60話 半信半疑、泳いでみるのも悪くないよ
ジャンケンに勝った後、僕達五人は学校のとある教室に通され、そこで吉橋寛和から労いの言葉を掛けられた。
そしてジュースやらお菓子やらを出された。
ささやかな祝賀会のつもりだったのだろうけど、嬉しくも何とも無い。
って言うか殺し合いさせておいてジュースやお菓子で労えると思っているんだろうか。
いや、出される物は問題じゃないんだけど。
最初、僕と都賀さん、舩田さんは警戒して手を付けなかったが、沢谷さんと
リクハルドさんは普通に食べていた。
「毒は入ってない」とリクハルドさんが言ったので、恐る恐る僕達も食べる事にした。
普通に美味しかった。
「さて、何か質問有るか?」
唐突な質疑応答の時間。
まず手を上げたのは舩田さん。
「どうして、俺達が選ばれたんですか?」
「……この殺し合いの参加者に、って事か?」
「はい」
「……んー、抽選」
「え?」
「抽選だよ抽選。あんま詳しく言えねぇけどな」
「……はぁ」
舩田さんは余り納得していないように見えた。
と言っても、どんな理由であろうと、こんな殺し合いに連れて来て良い理由にはならないと思うけど。
次に沢谷さんが手を上げた。
「あなた達って、何者なの?」
大勢の人間を拉致してきてかつ高度な技術で作られた首輪をはめ、装備品を用意して殺し合いをさせる事の出来る、
吉橋寛和ら運営の人間達は一体何者なのか。
それは僕も気になるし、都賀さん、舩田さん、リクハルドさんもきっと気になる筈。
「それはー……うーんそうだな、何て言うんだ? あんま細かくは教えらんねぇけど。
ちょっと大規模な何でも屋って感じかな?」
「何それ」
「えらーい人達の願い事、叶えてあげたりしてんのよ。色々な手を使ったりしてね」
「……それって、この殺し合いは、例えば――政府が絡んでたりするの?」
「……それは想像に任せるよ」
「ちょっと、質問にちゃんと答え――――」
「沢谷さんよ」
少し声のトーンを落として、脅しつけるように吉橋寛和が沢谷さんに言う。
「あんただって無事に帰りたいだろ? なら余計な事は聞かない方が身の為だぜ」
「……」
沢谷さんはなおも反論しようとしていたが、結局はそこで質問を切り上げてしまった。
だが沢谷さんの行動は間違っていない。
首輪を外されたとは言え、僕達はまだ敵陣の真っ只中に居るのだから、下手な真似をすれば簡単に殺されてしまうだろう。
「他に無いか? ……無いなら俺は戻るぜ。しばらく五人で雑談でもしてな」
そう言うと吉橋寛和は、傍に居た兵士二人を連れて教室から出て行った。
戸が閉められ、鍵を掛ける音が聞こえる。
廊下には見張りが置かれているようで、窓越しにその姿が確認出来た。
僕達五人は、無言でしばらく過ごしていた。
「……あの」
不意に、舩田さんが僕達に声を掛けた。
「もし良かったら、連絡先交換しませんか? ……こんな言い方変かもしれないですけど、
この殺し合いで生き残った人同士、何かの縁かもしれないです、し……どうでしょうか?」
連絡先の交換――そう言えば、この殺し合いが無ければ、僕達は多分、絶対会う事も無かったんだよな。
こんな形での出会いなんて嫌過ぎるけども。
そしてこの殺し合いが終わって家に帰る事になれば、連絡先でも言わない限り、僕達は恐らく二度と会う事も無い。
この殺し合いを生き残った者同士でしか分からない事も有るだろう。
それなら、連絡が取れるようにしておいた方が良いかな。
「……良いよ。私、住所と学校と電話番号、メアド教えてあげる」
「俺は違う世界からなんだが、まあ一応、俺の所属してる群れのアジトの場所教えてやる」
「私も……」
「ぼ、僕も」
僕達は教室内にあった紙とペンを使って互いの連絡先を教え合った。
そして程無く、教室のスピーカーからハウリング音が響く。
声は吉橋寛和のものだった。
『そろそろだが準備は良いか。お前らには一旦眠って貰う。その間に俺らがお前らをそれぞれの家まで運ぶからな。
ああ、警察とかに言っても構わないぞ。どうせ有耶無耶になるだけだしな。
それじゃあ、お疲れさん。多分もう二度と、会う事も無いだろう。じゃあなー』
放送が終わった直後ぐらいから、仄かに甘い匂いが漂ってきた。
そして、段々と眠たくなってきた。
催眠ガスか何かだろうか。
「み、みんな……」
後少しで意識を失う、と言う時、舩田さんの声が聞こえた。
「また会おう……また……」
「分かった」って言おうとしたけど、もう何も出来なくなっていた。
僕の意識は、深い眠りの中へと堕ちて行った――――。
◆◆◆
「さてと、眠ったみたいだから、予定通り送り届けてくれや」
「了解しました」
参加者達の送還を担当する部隊の隊長に指示を出し、寛和は司令室のソファーにもたれて一息つく。
これでまた一つ殺し合いが終わった。
「ふぁー、疲れたなぁ」
「お疲れ様です」
「おお朋佳。悪ィな、急な俺の思い付きに付き合って貰って」
「まあ、たまには良いと思いますよ。しょっちゅうやられたら困り物ですが」
「言えてら……それじゃあ俺らも後始末して帰るとすっか」
「はい」
「久々にガ○トのオムライス食いてぇ」
「吉橋さん味覚が幼稚だってそれ一番言われてますよ」
「うるせえ!」
しばしの雑談の後、寛和と朋佳は今回のゲームの残務処理を始めた。
最終更新:2014年03月17日 02:45