後ろの正面だあれ

60話 後ろの正面だあれ

行為を終えすっかり親睦が深まった蒲生重勝と神楽坂雪子は読書室に戻る。
すると、長野高正、エリノア、ユルゲンがいない。

「あ、おかえり二人共」
「ああ、狐閉さん。えーと、エリノアさんと、高正と、ユルゲンがいないようだけど」
「エリノアと長野君は見張りよ。ユルゲンは工具を探しに行って貰ってる」
「へえ……工具? ああ、首輪の事か」
「そう。工具が無いと流石に何も出来ないし……ユルゲン結構強いらしいから大丈夫だと思って……」
「無事戻ってくると良いんだけどな」
「そう、ね……」
「雪子おねえちゃんと重勝おじちゃん、何してたの?」

和歌子が二人に尋ねる。
二人は一瞬何て言うべきか、と迷ったが長嶺和歌子は小学生でありながら高度な変態だと言う事は、
ユルゲンから既に聞かされていたので正直に言う事にした。
雪子から切り出す。

「蒲生さんと、気持ち良い事してたの」
「えっちしてたの! いいなあ」

重勝と雪子が行為をしていたと知り羨ましそうに和歌子が言う。
和歌子も出来る事なら行為をしたかったが相手がいなかった。
ユルゲンには図書館での一件もあり頼み難いため、性欲を持て余す結果となっている。

「わたしだって!」

感極まったのか和歌子はいきなりパンツを脱ぎ出した。

「おいおいおい和歌子ちゃん!」
「やめろ! 早まるな!」

ウラジーミルと重勝が止めに入るがなおも和歌子は服を脱ごうとする。
しかも傍から見るとウラジーミル、重勝の二人が和歌子に乱暴しようとしている風にも見える状態だった。
特にウラジーミルは幼女にも興味があったため和歌子の暴挙を制止しつつも、
その幼い身体を見て欲情してしまう自分を否定出来なかった。

「あっ、ウラジーミルさん……お*んちんが」
「いっ! あ、これは……!」

ウラジーミルの股間のモノが膨張しているのを目ざとく和歌子は発見する。
しかし。

「……でも、ウラジーミルさん大怪我してるから、無理は言えないよ」
「和歌子ちゃん……」

隻腕隻眼、更に満身創痍と言う状態のウラジーミルに、行為を無理強いする事は出来無い。
和歌子は妙な所で冷静だった。
諦めたのか、和歌子は服を着直し始める。

「何してんのあんたら」

レイナが呆れ顔で重勝達の事を見る。
重勝達は乾いた笑いでごまかした。

◆◆◆

図書館を遠目に見ながら、ソフィアと石清水成道は作戦会議を行っていた。
正面口、裏口共に見たが、見張りがいる。
正面が露出の高い銀髪の女性、裏口が黒いブレザー姿の人間の少年。
女性は槍、だが腰のベルトに拳銃らしき物も持っている。
少年は上下二連式の散弾銃を所持していた。
見張りを立てていると言う事は図書館内部には仲間がいるのだろう。それが何人かは分からないが。

「さてどうする」
「どうするも何も、裏と表から一気に行ったら? コンニチハーみたいなフレンドリーに近付いてさ」
「……まあ、それしか無いか。ここまで来たんだから、小細工はよそう」
「んじゃ、私裏行っていい?」
「良いぞ、俺は表だ。お互い幸運をな」

そして二人は行動に移る。

◆◆◆

表口。
エリノアは十文字槍を持ち、腰のベルトにコルトパイソンを引っ掛け見張りに就いていた。
ユルゲンは工具を探しに行ってまだ戻ってこない。

「無事だと良いのだけれど」

ユルゲンの無事を願うエリノア。

「ん……」

ある物を見付けエリノアが身を乗り出す。
図書館入口の門付近から、学生服姿の青猫の少年が出てきた。
両手を上げて敵意が無い事を表しているが、エリノアは警戒を怠らずに少年と接触する。

「止まって下さい。持っている武器とデイパックを地面に置いて」

十文字槍を突き付けエリノアは青猫少年に命じる。
少年はおとなしく従い、自分の持っていた拳銃とデイパックを地面に置いた。

「他に武器を持っていたら同じように地面に置いて下さい」

続けて命じると、少年はベルトに差していた警棒を取り出し投げ捨てる。

「これで全部ですよ」
「……年のため身体検査をさせて貰います」
「……どうぞ」

エリノアは青猫少年に近づき、服の上から身体に触れ何か無いか確かめる。
しかしポケットにもベルト部分にも何も無かった。
エリノアは検査を切り上げる。

「すみません。こんな事して許して下さい」
「いいえ、良いんですよ……俺、石清水成道って言います」
「私はエリノア……殺し合いには乗っていません。あなたは……」
「乗ってませんよ」
「そうですか……ちょっとここで待って下さい、図書館の中に私の仲間がいますから、伝えてきます」

