GIRLS BE BRAVE ~少女よ勇気を持て~

55話 GIRLS BE BRAVE ~少女よ勇気を持て~

しんのすけの死後、樹里はひとしきり泣いた。
泣いた後、しんのすけの死体を近くの太い木の根元に安置し、涙を拭う。

ずっと悲しんでいる訳にも行かない。
しんのすけに助けられた命で、自分に出来る事――即ち、殺し合いの打倒――をしなければ。

彼の荷物から、回転式拳銃スコフィールドリボルバーとその予備の弾を回収する。
無断で持っていくのは気が引けたが、今持っている出刃包丁だけでは心許無かった。
先刻の倉沢ほのかのように銃を持っている相手と戦う事になったら出刃包丁などでは到底太刀打ち出来ない。

「こんな所に放置してごめんね、しんのすけ……アンタに助けて貰った命を無駄にしないように私、頑張るから……」

物言わぬしんのすけに向かって誓言し、樹里は歩き出した。

歩き続け、どうにか森を抜け、樹里はそれなりの規模を持つ工場を発見する。
気付けば放送の時間も近付いていたので、落ち着いて放送を聞くべく樹里はその工場へと入った。
しかし、工場の生産ライン区画にて、一人の死体を見付ける。

「餓夫……!」

それは以前の殺し合いにて、自分の足を奪い絶望させた張本人、愛餓夫だった。
機関銃か何かで撃たれたのか身体中に穴が空き、血溜まりの中で屍と化していた。
以前の殺し合いでも放送で名前を呼ばれていたので餓夫は死んだのだろうが、
この殺し合いでもこの男は落命してしまったらしい。

「生き返ったのにまた死んだのね……ざまあみろ……」

以前餓夫の死を知った時より遥かにテンションの低い口調で「ざまあみろ」と言う言葉を餓夫に吐き捨てる樹里。
会ったらそれなりの制裁を加えてやろうと思っていたが既に死んでしまっているのならどうしようも無かった。

社員食堂として使われていたと思われる広い部屋で樹里はパイプ椅子に腰掛け、放送の時刻まで待った。
時計が午前6時を回り、チャイムが鳴り響き第一放送が始まった。
まず禁止エリアが指定され、A-6、B-3、C-1、F-5の四つが選択される。
一番近いのはC-1だが、全く行く予定も無く通り道ですら無い為、気にする必要は無さそうだ。
そして、死者として19人の名前が呼ばれた。
クラスメイトはさっき見付けた愛餓夫の他、壱里塚徳人、吉良邑子、何と廃村にて遭遇したばかりの倉沢ほのか、
鈴木正一郎が死んだと言う。
しんのすけの名前も当然呼ばれ、更に彼の飼い犬だったシロの名前も呼ばれた。

「倉沢さん……あの後、誰かに殺されたの?」

自分がしんのすけを抱えて逃げたその後に、倉沢ほのかは何者かに殺害されたのだろうか。
取り敢えずはこれでほのかに命を付け狙われるという心配は無くなったものの、樹里はどこかすっきりしない気分だった。
気になったのはしんのすけの両親の事だ。

「息子も娘も、愛犬も、喪ったって事になるよね……」

子供二人と飼い犬を喪った両親の悲しみは察するに余り有る。
これから先、もししんのすけの両親と会う事が有ったらしんのすけの事をどう説明すれば良いのかと樹里は悩む。
自分がしんのすけの死の遠因と言っても良かったからだ。


◆◆◆


虐待おじさんこと葛城蓮、シルヴィア、ガルルモンの三人は、
D-2エリアの森の出口付近にて第一放送を聞いた。

「俺のクラスメイトはもう三人死んでんのか……くそっ」

蓮のクラスメイトの内、AOK、INUE、一般通過爺が呼ばれた。
親友のKBTITこと拓也や、ひでは呼ばれなかったがだからと言って素直には喜べなかった。

「鈴木は死んだのか……」

シルヴィアも、いずれも親しい者では無かったが、クラスメイトの名前が何人か呼ばれた。
以前の殺し合いにて自分を殺害した、鈴木正一郎もどこかで命を落としたらしい。
今度会ったら殴ってやろうともシルヴィアは思っていたのだがそれも叶わなくなった。
気に掛けているサーシャの名前が呼ばれなかったのは幸いだったが。

