冥界に堕ちし凶獣

63話 冥界に堕ちし凶獣

俺は、死んだ。
絶望して、狂って、首を吊って苦しんで、死んだ。
なのにどうして俺は今、意識が有って、大地に立って、呼吸もしているんだろう。

そして、ここはどこだろう。
荒涼とした大地が広がっている。
ここは、あの世なのか? だとしたら、天国なのか、地獄なのか。
いや、俺は天国に行く資格は、恐らく無い。ならここは地獄か?

刺されて潰れた筈の右目は、開いているようだった。
だが、殆ど見えない。
首には、首吊りに使ったコードが巻き付いたままになっていた。
あの金属製の首輪は消えていたが、首に巻かれたコードの感触はあの首輪程では無いにしろ邪魔に感じた。
だが、解く事は出来ない。
解こうとして、俺は死んだ。
勝手に絞まってしまうのだ、まるでコードそのものが意思を持っているかのように。

そして、俺はどうやら死んでもすぐに復活する、化物になってしまっているようだった。

俺はもう死ぬ事は無い。死んでもすぐに生き返る。
だが、痛みや苦しみはそのまま残っている。
腹も減る。来るものも来る。性欲だって沸く。

自分がどうしてこんな事になったのか、どうして俺は殺し合いに巻き込まれた挙句、どことも分からない場所で化物として蘇ったのか。

理不尽過ぎる。どうして俺が。俺がそんなに悪いのか。どうして俺がこんな仕打ちを。

憎しみ、怒り、妬み。

ぶつけたい、誰かに。

生きている奴――――生きていて幸せそうにしている奴に、俺の受けてきた苦しみ痛みを分けてやりたい。


……

……


気が付くと俺は、洞窟のような場所に居た。
ここは何だ?
所々に、生活の痕跡が有るが。

「おい」

不意に男の声で声を掛けられる。
見ればそこには、燃えるような赤髪を持った男が立っていた。
犬のような耳、毛が生えた手足から見るに人間では無い。

「何だお前、入団希望者か」
「……?」

何の事を言っているんだろう。

「どうなんだよ答えろ。殺すぞ」

男はかなり威圧的な口調で俺に言う。
殺す、か。俺はもう死んでるし、死んでもすぐに生き返るけど、痛いのは嫌だな。

「俺はもう死んでる」
「あ? そうなのか?」
「今、死んでもすぐに生き返るけど、痛いのや苦しいのはそのまま。
実体の有る幽霊って奴なんだろうか。
俺は――――ある殺人ゲームに巻き込まれて、狂って、首を吊って死んだ筈なんだ。でも、気付いたら、知らない所で。
自分は、化物になっていて―――何なんだよ、何で俺はこんな目に……辛いよ、苦しいよ、痛いよ。
生きてる奴が、生きてて幸せな奴が妬ましいよ……苦しみを分けてやりてぇよ……」

最後の方は、俺は嗚咽混じりだった。
悲しくて、悲しくて、悔しくてたまらない。
幽霊になっても、泣けるんだな。

「そうか、じゃあ、俺と一緒に来いよ」
「は?」
「俺も一度死んでる。そして俺も、生きてる奴は嫌いだ。
……お前のような奴を集めてるんだよ、今な。
入団条件は一度死んでいる事。所属国、出身国は問わねぇ。
のうのうと生を享受している奴らに、死んだ奴の苦しみを味わわせてやるって事だ」
「……」

目の前の男はニヤリと嗤いながらそう弁舌する。
この男も死んでいるのか? そうは見えないけど。
いや、だけど……この男についていけば、俺の目的も果たせるのだろうか。
俺の心も晴らす事が出来るんだろうか。

「あんたについていけば、俺の心は満たされるのか? 俺は救われるのか?」
「それはお前次第だな」
「……そうか」

何の因果で俺がここに居るのかは分からないし知りたくも無い。
でも、これが、俺の第二の人生(犬生)なら、俺は、存分にそれを満喫しようと思う。
生きている奴への復讐、それが今の俺の、「生きる」目標。
幽霊なのに生きると言うのもおかしな感じだけど。

「あんたと一緒に行く! 一緒に生きてる奴らを殺してやろう!」
「良い意気だな、分かった。お前を俺の団の一員に加えてやる。
……お前、名前は?」



「――――荒津、文護」



これが、俺の新たなスタートだ。




【俺のオリキャラでバトルロワイアル3rd:荒津文護――――END】




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最終更新:2014年03月17日 23:32