暗澹の心

27話 暗澹の心

狐閉レイナによる柏木寛子への説得は非常に難航を極めたが、
取り敢えず自殺願望を減退させる事には成功した。
だが、悲観的、自虐的思考は相変わらず。
身を隠すのに使っている神社のお堂の隅でぶつぶつと独り言を呟いていた。

(どうしたもんか……)

レイナは困り果てる。
彼女が思っている以上に寛子の抱えた事情は深刻だった。
何しろ、家族は不和、家出しても捜して貰えない、挙句の果てに悪い人狼に捕まり監禁凌辱。
死にたくなるのも無理は無い。
だが、出会ってしまった以上、目の前で死なれるのは嫌だった。
かと言って、殺し合いと言う状況下で、ずっと凹まれてても、正直に言えば行動の妨げになる訳で。
だがこれ以上寛子を立ち直らせる方法はレイナには思い付かなかった。
望み薄だが自力で立ち直ってくれないだろうかとレイナは思う。

「誰かいますか?」
「!」

社の外から女性の声が聞こえレイナの耳がぴくりと動いた。
その声は寛子にも聞こえたようで、ぶつぶつ言うのをやめて社入口の方へ顔を向けた。

「いるなら入っても良いでしょうか、私は殺し合いには乗っていません」

女性は殺し合いに乗っていないと言うが、鵜呑みにする訳にはいかない。
レイナはそう思い、寛子に声を出さないよう合図を送り、自分の武器であるナイフを手に取る。

「入ってきて、私達も乗ってはいないから」

女性に入ってくるよう促した。
万一女性が不穏な行動を取った場合は即座にこちらもアクションを起こせるようにである。
そしてその女性が社の引き戸を開けて中に入ってきた。
金髪の外国人風の少女だった。

「えーと、私は狐閉レイナ、あっちにいるのは柏木寛子さん。あなたの名前は?」
「アゼイリアって言います」
「アゼイリアさんね……乗ってないって言ったけど、本当よね?」
「本当です」
「……なら、良いんだけど、あ、私達も本当に乗っていないからね」

互いに本当に殺し合いをする気が無いかどうか確かめ合う。
もっとも口上だけでは確実では無いとはお互い分かってはいたが。
それでも双方どうにか納得し、アゼイリアは社の引き戸を閉めて中に入り、座った。

◆◆◆

娼館を探索したアゼイリアだったが運が良いのか悪いのか誰とも遭わなかった。
その後探索を切り上げ、平地、森を歩き神社に到着した。
そこには二名先客がいた。
狐獣人の女性、狐閉レイナと、生気の薄い表情を浮かべた自分と恐らく同年代の少女、柏木寛子。
互いに殺し合う意思は無い事を確認して、二人の隠れる神社の社内に入った。

「ええと、お二人はいつからここに?」
「この殺し合いが始まってすぐぐらい……ええと、その、ね」
「?」
「柏木さん、自殺しようとしてたのを止めたのよ」
「えっ、そうなんですか……?」
「それを止めて、それでも死ぬって聞かなくて、ずっとここで説得してたのよね。
流石にもう死ぬとは言わなくなったけど、危なっかしくて……放ってはおけないのよ」
「……」

隅の方にいる寛子にちらっと視線を向けるアゼイリア。
レイナから寛子の事を詳しく聞かされる。
アゼイリアも戦災孤児となって、自殺を考えた事も一度では無い身としては、寛子の事が他人事のようには思えなかった。
しかし「死ぬのは駄目」「生きてれば良い事はある」等の言葉は、恐らく寛子も散々言われたであろうし、
そんな事を言ったぐらいで寛子が立ち直れる事はまず無いだろう。

「……無理に説得しても、多分受け入れて貰えないと思います」
「そ、そうかな、やっぱり……」
「でも、見捨てる事も出来無いんでしょう?」
「うん」
「ここは、無理に説得せず、普通に連れて歩いてみては?
と言っても自分も、人を立ち直らせるプロとかでは無いので正しいかどうか分からないんですけど」
「それは私もそうだし……」
「……二人で何こそこそ話してるのよ」
「「!」」

二人で密談を交わしているのが気に入らなくなったのか、
寛子が二人に近付いて話に割って入る。

「あ、いや、これからどうしようかって。ね?」
「そ、そうです」
「ふーん……」
「取り敢えず、ずっと神社にいても仕方無いし、移動しようと思うんだけど、柏木さんも来る、よね?」
「……(コクリ)」

寛子は黙って頷いた。

「よし……あ、そう言えばアゼイリアさんって何を支給されたの? 私はこのナイフなんだけど」
「私はこの金槌ですね、柏木さんは?」
「……これ」

寛子がアゼイリアに見せたのは、小型のリボルバー。
ニューナンブM60、日本の警察で使われている拳銃。
予備弾も数発入っているようだった。

「拳銃ですか、凄いですね」
「……別にこれで頭撃とうとかは考えてないから」
「い、いや、聞いてないですよ」
「頭蓋骨砕けて死ぬのはちょっと嫌だし」

言葉の節々から、まだ自殺を考えているようだとレイナとアゼイリアは思った。
柏木寛子の心の闇は相当根深いとも。

三人は荷物を纏め神社を出立した。


【D-4/神社/朝】
【柏木寛子】
[状態]首にロープの跡
[装備]ニューナンブM60(5/5)
[持物]基本支給品一式、.38SP弾(10)
[思考]
基本:死にたい。
1:憲悦には会いたく無い。死んで欲しい。
2:取り敢えず狐閉さん、アゼイリアと一緒に行く。

【狐閉レイナ】
[状態]健康
[装備]コンバットナイフ
[持物]基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いから脱出したい。
1:柏木さん、アゼイリアさんと行動。

【アゼイリア】
[状態]健康
[装備]金槌
[持物]基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いはしたくない。殺し合いから脱出する手段を探す。
1:狐閉さん、柏木さんと行動する。


026:頭がパーン 目次順 028:崩壊は唐突にやってくる
008:落ちるところまで落ちて 柏木寛子 040:『これからの身の上』
008:落ちるところまで落ちて 狐閉レイナ 040:『これからの身の上』
001:気持ち良くなれない娼館 アゼイリア 040:『これからの身の上』
最終更新:2013年03月20日 17:23