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 対バイド戦における、もっとも有効な攻撃。
 それはバイドをもってバイドを制することである。

 ――国際バイド研究所所長の年頭挨拶より――



 大形のレドーム状の機構を機体上部に備えた白い偵察機が、後部ブーストに火炎を宿して宇宙を飛んでいる。
 強行偵察――すなわち、気がつかれようが構わず敵性因子を分析する、という任務を終えた機体のパイロットは、この空間を完全に掌握している「それ」に機首を向けた。
 地球軍の保有兵器でも、「それ」は格段に大きい。
 もともと戦艦として建造された「それ」は、今現在は「基地」として空間に存在している。偵察機のパイロットの眼に、「それ」の横に一隻の戦艦が浮かんでいるのが見えた。
 戦艦が小さく見えてしまうほど、「それ」は大きい。
 自動誘導モードに入った。偵察機のパイロットは、出迎えに来た黒いアロー・ヘッドに通信を取るべくナノマシン経由でAIに連絡し始めた。

 その空間の支配者である電子機器群は、己のなすべき作業を続けていた。
 バイド。その殲滅を行うには、人間は余りに弱すぎる。
 かと言って、全ての兵器を電子機器による完全独立にさせるわけにはいかない。何故なら、バイドは機械にすら侵食するからだ。さらには、自らの力で人類の作り上げる電子機器類と同格の電子機器を作れるのだ。
 万が一、艦隊の中枢を担う宇宙戦艦のメインコンピュータが電子戦で制圧された場合、それすなわち滅びに繋がる。だから地球軍には、完全なる無人兵器は存在しない。あるのは、ヒトという弱い存在を補助するだけの電子機器。
 その電子機器群を構成する多層型量子コンピュターになだれ込む情報量が高まり、電圧が急上昇し始める。そして、各機器を通して処理された情報を外へと出力し始めた。

 ≪作戦名Last Dance 1333部隊の所在を明らかにせよ≫

 すると、他の部隊の中枢である「ヨトゥンヘイム級宇宙戦艦」のうちの一つ。その内部のAIが受け答えをした。「それ」の横に浮かんでいる戦艦は、動かない。

 ≪検索中―――エラー。大破したものと思われるが、その形跡は見られず。消失点、座標ZKH29378477578地点にて次元の不安定な流れを検知。次元跳躍空間の作動は検出されず≫
 ≪こちらα、試験体識別コード「M」の生死に関する情報を送信せよ≫
 ≪不明。本艦に搭載されている機器での詳細な捜索は不可能。他部隊の応援が必要である。「M」は死亡している可能性高しと計算する≫
 ≪消失点ZKH29378477578地点の調査を実行せよ。これは優先順位Bの任務である。調査にあたっては、レベルBの権限を与える。≫
 ≪それはA級指示者の命令であるか答えよ≫
 ≪肯定≫
 ≪了解。指示を確認した。現在時刻より行動を開始する≫

 αと呼ばれる電子機器群が沈黙する。だがそれもほんの一秒。次なる作業へと移り始めた。 「それ」に接続されていた旧式の戦艦は、ゆっくりとした動作で補給を続ける。
 αの乗る、その余りに大きな影。全長30kmを優に超えるその姿。禍々しいまでの存在感を持つソレは黒色に塗装され、地獄に存在するという、一人の少女が管理する城を思わせる。
 神話の世界であれば、ノアの箱舟を思わせる大きさを持つその「戦艦」は、後部ブースターから光を放出しながら宇宙の闇に消えていく。
 刺々しい各部の安定装置。全長数kmにもおよぶ、「大きな翼」。数百mを超す巨大な可動式砲門。大型ミサイル砲。そして惑星すら破壊する艦首波動砲。
 その名を、「エリューズニル級超弩級次元航行戦艦」といった。



