92話 ほら足元を見てごらん、これが貴方の歩む道
MURは気が付くと、夜の自宅前道路に倒れていた。
起き上がり、とても懐かしい感覚のする我が家の玄関を開けると、驚いた顔の両親と妹、飼い猫が出迎えてくれた。
全員がMURの帰りを喜び、涙を流した。
居間に移動し父親がMURに話し掛ける。
「心配したんだゾ……! 政府の人から、お前や野獣君達が居なくなっていたって聞いて」
「? どう言う事だゾ? トッチャマ」
父親の話した中の「政府の人」と言う言葉が気になり聞き返すMUR。
そして父親がMURに説明したのは、MURのクラスが「BR法」対象クラスに選ばれた事、
修学旅行に向かうバスの中で会場に連行する為クラスの全員が眠らされたがその時にMURや野獣達一部のクラスメイトが消えていた事。
手掛かりも無く脱走の可能性も低いと言う特異な事態だった為やむなく消失した生徒以外でBR法の競技を行った事。
皮肉な事に平野のバトルロワイアルに巻き込まれた結果MURは命拾いをした形になったのだ。
「そうだったのか……野獣達だけじゃなくてクラスの皆はもう」
「一体何が有ったの? 教えて欲しいゾ」
母親がMURに真相を尋ねる。
MURは信じて貰えるかどうか分からなかったが有りのままの事を全て話した。
自分や自分以外の消えたクラスメイトは、平野源五郎と言う男の催した別の殺し合いに巻き込まれた事。
クラスメイト以外にも大勢の人間――人間以外も居たが敢えて人間とする――がその殺し合いに巻き込まれ、もがき、非情にも命を落として行った事。
最終的に52人も居た参加者の内、自分含め3人しか生き残らなかった事。
最初は半信半疑だった家族も次第にMURの言う事を信じるようになった。
「そーなのかー……兄ちゃん、生きて帰ってきて本当に良かった」
妹がMURに抱き付いた。
「ただいまだゾ……」
妹の頭を撫でながら、MURは涙を流した。
その後、MUR一家は人知れず引っ越す事になった。
BR法によるバトルロワイアル直前に行方不明になった一人であるMURが帰還した事が広く知られれば、
間違い無く政府の調査やマスコミの追求を受ける事になる。
拉致され別のバトルロワイアルに巻き込まれていたなどと話した所で信用されまい。
下手すれば逮捕されてしまう危険性も有った。
出発の日。深夜に最低限の荷物を乗せたトラックがMURの家を出発した。
荷台に隠れるようにMURは乗っていた。
これから先、殺し合いと同じ位辛い現実が待ち構えているかもしれない。
だが、MURは絶対に挫けたりしないと誓った。
あの殺し合いで協力し合い、そして死んでいった友人達、仲間達の事を思いながら。
共に生き残った、別世界の人間、北沢樹里と
原小宮巴の事を思いながら。
(俺は頑張るゾ……何が有ろうと、死んでいった野獣達や、仲間達の分も生きるゾ)
固い決意を胸に、MURは慣れ親しんだ町を家族と共に後にした。
【俺得バトルロワイアル7th MUR END】
最終更新:2015年06月07日 19:39