61話 戦い続いて日が暮れて
放送の後、稲葉憲悦、イェレミアス、篠原昌信の三人は、神社を出て森を東に突っ切った。
東北部の市街地を目指すためである。
北と南は禁止エリア、西は何も無く、他に目ぼしい選択肢も無かった。
道中、幾つか死体があった。
白い狼、シェパード犬獣人、踊り子。
どれも身体に無数の穴が空き、特に踊り子と思しき女性の頭部は直視に耐えない程損壊していた。
昌信は吐き気を催し、イェレミアスも吐き気とまではいかないが気分が悪くなる。
だが憲悦は割と平気だった、普段少女を監禁凌辱したりしているせいか耐性がついているのだろうか、と本人は考える。
数時間経ってようやく東北市街地に到着し、目立つ建造物である図書館に三人が到着する。
正面玄関付近で、全裸のハイエナ獣人の男と、狐獣人の青年が、ぐったりとした青猫の少年を二人で持ち上げていた。
少年はどうやら生きてはいないらしい。
「……! 誰だ?」
ハイエナが三人に気付き、狐の獣人もそれに続いて三人の方を見る。
少年の死体を地面に置き武器を取ろうとした。
「待ってくれ! 俺達は殺し合いには乗っていない!」
イェレミアスが即座に殺し合いをする気は無い事を主張する。
しかし、ハイエナと狐は警戒を解かない。
ハイエナは刀、狐は短機関銃らしき物を三人に向けたままだ。
「悪いがそう簡単には信用できない。こっちは仲間が三人殺されたばかりでな」
「仲間? ……その青猫の事、か?」
「こいつは違う。こいつが仲間を殺した内の一人だ。でも、死体を放っておく訳にもいかないから、
片付けようとしていたんだ」
イェレミアスの問いに答えるハイエナの口調には、微かながらも悲しみと怒りが籠っているように聞こえた。
「それよりあんたら、まず持っている物を全部地面に置け」
短機関銃を三人に向けたまま狐の青年が命じる。
よく見れば青年は口の辺りに僅かに血が付いており、片方の頬は毛皮の上からでも腫れているのが分かる。
強力な殴打を食らったのだろうか。
イェレミアスと昌信は大人しく従おうとしたが、憲悦は違った。
「やだっつったらどうすんだ? その銃で俺達を撃つのか?」
「!! ちょ、稲葉さん!」
挑発めいた事を言い始める憲悦を昌信が慌てて制止しようとする。
「何だと、おい! あんた今の自分の立場が分かって……」
「立場だァ? 俺らが何かやましい事でもしたか? お前らがいきなり武器向けてんじゃねえか」
「……っ」
「やる気になってんなら三人組で行動したりなんかしねぇよ。
そもそも対話なんかしねぇ、さっさと襲ってるさ」
「……そりゃあ……」
狐の青年は明らかに憲悦に気圧されていた。
ハイエナの男もまた憲悦の言に耳を傾ける。
二人共いきなり武器を向けた事には少なからず罪悪感があるようだ。
「……殺し合いには本当に乗っていないんだな?」
ハイエナが三人に確認する。
「ああ」
「乗ってない」
「乗ってません」
憲悦、イェレミアス、昌信が順に答える。
「……信じても、良さそう、か? ユルゲン」
「……まあ、武器向けられて挑発する度胸は面白いと思うけど……大丈夫かな? 俺は良いと思うが重勝君」
「そうか……俺も、信じる、か」
結局、ハイエナの男ユルゲンと狐の青年重勝は三人を信じる事にした。
「ところでお前らは乗ってないんだよな?」
「ああ」
「乗ってないよ」
「そりゃ良かった。俺は稲葉憲悦ってんだ」
「イェレミアス」
「篠原昌信です……」
「……中に入ってくれ、仲間がいる」
重勝に促され、三人は図書館内部へと足を進めた。
ユルゲンと重勝は引き続き青猫少年の死体の片付けに入る。
◆◆◆
工具を手にして図書館に帰ってきたユルゲンを待っていたのは悲惨な状況。
和歌子、ウラジーミル、高正が命を落としていた。
