KUROAME(前編)

85話 KUROAME(前編)

MUR達が長い間拠点に使っているイベントホール。
第二放送からそれなりの時間が経った頃、訪問者が現れる。

「誰ゾ!」

見張りに立っていたMURがStg44を構えて警戒しつつ、訪問者「達」に問い質した。
「達」と述べたように、訪問者は複数、正確には四人居た。

「待ってくれ! 俺達は殺し合いには乗っていない」

四人の内の一人、茶色の狼獣人の少年が殺し合う気が無い事をMURに訴える。
「それは本当か?」と訝しんだMURだったが、良く考えれば殺し合いにやる気になった者が、
四人も固まって動くのは考え難かった為、程無くMURは警戒を解いた。

「すまなかったゾ……」
「いや、警戒するのは当然だ。気にしないでくれ」
「俺はMURって言うゾ。じゃあまず、君達の名前を聞かせてくれるかな?」

MURがそう求めると四人はそれぞれ自分の名前を述べた。
狼の少年が「ノーチラス」、紺色毛皮の猫少女が「サーシャ」、灰色毛皮の猫少女が「君塚沙也」、丸刈りの少年が「大沢木小鉄」。

「ん? ノーチラス君とサーシャちゃん、は、ト子ちゃんのクラスメイトだな?」

ノーチラスとサーシャが、同行者のト子から聞かされていた彼女のクラスメイトの内の二人であると思い出したMURが二人に尋ねる。

「そうだけど、貝町を知っているのか?」
「もしかして一緒に?」
「ああ。中に居るゾ。それと、小鉄君だったかな?」
「おう」

続いて、こちらも同行者のフグオからその名前を聞かされていた大沢木小鉄に、MURはフグオの事を伝えた。

「フグオ君の、クラスメイトだね? フグオ君も一緒に中に居るんだゾ」
「本当か!?」

フグオの事を聞いた小鉄は大きく反応した。
その様子から、彼もフグオを始めとして自分のクラスメイトに会いたかったのだなとMURは思う。

「取り敢えずみんな、中に入って、どうぞ」
「お言葉に甘えて……」
「お邪魔します」
「入るよー」
「フグオ……」

MURは四人をイベントホールの中へと通した。
メインに使っているホールにて、ノーチラスとサーシャはト子に、小鉄はフグオに再会する。

「ノーチラスに、サーシャか……」
「貝町、久しぶりだな。取り敢えず元気そう、だな」
「久しぶりだね、貝町さん……」
「……あ、ああ」

ト子は引き攣り気味の表情で、ばつが悪そうだ。
それの原因はサーシャとの対面である、と言うのも以前の殺し合いでト子はサーシャを殺害した。
元々クラスメイトとは余り会いたくなかったが、よりによって自分が殺した一人と再会してしまうとはとト子はとても気まずい。

「どうしたの?」
「あ、いや」
「大丈夫だよ? 前の事なら、気にしてないから」
「……本当か?」
「気にしてないって言うか……状況が状況だし、今は不問にしとく」
「……」

サーシャは口ではそう言ったが、恐らく心では自分に憎悪を向けているに違い無い、ト子はそう思わずには居られない。
尤も自業自得、因果応報なのではあるが。
一方のノーチラスは、サーシャの様子が妙な事には気付いていたようだが、
サーシャがト子に殺される遥か前に落命していた為に事情が良く分からいのだろう、特に何も言わずに黙っていた。

「フグオ! うおーお前こんな所に居たのかよ、探したぞ!」
「小鉄っちゃん! 会いたかったキャプリィ……うっ、うっ」
「おいおい泣くなって」

小鉄との再会を涙を流して喜ぶフグオ。
今までどんな美味しい食物を食べた時よりも、幸福に感じていた。
いつ死に直面するか分からない状況で、精神をすり減らしていた彼にとって、小鉄との再会は大きな安らぎを与えた。

