明日は来るのか(後編)

91話 明日は来るのか(後編)

「くそぉ……ト子ちゃん……!」
「貝町さん……」

また一人、仲間が目の前で死んだ事に悔しさと遣る瀬無さで心が張り裂けそうになるMURと樹里。
しかし、現実は非情にも彼らに更なる追い打ちを掛ける。

「あー、タイムオーバー」

巴が諦観が籠った台詞を発する。
MURと樹里がタイムが表示されているディスプレイに目を向けるとほぼ同時に、
タイマーが0を示しけたたましいブザーが鳴り響いた。
死を覚悟する三人だったが、サーシャやト子のように矢で射抜かれるのかと思いきや、意外な事に何も起こらない。

「あれ、な、何も起きないゾ……?」
「どういう……」
「あっ、MURさん、北沢さん、あれ」

巴が後方、つまりスタート地点の方向を見て指差す。
MURと樹里が足を踏み外さないようにして後ろを振り向く。

スタート地点に有った筈のレーザーシャッターが、自分達に迫ってきているのが確認出来た。

「ファッ!?」
「嘘!? レーザー、こっち来てる!!」

どうやら制限時間が過ぎると即死する訳では無く、レーザーシャッターが迫ってくるルールだったらしい。
これも平野はあえて言わなかったのだろう。何にせよ絶体絶命の状況には変わり無い。
急いで渡り切らねば、レーザーに身体を寸断されてしまう。

「一気に行けば何とかなるかなぁ……一、二の、三!」

掛け声と共に巴が駆け出す。
一歩、二歩、三歩、四歩、と、最早平均台とはとても呼べないレベルにまで細くなってしまった足場の上を巴は確実に踏み締め、
遂にゴールとなる対岸に辿り着いた。

「おお! 巴ちゃん! 凄いゾ」
「わ、私達も行こう!」

迷っている暇は無い、レーザーシャッターはすぐそこまで迫ってきている。
巴のように一気に駆け抜ける事にしたMURと樹里。

「ヌッ!?」

しかし、MURが途中で、右足を踏み外してしまう。
樹里がそれに気付いたのはゴール地点に到達してからだった。

「MURさん!?」
「ぬ……おおおあああ!!」

肝を冷やしている樹里が見たのは、残った左足のみで踏ん張り、足場に手を着く事無く体勢を立て直したMURだった。
人間、追い詰められると驚異的な力を発揮するのは本当なのだと樹里は思う。

「死んで、たまるかゾ!!」

MURは走る。
ゴールまで4メートル、3メートル、2メートル、そして――――。

……

……

生存者達を切り刻むべく迫っていたレーザーの壁は、ゴール地点までやって来た所で消滅した。
その様子を、原小宮巴、北沢樹里、そしてMURが見届ける。

「おめでとう、君達三人がクリアした。君達三人が、この殺し合いから生き延びたのだ」

どこからともなく平野の労いの声が聞こえた。
遠いスタート地点にはもう平野の姿は見えない。どこかに移動しているのか。だが今の三人にとってはもうどうでも良かった。
生還した喜びと、仲間を失った悲しみ――巴は悲しんでいる様子は無かったが――そして、
最後まで平野源五郎の手の内で踊らされた虚しさとが綯交ぜになった複雑な気持ちであった。

急に辺りが暗くなる。
しかし三人の姿だけははっきりと視認出来ると言う不思議な状況。
その暗闇の中、ぼうっと光の柱が浮かび上がる。

「その光の中に入り給え……そうすればこの殺し合いから解放される。これで、お別れだ。私の催しに付き合ってくれて、ありがとう」

暗闇から聞こえた平野の声。
「何がありがとうだ」と噛み付きたくなったMURと樹里だったが、下手な事をすればノーチラスの二の舞になる可能性が有り、
出そうになった言葉をぐっと飲み込んだ。

「これで終わるの……実感が沸かないなぁ……私、一度死んでるんだけど、どうなるんだろう」
「あっ、そういえば私も……」

一度落命した身である自分達が「帰った」らどうなるのだろうかと樹里と巴は不安に思った。
想像も付かない。何しろ死者が生き返ると言う事自体普通なら有り得ない事だ。
どうなるのか分からないと思った途端、光の柱に入るのを躊躇ってしまう二人。
そんな二人を見てMURは何とかしたいと思った。悩む彼女達を置いて一人行く気にはなれない。

考えた末、MURは二人に声を掛ける。

「大丈夫だゾ! 例え一回死んでいるとしても、二人は今ここに居るじゃないか!
樹里ちゃんは樹里ちゃん、巴ちゃんは巴ちゃんだゾ!」

正直な所、MUR本人も自分が何を言っているのか良く分からなかったが、
勇気付けたい、元気付けたいと言う気持ちは二人には伝わったようで、樹里と巴は笑顔を見せた。

「そうだね……ありがとう、MURさん」
「良い事言うねぇー」
「仲間なんだから、当たり前だよなぁ?」
「じゃあ、行こうか……ここでお別れだね」
「そうなるねぇ」
「寂しいけど仕方無いゾ……元気でな!」

別れを惜しみながら、三人は光の柱の中に飛び込んだ。
三人の姿は眩い光と共に消え去り、後には暗闇だけが残った。
やがてその暗闇が段々と明るくなり、元の平均台の有る部屋へと戻る。

「……消えたか」

別室に移っていた平野がモニターから様子を見ていた。

「これでこの殺し合いは終了だな……おい、じゅんぺい君はどうだ」

近くに居たゴーグル男に平野はノーチラスに重傷を負わされたじゅんぺいの容態を尋ねる。

「思いの外強く殴られたようで……暫くは安静が必要かと」
「そうか……では、後始末を頼むよ」
「了解しました」

平野から指示を受け、ゴーグル男は去った。

「さて……中々に面白い物だな、バトルロワイアルと言う物は……またやろうかな……?」

バトルロワイアル――殺し合いゲームを、平野は大いに気に入った様子であった。
再び執り行う計画を、彼は頭の中で組み立てて行く。


【ゲーム終了】

【MUR@ニコニコ動画/真夏の夜の淫夢シリーズ/動画「迫真中学校、修学旅行へ行く」  生還】

【北沢樹里@パロロワ/自作キャラでバトルロワイアル  生還】

【原小宮巴@オリキャラ/俺のオリキャラでバトルロワイアル3rdリピーター  生還】




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最終更新:2015年06月08日 13:36