39話前編 さよならありがとう、この次に逢う日には
森の中を歩き続けている野原しんのすけと北沢樹里。
二人が出会ってから今まで、殺し合いに乗っている者、乗っていない者、
或いは家族、クラスメイト、いずれにも二人は遭遇していない。
「明るくなってきたわね」
樹里が空を見上げて言う。
空は白み、日の出が刻一刻と近付いている事を示す。
「おっ、樹里おねえさん」
「どうしたの? しんのすけ」
「あそこに建物が見えるゾ」
しんのすけが指差す先には確かに建造物が見えた。
木々に隠れたそれは民家のように見える。
「休憩出来そうね……行こう」
「ほっほーい」
長時間、足場の良いとは言えない森の中を歩いてきた二人は疲労していた。
故に民家が有るのなら是非そこで休みたいと思っていた。
しかし、建造物に近付いた二人が目にした物は。
「うおー、ボロボロだゾ」
「うわぁ……これは」
朽ち果てた木造の民家――廃屋であった。
ガラスは所々割れ、庇(ひさし)は腐って落ち掛け、屋根から草まで生えており、
かなり長い事放置されている事を窺わせる。
二人は中を覗いて見るが内部も酷い有様で、黴と埃の臭いが鼻を突き、
畳敷きの床は腐って波打っている上に本や衣類の残骸だらけ、天井から板がカーテンのように垂れ下がり、
箪笥や本棚がひっくり返ってると言う有様。
壁に色褪せボロボロになったカレンダーが掛かっていたが、何と1982年と書かれている。
とても落ち着いて休めそうな状態では無い事はすぐに分かった。
辺りを良く見れば、同じような廃屋が幾つも建ち並んでいた。
傾いた木製の電柱や、草に埋もれた錆だらけの廃車等も確認出来る。
「ここは……廃村ね」
「はいそん?」
「人が住まなくなった村の事よ。
そう言えば森の中に廃村が有るって地図に描いてあったっけ……。
何にしてもこの家はちょっと休めそうに無いね……他にも家が有るし、もうちょっと状態の良い家を探そう、しんのすけ」
「分かったゾ」
二人は休憩が可能な程度に状態の良い廃屋を探し始める。
◆◆◆
「ここは……」
倉沢ほのかは廃村へとやって来た。
白んできた空の下、廃屋群がぼんやりと薄暗い視界の中浮かび上がる。
「ここに居るかなぁ」
憎き北沢樹里を捜し出すべく、ほのかは廃村内へと足を進める。
長い間手入れのされていない道は草によって侵食され、消えかかっている有様で、
お世辞にも歩きやすいとは言い難かった。
それでもほのかは何かに取り憑かれたように歩みをやめる事は無い。
一刻も早く、北沢樹里から裕也を取り戻さなくては。
ほのかの頭にはそれしか無かった。
(どこに居るのかなぁ……北沢さん……)
雑草を踏みしめながら、ほのかは北沢樹里の姿を捜し続けていた。
そして。
「……!」
ほのかの足が止まる。
前方、少し離れた所に、二つの人影を発見した。
片方は恐らく小さな子供、もう片方は、まだ遠目で暗くて良く分からないが、自分と同じ制服を着ている風に見えた。
樹里の他にも女子生徒は何人か居る、だから樹里では無いのかもしれないが、接触する価値は有る。
「あれは……誰なのかな」
ほのかは見付けた二人に向かって歩いて行った。
◆◆◆
「どこもかしこもボロ過ぎるんだけど……とても休める状態じゃない」
「オラもう疲れた……」
まともに休めそうな家が見付からず、辟易する樹里としんのすけ。
かと言って外で休むのもかなり無理が有る。
どうしたものかと考える樹里。
「お?」
その時、しんのすけがある物を発見する。
それは、こちらに向かって歩いてくる人影だった。
「おねえさん、誰か来るゾ」
「え?」
しんのすけに言われ、樹里が確認する。
まだ距離が離れていて、薄暗い為顔までは良く分からないがどうやら自分と同じ制服の、女子生徒のようだった。
「おねえさんと同じ服着てるゾ」
「……」
その女子生徒が次第に、顔が分かる距離まで近付いてくる。
そして、樹里がその女子生徒の正体に気付くのと同時に、女子生徒から声が発せられた。
「ようやく見付けましたよ、北沢さん」
「……倉沢、さん」
それは因縁深き、倉沢ほのかだった。
「おお! また綺麗なおねえさん!」
しんのすけは樹里に続いて現れた「綺麗なお姉さん」に興奮して目を輝かせたが、