 「英雄」と呼ばれるようになって、メイゼは大きく変わった。
 それは、誰に対しても口を開かなくなったということである。
 サクラ部隊であれ、この世界の国連軍であれ、一般の兵であれ、とにかく発音ということをしない。あるとすれば、頷く程度になった。
 そして誰もいないときは、それこそ銅像より身動きをせずにぼーっとしている。
 部屋に人が訪ねてきたとき、彼はなんのリアクションもとらず、椅子に座って虚空を眺めていたという。
 訓練。
 R戦闘機ではなくて戦術機での訓練。その事を告げられた時ですら、ただ頷いただけだった。それが、ナイトメア隊とたった一人で戦う、ということであっても、表情一つ変えなかった。

 「…………」

 といっても、メイゼは必要最低限のことはやる。
 食事や、睡眠などは自分の意思をもって行う。ただそれは生命の維持を目的とした動作であり、楽しみは入っていない。
 彼にとって、生命維持は本能がさせるからするまでのこと。
 食べたいから食べ、眠たくなるから眠る。それ以外は、特に必要ない。ただ、「これをやれ」と言われれば、断らずに淡々と従う。

 「…………」

 量産型不知火改の操縦席で一人沈黙しているメイゼ。無線越しに訓練内容を告げられている最中だが、彼は無反応に近い。表情は皆無。呼吸音以外は立てようともしない。
 心臓の音が機内に響いてしまいそうなほど、静かなメイゼ。

 『じゃあ分かった? 今から向こう側からナイトメア隊が来るから、好きなようにやりなさい』

 と、香月が説明を締めくくる。メイゼは頷くと、無線を切った。
 R戦闘機とは違う戦術機であったが、適性検査の結果は極めて良好。さっそく乗り込んで動かしてみたところ、そんじょそこらの衛士とは違う動きをしてみせた。三次元戦闘もなんなくこなして見せた。
 現在の武装は04式二丁と、長刀二本。長刀は背中にマウントされている。
 武装の状態は極めて良好。メイゼは、04式を構えたまま水平跳躍を開始。背面部の跳躍ユニットが高温の噴射炎を激しく吐き出し始める。
 そして、どんどん上がる速度を完全に無視したかのようにナイトメア隊へと突っ込んでいく。迎え撃つはずが、こちらから攻めていることに本人は気がついた様子はない。
 レーダーに表示されているのはナイトメア隊の数機だけ。残りは、演習場に無数にあるビルや廃屋の陰に隠れているのだろうか。
 みるみるうちに距離が狭まる。

 「―――!」

 メイゼ機の跳躍ユニットの火炎がベクトルを変更。同時に量産型不知火改の巨体が廃屋の陰へと滑りこんだ。
 直後銃声。
 遠距離から放たれた二発のペイント弾が、先ほど居た空間を刺し穿った。
 メイゼは機体を僅かに全身させて廃屋の陰から04式突撃砲を乱射する。
 それに応えるようにペイント弾の弾幕がメイゼのいる廃屋に殺到した。釘づけにされている。それでも、メイゼは慌てない。慌てる必要などない。
 全力で跳躍ユニットへと推進剤を叩き込む。過剰ともいえる量の推進剤が爆発し、量産型不知火改の機体を持ち上げて、廃屋を乗り越えさせた。直後、二発の遠距離狙撃が迫る。

 「―――」

 だがそれよりも早く二丁の04式が発射されていた。
 そして、二発の狙撃弾のうち、弾道が外に向かっている一発を回避、そして確実に命中するであろう一発を「迎撃」した。塗料が空中ではじける。音速を超える速度の物体を人間が迎撃するなど、通常ではありえない。問題は、彼が通常の人間ではないということだ。
 強化された頭脳によるコンピュータ並みの並列思考。発射された方向から位置を割りだし、来るであろう1000の弾道から最適な「迎撃点」を割り出して二丁の04式で弾幕を張って撃ち落とす。

