@決勝トーナメント~開幕準備~
実況者ラモン「きたきたきたぁぁぁ決勝トーナメントぉぉぉ!世界最強の栄誉は誰の手が掴みとるのかあぁぁ!見逃せない闘いがはじまるぞぉぉ!」
会場を囲むように設営された客席の一端から悔しさ混じりの会話が聞こえてきた。
結梨「いやぁ負けちゃった。私もまだまだ鍛錬が足りないね」
早速だ!と修行を始めんばかりの結梨の隣で、同じく決勝に残ることができなかったナルがその姿を眺めながら座っている。
ナル「修行は大いに結構だけど決勝を見届けた後でもおそくないんじゃない?」
結梨「お!確かにそうだね。十也の応援をしなきゃ!」
気合の入った声が会場中に響き渡る。
その声に引き寄せられるようにツバメが耳に手を当てながら隣に座ってきた。
ツバメ「全く、せっかく私が応援に来てあげたのに予選敗退ってどういうこと⁉︎」
ナル「いやぁ善戦はしたつもりなんでけどね…相手が悪かったよ」
ツバメ「それにしてもあなたが魔導の民だったとは流石の私も見抜けなかったわ。特にあの宝剣、どうしてこれまで使わなかったのか全く合点が行かない!説明なさい!」
ナル「話せば長くなるよ」
ツバメ「構わないわ」
ナル「(今は大会を見届けたいんだよな…)それなら、これからゆっくり話すってのは、どう?」
ツバメ「そう。それでいいわ、後で聞かせてね」
ナル(あれ、もっと追求されると思ったのに…)
困惑の表情を浮かべていたのだろうが、ツバメはナルの顔をじっと見つめ
違う何かを感じ取ったようで…
ツバメ「あなた憑き物が落ちたみたい。何か良いことでもあった?」
ナル「いやぁ相変わらず鋭いね」
彼は手に抱えている白い魔導書をツバメに見せた。
その魔導書は
トキシロウが絶えず携えていたもので、先刻の十也との戦いの後、会場に落ちていたものをナルが回収していたのだ。
全面白い皮表紙で文字などは書かれていない。中を開いてみてもどのページも白紙であった。
ツバメ「白紙の魔導書…?」
ナル「あぁ。大会の主催者サイドの一人が持っていたんだ。持ち主の姿は見失ったけど、これを回収できて一安心したよ」
ツバメ「普通魔導書って魔導の理(ことわり)が記されているわよね?この魔導書には何もも記されていないわ」
ナル「ほんとよく知ってるね。そのとおり、魔導書は特定の『魔導』を発動するための所作や技能を記しているんだけど、この魔導書は何も記載されていない。だけど強大なマナを秘めていることから容易に答えは導くことができた。今は亡き大魔導士グレートノウムが残した最後の魔導書…『虚無』の魔導書だ」
ツバメ「それって一体…」
と、その時、彼女の声をかき消すように会場がどよめきに包まれた。
@決勝トーナメント~開幕~
大富豪ジャーラ「強者諸君!よくぞここまで残ったぞい!いずれも並外れた力を持つ決闘者として我が私部隊に招き入れてやるぞい!」
それは遠慮したいと誰もが心の中で思っていた。が次の言葉で誰もが度肝を抜かれたのであった。
大富豪ジャーラ「決勝は今までのトーナメントをやめるぞい!決闘者は対複数においても強さを発揮しなくてはならないのぞい!じゃああとは頼んだぞい…トキ
シロウくん、いないのかぞい?それなら私が説明するぞい!」
これから行うトーナメントは通常とは異なる。
ひとつのステージの上で全ての決闘者が同時に立会い、各々が拳を交えた結果、最後に立ち残っていたものが優勝となるバトルロワイヤルルール!
最初の対戦相手はランダムに決まる!さらに、その次の相手は盤上で一番近いものを相手とするのだ!当然その相手はまだ他の決闘者と戦っている可能性はある!だがそれでも戦うのだ!二人の決闘者を前に実力以上の力を秘めていることを、この場で証明するのだ!
