61話 重ねた月日に交わした言葉を胸に
僕は自分の家に帰ってきた。
気が付いた時には自分の部屋で倒れていて、目を開けると、お父さんとお母さんが泣きながら僕の名前を呼んでいた。
二人は僕を抱き締めた、僕も泣いた。
落ち着いてから、僕は、僕が居なくなった時の事をお父さんとお母さんに尋ねた。
朝に僕が部屋から出てこない事を不審に思ったお母さんが部屋に行ったら、もう僕は居なかったらしい。
床には着ていたパジャマが脱ぎ捨てられていて、洋服ダンスが開けられていて、靴箱には僕がいつも履いている靴――殺し合いで履いていた靴――が消えていて。
ベッドの上には封筒に入れられた手紙が置かれていてそこにはこんな事が書かれていたと言う。
『前略、白峰嘉行、春奈夫妻様。御子息、守矢君はこの度特別ゲームへの参加権を獲得されました。
従って守矢君をゲーム会場へとご案内させて頂きます』
きっと、僕以外の参加者の家にも、似たような置き手紙をしたのだろう。
僕は何が起きたのか、出来るだけ分かりやすく二人に話した。
二人共信じられないと言った表情だったが、やがては信じてくれた。
「怖い目にあったんだね……良かった……良かった」
「お母さん……」
「本当に、どうなるかと思った……帰ってきてくれて良かった」
「お父さん……」
僕も本当に、帰ってくる事が出来て良かったと思った。
……
……
警察からの事情聴取があったり、友達のお見舞いが来たりして色々大変だったけど、着実に元の生活に戻りつつある。
警察の人の話では、僕と同じ時期に行方不明になって、その中から三人帰ってきた人が居ると言う。
きっと、都賀さん、舩田さん、沢谷さんの事だ。
僕は警察の人に殺し合いの事について話した。
「君もか……だが、生きて帰ってこれただけでも……」
「? ……どう言う事ですか?」
「……ニュースになったりしてもすぐに忘れ去られてしまうが、全国で行方不明者が定期的に、それも30人から50人、
多い時には80人も出て、一人も帰って来なければ、数人帰ってくると言う事件がここ数年で何回か起きてるんだ」
「ええっ……」
そう言えば以前、そんな事がニュースになっていたような気がする。
でも、気付いたらそういったニュースも無くなっていったような気もした。
「恐らく、彼らも君と同じ事をさせられたのだろう。
警察も捜査はしているんだがね……適当な理由がついて捜査が打ち切られてしまったり、捜査員の中からも行方不明者が出たりして、
結局、誰が何のためにしているのか……有効な手がかりは掴めていないんだ。
まるで……大きな力が、圧力を掛けているようにね」
「……」
初老、と言う言葉が良く似合うその刑事の人は、苦々しい表情で語ってくれた。
警察からの帰り道、僕はお父さんの運転する車の中で、ある事を思い出す。
僕のクラスメイトに、かつて久木山凌河と言う、白犬獣人の男の子がいた。
僕とも仲が良くて、変態で、一緒に気持ち良い事をして遊んだりもした。
その子はお父さんともエッチな事をしていて、僕も混ぜて貰った事もある。
でもある日突然、凌河とそのお父さんは居なくなった。車も家もそのままに。
そして二度と帰って来なかった。
凌河の家は今も二人が居なくなった時のまま、廃屋になりつつある。
もしかしたら、いや、多分、間違いなく――――凌河とそのお父さんも、殺し合いをさせられた――――そして帰ってこなかったと言う事は、二人はもう――――。
「雨が降ってきたな……」
運転するお父さんが呟く。
言われた通り外はいつの間にか曇り、雨が降り始めていた。
僕の今の心を現すかのような、灰色の曇天の空が広がっていた。
◆◆◆
殺し合いから二ヶ月ぐらい過ぎた頃。とある日曜日。
僕は電車で少し遠く離れた、都市、と言う程では無いけどそれなりに賑やかな街へとやって来た。