 「―――、――」

 急激な負担がかかった所為か、メイゼの顔が少し歪められた。強化されているとはいえ、所詮は人間。限界がある。
 メイゼ機が着地。04式を乱射しながらビルに身を隠す。刹那、ナイトメア隊の形成する弾幕がビルの側面を赤色に染めた。正確性では十分。いくらメイゼが優秀とはいえ、機体の制限がある。
 跳躍開始、むしろ飛行開始。Rと比べたら随分遅い速度で機体が高度を上げていく。そして機体がビルの上から姿を現した。それを待っていたナイトメア隊の各種火器が猛然とした勢いでメイゼ機に襲いかかる。
だがそれは命中しない。

 「――ッ」

 メイゼは、跳躍ユニットで宙に浮かびながら、ビルを「蹴った」。
 上にしか噴射していないときに横への力がかかった所為で、メイゼ機は体勢を大きく崩す羽目になった。が、もう一回ビルの一か所を蹴っ飛ばして体勢を整えて地面へと滑り下りる。滑りながらも04式が咆哮を上げる。
 狙いは正確ではないが、それでも演習場に展開しているナイトメア隊の銃撃を一時中断させることに成功。
 その間、跳躍ユニットは噴射しっぱなし。
 04式を乱射しながらメイゼ機が行動を起こす。地面をスキップするかのようなお手軽さで自らも脚部で跳躍。着地先はビルの壁面。さらに横方方向へと跳躍。
 ナイトメア隊の面々のペイント弾が掠めるも、自由自在に動き回るメイゼ機を捉えるに至らない。メイゼ機の二丁の04式突撃砲の射線が、今度は一機に狙いをつける。
 距離が詰まっていただけあって、一機の量産型不知火改が大量に被弾し、その巨体が紅に染まった。

 ≪検非違使機 致命的損傷≫

 流石はナイトメア隊と言うべきか。被弾しつつも水平跳躍で射線から逃れ、大破を防いだ。だが、致命的損傷での戦闘続行は不可能だ。戦闘機ならベイルアウトすべきレベルなのだから。
 もっとも今の彼なら、脱出した人間も敵とみなして04式を発射するであろう。ペイント弾とはいえ、36mm弾。人間相手なら対戦車ライフルと同じ衝撃が発生する。塗料の他に血液が地面を染めることになる。

 「…………」

 跳躍ユニットの推進剤を使い過ぎたらしい。当たり前だ。機体を空中で浮かばせ続けた所為だ。この調子で噴射を続けた場合、脚だけで移動する羽目になってしまう。だから、メイゼは跳躍ユニットを停止させた。
 メイゼ機が駆け出した。もう計算もあったものではなく、ただナイトメア隊のいる辺りへと前進を続ける。
 思ったとおり、陰に隠れた白夢と宗一の狙撃による大歓迎があった。派手にペイント弾が発射される。
 ナイトメア隊で戦闘を続行出来るのはあと5人。つまり、5つの射線に晒されることになる。

 「―――――――」

 メイゼの肩までの髪が亡霊のように揺れる。
 否、そうではない。メイゼ機が横に動いたために髪の毛も動いたのだ。
 傍らのビルの壁面を拳で破壊して「手すり」を作り、高速でビルの後ろへと滑りこみ、水平方向へと跳躍ユニットを吹かして機体を加速させる。

 「―――」

 強烈なGがメイゼの体へと負荷をかけるも、苦しそうな顔はしない。メイゼ機はビルの背面を滑って移動し、04式の弾丸を適当にばら撒き、廃工場らしき建築物の陰に身を隠す。

 ≪香舞園機 小破≫

 ふいをついた所為か、香舞園の機体が数発貰ってしまったようだ。
 徐々にナイトメア隊の戦力が低下していく。そうなれば、あとは積極攻勢にでるしかない。攻撃してこないなら、時間をかけて徐々に削っていけばよい。
 さぁどう出るか。
 レーダーに表示されている光点が行動を開始した。そう、攻撃に打って出ようとしているらしい。

 「…………」

 この状況で戦闘狂なら嗤っただろう。この状況で素人なら焦っただろう。この状況で帝国軍人なら撃破覚悟で特攻していただろう。では、メイゼは?