「19人、結構多いなぁ……」

ガルルモンはこの殺し合いに知り合いは誰も居なかったので、重要だったのは死者の数であった。

「さっきの子供、やっぱり野原しんのすけだったか」
「そうだね、名前も呼ばれたし間違い無いみたい」
「確か、開催式の時に見せしめで殺された子の……」

三人が話題に出したのは、廃村から現在の場所に来るまでに見付けた小さな子供の死体の事。
その時は確証が持てなかったが今の放送で名前が呼ばれた事で、
死体が開催式の時に殺された野原ひまわりの兄、野原しんのすけであった事を確認する。
彼の身体には恐らく銃で撃たれた物と思しき傷が有り、それが致命傷となったようであった。

シルヴィアが以前やらされていた殺し合いはクラスメイト同士で、しんのすけのような小さな子供は居なかった。
前の時は殺し合いに乗ってクラスメイトを皆殺しにする決意までしたシルヴィアでも、
幼い子供の死を目の当たりにして少し思う所が有った。
それと同時に、改めてこの殺し合いの首謀者達への憤りを強める。
蓮もまたシルヴィアと似たような気持ちだったが、ガルルモンは自分の命が無事ならそれで良いと言う考え故に、
二人のような気持ちにはならなかった。

放送後、三人は森を抜けてすぐの所に有る工場へと足を踏み入れる。
金属板をプレス加工して何らかの部品を製造していたと思われるその工場は、
金型が洗浄作業の途中で放置されていたり、フォークリフトが荷揚げしたまま停まっていたりと、
操業途中で作業員が居なくなったかのような様相を呈していた。

そして三人は生産ライン区画にて、野原しんのすけに続きもう一人の死体を発見する。

「こいつは……愛餓夫じゃないか。私のクラスメイトの一人だ」
「本当か。酷ぇな……全身穴だらけになってやがる」
「うえ……」

死体はシルヴィアの言う通り、彼女のクラスメイトの一人、愛餓夫だった。
全身に空いた穴や、近くの床に大量の空薬莢が散らばっている事から射殺されたようである。

「気の毒にな」
「何だか冷静だなシルヴィアさん」
「ああ? 何だガルルモン……こいつとは別に仲良くなんか無かったからな。
そもそもこいつは女子からの評判は最悪だったし」
「そう……」
「こいつを殺した奴がまだ近くに居るかもしれない。シルヴィア、ガルルモン。注意しろよ」

三人は工場内の探索を続けた。
そして、食堂や談話室等が有る区画にて、生きている参加者と出会う。

「誰?」

その参加者――シルヴィアと同じ制服に身を包んだポニーテールの少女は、
三人の姿を認めて驚いた様子だった。

「北沢? 北沢じゃないか」
「え? ……シルヴィアさん?」
「あの子もお前のクラスメイトか? シルヴィア」

蓮の問いにシルヴィアは頷いた。


◆◆◆


「アンタらは殺し合いには乗っていないのよね?」

遭遇したシルヴィア達三人に訊く樹里。
三人は戦意を否定した。尤も最後まで生き残った一人が優勝出来るこのゲームで、
複数人で行動している時点で殺し合いに乗っている可能性は低いと言えた。

「北沢、あんた一人か?」
「野原しんのすけって子が一緒だったけど……死んだわ」
「うん? お前しんのすけと一緒だったのか。森の中で死体を見付けたぞ」
「……」

物憂げな表情で頷く樹里。

「生産ラインの所でも死体を見付けたけど……あれ、あんたか?」

ガルルモンが生産ライン区画で死体となっている愛餓夫の殺害犯が樹里では無いかと疑る。
直後にシルヴィアと蓮の厳しい視線がガルルモンに飛びそれを察したガルルモンは萎縮した。

