94話 身体だけは丈夫なので今日も笑っていよう
(ああ、まさか家に帰れるなんて思わなかったなぁ)
自分に抱き着いて「良かった、良かった」と咽び泣く母親を見ながら巴は思った。
あの光の柱に飛び込んだ所で意識を失い、気付いた時には自宅アパートの自室に倒れていた。
それを母親が発見し、今に至る。母親は少しやつれているように巴には見えた。
母親は警察に捜索願を出していた為、後日巴は警察署へ事情聴取に向かう。
信じて貰えるかどうかは疑問だったが虚偽答弁する訳にも行かず巴は担当した狐獣人の女性刑事にありのまま話した。
すると女性刑事はすんなり信じてくれた。意外に思った巴が何故信じてくれるのか聞き返すと、
「貴方が嘘を言っているようには見えないからね」
とだけ答えた。しかし、もっと別の事情が有るように見えた。
だが恐らく追及した所ではぐらかされるのが落ちだろうし、そもそも特に興味も無い為巴は「そうですか」と頷くに留まった。
ただ、帰り際、女刑事が――恐らく巴には聞こえていないと思っていたのだろうが微かながら巴にも聞こえていた――呟いた一言は少し気に掛かった。
――――……やっぱり彼女も他の事例と……。
気には掛かったが、それだけで、ともかく事情聴取を終えた巴はその後、普段通りの、最初の殺し合いに巻き込まれる前の生活に戻る。
学校の友人から何が有ったのか尋ねられる事も勿論有ったが「風邪を引いた」など適当な事を言って誤魔化した。
刑事に話したような事を何度も言うのは面倒だったし、刑事や母親は信じてくれたが友人が信じてくれる保証は無かったからだ。
二ヶ月程経ったある日曜日、巴はとある地方都市へ出掛ける事にした。
母親は少々渋ったものの、ショートメールで連絡する事にしてどうにか出発する事が出来た。
様々な人々が行き交う大通りを歩き適当に店を回っていたが、昼頃になり空腹になった為、巴はとあるファミリーレストランに立ち寄った。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
「はい」
「禁煙席と喫煙席どちらになされますか?」
「私煙草吸うように見える?」
「あ、いえ、その」
「禁煙席」
「は、はい。空いているお席へどうぞ」
少し店員をからかった後、巴は禁煙席区画へ向かう。
「ん?」
そこで、巴は見覚えの有る三人組を発見する。
小学生位の竜人の少年、高校生位の紺色狼獣人の少年、同じく高校生位の狐獣人の少女。
「あれって……わあ、凄い偶然」
巴はその三人が誰なのかすぐに分かりニヤリと笑みを浮かべる。
彼らも無事に帰る事が出来たのだ、と、彼女にしては珍しく安堵した。
「……え?」
「嘘、え、君は」
「ちょっ、な、何で……!?」
「やあ、久しぶり。そんな幽霊でも見るような目で見ないでよ」
【俺得バトルロワイアル7th 原小宮巴 END】
最終更新:2015年06月08日 13:35