 「…………」

 どこまでも冷めた双眸に宿るのは色を失った眼光。鉄の仮面を被ったかのような無表情。それを装飾するのは肩までの美しき髪。
 その両目は、モニターに映る情報を処理するために動きまわり、その頭脳は撃破のためだけに動作する。
 ――そう、それは人形。
 ナイフを握らせられた人形。
 人形は感じることがない。思うことがない。考える必要がない。
 故に、その思考は虚構で満たされている。
 その人形を乗せた鉄の巨人は、行動を開始した。



 またこれか。キサラギは、頭痛がしてきた頭を振った。
 メイゼの能力は異常だ。
 人間を止めたというのもあながち嘘ではないようにも思えてきた。
 オリジナルハイヴ攻略作戦の時に突入した衛士も、このぐらいだったのだろうか。否、そんな生ぬるいものではない。恐らくは現在――「最強」の称号を持つに相応しい男だ。ひょっとすると一人でBETEの群れを全て殺せるかもしれない。
 幾戦もの戦場を超えてきたナイトメア隊の隊長、キサラギ。彼女だからこそ言える。彼は最強だと。
 検非違使機は戦闘続行不可能。切り込み隊長の香舞園機は小破していて、戦闘能力が低下している。だが――

 「舐めるな」

 戦うための力は、まだ残っている。全滅したわけでもないのに、諦めるなんていうのは軍人失格でしかない。腕が一本でも動くなら、銃なり剣なりを使って敵を排除しなくてはならない。
 04式突撃砲の弾数は十分。長刀も未使用。各部好調。

 『隊長、このままじゃダメだろ。アタシが行くから後方援護ってのは?』
 『香舞園――今のお前の機体は小破していることになっている。無理だ』

 04式を捨てて長刀を引き抜こうとしていた香舞園は、キサラギに止められて、改めて04式を持ち直した。今、椎名と宵崎が狙撃砲でメイゼを防いでいるが、それも時間の問題。このままではやがて全滅することは必至。

 『当たれっ!』
 『絶妙です。障害物をうまく利用している』

 銃声が断続的に響いている。狙撃砲は、その特性上連射が効かない。
 一撃必殺がその目的のはずだが、今はひたすら撃つだけになっている。
 ひらりひらりと射線から外れ、一発たりともその機体には当たらない。

 「全員、聞け。全面攻勢に出るぞ」

 椎名と宵崎を除いた――つまり戦闘可能な全機、跳躍ユニット点火。それに反応したか、メイゼの動きが少し速くなる。ビルとビルの間を行ったり来たり、ランダムな動作を混ぜて04式で牽制。正確な狙撃を許さない。


 『ナイトメア3、―――行くぞッ!』
 『援護します!』

 一人、香舞園が飛び出した。04式を撃ちまくりながらメイゼ機へと距離を詰めんとする。それを合崎がビルから大きく乗り出して援護射撃。追いついたナイトメア隊の面々も一斉に各々の武器で弾幕を形成する。

 「―――」

 対するメイゼは、跳躍ユニットを使わず、その全てをビルに隠れることで凌いだ。
 ドスン、と音が頭上から響く。レーダーに感あり、香舞園か。

 『必殺―――!』

 真上に目を向けたメイゼの網膜越しに光が爆発した。
 香舞園機の両手にある04式の滑空砲から大口径かつ大威力の砲弾が発射されたのだ。食らえば戦闘不能は必至。だが、香舞園の動きが良いのと同じように、メイゼの動きも良かった。
 跳躍ユニットが自然な動作で目を覚ました。
 火炎噴出。

