逃れられぬカルマ

39話 逃れられぬカルマ

「あ、あ゛あ゛……」

血の跡を点々と地面に残しながら、緒方修二はようやく病院へと辿り着いた。
出血多量で獣人特有の強力な生命力も底を尽きかけている。

「ま、前が、見え……」

血を流し過ぎて視力にも悪影響が出ていた。ふらふらと病院のロビーの奥へ進む。
重量の有るレミントンM700が足枷になっていたが、思考能力も鈍りデイパックにしまうと言う選択肢も浮かばない。

(あれ、でもどうすれば良いんだ……?)

ここで修二は気付く。
自分一人でどうやって、背中の深い斬り傷の治療を行うのかと。
絆創膏を貼ったり消毒薬を塗る程度ならどうにかなるがそのようなレベルの傷では無い事は分かっていた。
急激に絶望感が修二の心を支配していく。ガクッと膝をつく修二。ここで自分は死ぬしか無いのか。
生き残ろうとして人殺しにまで手を染めたと言うのに。

「い、嫌だ……死にたくない……くそっ……」
「どうしたの?」
「え……」

突然聞こえた女性の声に、修二は俯いていた顔を上げる。
ぼやけた視界に映ったのは、銀髪の半獣人の美しい女性。外国人のようだった。
一瞬、自分が殺し合いに乗っている事も忘れ他に人が居た事に修二は安堵したが、すぐにその表情は凍り付いた。
女性の右手には物々しい金属製の鈍器が握られていたのだから。

「凄い怪我してる……痛いでしょ、苦しいでしょ……でも大丈夫……楽にしてあげる」

半獣人の女性は鈍器を持って修二に近付く。
逃げなければ、修二は身体を起こそうとしたが、最早力が入らず言う事を聞かない。ライフルを構える余力も無い。

「やめ、ろ……! やめろぉ!」

必死の修二の懇願も虚しく、その頭部に鈍器が振り下ろされる。
鈍い音、そして床に飛び散る血。
例えようの無い激痛に修二の意識が一気に遠のいた。
身体中が痺れ、どこが上なのか下なのかも分からなくなる。
そして容赦無く何度も、修二は鈍器で殴られた。

(い、き、たかった……の……に……)

自分が生き残る事を願い殺し合いゲームに乗った漫画家の鹿獣人は、病院にてゲームオーバーとなった。


◆◆◆


メイスで殴り殺し、頭部が無残な状態になった鹿の男の死体を見下ろすマリア。
怪我をして弱っていたおかげであっさり殺す事が出来た。
心臓は鼓動を早めており軽い興奮状態だったが、思っていたよりは落ち着いていられた。初めての殺人であるにも関わらずだ。
殺人への抵抗が薄いと言うのは恐らくこのゲームにおいてはプラスに働く要素であろう。普段の生活ではマイナスに違い無いだろうが。

「良い武器持ってるじゃない……ライフルなんて」

しめしめと言った様子でマリアは鹿の男が持っていたスコープ付きのライフルを手に取る。
強力な武装を確保すればそれだけ自分の生存率も上げられる。

「重いなぁ……」

但し、ライフルはマリアには少々重量が有り過ぎた。


【緒方修二  死亡】
【残り34人】


【午前/E-6病院ロビー】
【マリア・ベーラヤ】
状態:健康
装備:メイス、レミントンM700(3/4)
持物:基本支給品一式
現状:殺し合いに乗り、優勝を目指す。但し身の安全を優先し無茶はしない。ウラジーミルについては放置。
備考:これから予備弾も回収するつもりで居る。


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最終更新:2016年07月22日 11:24