「いいゾ~これ」

同行者二人が知り合いに再会出来て良かったと、MURはほっこりとした表情を浮かべる。
ト子とサーシャの間の妙な空気は少し気にはなったが。

……

……

サーシャは以前の殺し合いで同行者共々、貝町ト子に殺された。
そして今、そのト子が目の前に居る。
とは言っても、今更ト子をどうこうしようとも思わないが。
ただそれでも、一度自分を死に至らしめた張本人である事には変わり無い為もやもやする物は有る。
現にたった今のト子とのやり取りで、サーシャの返答には少し険が籠っていた。

「どうかしたのか?」

ノーチラスが心配してサーシャに尋ねる。
彼はサーシャがト子に殺される遥か前に死亡した為に事情は知らない。

「あー、大丈夫、こっちの事」

サーシャは誤魔化し、正確には答えなかった。
見た限り、今回の殺し合いではト子は殺し合いには乗っておらず、仲間を作ってこの殺し合いに反抗している。
「少なくとも」今現在は自分達と思想を同じくしているのだから、わざわざ遺恨を作らなくても良いだろう。

(テトの時とはえらい違いね)

テトの時は会ったら殺意を抑えられなくなるのではと危惧したりしたのに、
自分を殺害したト子に対しては比較的寛大な接し方をしているのは何故なのかとサーシャは自問自答した。
テトは殺し合いの黒幕、ト子はその殺し合いに乗って自分やその時の仲間を殺した。
双方、罪状としては似たより寄ったりだと思うのだが。

(良く分からないや……)

結局理由はつかず、サーシャは思考を切り上げた。

……

……

「どうかした? 私の顔に何か付いてる?」

自分の顔を見ていたト子に、沙也がやや不快感を湛えた顔をしながら尋ねた。
とは言え、理由は予想付いていたが。

「……いや、すまない、ちょっと、クラスメイトに似ていたものでな」

やはりか、と沙也は少しうんざりした。

「テトって子でしょ」
「! 何故それを……」
「ノーチラスとサーシャさん、小鉄君にも間違われたからねー、あ、サーシャさんと小鉄君は、
そのテトって子と一緒に行動してたらしいわよ」

やや険の籠った口調で沙也がサーシャに言う。
元々自己承認欲求が強い沙也にとって――沙也に限った話では無いかもしれないが――他人と間違われる、
或いは他人の面影を重ねられるのは気分の良い物では無い。

「そ、そうなのか……すまない、確かにテトに似ていると思った。容姿だけでなく声も」
「そこまで言われたらちょっと本人に会ってみたいけど……それも叶わないか。
貝町さんだっけ? 貴方はテトって子の友達か何か?」
「いや、私は……」

沙也が何気無く質問すると、ト子は何やらとても困ったような、言い難そうな表情を浮かべ口籠った。
それを見て、どうやらト子はテトと何か嫌な思い出が有り、話したくないのだろうと沙也は判断する。
少なくとも仲の良い友達、と言う関係では無さそうだ、と。

「あー、良いよ。言いたくないなら無理に答えなくても」
「……済まん」

どうせ碌な事では無いだろうし、ト子とテトとの間に有った事など自分には関係無いと、沙也はそれ以上の追求はしなかった。

……

……

「仁ものり子も、春巻先生も、死んじゃったプリ……」
「ああ……」

再会を遂げたフグオと小鉄は今は亡き友人や担任教師に思いを馳せる。
時々金絡みで暴走する事は有ったが友達思いの優しい男だった土井津仁。
小鉄と時々喧嘩もしたが明るく元気だった関西娘、西川のり子。
度々問題を起こし遭難し多くの人に迷惑を掛けていたが何やかんやで本気で憎めなかった春巻龍。
いつも当たり前のように身近に存在したこの三人とはもう永久に会話は出来ない。
そう思うとフグオはどうしようも無く悲しかった。

「金子先生は今どこに居るのかなぁ」
「分からねぇけど……アイツも結構、すげぇ体力してるし頭も良いし、きっと生き残ってるさ。
少なくともさっきの放送では名前は呼ばれなかったんだからまだ生きてる筈だ」
「うん……」