 『ぐッ!』

 ビルの壁面にある、巨人からしたらとても小さな構造、みぞに足をかけて真上に跳躍。滑空砲弾を距離を詰めることで危うく回避。すぐ横を滑空砲弾が通過し、地面を汚した。
 メイゼ、跳躍ユニットの出力を設計限界値まで上昇。爆発的な火炎が背面部を覆い隠し、地面に生えている木々を薙ぎ倒した。そのメイゼ機の両手が、香舞園の腕の付け根をむんずと捕まえる。
 ケチらずに全開で噴射剤を注ぎ込んだ成果が発揮される。そう、メイゼ機が、香舞園を持ち上げたのだ。
 本来その巨体を跳躍させ、三次元戦闘を可能とさせるためにある「跳躍ユニット」は、近年その力を増している。跳躍というより、「バーニア」とでも言った方が正しい。
 それを全力で点火させることは、余り無い。というか殆どない。
 何故か? それは戦闘機と同じだ。アフターバーナーの状態では、平素よりもずっと燃料の減りが早くなる。戦場での燃料切れは死を意味する。燃料のない跳躍ユニットなど、たんなるお荷物でしかない。
 だがそれだけでは戦術機を持ち上げるには至らない。戦術機は余りに大きすぎたのだ。だから、彼は香舞園が突っ込んできた段階で両手の04式突撃砲を捨てていた。

 『あああああっ!』
 『香舞園!』

 追いついたナイトメア隊のキサラギが叫んだときは時すでに遅し。両腕の付け根を掴まれた香舞園機が、メイゼ機に浮かばせられ、そしてそのまま加速度的に向こう側へと滑るように落ちていく。真下ではない。斜め方向へとだ。
 香舞園機の両手に持った銃が明後日の方向へと放たれ、弾丸が無駄に消費される。
 余りに近かった、というのと、メイゼに銃口を逸らされていたからという為である。

 『狙いが……』
 『撃てねぇ……』

 とっさに狙撃砲を構える椎名と宵崎だったが、流石に味方がいる状況下では撃つことが出来ない。誤射など、あってはならないのだ。
 ナイトメア隊が跳躍ユニットを使い、その二人のことを追跡し始めた。


 衝撃が香舞園機を揺らした。
 地面に倒れている香舞園機を見下ろすような恰好で仁王立ちしているメイゼ機の、担架システムが作動し、長刀が振り上げられる。そして、その速度を殺さずに長刀が香舞園機に振り下ろされた。

 『――このォォォ!!』

 香舞園が04式のペイント弾を長刀へと走らせる。長刀が瞬く間にペイント弾の赤色に染まるも、その速度は戦術機の剛腕によって停止させられないで落とされた。場所、管制ユニット。

 ≪香舞園機 大破 戦闘不能≫
 『……クソッ』

 メイゼは、使えなくなった長刀をその辺の地面に投げ捨てると、もう片方の長刀を肩部担架システムから片手に呼び寄せる。
 04式は捨てた。さっきの長刀は破壊されたことになっている。そうなると、今メイゼが使用できるのは長刀一本のみとなる。
 倒すべき「敵」はあと4人。長刀一本では不足なはず。
 レーダーを確認すると、先ほど捨てた04式の付近に残りのナイトメア隊が固まっているのが分かる。拾わせないつもりらしい。

 「―――」

 しかし彼は慌てない。武器さえあればよいのだ。
 ―――たとえそれがナイフであれ、なんであれ。

 『まさか香舞園が――全員、油断するな』
 『『『了解』』』

 狙撃手二人に、オールラウンダー二人。遠距離用の武器は持っていない。香舞園の武器を使用することは出来ない。――ならば、接近戦闘のみ。メイゼはレーダーを見据えると、長刀を中段に構えて跳躍ユニットを短時間だけ点火して駆けだした。
 跳躍ユニットの噴射剤は既に底を尽きかけている。迂闊には使えない。
 レーダーに4人の姿が確認できる。このまま駆け続ければやがて遭遇する。

 『撃て!!』

 狙撃手の椎名と宵崎の二人の射撃が始まった。高速の弾丸がメイゼを貫かんとするが、事前に予想していたメイゼは何なくかわしてみせる。発射されてからの回避が不可能なら、発射前に回避すればよい。命中しなければいかなる兵器もそよ風にしかならない。

 『行きますメイゼさま!』
 『行くぞメイゼ!』
 『…………』

 長刀を右手に持ち替える。左腕の一部が開閉し、戦術機用のナイフが飛び出し、メイゼ機がそれを握り締める。そして数回振ってみせる。銃無しでの対戦術機戦闘。それは自殺行為でしかないのだが―――

