59話 ひろかずの言うとおり~うんだめし~
「……本当、なんだな?」
「あ?」
規介が寛和に尋ねる。
「本当にあんたにジャンケンで勝てば、生きて帰れるんだな?」
「……ああ。勿論だ。嘘はつかねぇよ」
「……分かった」
「それじゃあ、行くか?」
寛和の問いに、こくりと規介が頷いた。
「セット」
朋佳が開始の合図を送り、二人が身構える。
他の生存者達は固唾を呑んで勝負を見守る。
そして、ついに始まった。
「さーいしょーはグー」
互いに「グー」を出す。
そして。
「ジャーンケーン……」
「ポン」
寛和は「パー」
規介は「パー」
「あいこ」。
「…………~~~~~~~~~~~~ッッッッ!!!!」
ガクガクと規介の身体が大きく震え出し、股間から染みが広がりアンモニア臭のする液体が染み出す。
目から大粒の涙が溢れ、その顔はしわくちゃになってしまった。
(怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいこわいこわいぃいいい!!!)
規介の心は完全に恐怖に支配された。
ジャンケンぐらい彼もやった事はある、だが、「命が掛かっている」と言うだけで、ジャンケンはここまで恐怖を感じるものになるのか。
(こんなにこわかったっけ!? ジャンケンってぇ!?
つーか何だよこれ……殺し合いなんだったんだよぉ!?
俺が二人も殺したのは……生きて帰るためだろうがよぉ!?
なのに、こんな……ジャンケンなんかで決めんなよ……こんなの、完全に運じゃん)
「あーい」
(運に運命、任せるしかねぇじゃん!)
「こーで」
(生きたいじゃん……逃げ道ねぇじゃん)
「しょ」
(出すしかねえじゃんよぉおおお!!!!!!!)
寛和は「グー」
規介は「チョキ」
寛和の勝ち。
ニヤリと、寛和が嗤う。
朋佳が、右手に持ったリモコンを規介に向ける。
「……ふっざけんなよお……」
短い電子音の後、規介の首が飛んだ。
【下斗米規介 死亡】
「はい、次ー上がってこー」
死体処理を行う兵士を尻目に、寛和は次のプレイヤーを呼ぶ。
二番手は、
都賀悠里。
悠里の身体は小刻みに震え、その顔には恐怖の色が滲んでいた。
行きたくない。やりたくない。でも、やらなければきっと殺される。
「おねーさん」
「……行って、くるね」
巴にそう言うと、悠里は震える足に必死に力を込めて、朝礼台の上に足を進める。
そして、ついさっきまで規介が立っていた場所に立つ。
「おーう、本当にエロい格好、エロい身体だぜ。
こんな状況じゃなければベッドに誘いてぇぐれえだ」
「……どうも」
「……じゃあ、行くか」
「セット」
第二回戦が始まる。
悠里は泣き出しそうなのを必死に堪え、身構えた。
「さーいしょーはグー」
互いにグーを出す。
「ジャーンケーン……」
「う、ああぁあああああああぁあああああ!!!!」
恐怖を振り払うためか自棄になったのか、悠里は叫んだ。
「ポン」
寛和は「グー」
悠里は「パー」
悠里の勝ち。
「……あ……あ」
勝った、と、信じられないものを見るような表情を悠里は浮かべた。
朋佳が左手のリモコンを悠里に向けて操作する。
爆破の時とは異なる電子音の直後、首輪が外れ朝礼台の上に金属音を立てて落ちた。
悠里の首にあった冷たい感触が消える。
「都賀悠里、生きる。」
朋佳が悠里に告げた。
そして、ギャラリーから歓声がわく。
「やった、やったよぉ……!」
悠里もまた、泣きながら喜びの声をあげた。
「それでは、あちらの方でお待ち下さい」
朋佳が指差した先には「合格者席」と書かれた小さな看板と、ロープによる囲いが有った。
勝った者はあそこで残りの勝負の様子を見届けろと言う事だろう。
兵士二人に誘導される中、悠里は他の生存者、特に、行動を共にした巴達に向かって叫ぶ。
