ミッドチルダ(NO.4578m)による干渉



 宇宙暦3207年、ミッドチルダの探査船により我々の防衛用ドロイドが発見された。我々、というのは我々の母星に住んでいる生物すべてのことだが、ここでは我々、とだけ書いておく。
 我々はミッド――いや、ここは時空管理局と呼称した方がいいか。とにかくこの連中とは違う歴史を辿ってきた。……いやひょっとすると似たようなものかもしれないな。
 最初は人間同士の殺し合い。次は他の文明との衝突。次は違う惑星同士での戦争。これも誰かが望んだことじゃない。戦争を望む人間なんて、ほとんどいないと思っていい。誰もが青い空の下、家族や友人と死ぬまで平和に過ごしたいと思っているだろうからね。
 ようやく平和を取り戻したのは今から数百年ほど前の話さ。
 我々の惑星である「エルス」に、全ての国から派遣された人間で構成された総合政府が樹立して、ようやく大きな戦争は終結した。民族間の争いは未だに止まってはいないけど、人間があっさりと死ぬような時代は通り過ぎた。中が険悪な国同士が強力な兵器を配備して脅しあってはいるが、それも平和の一つの形なのだろうと思う。使用されない兵器は、ただの飾りでしかないのだから。
 だというのに彼ら時空管理局は―――平和のあり方は一つしかないと思っているらしい。

 「質量兵器は汚い兵器」
 「魔法を用いた兵器は綺麗な兵器である」

 というぐあいにね。
 本当にどうして――人間は争いを止められないのだろうか。
 そう、あれは俺の子供が産まれた日だった。

 ――次元戦闘機乗りエースのインタビューより





 【宇宙暦3207 13月22日】
 時空管理局から「エルス世界政府」へ通告。
 「直ちに科学文明および質量兵器を撤廃せよ」。

 同年13月30日。
 「エルス世界政府」から科学者らが時空管理局へと送られる。魔力素とは科学で理解できるものであり、我々の世界では「T-N1特殊粒子」と呼称されている粒子を応用しているに過ぎないと説明するも理解されず。
 時空管理局内部の情報を得ることに成功。
 特殊部隊を潜入させる。

 【宇宙暦3208年 1月10日】
 時空管理局内部へ密偵中の部隊から報告書が届く。
 「エルス」に対して法律に乗っ取った処置を施すべきという論争が巻き起こっている模様。初期の科学的な見地から見た魔導技術は完全に黙殺された可能性が高い。管理局本部の位置の把握に成功。大型艦であることが判明する。

 【宇宙暦3208年 1月29日】
 潜入部隊との通信が途絶える。

 【宇宙暦3208年 2月33日】
 潜入部隊との通信今だ戻らず。
 「エルス」内部で時空管理局に関する情報が漏えい。
 国民の内で時空管理局脅威論が持ち上がる。

 【宇宙暦3208年 4月1日】
 B級時空航行戦艦3隻が完成。
 名称 「リアスターゼ」「ミリジアル」「ガブルバル」
 新式の電磁投射砲搭載。電磁防壁などの防御面に特化された型である。
 対T-N1特殊粒子用の防壁や、結合防止フィールド発生装置などがエルス宇宙軍各兵器に搭載され始める。

 【宇宙暦3208年 5月6日】
 時空管理局 本局から通告。
 「直ちに科学技術・質量兵器を撤廃し、時空管理局の管理下に入れ。さもなくば法に乗っ取った行動も辞さない考えである」。
 エルス世界政府上層部にて会議が開かれ、この要求を撥ね退けることが決定となる。

 「彼らの言う魔導技術も科学で解明できるのに、なぜ我らだけがいけないのか」
 「我々の法律では、それらの行為は主権侵犯である」

 A級次元駆逐艦が新たに5隻完成。
 熱光学迷彩、重力機関を最新理論によって設計された型式に変更。
 対T-N1特殊粒子に対抗するため、防壁の出力がさらに引き上げられた。

 【宇宙暦3208年 5月9日】
 エルス第2衛星である「リリク」に時空管理局部隊所属と思われる戦闘艦数隻の接近を確認。次元航行によって隠密行動中と推測されるが、深度不足により防衛衛星のセンサーに反応が確認された。

 同日 13時12分
 第2衛星「リリク」付近にて停泊中の時空管理局艦艇数隻より最後通告。
 エルス世界政府、これを拒否。

 同日 13時15分
 時空管理局艦艇、通常次元へ回帰。
 付近を巡回中の衛星に対して管理局艦艇からのT-N1特殊粒子収縮弾が命中 大破。
 これに対してエルス政府に対して通信が入る。

 「攻撃用質量兵器と思しき物体に対して正当防衛射撃を行った」

 エルス政府、デフコンのレベルを引き上げて、エルス国際宇宙軍の出動を要請する。


 同日 13時48分
 ミッドチルダ付近にて深度次元潜行中の潜次元偵察艦より緊急連絡。多数の時空管理局艦艇の発進を確認。
 第2衛星「リリク」付近にて管理局艦艇が次元潜行に入るも、既に地上から観測可能であったために行動が筒抜け状態であった。
 S級超高速次元戦艦「オスグル」、威嚇の為に第1衛星「リリン」から発進。「リリク」付近へ偵察を行うふりをして接近を試みる。

 同日 14時00分
 慎重に接近した結果、管理局艦艇からの攻撃は見られなかった。
 どうやら気がつかれていないと思っている模様。



 【宇宙暦3208年 5月10日】
 1時12分
 本局より発進した時空管理局艦艇多数の位置が判明。
 エルス国際宇宙軍、その半数を出動。第1衛星「リリン」付近にて停泊し、行動の機会を窺う。
 「リリン地下基地」が臨戦態勢に突入。

 同日 2時3分
 時空管理局艦艇多数の接近を確認。
 侵犯だとして、第2衛星「リリク」付近にて待機中の艦艇に対して強制通常次元回帰用のフィールドを展開させるミサイルを発射。時空管理局艦艇5隻が通常次元へと回帰する。

 同日 2時6分
 時空管理局より「強制執行を開始する」との通信が入る。
 S級超高速次元戦艦「オスグル」とリリク付近に停泊中の時空管理局艦艇5隻と交戦開始。ここに時空管理局戦争「リリク戦役」勃発。

 同日 2時10分
 S級超高速次元戦艦「オスグル」被弾するも損傷軽微。
 周囲に対T-N1特殊粒子用の防御フィールドを展開していたことが功を奏す。

 同日 2時20分
 オスグルから発進した次元戦闘機により時空管理局艦艇の一隻が行動不能に。
 同時刻、エルス国際宇宙軍所属第34機動部隊、本局より発進した時空管理局艦艇(以降 後発部隊)の迎撃の主力としてリリンから発進する。





報告書終了
最終更新:2009年02月06日 02:32