小鉄は、恐らく自分を励ます意味も籠めて希望的な事を言うが、根拠はどこにも無いだろうとフグオは諦観気味に思う。
フグオものり子や仁、春巻ならきっと生き残ると信じていた。だが現実は違ったのだ。
金子先生だって、放送時点では生きていたかもしれないが今現在はどうなのかなど分からない。

「フグオ、暗ぇよ……大丈夫か?」
「あ、ご、ごめんキャプ……」
「いや、謝る事は無ぇけどよ……いつもお菓子だの何だの食って笑ってるお前がそんな暗い表情するの多分初めて見たからよ」
「……」

小鉄の言う通り、自分はもうすっかり笑顔を浮かべる事が無くなってしまったとフグオは感じた。
状況が状況だけに仕方の無い事かもしれないが、普段の自分を知る者が今の自分を見れば小鉄のような感想を抱く事は間違い無いだろう。
あの頃、お菓子やお肉、カルピスを味わい、笑っていたあの頃が、今では遠い遠い日の事のようにフグオは感じた。


……

……


「MURさん達は、ずっとこのイベントホールに居るのか?」
「そうだよ(肯定)」

会話するMURとノーチラス。
MURは自分とト子、フグオがイベントホールにやって来るまでの経緯を簡ケツに説明する。
時計塔でゲームをスタートし、同時にト子と出会った事。
暫くして鈴木フグオと、彼と同行していたアルジャーノンと言う喋る馬が現れ一緒に行動する事になった事。
しかし、ケルベロモンと言う巨大な黒い犬の襲撃を受けアルジャーノンは殺害され、時計塔も焼け落ちた事。
その後、時計塔を後にし、ガソリンスタンドで鈴木正一郎の死体を発見し、イベントホールに辿り着きそこでも吉良邑子の死体を発見した事。

「そっちも大変だったんだな……鈴木と吉良か」
「ト子ちゃんのクラスメイトなら、ノーチラス君のクラスメイトでも有るよな。仲が良かったのかゾ?」
「いや、そう言う訳じゃないけど、クラスメイトが死んだと聞かされるのはやっぱり良い気分はしない」
「ト子ちゃんから聞いてるが、殺し合いは二回目だと……」
「ああそうだ。俺は前の時は、第一放送前に死んでしまったけど」
「そうか……」
「……今度はこっちの事も話すよ」

ノーチラスもまた今までの経緯をMURに話した。
沙也との性行為関連についてはぼかしたものの概ね事実通りに話す。
西の小さな住宅地での沙也との出会い、警察署にて小鉄とフグオのクラスメイト土井津仁の死体を発見した事、
その直後くらいに触手の怪物の襲撃を受け逃げるようにして中央部市街地へ辿り着き、
そこでも襲撃を二回程受け、二回目の襲撃の時にサーシャと小鉄に出会った事。
また、二回目の襲撃者が、開催式で見せしめに殺された赤子の母親、野原みさえである事も話した。

「ノーチラス君も大変だったなぁ」
「まあな」
「しかし、触手の怪物……そんな物まで居るとはたまげたなぁ」
「リカオン獣人の、俺より少し年下ぐらいの子供から、大量の触手が生えたような感じだった。
小鉄が、そいつの服に付いていた名札を見たんだ。名前は『小崎史哉』って言うらしい」
「小崎史哉……? 確か放送で呼ばれていたゾ」

触手の怪物の物らしい「小崎史哉」と言う名前は、第二放送で呼ばれていたと思い返すMUR。

「ああ、誰が倒したのかは知らないけど、どうやらあの触手の怪物はもう居ないみたいだ」

もう触手の怪物の脅威に怯える必要は無い。
少なくともノーチラスはそう考えていた。
怪物の名前が放送で呼ばれたのだから、そう考えるのが普通であろう。

「おっ、そうだな、安心だゾ」

MURもその考えに便乗する。
だが胸の内では何か引っ掛かる物が有った。

(本当に、その触手の怪物は居なくなったのか? 何だか、気になるゾ)

確証は無い。確信出来る証拠と言う物は無かったが、MURには触手の脅威が完全に消え去ったとは思えなかった。



【後半に続く】




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最終更新:2015年03月22日 20:48