 『…………』

 諦める必要はない。本当の地獄は、もう通ってきたのだから。
 普段の彼ならそういう風な思考をしたであろう。否、たいていのR乗りはそういうふうな思考をする。ただ、今の彼は無感情を極めている故に考えるということすらしない。
 それは反応に近い。燃焼が起これば二酸化炭素が出るのと同じ。水面に光が直進すれば、屈折するのとほぼ同意義。
 その数十分後、単機で一部隊を全滅させたという伝説を作り上げることになったというのは、さほど想像するに難しくない。



 ここはブリーフィングルーム。
 そこにいるチーム、ナイトメア隊は、激しく自信を喪失していた。
 当然だ。たった一人に隊そのものが全滅させられるなど、本来あってはならないものだったのだ。だが、メイゼという男はその常識を完全に粉砕して見せた。
 数十年間もの間戦術機に乗って戦場を駆らなければ、あのように熟練した動作を行うことは出来ない。音速にまで到達している弾丸を回避するなど、もはや人間ではない。
 しばらく戦ううちに、発射されるであろう方向を事前に計算しているということが分かった。ナイトメアのメンバーに同じことが出来るかどうか、と言ったら、答えは「NO」と返ってきた。
 そもそも光線種のレーゼーを回避しまくっていたのだから、弾丸はウォーミングアップ程度でしかないのか。
 その戦力は一騎当千。軍隊の一角を一人で担える。
 これほどの男がなぜ日本にいるのか。そもそも彼は何者なのか。ナイトメアのメンバーは、ブリーフィングルームでひたすらに思考の海に沈んでいた。もっとも、それは敗北してしまったショックによるものなのであるが。

 「…………」

 一方メイゼは、腕を組むでもなく、ただ座っている。
 実質二回目の敗北で呆然としているナイトメア隊とは対照的に、ただ無感情に真っ直ぐ前を向いている。
 ナイトメアの面々は、キサラギを含めてメイゼと目を合わせようともしない。否、それは語弊がある。合わせられない。合わせているのだが、どこに視点が合っているのか分からない。
 それに、鏡を見ているかのような瞳に目を合わせると、どことなく不安になってくる。まるで銅像に話しかけているようだ、というのがナイトメア隊全員の意見である。
 ここまでくるともはや言わずとも分かる。多少繋がりのあったリンの事を完全に無視し、その他のメンバーには会話すらしない。そう断絶だ。しかもメイゼ本人はそれを嫌とも思わないのだから、もはや致命的だった。
 人とは会話で繋がるものだ。だが、メイゼはあの防衛戦以来一言も発言しなくなった。
 普段ならチームワークうんぬんでどうにかなるのかもしれないが、なにせ彼は強い。強すぎて、チームワークなど必要ない。なら、会話も必要ない、という悪循環。
 ナイトメアの面々が試しに香月に相談してみるも、結局は論破されて終わり。
 そもそも軍隊に慣れ合いなど必要ない、と言われたらそれまで。
 一部隊に過ぎないナイトメア隊があれこれ言うことなど不可能。
 だから、メイゼに「どうやったらあの動きが出来るのか」は勿論、「あの時何があったのか」など聞ける訳もなく、各自はブリーフィングルームを後にしたのである。
 どこまでも続く廊下を歩いていくメイゼ。その廊下の床を乾いた音が響く。
 と、メイゼが歩みを止める。それは違和感。それは、後ろから。

 「少し、いいですか?」
 「――――?!」

 さっと振り向く。そこには、誰に悟られることなく向けられた、暗い銃口があった。





 あとがき。

 またまた短いですね、どうもN式です。
 今回はちょっとさぼっていたので、時間がかかりました。
 一万文字ぐらいは行きたかったけど、とりあえずこの辺で切り上げました。批評や感想等お待ちしています。
 それではっ!
最終更新:2008年12月24日 17:41