遠距離から動き回る戦車級の頭部を正確に撃ち抜ける。
 キサラギは、断続的に発射される銃声を聞きながらレーダーに目を落とす。そして、常識外の戦闘機動で戦場をかける一機のソレを見つけた。本来ならレーダーには映らないが、便宜上映るようにデータリンクがなされている。常識的に考えたら、恐ろしいステルス性だ。

 「メイゼ……」

 ヒュロス。見たことがない外見を持つ戦術機。
 それに搭乗している衛士、御鞍衣メイゼ。
 キサラギは、04式突撃砲を構えて警戒している三人、そして狙撃砲を撃っている二人を見る。
 自分は――自分は、もしも軍の上部から「ナイトメア隊を殺せ」と言われたどうするのだろう。軍隊では、そういった命令もありうる。ましてやこんな状況下。どんな命令があっても可笑しくはない。
 駄目だ。撃てない。自分の仲間達を撃つことはできない。
 では、それが他の国の人間だったら?

 「何を言っているんだ、私は」

 今はそれを考えるべきではない。
 生きて帰れば、いくらでも出来るではないか。
 キサラギは、全システムが正常に作動していることを確認すると、レーダーをもう一度睨みつけた。そして04式突撃砲のレーザーポインターをONにする。

 『全員覚悟はいいか? これより前線に向かう!』
 『『『『『了解!』』』』』
 『全員、跳躍ユニット点火! 行くぞ!』

 六体の量産型不知火改の腰の跳躍ユニットに火が灯ったかと思えば、そのまま背面が火炎に包まれたと錯覚されるほどの勢いで噴射炎が吹き出し、ナイトメア隊が突撃し始めた。
 あっというまに700km領域に到達した六機は、各々の武器を構えながら血の臭い漂う戦場に突っ込んだ。レーザーポインターがうじゃうじゃといるBETEに向けられる。

 『撃てーーーーー!』

 従来より20%増しの銃弾が次々にBETEの外殻に襲い掛かり、そして屠っていく。
 いくらメイゼが強くても、食い残しは必ず発生する。BETEの群れは、海岸に達すると、メイゼに集まるように進み、その後基地へと向かうという進路をとっている。今ナイトメア隊が戦っているBETEは、全て一度メイゼ機に接近したことになる。
 これまた威力の向上した120mm滑空砲が、向かってくる突撃級の装甲を突破し、その速度を落とさせる。そこに赤い光が集まり、36mm弾が次々命中。沈黙させた。

 『今だっ! 行け理佳!』
 『了解! ナイトメア3、行くぞ!』

 両手に長刀をもった香舞園 理佳が噴射ユニットでBETEに突撃する。砂埃を巻き込みながら回転するように長刀を振り回し、次々に要撃級の体を切り刻んでいく。ステップを踏むように機体を操り、振られる腕や体当たりをかいくぐり、長刀を叩き込んで血祭りにあげる。
 瞬く間にBETEの「壁」に穴が出来上がる。そこに、ナイトメア隊は銃弾を雨あられと撃ちまくりながら飛び込んでいく。

 『この程度――!』

 正確な点射で04式を撃つあやのは、120mmを「穴」に数発ブチ込み、軽く跳躍。少し高くなった位置から銃弾の嵐をBETEにぶつけていく。そこに香舞園の剣踊が重なり、さらにリンの援護射撃で殺戮への道がさらに拡大していく。
 どれだけ時間が経過しただろうか。ナイトメア隊全員に通信が入る。

 『こちら新潟基地! BETEが引き返していきます!』
 『何? どういうことだ? 撤退か?』

 120mm滑空砲で接近してきていた小型のBETEを一気に数体吹き飛ばしたキサラギは、もう片方の04式で要撃級を釘付けし、無線に聞き返した。

 『違います! これは――ハーキュリー1に集まっている?! 繰り返します! 上陸してきているBETE、防衛線を突破したBETEも含めてハーキュリー1に向かっています!』
 『分かった!』

 ナイトメア隊の面々は、徐々に引いて行くBETEに追撃をかけるために不知火を進めた。
 ナイトメア4のリンは、胸に広がるもやもやを隠しきれなかった。それでも、04式の銃撃を止めることがない。そのもやもやを吹き飛ばそうとするかのように、銃口をずらして次の獲物にレーザーポインターを当てた。



 それは、嵐だった。
 たった一人で、しかも長時間耐久で前線のBETEを屠殺していく男。
 メイゼは、本日何度目かになる波動砲を、のしのし歩く要塞級にブチかまし、そして文字通り爆発させた。頑丈な10本の足があさっての方向に飛んでいく。