「違う。私が来た時にはもう餓夫は死んでた……これまでの事詳しく話すよ」

愛餓夫の殺害を否定した後、樹里はこれまでの経緯を三人におおまかに、しかし可能な限り正確に話した。
森の中でしんのすけと出会った事。
妹を殺されながらも悲しみを乗り越え、殺し合いに抗う決意をしたしんのすけに心を打たれた事。
廃村にて以前の殺し合いにまつわる因縁の有る倉沢ほのかと対峙し殺されそうになるも、
しんのすけの機転を利かせた行動のおかげで窮地を脱する事が出来た事。
しかし、逃げる時にほのかが撃った銃弾のせいでしんのすけは致命傷を負い、命を落とした事。
話が終わる頃には疑念を抱いていたガルルモンも、樹里が嘘を言っているようには見えなかったのか、態度を軟化させた。

「その『倉沢ほのか』の死体は俺達も廃村で見付けたが……そんな事が有ったのか」
「倉沢さんは廃村で死んでたの?」

蓮に樹里が尋ねる。

「ああ。首を絞められて殺されたようだった」
「そう……私としんのすけが逃げた後にやっぱり誰かに殺されたんだ……」
「北沢、あんた、前の殺し合いの時に倉沢と何が有ったんだ?
殺意を抱かれるなんてよっぽどの事だぞ」
「う……それは……」

シルヴィアからの質問に困り顔になり言葉を濁す樹里。
ほのかから憎まれる事になった理由は簡単に言えば、彼女の恋人を寝取った事に有る。
それを正直に説明してしまって良い物かどうか樹里は迷った。

「まあいいや、言いたくなさそうだし……今そんな事を聞き出しても意味が無いしね」

幸いにもシルヴィアを始め三人共それ以上は追求しなかったので、樹里は安堵した。

「自己紹介してなかったな。俺は葛城蓮。名簿には何故か分からないが『虐待おじさん』で登録されてる」
「俺は、ガルルモン……さっきは疑ってごめん」
「北沢、私達と一緒に来ないか?」

シルヴィアが樹里に自分達のグループに入らないかと持ち掛ける。

「良いの?」
「良いだろ? 二人共」

蓮とガルルモンに確認を取るシルヴィア。
二人共、特に反対せず、すんなりと話は纏まり、樹里はシルヴィア達と行動する事になった。


【朝/D-2工場】
【北沢樹里@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]S&Wスコフィールド・リボルバー(6/6)@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター、
[所持品]基本支給品一式、出刃包丁@現実、.45スコフィールド弾(12)
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。
        2:シルヴィアさん達と行動する。
        3:もし、しんのすけの両親に会ったらどうする?
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※野原一家の詳しい特徴をしんのすけから聞いています。

【シルヴィア@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康
[装備]デトニクス スコアマスター(7/7)@現実
[所持品]基本支給品一式、スコアマスターの弾倉(3)、自転車のチェーン@オリキャラ/自由奔放俺オリロワリピーター
[思考・行動]基本:蓮(虐待おじさん)と協力して殺し合いを潰す。殺し合いに乗っていない者を集める。
        1:蓮(虐待おじさん)、ガルルモン、北沢と行動。
        2:サーシャを捜したい。他のクラスメイトは遭遇次第対応を考える。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
    ※葛城連(虐待おじさん)のクラスメイトの情報を当人から得ました。

【虐待おじさん@真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」】
[状態]健康
[装備]無し
[所持品]基本支給品一式、手榴弾(2)@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル
[思考・行動]基本:クラスメイト(特にひで、KBTITこと拓也)や殺し合いに乗っていない参加者を集め、殺し合いを潰す。
        1:シルヴィア、ガルルモン、北沢と行動。
        2:襲い掛かってくる者には相応の対処をする。
[備考]※動画本編、バスの中で眠らされた直後からの参戦です。
    ※元動画準拠なので、本名は「葛城蓮」、平野源五郎とは面識が無い設定です。
    ※シルヴィアのクラスメイトの情報を当人から得ました。
    ※シルヴィアが一度死んだ事、殺し合いが二回目である事、以前の殺し合いに乗っていた事を知りました。

【ガルルモン@ゲーム/デジタルモンスターシリーズ】
[状態]健康
[装備]無し
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:死にたくない。生き残りたい。
        1:生存率を上げる為に蓮さん達について行く。
[備考]※アニメのガルルモンとは別人です。性別は♂、性格は小心者です。


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最終更新:2014年11月10日 00:59