成道の事を図書館内にいる仲間に知らせようと、エリノアは建物の中へ向かおうとする。
その時、成道に背を向ける形になる。成道の表情が一変した。
ズボンの腰周り、自分の身体に巻きつけるように隠しておいた自転車のチェーンをそっと取り出す。
そして一気にエリノアに近付き、背後からその細い首にチェーンを巻き付けた。

「!」

一気に締め上げようとしたが、エリノアが左手を首とチェーンの間に瞬時に入れた事で防がれた。

「……やはり、こんな事だろうと思ってましたよ。警戒しておいて正解でした」

成道を睨み付けるエリノア。
そして、次の瞬間、持っていた十文字槍を放り、腰のベルトに差していたコルトパイソンを取り出した。
その銃口を成道の腹部に押し付け、発砲した。
.357マグナムの銃弾はいともたやすく青猫少年の腸と腹筋を穿ち彼の生命維持活動がもはや困難な程の損傷を与える。
銃弾が貫通し背中から突き抜け血と肉片が飛び散った。

「ガハッ……! あ゛……」

成道が腹に感じるのは激痛と言うより、熱。
ただひたすらに熱く、口から生温い液体が溢れ出る。
その液体は鉄錆の味がした。
身体中の力が抜けていき、両膝をつく。
腹の部分に目をやれば真っ赤に染まり、赤い液体が腹に空いた穴から流れ出ていた。
それを見た瞬間、成道は己の死を直感する。

「ここまで、来たのに……残念、だ」

座礁船で一人、市街地でまた一人殺し、ここまで生き残ってきたが結局は殺される。
自分はあの世に行ったら、きっと地獄に行くだろう。
まあ、二人も殺してるのだから無理も無いと、成道は諦めにも似た感情を抱く。

(ああ、そうだ、ソフィアは、どうし、て、る――――――)

仮にも共闘していたソフィアの安否を案じながら、成道の意識は消滅した。

「……中にいるみんなに伝えた方が良いわね」

襲撃者が現れ、そしてそれを返り討ちにした事は図書館の中にいる仲間に伝えるべきだ。
エリノアは図書館内に向け歩き始めようとした、その時。

「……!」

銃声が響いた。かなり近い。

とても嫌な予感がする。

エリノアは図書館内部へと走った。

◆◆◆

図書館の内部にいる仲間へ報告しに行こうとした長野高正は、背後から撃たれ倒れた。
何を報告しようとしたか?
裏口を見張っていた時、兎の女性が現れた事をである。
兎の女性には待っているよう言ったのだが、兎の女性はそれを守る気など更々無かった。
なぜなら殺し合いに乗っていたからだ。
もっとも、高正に接触を試みた時は殺し合いに乗っていないと欺いていたのだが。

高正の生死も確かめず、兎の女性、ソフィアは図書館奥へと向かう。
その手には愛用品となったSVT-40を持っていた。

◆◆◆

「何だ今の音? 銃声じゃないのか?」

突如図書館内に響いた銃声。
それは読書室にいた重勝、雪子、レイナ、ウラジーミル、和歌子全員が聞いた。
そして最初に声をあげたのは重勝である。

「裏の方から聞こえましたよ、何かあったんじゃ」
「裏……高正が見張ってた筈、あいつは大丈夫か?」

重勝が自分の短機関銃を持ち、裏口へ続く廊下への扉を開けようとした。

「蒲生さん、待って!」

雪子が迂闊に行くなと重勝を止めようとした時、扉が乱暴に開かれた。
開かれた扉からライフルらしき物を持った兎の女性が飛び込んでくる。

ガスッ

「げうっ」

重勝はライフルの銃床で強か殴られ、そのまま地面に倒れ気を失う。
兎女性はライフルの銃口を、一番小さな長嶺和歌子に向けた。

「え――――」

次の瞬間には和歌子の頭部は吹き飛び、肉片が本棚やテーブルに飛び散った。
和歌子は自分に何が起きたのか理解する暇さえ無かったであろう。
周囲の者もつい数分前まであどけない笑顔を浮かべれいた綺麗な顔が半分以上失われるとは、
思ってもいなかった。

だが、凶弾は彼らに仲間の死を受け入れさせる時間を与えず次の犠牲者を決める。

隻腕隻眼のマンティコアの青年に、銃口が向けられた。

三発の銃弾が、彼の胸を貫き、肺と心臓を穿った。
手榴弾の爆撃でも、片腕片目を失い全身を破片で斬り裂かれながらも取り留めたウラジーミルの命は、
三発の鉛弾によって奪われる事となった。

「みんな、逃げ、……」

自分の命が消えると分かったウラジーミルが最期に取った行動は、仲間の身を案じる事だった。

弾の切れたライフルを捨てると、兎の女性は腰に提げていた大型のナイフに持ち替え、
呆然としていた雪子とレイナに視線を向けた。

「あっ……あ」
「……」

レイナも雪子も頭が真っ白になってしまい、動けなかった。
これ幸いと、兎女性が雪子の方へ向かっていく。

「うあ……!」

雪子が死を覚悟した。

ダァン!!