 「ああウザったい。楽しいのにウザい」

 レーダーロックオン。ミサイル6発が白煙の糸を引いて地面スレスレを高速で飛翔し、要撃級数体を一気に粉々にする。
 これでミサイルは品切れ。
 あとはビームバルカンか、近接兵器か、フォースか、波動砲のみ。
 メイゼは波動砲の充填を開始すると、そのまま「壁」に突貫した。
 死屍累々と積み上げられるBETEの死体死体死体死体死体―――。
 海岸はとうの昔に赤く染まり、硫黄のような刺激臭と硝煙の煙で充満している。
 時折思い出したかのようにメイゼのいる付近に支援砲撃が降り注ぎ、BETEにダメージを与え、生き残った戦術機が04式突撃砲や近接兵器でBETEに戦いを挑む。
 もしもメイゼがいなかったら、とうの昔に戦術機どころか基地そのものが陥落していただろう。
 防衛戦開始から既に2時間経過。それでもメイゼの体力は尽きていなかった。
 今前線に居るのは、実質メイゼ一人といってもよい。他の戦術機はすでに後退している。何故なら、BETEはメイゼばかり狙うからだ。他の戦術機よりも、メイゼのヒュロスを撃破したいらしい。
 そうはいくか。メイゼは高度を上げて、地面を見据える。

 「死ね」

 スタンダート波動砲Ⅱ解放。青い光が地面にぶつかったかと思うと、地面を深く抉りながら振動させ、大爆発。BETEの大小関係なくぶっ飛ばした。砕けた波動粒子が空間で踊る。
 着地と同時に波動砲をライトニング波動砲へと変更。突撃級にビームクローを振り、バーニア点火。ざしゅ、ざしゅ、と次々と青い爪を振り下ろしては跳躍し、を繰り返す。
 一撃離脱戦法。
 今までは止めを刺してから次の獲物に襲い掛かっていたが、メイゼは途中で戦法を変えた。こいつらはバイドではない。なら、バイド戦のセオリーに従う必要もない。

 デルタ・ウェポンを使ってしまおうか――。メイゼは考えた。
 しかし、このフォースに搭載されているのは、「空間連鎖湾曲」を行うデルタ・ウェポンであり、使ったら対策のなされていない戦術機も巻き添えを食らうことは目に見えている。
 それは許可されていない。なら出来ない。
 インターフェースを通じて命令。ビームサーベルフォース、攻撃モード変更。
 ――『紅蓮』。

 「よけてみろ、クソBETE」

 背中に装備したフォースのビームサーベルが赤い光を帯びる。ブン、と空気を切り裂いて赤き光の剣が振られると同時、赤い「斬撃」がビーム砲のように飛び出した。
 次々とBETEの壁に「着弾」する赤きビームは、要撃級の腕にすら亀裂を入れる。
 やたらと、それも無茶苦茶に振られているように見えて、全て彼が操っているのだ。後方はビームサーベルフォース。前方はビームバルカンとビームクロー。
 バーニアを点火してそれ程離れていない海上へ。機体が海面スレスレまで降下する。
 要塞級がのしのしと歩いて威嚇するように触手を振り回している。
 バーニアで機体が音速まで加速される。
 光線級を吐き出すと思われる要塞級の足を、横を通過するような感じでビームクローで片っ端から撫で斬った。数瞬後、切断面の色が高エネルギーの過熱で紅く変色し、要塞級の足の下半分が本来の位置からずれ、耐え切れなくなった要塞級が海へと倒れこんだ。海面が大きく揺れる。
 これも経験からだ。
 今までは本体を波動砲で粉々にするか、それともミサイルで吹っ飛ばすか、ビームクローで攻撃するか、ビームバルカンで蜂の巣か、だったのだが、足さえつぶせば立てなくなって、しかも盾に出来るということに気がついた。
 要は、動けなくさせればよい。
 地雷と一緒だ。
 死んでいない、しかも重傷者を増やせば、それだけ相手の負担は大きくなる。人間なら治療という負担。BETEなら、レーザーで誤射できなくなるという負担。そんでもって、戦闘が終わったあとで殺せばいい。
 だから片側の足を全部ビームクローで溶かし斬った。
 片側の5本だけでは立てないからだ。
 海面下にBETEがこちらを捕まえたいと主張するように集まってくる。当然、それより高く飛んでいる薄紫色の巨人を捕まえることはできない。光線種なら別だが。
 高性能な兵器の生産にはコストがかかるのと同じように、光線級の出現率は減ってきている。もっとも、出現したら殺すだけであるが。
 流石に光と競争することはできない。だが発射するときに、必ずしも決まった反応が検出されるため、避けようと思えばよけられる。