重勝も負傷し、雪子もレイナも精神的ショックが強かった。
襲撃者は二人、そしてその二人はエリノアが討ち果たした。
和歌子の頭部は、元の顔が分からない程ぐちゃぐちゃになっていた。
冒険者と言う職業柄、死体を見る事には慣れている。和歌子より小さな子供の死体も、いくつも見てきた。
だが、和歌子程、短時間とは言え親しくした幼女は数少ない。
それゆえ思う所も多々あった。
(一緒に連れていくべきだったかな……ごめんよ和歌子ちゃん……)
心の中で謝り、ユルゲンは和歌子の亡骸を死体置き場と化した奥の倉庫へと運んだ。
その後、入口付近の襲撃者の内の一人、青猫少年の死体を重勝と共に運ぼうとした時、
人狼、妖狐、チーター少年の三人と遭遇した。
◆◆◆
「……あなたは」
狐閉レイナは見知った顔と再会する。
「お? お前さん、寛子と一緒にいた奴だよな? 名前は……」
「狐閉、レイナよ」
「ああ、レイナだったか。久しぶりだな」
かつて同行していた寛子を監禁凌辱していた人狼、稲葉憲悦。
妖狐とチーター少年と共に図書館内へ入ってきた。
「寛子はどうした?」
「……」
レイナは少し沈黙した後、事の顛末を話す。
「……そうか、死んじまったか……残念だな」
それだけ言うと、憲悦は椅子に座り寛ぎ始めた。
「残念」と言うのは、都合の良い性処理道具を喪って「残念」と言う意味なのだろうか、
それとも柏木寛子と言う少女を喪って「残念」なのだろうか、恐らく前者の意味と思われるが。
本心を確かめる気はレイナには無かった。確かめた所で何も得られない。
「ええと、君達は……」
「イェレミアスだ。こっちは篠原昌信」
「よ、よろしくお願いします……」
「そう……きっと、あなた達も大変だったのよね……」
「……まあな」
「は、はい……」
昌信は少しばつが悪そうな顔をする。
昌信自身は危険な目には遭っていない。廃墟ホテルに隠れ、イェレミアスと会い、稲葉憲悦と会い、
そしてこの図書館に来るまで幸運にも誰にも襲われずにやってきたのだ。
だが、憲悦は分からないが、イェレミアスは一度殺されかけたらしく、レイナも、図書館の状況を見れば、
壮絶な目に遭った事は間違い無く、その中でさほど危険な目に遭っていない自分が少し肩身が狭く感じた。
決して昌信が悪いなどと言う事は無いのだが。
「座ってて。疲れてるでしょ」
「そうするよ」
「はい」
イェレミアスは床に寝転がり、昌信は椅子に座った。
「稲葉さん」
「あ?」
「一応言っておきますけど、エリノアさんや雪子ちゃんに手を出したりしないで下さい」
「……おう」
憲悦に釘を刺し、レイナは読書室奥へと向かう。
(そうは言ってもなぁ……エロい格好した銀髪ねーちゃんとロリ巨乳金髪女子高生……食いてえ)
レイナの危惧通り、憲悦の食指は既に動いていた。
いやらしい視線を、当人達には気付かれないように、金髪女子高生の雪子や銀髪ビキニアーマーの冒険者エリノアに向けていた。
エリノアと雪子は裏口へ続く廊下への扉をバリケードで封鎖していた。
椅子や事務所から持ってきた棚などで通行不能にする。
逃げ道が減ると言うリスクも伴うが表口に警戒を集中させる事ができる。
「これで何とか……」
「神楽坂さん、大丈夫ですか? 気分が悪いように見えますが」
「……私はまだ生きている、けど、この殺し合いで何人死んだか。
私と一緒にいた和歌子ちゃん達も死んでしまった。
……こんなに人の死を間近に見たのは、私だけじゃないと思うけど、初めてで……」
「……無理もありません」
ネガティブ思考に陥っている雪子を励ましながら、エリノアは雪子と共に作業を続ける。
◆◆◆
ユルゲンが調達してきた工具を使い、レイナはユルゲンが持っていた首輪の解析を行っている。