直後に、ほのかから発せられているただならぬ雰囲気を感じ取り我に返る。
ほのかは微笑みを浮かべていたが、樹里にはほのかから自分に向けられる殺意、憎悪がはっきりと読み取れた。
「貴方が生き返っているなんて……あんなに念入りに殺したのに」
「……」
「まあ、私も死んだんですけどね……いや、そんな事はどうだって良いです……。
……裕也君はどこですか? 北沢さん」
「は?」
困惑する樹里。一体何の事か分からなかった。
この殺し合いに、ほのかの捜す「海野裕也」は居ない筈。
そもそも、海野裕也は、ほのかが殺してしまったではないか。
誤殺だったとは言え、それは揺るがない事実だ。
「ちょ、ちょっと何を言っているの? ゆ、裕也はこの殺し合いには居ないじゃない。
それに、裕也は、倉沢さん、貴方が」
「ああ、やっぱり、やっぱり隠すんだ」
「いや、ちょっと」
「分かってましたけどね。分かってましたよ。うふふふふふふふふふふふふふふ」
樹里が反論を試みるもほのかは聞く耳を持たない。
その様子から彼女が正気では無い事は明らかだった。
「お、おねえさん!」
ただならぬ気配に居ても立っても居られなくなったしんのすけが意を決してほのかに話し掛ける。
「何ですか?」
「樹里おねえさんは何も隠して無いし嘘なんて吐いてないよ!
オラと樹里のおねえさんはずっと一緒だったけど、ここに来るまで誰とも会ってないゾ!」
「しんのすけ……」
力強い声で、しんのすけは樹里を庇った。
それに対し、ほのかは無表情だったが、やがてしんのすけに向かって口を開く。
「しんのすけ君、でしたね。私は倉沢ほのかと言います。
……貴方は確か、見せしめで殺されたあの赤ちゃんの」
「そうだゾ。ひまのお兄ちゃんだゾ」
「……しんのすけ君。貴方は知らないでしょうけど、貴方と一緒に居るその人はとても酷い人なんですよ」
「え?」
「北沢さんは、私から大切な人――裕也君を奪ったんですよ。
しんのすけ君、貴方の妹と同じぐらい、私にとって大事な人だった、裕也君を、
この女は、寝取って、私から! 奪ったの!!」
突如激高したほのかにビクッと身体を震わせ驚くしんのすけ。
樹里はとてもばつの悪そうな面持ちである。
ほのかの言っている事は事実――――愛餓夫に足を撃たれて陸上選手になる夢を失い、
自暴自棄になり、ほのかの恋人・裕也を誘惑し、行為に及んでしまった。
「裕也君と一緒に島から出る為に、一生懸命頑張ってたのに。
間さん、壱里塚君、久世さん、神崎君、長谷川さん、吉良さん、太田君。
みんなみんな殺して……もうちょっとだったんだよ?
ねえ、裕也君はどこ? 北沢さん、答えて、答えて、答えて、答えて、答えて!」
もはや丁寧口調すらかなぐり捨てたほのかはまくし立てながら装備している56式自動歩槍の銃口を、
樹里としんのすけの方に向ける。
このままではまずいと樹里はどうにか打開策を講じようとする。
だが、自分が蒔いた種とは言えほのかはもうまともに対話出来そうに無い。
その時、しんのすけは樹里もほのかも思いも寄らなかった行動に出た。
「ケツだけ星人!! ぶりぶりー! ぶりぶりー!」
「「は?」」
尻を丸出しにして言葉で説明するのが困難な奇妙な踊り(?)を始めたのだ。
完全に呆気に取られる樹里とほのか。
一瞬、彼の気が狂ってしまったのでは無いかと樹里は思ったが、
目の前のほのかがしんのすけの動きに気を取られて自分から目を逸らしている事に気付き、しんのすけの真意に気付く。
(そう言う事ね! しんのすけ!)
すぐさま樹里は行動を起こす。
「うらぁっ!!」
ほのかに向かって突進し、渾身の体当たりをお見舞いした。
不意を突かれたほのかは簡単に突き飛ばされその身体を強く地面に叩き付ける事となった。
その際に持っていた銃も手から離し落としてしまう。
「しんのすけ! 逃げるよ!」
「おお!」
樹里はしんのすけを小脇に抱え、全速力で森に向かって走り出す。
以前の殺し合いでほんの序盤でしか発揮出来なかった、自慢の脚力を思う存分に発揮する。
ほのかは身体の痛みを堪えながら立ち上がり、落とした56式自動歩槍を拾い上げ、
逃げて行く二人に向けて引き金を引いた。
その表情は鬼そのものだった。
ダダダダダダダダダッ!!