 「あぁ、そうか」

 一人頷くメイゼは、おもむろに機体を数メートル上昇させる。機体の真下を細いレーザーが通過する。片腕のビームバルカンが吠え、海中にいた光線級を蜂の巣にした。

 「海で使えばいいじゃねぇか」

 なんで気がつかなかったのだろう。
 デルタ・ウェポンが地上で使用できないなら、海で使えばいいじゃないか。幸いなことに、こいつらBETEは海を渡って永延と上陸し続けている。しかも、狙いは自分らしい。
 AIに安全装置の解除を命ずる。

 「デルタ・ウェポン、解除コード、■■■■■■■■■■■■―――入力」
 ≪認証。安全装置解除開始――確認≫
 「さあ―――異世界のお友達は、こいつにどんな感想を持つんだい?」

 ふざけた口調でデルタ・ウェポンを解放した。
 味方として認めた以外の存在全てを喰らい、自らの力とする兵器、「フォース」。純粋バイド体を培養、コントロールロッドで制御されている「敵」。それに蓄積された高エネルギーは、ヒュロスの前に装備されている地点から放出され、その力を発揮し始める。
 空間が歪み始め、光すら直進できなくなる。それは、明らかな敵意をもって連鎖的に反応を開始。十分の数秒後、耐えきれなくなった海水を構成する分子間接続が解除され、原子レベルまで崩壊、空気中に放出される。
 開始から一秒後。海面下で蠢いていたBETEの群れが一気に粉々に砕け散り、そして空間へと粉々の粒子となって四散していく。
 そしてフォース内部の余剰エネルギー全てが切れたとき、その空間に存在しているものはフォース自体とヒュロス、そしてビットだけとなった。
 消えた海水を補うために周囲から怒涛のごとく海水が集まってきて、一点で集合すれば、勢い高く真上にいたヒュロスを濡らす。
 それはまさに、「十戒」で海が割れ、その後元通りになった瞬間を思わせる。
 ――何せ海水そのものが消えたのだ。
 丁度デルタ・ウェポンの効果範囲外に体の半身があり、その範囲内に体があるというまたがった状況にいた要塞級が海に没した。その断面は、日本刀でトマトを斬ったかのように滑らかである。
 脆い。これがバイドなら抵抗するなり何なりしただろうに。
 通信が入る。どうやら新潟基地かららしい。通信を繋ぐと、緊迫した感情を隠そうともしない声が聞こえた。

 『ハーキュリー1、注意してください! BETEが貴方のところに集まって来ています!』
 『問題ない、と上に伝えろ』
 『ええっ?』
 『伝えろ』
 『わ、分かりました!』

 通信をきったメイゼは、レーダーの情報を脳内に通す。そうらしい。BETEの反応がヒュロスを取り囲んでいる。内陸に攻めていたBETEですらこちらに戻ってきている。
 ヒュロスのエネルギー反応を感知できる存在は、この世界に存在しない。それはBETEであれ、なんであれそうだ。
 最も、それは当然と言える。
 次元すら超える敵と戦ってきたのだから、必然的にステルス性能は引き上げられる。この世界にレーダーに映らない程度は当たり前なのだ。
 だが、さすがに殺しすぎたらしく、BETEも「これはいかん」と思ったらしい。
 さてと、メイゼは通信をとある人物へとつなぐ。香月だ。

 『香月副司令殿』
 『殿は止めて頂戴』
 『どうすればいい?』
 『どう、とはどういうこと?』

 AIから警告。
 視界にレーザー照射危険領域が色つきで表示される。その数、大小含めて20以上。ヒュロスのいる真下、海面下から空に向かって伸びている。
 コンマ一秒、スラスターを作動させ、安全な位置まで機体を滑り込ませる。同時、空に向かって光の刃が20本以上立ち上がった。海の中でもバンバン照射してきているのは、光線級と重光線級か。
 よく考えてみたら、ヒュロスは燃料が持つ限り宙に浮いていられる。
 レーザーさえ回避していれば、BETE共は接近することすらできないのだ。高速戦闘機動をとれて、しかも空を飛べるBETEは存在しない。
 これがバイドだったら、こうは行かない。しつこく接近してきてビームサーベル、や、追尾式の高エネルギー火器で攻撃してきただろう。