「巴! みんな! 絶対勝って! 勝ってね! 一緒に生き残ろう!!」
それを聞いた巴や他の島役場組も頷く。
とにもかくにも、これで寛和の言葉が嘘では無いと証明された。ジャンケンで寛和に勝てば首輪を外して貰える。
寛和が恵晶を呼ぶ。
恵晶は覚悟を決め、朝礼台に上る。
(こんな所で死にたくない……ジャンケンに負けて死んだ、なんて……笑い者にも程が有る。
今まで傭兵やってきて、時には身体も売ってきたのは、ここでこんな死に方するためなんかじゃない)
絶対に勝って生き残る、と恵晶は心の中で誓う。
「セット」
そして三回戦が始まる。
「さーいしょーはグー」
「ジャーンケーン」
「ポン」
寛和は「パー」
恵晶は「グー」
寛和の勝ち。
「え、ちょっ……」
血の気の引いたその表情のまま、恵晶の首が宙に舞った。
【劉恵晶 死亡】
四番手の瑠夏が呼ばれる。
「……行ってくる」
「ああ」
リクハルドにそう告げると、怯えた表情のまま瑠夏は登壇した。
「セット」
「やああぁあちょっと待って! ちょっと待って!」
「さーいしょーはグー」
「ま、まだ心の準備がっ……!」
「ジャーンケーン」
「ポン」
寛和は「チョキ」。
瑠夏は。
「……おい、何だそりゃ」
寛和が呆れた顔で指摘するのは瑠夏の出した手。
パーなのかチョキなのか良く分からないものである。
恐怖と緊張、そして焦燥の余り、瑠夏は自分でも良く分からない手を出してしまった。
寛和に指摘され、自分の手を見る瑠夏。
「……はは、何なんでしょう、これ?」
涙目で寛和に訊く瑠夏。それが彼女の最期の言葉となった。
「ちゃんと出せやボケ」
首と胴体が泣き別れになった瑠夏に向かって吐き捨てるように寛和が言い放った。
【舘山瑠夏 死亡】
「ああ、舘山さん……!」
「……ルカ……っ」
「……」
瑠夏の死に際し悲しみを露わにする合格者席の悠里、そしてリクハルド。
巴は無表情では有ったが少しだけ目を細めたので、その死に決して無関心と言う訳では無いようだった。
「あのな、後出ししたりちゃんと出さなかったりしてもアウトにするからな?
……それじゃあ次、
レオノーレ」
「……!」
「レオノーレさん……」
「……大丈夫よ守矢君……絶対、生き残ろうね……」
朝礼台へと向かうレオノーレを、心配する面持ちで見詰める守矢。
この殺し合いで初めて会った彼女だが、いつ死ぬか分からない中、共に行動してくれた。
身体も重ね、温もりを感じ合った。
死んで欲しくなど無い、生きて欲しいと守矢は願う。
それはレオノーレも同じであった。
朝礼台の上で、寛和と向かい合うレオノーレ。
「またこりゃエロい格好に身体だよなァ。お前、15歳だったっけ? まさにロリ巨乳だな。
お前あの守矢って竜人のガキとヤったんだろ? 気持ち良かったかぁ?
ああ、首輪に盗聴器が有ってな、お前らの会話は聞こえんのよ」
「……気持ち良かったわよ?」
「へえ、正直だな」
「だから、絶対生き残って、もう一度守矢君とする」
「……そうかい」
「セット」
五回戦が始まる。
「頑張れ……レオノーレさん、勝って……勝って!」
守矢はレオノーレに声援を送る。
レオノーレは顔を守矢の方へ向け、微笑みながら頷いた。
「さいーしょーはグー、ジャーンケーン……」
「ポン」
寛和は「グー」。
レオノーレは「チョキ」。
寛和の勝ち。
「あ、あ……レオノーレ、さ……」
絶望の表情を浮かべる守矢。
最期の瞬間、レオノーレは守矢の方を向いて、笑みを浮かべた。
「――――ごめんね、負けちゃった」
笑みを浮かべながら、泣いていた。
そして、首が飛ぶ。
「レオノーレさああああああああああああああああん!!!!」
守矢少年の悲痛な叫びが校庭に響いた。
【レオノーレ 死亡】
最終更新:2014年03月12日 14:08