さよならありがとう、もっといいこになってるから

39話後編 さよならありがとう、もっといいこになってるから

北沢樹里は、倉沢ほのかに対し、海野裕也を奪った事を詫びたいと言う気持ちが確かに有った、が、
実際に彼女と相対し、その殺意と狂気に触れた結果、謝罪する事は出来なかった。
ただただ、生き残る為にほのかから逃げる事しか出来なかった。

「ハァ、ハァ、ハァ……」

森の中、廃村から走ってきた樹里は息を切らしながらも立ち止まり、背後を振り返る。
ほのかは追ってきていない。どうやら振り切る事に成功したようだ。

「ハァ、ハァ……やったよ! しんのすけ! 逃げられたみたい」

脇に抱えたしんのすけに嬉しそうに話し掛ける樹里。

「うん、良かったゾ……」

それに返答するしんのすけ。しかしその声色は弱々しかった。

「……しんのすけ? どうかしたの……ッ!?」

明らかに様子のおかしいしんのすけを地面に立たせようとした所、しんのすけは崩れ落ちた。
上着の赤いシャツの胸元に穴が空き、周囲の色が異常に濃くなっている。
それが血液だと言う事に気付くのに、そう時間は掛からなかった。

「ゲホッ、ゴホッ!」

口から大量の血を吐くしんのすけ。

「しんのすけ!? しんのすけ!! ああ、何で!?」

狼狽する樹里。なぜしんのすけがこんな事になっているのか。
傷は背中まで貫通していた。いや、背中から胸に貫通したのだろうか。
先程、逃げる時にほのかによる発砲が有った。
樹里には当たらなかった。だが、脇に抱えていたしんのすけには当たった。
それ以外にこの傷の原因は考えられなかった。

「どうしよう……血を止めなきゃ……でも……!」

とにかく血を止めなければと思ったが、そのような手当が出来る道具等持ち合わせてはいない。

「お、おねえ、さん、オラ、う、撃たれたんだよ、ね?
な、何だか……変な、感じ、だゾ」
「喋っちゃ駄目!」

しんのすけが言葉を発する事を制止する樹里。
だが、しんのすけは無視して続けた。

「オラの……ケツだけ星人、おねえさんの役に、立って……良かった、ゾ。
おねえさん……怪我は、無い?」
「大丈夫だよ! 私はどこも怪我してないよ! アンタのお陰だよ、しんのすけ!」
「……オラ……死ぬんだね?」
「……っ」

そんな事無い、と樹里は言いたかった。
だが、しんのすけの様子を見れば、医療に関して素人の樹里でももう長く無い事は明白であった。

「……オラ、ひ、ひまを殺した、あの、おにいさん達を、許せないゾ……。
だから、父ちゃんや、母ちゃんや、シロをさ、捜し、て、あの、おにいさん達、を……やっつけ、て、
一緒に、お家に帰って……ひまの分まで、生きようって、お、思ったん、だけ……ど、も、もう、駄目、みた、い」
「そんな……そんな……」
「おねえ、さん……お願いが、有るんだゾ」
「……何?」

溢れ出そうになる涙を堪えて樹里は、遺言になるであろうしんのすけの言葉に耳を傾けた。

「オラの、家族に、会ったら……一緒に帰れなくて、ゴメンって……。
でも、ずっと、悲しまない、で……頑張って、生きて帰ってって……。
今まで、一杯、一杯、イタズラしたりして、ゴメンって……次は、きっと、いいこにうまれるからって」

しんのすけの目から大粒の涙が溢れる。
死ぬ事への恐怖、無念、寂しさも勿論有ったが、それよりも、
大好きな家族を悲しませる結果となった事への罪の意識の方が強かった。
それが、大粒の涙となって現れたのだ。

「分かったよ」

樹里はもう、それだけ言うのが精一杯だった。

「……ありがとう……おねえ……さん……」

安心したのか、しんのすけは死の苦しみが襲う中、微笑みながらお礼を言った。
程無く、しんのすけは目を閉じ、やがて、息が絶えた。

「……しんのすけ」

樹里はしばらく呆然としていたが、やがて、声を殺して泣き始めた。
ませてはいたが、その明るく朗らかな、そして、妹の死を乗り越え家族と共に生き残ろうとした強い心に、
一度死を迎えて気分が沈んでいた樹里は救われていた部分が有った。
時間にしてみれば、五時間程にも満たない、短い時間ではあったが、確かに彼は「仲間」だった。
以前の殺し合いでは一度も手に入れられなかったもの。
失っていた大切な何かを、しんのすけは思い出させてくれたのだ。

静かな森の中に、くぐもった少女の嗚咽が響いていた。



……

……



父ちゃん、母ちゃん、シロ、ごめんなさい。
オラは、ひまの居る天国へ行きます。
みんなを捜して、一緒に帰ろうと思っていたけど、もう、それも出来なくなっちゃった。

オラの最期の言葉、樹里のおねえさんにみんなに伝えて貰うように頼んだゾ。
樹里おねえさんなら、きっと約束を守ってくれる。
鉄砲を持った怖いおねえさんから逃げる時、オラを脇に抱えてくれた、優しいおねえさんなんだゾ。

みんな、オラは死んじゃうけど、いつまでも泣いてちゃ駄目だゾ。
泣いてたって、オラも、ひまも帰って来ないんだから。
だから、頑張って、お家に帰る方法を探してね。

みんな、色々イタズラして困らせたりしてごめんね。
それで、こんな事言うのも、何だけど。

オラは、楽しかったゾ。
父ちゃんと母ちゃんの子供に生まれて、シロに出会えて、ひまのお兄ちゃんになれて。
本当に、本当に楽しかったゾ。

また、生まれ変わっても、オラは、
父ちゃんと、母ちゃんと、シロと、ひまわりと、一緒に、なりたい。
また、みんなで、いっぱい、いっぱい、たのしく、すごして――――。



【野原しんのすけ@アニメ/クレヨンしんちゃん  死亡】

【残り  37人】




【早朝/D-1廃村南の森】
【北沢樹里@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]疲労(中)、深い悲しみ
[装備]出刃包丁@現実
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。
        2:しんのすけ……。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※野原一家の詳しい特徴をしんのすけから聞きました。



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最終更新:2014年09月27日 22:04