発砲炎により辺りが断続的に明るくなり、無数の銃弾が銃口から放たれるが、樹里は止まる事無く森の中へと消えて行った。
「逃げた……! ああ、もう!」
悔しさの余り地団駄を踏むほのか。
追い掛けようとも思ったが、樹里の足の速さは知っていた。
自分では到底追い付けないだろうと、追跡する事は諦める。
「まあ、良いです……逃がしませんよ北沢さん。
必ず、必ず再び捜し出して、次は逃げられないように両足を撃ち抜いてあげます。
絶対、絶対に、裕也君を取り戻してみせますから」
樹里達が走り去った方向を見据えてほのかは自分の決意を述べた。
彼女は、狂った心がそれに拍車を掛けていたのかもしれないが、どこまでも海野裕也一筋で、
彼の事になれば見境が無くなり、周りが見えなくなった。
それ故に、背後から忍び寄る、千切れた電気コードを持った人狼の青年には気付かなかった。
人狼の青年は素早くほのかの細い首に電気コードを巻き付け、思い切り絞め上げた。
突然の事にほのかはパニックに陥り、苦しみながら首に巻き付いたコードをどうにかしようとするが、
大人の男の力で絞め上げられるコードは少女の力では最早どうしようも無く。
涙を流し、泡を吹き、小水を漏らし、激しくのたうち回った末に、ビクビクと身体を痙攣させ、ほのかは死んだ。
しかし彼女にとってはこれで良かったのかもしれない。
愛する裕也の居る世界へと今度こそ旅立てたのだから。
【倉沢ほのか@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル 死亡】
【残り 38人】
◆◆◆
人狼の青年、コーディは森の中を歩き、廃村へ辿り着いた。
そして、黒髪の少女が、茶髪の少女と小さな子供の二人と相対している場面に出くわす。
コーディは隠れて三人の様子を窺った。
黒髪の少女は突撃銃を持っており、二人組の方も何の武装を持っているか分からない。
今持っているバール、ステーキナイフ、電気コードで三人一気に殲滅出来ない事は無いかもしれないが、
不確定要素も多く、無理せずにしばらく様子を見る事にしたのだ。
そして突然小さい子供が、尻を丸出しにして奇声を発しながら奇妙な踊り(?)を始めた。
何をしてるんだとコーディは首を傾げたが、程無く茶髪の少女が黒髪の少女を突き飛ばし、子供を脇に抱えて走り出した。
どうやら子供は黒髪の少女の気を引こうとしたらしい。
黒髪の少女は逃げていく二人に向けて発砲したが、仕留め損なったようで、悔しそうに地団駄を踏んでいた。
コーディは今がチャンスだと思った。
一人になった黒髪の少女に背後から忍び寄り、千切れた電気コードでその首を絞めた。
少女は激しく暴れたが、コーディの凶行を阻むには至らず、程無く絶命した。
「結構可愛いな」
今は泡を吹き、涙を流し、顔も鬱血し、失禁までしており無惨な様となってはいたが、
良く良く見れば黒髪の少女はかなりの美少女であった。
ならば殺す前に身体を愉しんでおけば良かったとコーディは少し残念に思った。
「悪いね、俺も生き残りたいからさ」
コーディは少女が持っていた突撃銃と、デイパックの中に入っていた予備のマガジンを回収した。
強力な武器が手に入り喜ぶコーディ。
「さて、長居は無用だな、ここから離れよう」
先程の銃声を聞き付け人が集まってくるかもしれない。
長い間歩いて疲労も溜まっているので戦闘は避けたかったコーディは、コンパスを取り出し、
東南の方角を目指し、再び森の中へと入って行った。
【早朝/D-1廃村】
【コーディ@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター】
[状態]健康
[装備]56式自動歩槍(12/30)@オリキャラ/
俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター
[所持品]基本支給品一式、56式自動歩槍の弾倉(5)、バール(調達品)、ステーキナイフ@自由奔放俺オリロワリピーター、
千切れた電気コード@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター
[思考・行動]基本:殺し合いに乗り、優勝を目指す。
1:東南に向かう。どこかで休みたい。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※北沢樹里と野原しんのすけの容姿を大まかに記憶しました。
※千切れた電気コード@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーターは倉沢ほのかの首に巻き付いたままになっています。
【後半へ続く】
最終更新:2014年09月23日 15:09