59話 ひろかずの言うとおり~きょうのよきひに~

ゲーム運営司令、吉橋寛和とゲームの生存者との生死を賭けたジャンケン対決。
ここまで、2勝8敗。
10人挑戦して勝ったのは、2人。
余りに低過ぎるその勝率に、沢谷千華を除く四人の士気は大いに鈍る。
だがそんな事は関係無いと言わんばかりに、寛和は11番手の深谷明治を呼ぶ。
逃げ出したい気持ちを必死に抑え、明治は朝礼台の上に立った。

「お前、首輪外そうとしてたっぽいな。でも残念だったな。こんな事になっちまって。
まああの首輪は分解したからってそう易々と外し方理解出来るような代物でもねぇんだけど」
「……一つ聞かせてくれ」
「あ?」
「……どうしてこんな事をするんだ? 人の命を何だと思ってる」

震えながらも、明らかな怒りを込めた表情と口調で、明治は寛和に問いかける。

「……何でこんな事をするかって? うーんそうだなぁ、俺らも『上』の言う事に従ってるだけなんだよなぁ」
「……『上』?」
「あんま言えねぇけど俺らの上司と言うか頭よ頭。まあ聞いた話によれば?
『選別』らしーよ? 大勢と戦わせて競い合わせて、優秀な奴を選ぶとか何とか?」
「何だよ、それ……」
「まあ、俺らは実行役だから『上』の考える事なんざ良く分からねーのよ。俺らを問い詰めたって無駄って訳だ。
それより、今重要なのはそれじゃないだろ?」
「……」

寛和の言う通り、今やらなければならない事はこの殺し合いの意義を追求する事では無く、
ジャンケンで勝ち、生き残る事である。
明治は覚悟を決め、身構えた。

「セット」

11回戦の開始。

「さーいしょーはグー」

「ジャーンケーン」

「ポン」

寛和、明治共に「グー」。
「あいこ」である。

「あーいこーで、しょ」

再びあいこ。

「あーいこーで、しょ」

またしてもあいこである。
明治はなりふり構わず絶叫してしまいたかった。
今まで感じた事の無い緊張感、恐怖感で、押し潰されてしまいそうに、気が狂いそうになる。
早く終わってくれ、早く楽にさせてくれと、心の中で明治は叫ぶ。
程無く彼の願いは実現する。

寛和は「グー」、明治は「チョキ」。

寛和の勝ち。

「あ……」

明治の首もまた、弾け飛んだ。


【深谷明治  死亡】


「ハイ、次だ次。6連勝狙っちゃうよ~。沢谷千華」
「……」

12番手、半竜人女性、沢谷千華。
今までの勝負を冷静に観戦してきた彼女はいよいよ自分の勝負の番となっても落ち着いていた。

「お前さん、殺害数トップだったぜ。結構戦えるみてぇだけど、何かやってたの? そう言う戦う系の職業みたいなの」
「色々」
「ふーん。塾の社会科講師やってるって聞いたけど……まあ良いか。
それじゃあ行くぜ?」
「良いわ」

「セット」

12回戦の始まり。

「さーいしょーはグー」

「ジャーンケーン」

「ポン」

寛和は「パー」、千華は「チョキ」。

千華の勝ち。

「沢谷千華、生きる。」
「あー連勝記録ストップしちまったか……悪運も強ぇーんだな」
「どうも」
「次! リクハルド! 上がって来い!」
「来たか……」

続いて、13番手、犬型モンスターのリクハルド。
朝礼台の上で後ろ足で立ち上がる、すると丁度人狼種の獣人のような格好になった。

「お前、ジャンケン出来るか?」
「ああ」

そう言ってリクハルドは右前足で「グー」「チョキ」「パー」を作って見せた。

「大丈夫そうだな。それじゃあ行くぞ?」
「良いぜ」

「セット」

13回戦の始まり。

「さーいしょーはグー」

「ジャーンケーン」

「ポン」

寛和は「チョキ」、リクハルドは「グー」。

リクハルドの勝ち。

「リクハルド、生きる。」
「かぁーっ、また負けた……」
「へへっ、これでまた女をヤれるって訳だ」
「次ー。油谷眞人」

二連敗を喫し少し不機嫌な様子で、寛和は次の順番である油谷眞人を呼ぶ。
朝礼台に上がる眞人。

(こんな所で死にたかねぇ……俺が殺し合いに乗ったのはジャンケンで負けて死ぬためなんかじゃねぇ)

「セット」

(俺は、ずっと自分の拳で道を切り開いてきた)

「さーいしょーはグー」

(なら、出す物は一つだ)

「ジャーンケーン」

(俺は……)

(自分の拳を信じる!!)

「ポン」

寛和は「パー」、眞人は「グー」。

寛和の勝ち。

自分の拳に全てを託した少年は、呆気無くその命を散らした。


【油谷眞人  死亡】


残るは一人、黒竜人少年、白峰守矢。

「よーし、いよいよ最後だな。トリを飾るのはお前だぜ、白峰守矢」
「……」

朝礼台へ上がる守矢。
合格者席へと移った都賀悠里、舩田勝隆、リクハルド、沢谷千華が勝負の行方を見守る。

「どうだ? 今の気分は? ん?」
「……何と言いますか、自分でも驚くぐらい、落ち着いています」
「ほう? さっきツレの女が死んだ時えらい悲しんでたのにか?」

馬鹿にするような寛和の物言いに一瞬眉を顰めた守矢だったが、それでも穏やかな様子は崩さなかった。

「あの時は確かに凄く悲しかったです。でも、悲しんでばかりもいられないって事も、分かってましたから。
レオノーレさんも、きっと僕に生き延びて欲しいって思ってる。僕はそう思ってます」

小学生の少年とは思えないような凛とした表情と言葉に、思わず寛和も感心した。

「お前、本当に小学生か……それじゃ、やるか?」
「……」

無言で、守矢は頷いた。
そしていよいよ最後の勝負が始まる。

(勝つ。勝って生きるんだ)

「さーいしょーはグー」

双方、グーを出す。そして、次からが本番。



「ジャーンケーン」



「ポン」



寛和は「グー」。


守矢は「パー」。



守矢の勝ち。



「やっ……た」



この瞬間、バトルロワイアルは幕を閉じた。



【都賀悠里】
【舩田勝隆】
【沢谷千華】
【リクハルド】
【白峰守矢】
【以上、五人――――生きる。】



順番 対戦者 対戦者の勝敗
01番 下斗米 規介 パー(あいこ)→チョキ(負け)
02番 都賀 悠里 パー(勝ち)
03番 劉 恵晶 グー(負け)
04番 舘山 瑠夏 ちゃんと出さなかった(負け)
05番 レオノーレ チョキ(負け)
06番 舩田 勝隆 チョキ(勝ち)
07番 七塚 史雄 パー(負け)
08番 保土原 真耶 グー(負け)
09番 長沼 陽平 チョキ(負け)
10番 原小宮 巴 パー(負け)
11番 深谷 明治 グー(あいこ)→不明(あいこ)→不明(あいこ)→チョキ(負け)
12番 沢谷 千華 チョキ(勝ち)
13番 リクハルド グー(勝ち)
14番 油谷 眞人 グー(負け)
15番 白峰 守矢 パー(勝ち)





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最終更新:2015年02月11日 21:59