一発の銃声。

「うぐ……う!?」

兎の女性の左足に赤い華が咲く。
そして女性は左の膝を床につき、動きを止める。その状態のまま、首を背後へと向けた。
十文字槍を左手に持ち、右手に拳銃らしき物をこちらに向けた銀髪の女性が立っていた。
女性は表玄関を見張っていた女性、ならば表から行くと言っていた共闘相手の成道は。

「ははっ……駄目だったか、調子乗り過ぎたなぁ」

ダァン!!

再び銃声が響き、兎女性の頭部が弾け、彼女は床に倒れた。
血溜まりが広がっていき、それが兎女性の死を明確に物語る。

「……」

エリノアは周囲を確認する。
重勝は倒れているが息はあるようだ。
ウラジーミル、和歌子は、良く見なくても死んでいる事は分かる。
雪子は腰を抜かし、レイナも同様。
裏口の方へ行くと倒れている高正を発見する。

「長野君!」
「う……うう」

辛うじて息はあったが、夥しい出血にもう手後れだとエリノアは判断する。

「俺、撃たれちまった、よ……」
「長野君……」
「死にたく、ねえ……死ぬのは、嫌だ……」
「……」

エリノアはもはや意識も定かでは無くすっかり体温も下がってしまった高正の手を握り締める。
それぐらいしか、彼にしてやれる事は無かった。
そして程無く、彼の身体から力が抜ける。それが意味するものは一つしか無い。

エリノアが読書室に戻ると、雪子が重勝の介抱をしていた。
重勝は口が血塗れになっている、聞けば銃床で思い切り殴られたらしい。

「……ウラジーミルさん、和歌子ちゃん、長野君が……」
「……そうか……畜生……」

エリノアから三人の死を聞き、無念そうに言う。

レイナは血の海となった読書室を見て、半ば放心していた。
大勢に増えた仲間がまた減ってしまったのだから無理も無い。
涙は出なかったが、悲しい事には変わり無く、そう思えるぐらいには、まだ自分の心は麻痺はしていないのだとも、
レイナは感じていた。


【石清水成道  死亡】
【長嶺和歌子  死亡】
【ウラジーミル・コスイギン  死亡】
【ソフィア  死亡】
【長野高正  死亡】
【残り8人】


【F-3/図書館読書室/午後】
【エリノア】
[状態]健康、悲しみ
[装備]コルト パイソン(3/6)、十文字槍
[持物]基本支給品一式、.357マグナム弾(12)、バール、青竜刀、スナイドル銃(0/1)、
.577スナイドル弾(9)、RGD-33手榴弾(2)
[思考]
基本:殺し合いはしない。
1:何て事……。

【狐閉レイナ】
[状態]疲労(大)、左頬に擦過射創、呆然
[装備]ベレッタM92FS(11/15)
[持物]基本支給品一式、イングラムM10(0/40)、イングラムM10予備弾倉(2)、針金、ニッパー、
三十年式銃剣、ベレッタM92FSの弾倉(3)、コンバットナイフ、S&W M3ロシアンモデル(4/6)、.44ロシアン弾(6)、杉下愛美の首輪
[思考]
基本:殺し合いから脱出したい。
1:こんな……。

【蒲生重勝】
[状態]左頬に打撲、口の中が血塗れ、軽い脳震盪
[装備]タンペレーン ヤティマティック(40/40)
[持物]基本支給品一式、タンペレーン ヤティマティックの弾倉(3)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。死にたくない。
1:畜生……。

【神楽坂雪子】
[状態]悲しみ
[装備]グルカナイフ
[持物]基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。死にたくない。
1:……。


059:成就する欲求、そして集いし反抗の者達 目次順 061:戦い続いて日が暮れて
059:成就する欲求、そして集いし反抗の者達 蒲生重勝 061:戦い続いて日が暮れて
059:成就する欲求、そして集いし反抗の者達 神楽坂雪子 061:戦い続いて日が暮れて
059:成就する欲求、そして集いし反抗の者達 長野高正 死亡
059:成就する欲求、そして集いし反抗の者達 エリノア 061:戦い続いて日が暮れて
059:成就する欲求、そして集いし反抗の者達 長嶺和歌子 死亡
059:成就する欲求、そして集いし反抗の者達 ウラジーミル・コスイギン 死亡
059:成就する欲求、そして集いし反抗の者達 狐閉レイナ 061:戦い続いて日が暮れて
055:デスカウントコンビネーション ソフィア 死亡
055:デスカウントコンビネーション 石清水成道 死亡
最終更新:2013年04月16日 22:07