49話 泣き出した女と戸惑い
大沢木小鉄とテトは、旅館を出立し、雪原地帯を越えて廃墟と化した城へとやって来た。
旅館にて、テトはゴム製の長靴を発見、これを調達した為、今度は足を濡らさずに済んだ。
一方の小鉄は冷たい雪も外気も物ともせず、足が濡れようがお構いなしと言った様子で、とにかく元気だった。
「小鉄君、足大丈夫?」
「ヘーキヘーキ! これぐれえ何ともねぇぜ」
今まで炎上するアパートの中に図らずも突っ込んだり、脳天に鉛筆が刺さって生死の境を彷徨ったり、
極寒の猛吹雪の中図らずも全裸になった上倒壊した家屋の下敷きになったりしても生還してきた小鉄にとって、
単なる雪と寒さなど何ら障害になり得ない。
「頑丈ね、小鉄君……」
「まあなー」
テトは小鉄のタフさを再認識した。
「そろそろ放送も有るし、この城の中で一度休むとしましょう」
「分かったぜ。にしてもでけー城だな~ボロっちぃけど」
二人は半開きになった正面玄関を潜って廃城の中に足を踏み入れる。
かつては壮麗だったであろうエントランスホールだが、無人となってどれくらいの月日が経過しているのか、
床は埃や天井や壁からの細かい瓦礫、鳥の糞等で酷く汚れ、
侵入者が荒らしたのか椅子やテーブル、蝋燭台等の調度品があちこちに散らばり蜘蛛の巣が張っていた。
窓ガラスもあちこちが割れたり、窓枠ごと消えていたり、植物が侵食したりしている。
「埃と黴と、鳥の糞の臭いが……休めそうな部屋は有るのかしら」
「くっせぇな……でもこれだけ広いと、他に誰か居るんじゃねぇか?」
「そうね、気を付けないと……」
小鉄の懸念通り、城内で他参加者に遭遇する可能性も考慮しつつ、テトと小鉄は休息出来そうな部屋を探し始める。
◆◆◆
サーシャは、学校の廊下に立っていた。
「……あれ? ここは」
周囲を見渡すサーシャ。
見覚えが有った――――紛れも無く、自分が通っている高校だった。
しかし、静かで、人の姿がどこにも無い。
「どうして? 私は……確か」
「サーシャさん」
「!」
背後から声を掛けられ、サーシャは振り返る。
そこには、以前の殺し合いで自分を殺そうとした久世明日美が立っていた。
「く、久世さん!?」
サーシャは瞠目する。
殺されそうになったから、だけでは無い。
彼女は以前の殺し合いで、放送で名前を呼ばれていた――――つまり、死んでいる筈。
「……サーシャさん、逃げるなんて酷いじゃない。
私はアナタを救いたかっただけなのに……」
「……」
「あの後、私、アナタを見付けようとして、頑張ったんだけどね」
「……え?」
突如、明日美の身体のあちこちに小さな穴が空いて、そこから真っ赤な液体が止めどなく溢れ始めた。
それは、明日美の足元に流れ落ち、大きく赤い水溜まりを作っていく。
突然の出来事を、サーシャは呆然と眺めていたが、同時に確信する。
やはり、明日美は死んでいるのだと。
「こうして、私は死んじゃったの。
でも、大丈夫だよ? だって、こうして、サーシャさんに会えたんだから。
さあ? サーシャさん? 私と一緒に、あっちの世界に、行こう? 行こう? 行こう? 行こう???」
血塗れの顔に優しい笑みを浮かべながら、両手を翳し、明日美がゆっくりとサーシャに近付いた。
「う、あ、うわあああああああああああ!!!」
サーシャは逃げ出した。
悲鳴を上げて、明日美に背を向けて逃げ出した。
しかし、程無く、誰かとぶつかってその動きは止められる。
「痛いじゃない、サーシャさん」
聞こえた声は、麻倉美意子の物。
サーシャは声の方向に、恐る恐る視線を向ける。
確か、以前の殺し合いの時、自分は麻倉美意子の――――。
「痛いのはもう勘弁だよ……喉、ぐちゃぐちゃになっちゃったんだあああああ」
喉の部分が切り裂かれ、原型を留めぬ程に破壊された、麻倉美意子が立っていた。
無論、生きていられる筈が無い、それ以前にサーシャは以前の殺し合いで彼女の死体を確認している。
「うあ、あああ」
もはや言葉が出なくなるサーシャ。
気付けば、周りには血塗れのクラスメイト達が立っていた。
身体に穴が空いていたり、酷い切り傷が有ったり、身体の一部を欠損していたり、全員、惨い有様になっていた。
「う゛っ……ゴホッ!」
突然、吐き気に襲われ、サーシャは込み上げてきたそれを吐き出す。
それは、血。
自分の手が血に塗れていく。
首や腹の辺りが熱い。
見れば腹が抉れていた。首も、見えないが、きっと同様だろう。
クラスのみんなは笑っていて。
そうだ、自分も、銃弾を受けて、もうこの世に――――。
……
……
「……あああぁぁああああぁああああ!!?」
絶叫と共に、サーシャは覚醒した。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」
とても息が荒く、身体は汗でびっしょりと濡れていた。
立ち上がって辺りを見回すが、血塗れのクラスメイトはどこにも居ない。
そればかりか、今居るのは学校ですら無く、自分が隠れている廃城のホールであった。
自分の身体も、汗まみれな事以外は、何とも無い。
「……夢……?」
窓からは陽の光が差し込んでおり、どうやら自分はいつの間にか眠ってしまい、そして悪夢を見てしまったらしい。
「……はああぁ……」
あの地獄そのものの光景が夢であった事に一先ず安心するサーシャ。
