16話 残影
銃声。
商店街を歩いていた少年、長野高正が耳にしたのは紛れも無く銃声だった。
しかもかなり近い所から聞こえた。
何やら争う声のような物も聞き取れたので、高正はすぐ近くにあった洋品店の中に隠れ様子を窺う事にした。
ダァン!
再び銃声。
駆ける足音が聞こえる。
裏路地から飛び出してきたのは、見覚えのある犬獣人の少女。
(あれ? あいつ――宮永じゃ)
その少女が、自分の同級生の宮永正子だと認めた直後。
ダァン!
三度目の銃声が聞こえ、ガラスの向こうの宮永正子はアスファルトの上に倒れ込んだ。
(!)
思わず身を乗り出しかけたがすぐに物陰に隠れる。
銃声と同時に倒れた、つまり撃たれたと見て間違い無い。
彼女を銃撃した者がすぐ近くにいる。
ここで自分が出ていけばほぼ間違い無く銃撃者と鉢合わせになるだろう。
宮永を助けたい気持ちはあったが。
◆
腹の辺りが凄く痛い、と、地面に伏した宮永正子は思った。
喉の奥から鉄錆味の液体が込み上げて止まらない。
アスファルトの上に垂れたそれは赤い色をしていた。
両手で押さえた腹はとても熱い。
どうなっているか見たかったが怖くて見られなかった。
足音が近付いてくる。
間違い無く殺される。
痛みを堪えて正子は立ち上がろうとした。
だが腹に力を込めようものなら更に酷い激痛が走り、立てない。
「嫌だ、嫌だ……死にたく……ない」
突然、訳の分からないまま殺し合いをさせられ、死ぬのは嫌だった。
きっとこの殺し合いに巻き込まれた人々全員がそう思っている筈だと、宮永正子は思う。
いや、全員では無いかもしれない――――自分を襲った、あの青狐の女性はどうなのだろう?
ダァン!
「……っ」
四度目の銃声。
高等部を殴打されたかのような衝撃。
それが宮永が最期に感じた知覚となった。
S&WM3ロシアンモデルを携えた、編上靴にニーソ、そしてベルトと手袋のみ、
ほぼ全裸と言ういでたちの青狐女性、ヘレン・オルガは獲物を仕留めた事を確認し、ニタァと笑った。
「あっはは~、やったー」
明るい様子で笑うヘレン。
目が爛々としており焦点も定まっておらず、涎を垂らし、更に失禁して股間が濡れていた。
傍から見てとても正常とは思えない様子。
事実、彼女は突然殺し合いに連れて来られた事により発狂してしまっていた。
妙に明るいテンションなのはそのせいである。
「何持ってるのかなぁー」
射殺した犬少女の所持品を漁るヘレン。
しかし見つけた物は彫刻刀セットだった。
武器として使うには余りに心許無く、持って行く気にはなれなかった。
「あはははっ、あはははははははっ」
彫刻刀セットを放り投げ、笑いながらヘレンはふらふらと歩き去っていった。
◆
隠れていた洋品店から、長野高正は外に出る。
そして、射殺された少女がやはり自分の同級生の宮永正子だと言う事を確認する。
「……宮永、ごめん」
もしかしたら助けられたかもしれない。
しかし、自分の支給品は火掻き棒で、銃相手に飛び出すのは自殺行為としか言い様が無い。
自分の身体を張って友達を助ける程の勇気も知恵も、高正には無かった。
「……」
同級生が目の前で殺されて、発狂した狐女性を目撃して。
自分が死と隣り合わせの場所にいると、高正は改めて実感した。せざるを得なかった。
【宮永正子 死亡】
【残り40人】
【D-5/商店街/早朝】
【長野高正】
[状態]健康
[装備]火掻き棒
[持物]基本支給品一式
[思考]
基本:生き残る。
1:……。
[備考]
※ヘレン・オルガの容姿のみ記憶しました。
【ヘレン・オルガ】
[状態]発狂、失禁、ハイテンション
[装備]S&W M3ロシアンモデル(2/6)
[持物]基本支給品一式、.44ロシアン弾(12)
[思考]
基本:とりあえず目に付いた人から殺していく。
1:あははははは
[備考]
※長野高正には気付いておらず、離れた所にいます。
《人物紹介》
【長野高正】 読み:ながの・たかまさ
17歳。高校二年。誰とでも分け隔て無く接するが、本心は見せず深くは関わらないようにしている。
性根は臆病かつ自分の身の安全を優先するタイプで友人の危機は自分に害が及ばないレベルの物なら助け、
それ以外は上手く理由を付けて傍観するか逃げている。
ボサボサ頭を茶色く染めた中肉中背の外見。ちなみに伊賀榛名と同じ高校。
【宮永正子】 読み:みやなが・まさこ
17歳。高校二年。垂れ耳の茶色犬獣人少女。
そこそこ勉強も出来て運動も出来る、性格も悪くは無い、特に目立った特徴が無い。
【ヘレン・オルガ】
青狐獣人の冒険者。18歳。美乳。露出癖がありほぼ全裸の格好を好む。
基本的に明るいが割と精神的に脆い。
意外な事に処女だったりする。何度か貞操の危機にはあったが無事回避してきた。
最終更新:2013年03月20日 17:35