しかし完全に分解するまでには時間を要しそうだ。
分解した所で内部構造が把握できるかどうかも怪しい、しかしやる価値はある。
首輪を外せる可能性があるからだ。
(頑張ろう……)
仲間の死を無駄にしたくは無い。
柏木寛子、アゼイリア、長嶺和歌子、ウラジーミル・コスイギン、長野高正。
無論、この殺し合いで死んでいった他の参加者達の死もだ。
妙な使命感に取りつかれてしまっているな、と、レイナは自嘲気味に笑みをこぼす。
工具をいじる音が、レイナの周りに響いていた。
【F-3/図書館読書室/午後】
【エリノア】
[状態]健康
[装備]コルト パイソン(3/6)、十文字槍
[持物]基本支給品一式、.357マグナム弾(12)、バール、青竜刀、スナイドル銃(0/1)、
.577スナイドル弾(9)、RGD-33手榴弾(2)
[思考]
基本:殺し合いはしない。
1:蒲生さん、ユルゲンさんらと行動。
2:神楽坂さん、大丈夫かな……。
【狐閉レイナ】
[状態]疲労(大)、左頬に擦過射創、杉下愛美の首輪を分解している
[装備]ベレッタM92FS(11/15)
[持物]基本支給品一式、イングラムM10(0/40)、イングラムM10予備弾倉(2)、針金、ニッパー、
三十年式銃剣、ベレッタM92FSの弾倉(3)、コンバットナイフ、S&W M3ロシアンモデル(4/6)、.44ロシアン弾(6)、
杉下愛美の首輪(分解中)、工具箱(調達品)
[思考]
基本:殺し合いから脱出したい。
1:蒲生さん、ユルゲンさんらと行動。
2:首輪を解析する。
【蒲生重勝】
[状態]左頬に打撲
[装備]タンペレーン ヤティマティック(40/40)
[持物]基本支給品一式、タンペレーン ヤティマティックの弾倉(3)
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。死にたくない。
1:雪子ちゃん、ユルゲンらと行動。
2:ユルゲンと共に死体の片付けをする。
【神楽坂雪子】
[状態]ややネガティブ
[装備]グルカナイフ
[持物]基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。死にたくない。
1:蒲生さん、ユルゲンさんらと行動。
【ユルゲン】
[状態]若干の返り血
[装備]村田刀
[持物]基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。脱出したい。
1:重勝君達と行動。重勝君と死体処理。
2:和歌子ちゃん……。
【稲葉憲悦】
[状態]疲労(中)
[装備]ブローニング オート5(4/5)
[持物]基本支給品一式、12ゲージショットシェル(10)、シグP210(7/8)、シグP210予備弾倉(3)
[思考]
基本:殺し合う気は無いが女の子がいたら犯す。寛子を捜す。
1:エリノアと神楽坂雪子を食いたい(性的な意味で)。
2:寛子……残念だな。
[備考]
※殺し合う気は無いものの殺人への抵抗は全くと言って良い程無いようです。
【イェレミアス】
[状態]右脇腹に盲管銃創(応急処置済)、死への恐怖、やや精神不安定、疲労(大)
[装備]苗刀
[持物]基本支給品一式
[思考]
基本:殺し合いには乗らない。
1:死にたくない。
2:図書館組と行動する?
3:稲葉憲悦を警戒。
[備考]
※八神雹武の容姿のみ記憶しました。
【篠原昌信】
[状態]疲労(大)
[装備]豊和ゴールデンベア(5/5)
[持物]基本支給品一式、7.62mm×63弾(10)
[思考]
基本:死にたくない。
1:図書館組と行動する?
2:稲葉憲悦を警戒。
最終更新:2013年04月18日 19:18