 『だから、こいつらどうする?』
 『そうね……BETEは貴方という魅力を見つけたみたいだし、味方に被害は出そうにないわね。じゃあ――できる限りの殲滅を』
 『後で請求書がエライことになっても泣くなよ』
 『ところでさっきの兵器は何? BETEが跡形もなく消えたみたいだけど?』
 『情報料くれれば教えてやらんこともない』
 『ケチね』
 『……通信終わり』

 さて、と。と呟くと、メイゼはその作業を続けることにした。
 それこそが自分の存在意義だと自分に言い聞かせながら。



 「あれは―――!」

 丁度海岸に到着したキサラギらナイトメア隊は、その光景を見ていた。
 海水すら消滅させる、その兵器の力。それは、資料で見たことがある「G弾」が炸裂した瞬間にも似ていた。
 全てのBETEがヒュロスに集まっていくにもかかわらず、それを推進装置すら使わないで宙に浮いた巨人は、片っぱしから殺していく。レーザーですら命中することはない。あれは、かの有名な「戦乙女」とは違う。
 あれこそまさに「戦神」だ。

 『隊長、どうしますか?』

 ナイトメア4の合崎リンが、近くで炭になっているBETEの死骸を蹴っ飛ばしながら通信してくる。
 どうしようもない。海に戦術機は入れるように作られていない。
 海に向かってヒュロスが飛び込み、次の瞬間海から飛び出してレーザーを回避。空間を数万度という光の束が貫くも、ヒュロスは止まらない。
 遅れてBETEの血液らしき液体が海を染める。

 『我々が手出ししたところで、何の意味もなさないのでは?』
 『俺もそう思うゼ。それよかそこらで半殺しにされてるBETEヤッた方がよくね?』

 面々が周囲を見渡すと、レーザーを発射するための眼球を潰され、両脚を切断されてみの虫状態の光線種。脚がなくて立てない要塞級。上から圧力をかけられて原形をとどめていないのに痙攣している戦車級など、戦闘能力を殆ど奪われたBETEが転がっている。
 もちろん死体もあるが、普通の戦場ではあまりお目にかかれない状況が広がっている。
 何故とどめを刺さないのだろう。
 疑問を浮かべつつキサラギは、みの虫状態の重光線級に04式突撃砲を連射した。半殺しでは駄目だからだ。完全に息の根を止めなくては、意味がない。

 『これはきっと、効率よく戦場を構築するためにそうしているんだと思う』
 『あやの? どういうことだ?』
 『どういうことですか?』

 キサラギとリンが同時に声をあげる。
 同じように無力化された要塞級の脚の断面に04式を乱射して「始末」していた検非違使あやのは、冷静な声を崩さずナイトメア隊の面々に無線で言う。

 『BETEはその性質上生きている仲間にレーザーは照射しない。それに、数を捌くためにはこうしたほうがいい』
 『じゃあアイツはそれを承知していて、わざと力を加減したってのか?』

 小型のBETEを長刀で始末していた香舞園が、呆れたように言った。
 BETEは数で襲ってくれば相当な脅威となるが、ここにいるのは半数が半殺し状態で、死体となっているのも少なくない。これなら、少し攻撃するだけで十分殺せる。
 動けない上に少ないBETEなど、戦術機の前ではただの的にすぎない。
 答えを返すためにあやのは首を振った。ツインテールが揺れる。

 『違う。あのヒュロスって戦術機なら、加減しないで、ちょっと攻撃を加えるだけで半殺しにできる。それで、BETEが攻撃を仕掛けにくくしているんだと思う』
 『ヒュー、私たちも舐められたもんだな。遊撃隊が戦場の後始末なんて冗談じゃねー』

 香舞園の不知火のモノアイが、今も海上にて戦闘を繰り広げているヒュロスの方向を向く。あれから既に数時間が経過しているはずだが、その機動が乱れている様子はない。
 時折レーザーが照射されるも、後ろに目でもついてんのか、という機動をとるヒュロスに命中することはない。
 球状兵器が射出されると、それは海へ一直線に落ちていく。

 『遠距離から支援、そうするか。ナイトメア5、6狙撃による支援開始』
 『了解しました』
 『了解したゼ』

 新潟基地防衛戦は、さほど被害を出すことなく、終結に向かいつつあった。





 あとがき。

 R戦闘機が好きすぎて、ついBETEを虐殺しちゃったんだ☆
 はいどーも、N式です。今回はデルタ・ウェポンを使用してみました。
 このままいくと主人公TEEEEEEEE展開になってしまいますね、一体どうしたらいいんでしょうか?(何
 ちなみに今までで最長です。
 無計画に書いた結果がこれかよ! と自分を恥じております。
 矛盾点や誤字脱字などの報告お願いします。それでは。
最終更新:2009年01月24日 15:01