何故あのような夢を見てしまったのだろうか。
いや、一度殺し合いで壮絶な体験をしてしかも一度死ねば、それが悪夢となるのも無理は無いだろうか、と、サーシャは思った。
「今、何時なの?」
夜が明けているのだからかなり長い間眠っていたのだろう。
サーシャは自分のデイパックから基本支給品の時計を取り出して時刻を確認する。
もう既に、第一回目の放送の時間が迫っていた。
「かなり寝てたのね……寝ている間に襲われたりしなくて良かった」
寝込みを襲われ命を落とす危険も有った。
それでいて無事であったのは幸運だったと彼女は思う。
「……あれ?」
しかし、サーシャはすぐに自分が完全に無事な訳では無い事を知る。
股間の辺りに違和感を感じた。
汗で全身濡れていたのでそれだとも思ったが、股間の感触は汗にしては不自然であった。
そして漂ってくるアンモニア臭で、サーシャは確信に至った。
「おしっこ、漏らしちゃった?」
失禁である。
悪夢にうなされ、サーシャは寝ている間に小水を漏らしてしまっていたのだ。
顔を真っ赤にして、自分の痴態にショックを受けるサーシャ。
「嘘でしょぉ……やだあぁあ……私もう18なのにおねしょなんて……ううっ……」
情けなさ過ぎて、じわりと涙が浮かび始めた、その時。
「あれ……? サーシャ?」
「!」
聞き覚えの有る声で自分の名前を呼ばれた。
その声の主は、以前の殺し合いにおいて、サーシャが最終的には殺そうとまで考えていた人物の物。
声の方向に顔を向けると、やはり、そこには見知らぬ人間の少年と共に、その灰色の猫族のクラスメイトが居た。
「テト……?」
◆◆◆
城内を見回っている最中、テトと小鉄は女性の悲鳴を聞いた。
間違い無く城のどこかからであった。
落ち着いて休み、及び放送を聞く為、二人は悲鳴の元を確認する事にした。
殺し合いに乗った人物と遭遇した時の事も考え、テトは小鉄から受け取った小型自動拳銃、ローバーR9を、
小鉄はテトから受け取った小刀、ドスを装備している。
「ここかしら……」
そして二人はとあるホールの中に入った。
相変わらず荒れ果てた部屋で、壊れた棚等が放置されていた。
その中に、テトは見覚えの有る姿を発見する。
「あれ……? サーシャ?」
クラスメイトの、紺色のハーフ猫族の少女、サーシャだった。
向こうもこちらに気が付いたようで、驚いた様子で顔をこちらの方に向ける。
「テト……?」
「ねーちゃんのクラスメイトか?」
「そうよ……さっき、悲鳴が聞こえて……貴方?」
「こ、来ないで!」
近寄ろうとしたテトをサーシャが拒んだ。
テトはサーシャが自分を警戒しているのだと最初思ったが、すぐに別の理由だと分かった。
サーシャから、アンモニア臭が漂ってきていた。
「……あれ? 何か、おしっこくさ……」
「やめてぇ! やめてよぉ……」
「……サーシャ、貴方……」
「うっ……うっ……ううぇええん……」
知られたくなかったのだろう、崩れ落ちてサーシャは泣き始めてしまった。
テトと小鉄は困惑気味で、しばらく立ち尽くしていた。
【早朝/E-5廃城】
【テト@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]健康、困惑
[装備]ローバーR9(6/6)@オリキャラ/エクストリーム俺オリロワ2ndリピーター
[所持品]基本支給品一式、ローバーR9の弾倉(3)
[思考・行動]基本:今の所は殺し合う気は無い。
1:ええ……。
2:小鉄君と行動する。
3:太田達及び貝町ト子は殺してやりたい。ラトは複雑。他のクラスメイトについては保留。
[備考]※本編終了後からの参戦です。
※超能力の制限については今の所不明です。
※参加者のラトが自分が蘇らせたラトでは無い事に直感的に気付いています。
※大沢木小鉄が自分とは別世界の人間だと判断しました。
【大沢木小鉄@漫画/浦安鉄筋家族】
[状態]健康、困惑
[装備]ドス@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル
[所持品]基本支給品一式
[思考・行動]基本:殺し合いには乗らない。のり子達を捜す。
1:ションベン漏らしてるぞこの青い猫のねーちゃん……。
2:テトのねーちゃんと行動。
3:俺達、生きて帰れるのか?
[備考]※少なくとも「元祖!」にて金子翼登場後、彼と親しくなった後からの参戦です。
※テトが別世界の人間だと言う事を、余り理解出来ていませんが、何となくは分かったようです。
【サーシャ@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]身体中汗で濡れている、失禁、恥辱、嗚咽
[装備]???
[所持品]基本支給品一式、???
[思考・行動]基本:死にたくない。
1:……。
2:クラスメイトの事は気になるが今は保留する。
[備考]※本編死亡後からの参戦です。
※
油谷眞人の容姿は把握していません。
《支給品紹介》
【ドス@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル】
小刀。元ロワにおいて倉沢ほのかに支給され海野裕也と北沢樹里の殺害に使われた。
最終更新:2014年09月29日 00:41