ひろかずの言うとおり~はっぴょう~

59話 ひろかずの言うとおり~はっぴょう~

放送を聞いた島役場の生存者達は、皆一様に今の放送の内容がよく理解出来ていなかった。

「禁止エリアを解除? 迎えをよこす? 生き残り全員に平等に生きて帰れるチャンス?
何だそりゃ……一体何をしようってんだ?」

陽平が皆が思っている疑問を言葉にする。
放送の中で運営の吉橋寛和は、全ての禁止エリアを解除し、参加者達に迎えをよこし運営本部の学校まで来て貰うと言っていた。
何やら『生存者全員に生還出来るチャンスを与える』らしいが、一体何をしようと言うのだろうか。
分かりはしなかったが、恐らくと言うか間違い無くろくな事では無いと、それだけは全員同じように思っていた。
そして暫くして「迎え」がやってくる。
大きな軍用トラックが、島役場の駐車場に入ってくるのを、島役場のメンバーは確認した。
トラックの中に二人、荷台に二人、合わせて四人の黒い軍服に身を包み自動小銃と軍刀を装備した兵士が乗っている。
駐車場の中央付近でトラックが停車し、兵士達が降りる。そして役場の中へと入っていく。
助手席に乗っていた恐らく四人の中で一番階級が高いと思われる人間の男の兵士が、島役場の生存者達に向かって、
所持品を全て置いてトラックの荷台に乗るように命じる。

「あの、学校に行って何をするんですか?」

悠里が兵士に尋ねるが、

「……詳しい事は学校に行ってから司令自ら話す」

と言うだけで教えては貰えなかった。
所持品を捨てる事に抵抗感は有ったものの、従わなければ殺される事は予想がついたので、全員大人しく従うしか無かった。
拘束されていた下斗米規介も数時間ぶりに自由となる。
原小宮巴、都賀悠里、リクハルド、舘山瑠夏、下斗米規介、深谷明治、長沼陽平舩田勝隆は、トラックの荷台へと乗り込んだ。
そして、兵士達もトラックに乗り、学校に向けて出発する。


……

……


十数分で学校に到着した。

「総員降車」
「ほら降りろ」

荷台の猫獣人の女性兵士、馬獣人の兵士が巴達に降りるよう命じる。
高圧的な態度に眉を顰める巴達だったが、大人しく従う。
殺し合いが始まってから禁止エリア扱いとなっていた、運営本部の置かれた木造校舎の学校。
広い校庭には銃を携えた兵士十数人が立っている。
妙な動きをすれば即座に射殺されてしまうだろう。

「ここで暫く待機。他の生存者もじきここにやってくる」

階級の高い人間兵士が巴達に言う。
その言葉通り、別のトラックが三台、学校にやってきた。
そして荷台から下ろされる生存者。

「何をする気なのかしら……」
「学校……」
「乗り心地悪かった……」

ビキニアーマーの少女、レオノーレ
金髪の黒竜人少年、白峰守矢
裸マフラーの白狐女性、保土原真耶

「何なんだよ……何が起きんだよ」
「……」

バーテンダーの青年、七塚史雄
狐耳の女傭兵、劉恵晶

「着いた? よっと……」
「何だってんだ?」

半竜人の女性、沢谷千華
長身の少年、油谷眞人

「……これでこの殺し合いの生き残り全員がここに集まったって事か」

明治が集められた参加者の数を数えて言った。

「あら、あなたは」
「よ、よお、また会ったな……」

二度と会いたくないと思っていた劉恵晶に再会してしまい顔が引き攣る史雄。

(ああ? あの二人はあん時の……生きてたのか。他の二人がいねぇって事は、死んだか)

眞人は田園地帯にて目撃した四人組の内の二人、レオノーレと守矢を発見する。

「はい注目ー」

そして朝礼台の上から一人の狼の男が生存者達に向け声を掛けた。
この殺し合いの運営責任者、吉橋寛和。
朝礼台の後ろの方に岩岡朋佳も立っていた。
生存者達が寛和の方へ注目する。

「こうして直に会うのは開催式の時以来だな。お前らここまで良く頑張った! 64人いた参加者が半日で15人!
ここまで生き抜いたお前らはさぞかし実力と運に恵まれてるんだろうな。
そこでだ、放送でも言ったけど、お前ら15人全員に、生きて帰れるチャンスをやる。
一人一人が、俺とサシで勝負だ」

そう言って握った拳を顔の前に持ってくる寛和。
サシ――一対一を意味する言葉、そして勝負と寛和は言った。

(タイマンでもすんのか?)

眞人が思う。

「あー、安心しろ。サシで勝負っつっても、殴り合いとかじゃねえよ。
女の子も居るしな。じゃあ何で勝負するかって? それは――――」

少し言葉を切って、寛和は「生きて帰れるチャンス」の正体を明かす。


「ジャンケン、だ」


15人はしばし呆気にとられた。
ジャンケン――――わざわざ説明されるまでも無い、グー、チョキ、パーで勝ち負けを決める遊び。
それを今から、生存者一人一人と寛和とでやろうと言うのか。

「お前らが勝てば、その場で首輪を外して、生還決定だ。
だが、俺が勝ったら、無論、そいつは死ぬ。オーケー? ……単純明快で分かりやすいだろ?
要するに『運試し』って訳だ。ここまで生き残ったお前らの『運』を試すのさ」

楽しそうに寛和が弁舌する様を15人は無言で見詰める。
ほぼ全員、その眼差しに込められているのは寛和達に対する怒り。
突然拉致してきて殺し合いをしろと命じて、今度はジャンケンで生き死にを決める。
身勝手と言う言葉では片付けられないその様に、生存者達は怒りを感じずにはいられなかった。

「んじゃあ、ぼちぼち始めっとしますかね。朋佳、頼むぜ」
「はい」

朋佳が朝礼台の上に昇り、ファイルを見ながら生存者達に向かって指示を始める。

「それでは、今からランダムに名前を呼びます。呼ばれた順に、朝礼台の前へ一列に並んで下さい」

少し間を置いて、朋佳が名前を呼び始める。

「下斗米規介」
「うっ……」

最初が自分だと思ってもいなかった規介は少し面食らうが、すぐに朝礼台の前へ向かう。

「都賀悠里」
「劉恵晶」
「舘山瑠夏」

次々と名前が呼ばれていき、呼ばれた者から並んでいく。

「レオノーレ」
「来たわね……」
「レオノーレさん……」

列へ向かうレオノーレを守矢は不安気な面持ちで見詰めた。

「舩田勝隆」
「七塚史雄」
「保土原真耶」
「長沼陽平」
「原小宮巴」
「深谷明治」
「沢谷千華」
「リクハルド」
「油谷眞人」
「白峰守矢」

最後に守矢が呼ばれ、15人全員が朝礼台の前に一列に並んだ。

「以上15人、生きる。
……それでは、始めます。審判は私が務めます」

そう言うと朋佳は朝礼台の近くに居た兵士にファイルを渡し、代わりに二つのリモコンらしき物を受け取った。
そして、寛和によって最初のプレイヤーの名前が呼ばれる。

「下斗米規介、まずお前からだ。さあ、上がってこい」
「……っ」

規介がごくりと唾を飲み込み、ゆっくりと朝礼台へと上がって行った。
他の14人は散開し、朝礼台の上での生死を賭けたジャンケンを見守る。



【終了条件変更】



【吉橋寛和に勝ったなら終わり】



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最終更新:2014年03月07日 20:27