ひろかずの言うとおり~しんげき~

59話 ひろかずの言うとおり~しんげき~

「一緒に生き残ろうって……言ったのに……」

レオノーレの敗死を目の当たりにし、落涙する守矢。
そのレオノーレの死体は兵士達によって無造作に片付けられる。

「ここまで五人やって、勝ったの一人だけじゃねぇか……!」
「じゃあ、ここにいる人、殆ど死ぬって事じゃん……!」

余りに無情な現実を前に、絶望感を露にする史雄と真耶。
他の生存者達も――巴と千華は涼しい顔をしていたが――前述の二人と似たような面持ちだった。
ジャンケンで勝てば良い、ただそれだけの事が、生存者達には監獄の塀よりも高い障壁のように思えてならない。
負ければ問答無用で「死」なのだから。

「はい、次」

しかしそんな生存者達の気持ちなどお構いなく、寛和は次の順番の者を呼ぶ。

舩田勝隆
「……っ」

紺色狼の少年、舩田勝隆。

「……行ってくるよ、陽平」
「ああ……絶対勝てよ」

朝礼台へ上る勝隆。
その時陽平が見た勝隆の表情は、最初に出会った時とはまるで別人のように凛としていた。

「さて、変態君。気分はどうだ? 首輪から盗聴してたんだけどよ、ちゃーんと聞こえてたぜ?
お前がオナってた時のヨガリ声」
「……そうですか」

やはり聞かれていたのかと思うと、勝隆は少し身体の芯が熱くなったが、自制の心がそれに勝る。
流石に今はそんな場合では無い事ぐらい勝隆も理解していた。

「流石、動じねぇか」
「絶対勝ちますよ。勝って、生きて、また好きな事をするんです」
「……良い目してんなぁお前。あんなヨガリ声あげてた奴と同一人物とは思えねぇ」

強い意志を宿した双眸、そして表情を見て、寛和は感想を述べる。

「よーし、じゃあ宣言してやろう。俺は次、チョキを出す」

唐突に次に出す手を宣言する寛和。
何事かと戸惑う他の生存者達、冷静に寛和を見詰める勝隆。

「じゃあ、グーを出せば俺は勝てるんですね?」
「ああ」
「……分かりました」
「よぉし……行くぜ?」

「セット」

第六回戦が始まる。

「さーいしょーはグー」
「ジャン」
「ケン」


「なーんてな♪」


ここで、寛和は宣言を反故にした。出した物は「パー」であった。
「ああっ」と、生存者達が絶句する。誰もが勝隆の敗北を覚悟した。
しかし――――勝隆の手には「チョキ」の形になっていた。

「……チッ、反応良いなお前」
「……」

勝隆の首輪が電子音の後に外れ、朝礼台の上に音を立てて落ちる。

「舩田勝隆、生きる。」

朋佳が勝隆に告げ、生存者達から歓声が沸いた。
勝隆は生存者達の方に向き、疲れ切った様子ではあったが笑顔を浮かべ、小さくガッツポーズを決めた。
レオノーレの死で悲しんでいた守矢も、涙を拭いて、ジャンケンに勝利した狼の少年を祝福する。
そして兵士達に連れられ悠里の待つ合格者席へ歩いて行く勝隆。

「みんな! 勝って生き残ろう! 陽平……待ってるから! みんな勝って! 絶対勝って!」

残りの生存者達に向かって、勝隆は精一杯の声援を送った。
それによって、生存者達の心は幾許かではあったが勇気付けられる。
難しい事では無い、ジャンケンに勝てば良い。勝てば生き延びられるのだと。

「はい次! 七塚史雄
「よっしゃ行くぞォォォオオ!」

大声を張り上げて勢い良く朝礼台へ上がるバーテンダーの青年、七塚史雄。

「セット。さーいしょーはグー。ジャーンケーン、ポン」

寛和は「チョキ」、史雄は「パー」。

寛和の勝ち。

【七塚史雄  死亡】

「次、保土原真耶
「真耶さん頑張って!」
「行ってくる! ご主人の元へ絶対帰るんだぁあ!」

守矢の応援を胸に、主人の元に帰るべくゲーム機擬獣人化女性、白狐の保土原真耶は勝負に臨んだ。

「セット。さーいしょーはグー。ジャーンケーン、ポン」

寛和は「パー」、真耶は「グー」。

寛和の勝ち。

【保土原真耶  死亡】

長沼陽平
「うおお見てろ勝隆! お前に続くぞぉおお!」

「セット。さーいしょーはグー。ジャーンケーン、ポン」

寛和は「グー」、陽平は「チョキ」。

寛和の勝ち。

「陽平……!」

勝隆の願いも虚しく、長沼陽平の首は宙を舞った。

【長沼陽平  死亡】

原小宮巴
「巴! 勝って!」
「おねーさん……」

悠里が自分を応援するとは思ってなかった巴は少し驚いた表情を浮かべる。
当の悠里も、最初巴と出会った時は、自業自得の部分も有るとは言え殺されかけたのだから印象は最悪だった。
だが以降は共に行動し、自分に危害を加えるどころか気遣ってくれる場面が多くなっていったので、
悠里は巴に対し十分な仲間意識を持つようになっていた。
そして、巴もまた、悠里の事を大切な仲間だと感じていた。
にこり、と、巴が笑みを浮かべる。
今まで殆ど無表情だったが、その笑顔は普通の少女と何ら変わりの無い、屈託の無いものであった。

「巴……」
「頑張るよおねーさん。一緒に生き残ろうね」
「うん、うん……!」


だが。


現実は非情なもので。


寛和は「チョキ」、巴は「パー」。


寛和の勝ち。


「巴ええぇえええ……!!」


首と胴体が別れた犬狼の少女に向かって、悠里は悲痛な叫びを上げた。


【原小宮巴  死亡】


残りは、五人。



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最終更新:2014年03月13日 15:12