噴水の設けられた広場で、とある人物二人と待ち合わせする。
「守矢君!」
「ごめんな、遅くなった」
そして二人がやって来た。
都賀悠里さん、
舩田勝隆さん。
二人共殺し合いの時は制服だったけど、カジュアルな服を身につけている。
「久しぶりです。二ヶ月ぐらいですかね……」
「そのぐらいかな……」
「立ち話も何だし、適当にレストランにでも行こう」
僕と二人は語り合う場に相応しい場所を探し始める。
そして、有名ファミリーレストランを見付けそこに入った。
「いらっしゃいませ。お客様は三名でしょうか」
「あ、はい」
「禁煙席と喫煙席がございますが」
「禁煙席で良いです」
「かしこまりました、こちら空いてるお席をご利用下さい」
「そこの窓側で良いかな守矢君、悠里ちゃん」
「良いですよ」
「おっけー」
禁煙席の窓側の席に僕達は座った。
そして、殺し合いから帰ってきてからの事を話し合う。
都賀さんも舩田さんもやはり僕と同じように警察に事情を聞かれたが、僕の時と同じような感じだったらしい。
「取り敢えず、ヤりまくったよ。手当たり次第男友達と。何であれ殺し合いから生き残れたから、
生きてる喜びを感じまくったの」
「は、はあ」
「俺もね、ひたすら掘って貰って種付けして貰って、精子も出しまくった。
うん、いつも通りだね……」
「そ、そうですか……」
「今じゃあさ、あの殺し合いは現実だったのかなって思う時も有るよ。
本当は夢でも見てたんじゃないかって。周りがいつもと変わらない、変わら無さ過ぎるのを見てると」
「俺も……でも、夢じゃあないんだよなぁ……」
「そうですね……」
あの殺し合いは本当に現実だったのか、とは僕も思った事はある。
でも、夢だった事にするなんて出来そうにない。
今でも首にはめられた金属の首輪の感触は容易に思い出す事は出来る。
それに、レオノーレさん、東員さん、伊神さん、他のみんな――――を、夢だった事になんて出来る訳無い。
それは都賀さん、舩田さんも同じ気持ちだろう。
「そう言えば、沢谷さんと
リクハルドさんは」
「沢谷さんは忙しくて来れないって。リクハルドさんは連絡がつかない。だって電話番号とかじゃないし……」
「そうですか……」
「うーん、折角レストランに来たんだから何か頼もうよ」
「そうだなぁ。守矢君も好きなの、ほら、俺奢るから」
「良いんですか?」
「良いって良いって」
いつまでも湿っぽい話をしててもしょうがない。
僕達は今、生きているんだから、前を向いて生きるしかない。
それが
レオノーレさん達、死んでいった人達へのせめてもの弔い――――僕はそう思っている。
【俺のオリキャラでバトルロワイアル3rd:白峰守矢、都賀悠里、舩田勝隆――――END】
◆◆◆
守矢達のいるレストランの、喫煙席。
「あぁ~うめぇなぁ」
一番奥の席でオムライスに舌鼓を打つ、狼の男。
向かいの椅子に、黒髪ポニーテールの少女が座り、彼女はドリアを食べていた。
「ようやく休暇取れて良かったぜ。ここの所殺し合いの運営続きだったからな」
「吉橋さん、あんまり大声で言わないで下さい」
「おっといけね。まあ流石にこの辺に反抗組織の奴はいねぇと思うけど……」
「ポテト頼みます?」
「おっ、そうだな。すいませんー」
「はい、ご注文お伺いします」
「山盛りポテト一つ……以上で」
「かしこまりました」
店員が注文を受け厨房へと去っていった。
少女は熱々のドリアを、そして狼の男はオムライスを口に運ぶ。
周囲の客達は、この二人が超法規的組織の人間であり、数十人の命を最後の一人になるまで競い合わせる殺人ゲームの運営を、
何度も行っている事など、知る由も無いだろう。
【To Be Continued……?】
最終更新:2014年03月17日 22:37