ざわめきは次第に歓声に変わる。
用意されたステージで戦うのだ様は誰にとっても魅力的で血湧くものだろうが、今となってはどこか飽きが生まれていた。そこで提案されたあらたなルール!あらたな戦い!
観客のボルテージは燃え上がり会場は煌びやかな光に包まれた!
実況者ラモン「さぁぁぁぁ!とんでもないことになったぁぁぁ!決勝はこれまでとはちがい、フィールドの上で同時多発的に複数のバトルが生じるロワイヤルゾーンに突入したぞぉぉぉ!この戦いを勝ち抜くものは誰なのかぁぁぁ!ステージ集まった決闘者16人を紹介しよう!」
トニー「とんでもないルールになったな」
スライ「はい。でも、これなら彼らと真正面から戦えますね」
トニー「デュオロードにたどり着くために、越えなきゃならない障害は必ず取り除くぞ!」
スライ「もちろんです!」
ルージュ「人数は16人。時間は夜の11時。満月の下。まるで私たちのために用意されたような舞台ね」
ロン「おうよ!まずは雑魚を蹴散らして…それからあいつらを完膚なきまでに叩き潰す!」
ルージュ「それでこそモアザンディーノの名にふさわしいですわ」
ロン「ダイヤモンドの兄弟!視界に入るだけで俺の血が沸き立つわ!」
メルト「(嘘でしょ…どうして私がここに…)」
ディック「なんだか知らんが勝ち残っちゃったな。くっくっく…我らが魔導に勝るものがあるか?すぅぅぅぅぅ……否!我らこそ最強の民、魔導自縛民なり!」
メルト「ちょっと!勝手に魔導の名を使わないでください!それに何ですか魔導自縛民って⁉︎盛りすぎにもほどがあるでしょ!」
ディック「弱小民族が吠えておるわ。魔導自縛民こそ最強なのだよ!かっかっっかっか」
メルト「(こいつ…絶対私が倒す…)」
黒ずくめの男・
ニーノロータ「何故にあのような奴がこんなところに?」
黒ずくめの男・
ジョルジュ「呆けておるのだ。正気であればあのような戯言吐けるはずがなかろうに」
黒ずくめの男・
モリコーネ「ならばみせしめてやろう!我ら神から授かりし力を持って、世界の秩序を正すのだ!」
十也「準備運動はバッチリ!いつでもいけるぜ!」
実況者ラモン「…っと選手紹介の途中だがぁ!大会主催者から開始宣言があるようだぞぉ!」
大富豪ジャーラ「うおっほん!それでは決勝はじめ!だぞい!」
掛け声と同時にステージは霧に包まれ、決闘者達はお互いを認識できなくなった。
そして闘いが始まる!互いにその信念をかけた闘いが!
~満月が浮かぶ夜~
ステージ上の霧が晴れたその時、メルトは目を疑った。
そこには煉瓦造りの家々が立ち並んでいたのだ。それらの窓からは光とともに楽しげな声が漏れ聞こえてくる。
メルト「素敵な街…じゃなくて、なんなのコレ⁉︎」
バトルグランプリの最中であることを踏まえると恐らくは…
メルト「誰かの能力ね」
周囲を見渡すも、そこには街並みが広がるばかりで特に不自然なところはない。
こんなところに街がある不自然さを除けば。
メルト「どこかに瞬間移動したか…それともこの場所に現れたのか…」
建物に触ってみる。すると確かにその感触を感じ取ることができた。
メルト「考えてもしょうがない。よし!ものは試しだ!」
彼女は懐から魔導書を取り出しページを開く。
息を整えるメルト。魔導書は次第に赤い光を帯びる。
メルト「閃光弾(シャングァンダム)!」
放たれた光の玉は街の中を駆け抜け教会のような建物に着弾する。
青い炎に包まれて協会が朽ち落ちた。それは紙が’燃え上がる様にも似ていた。
メルト「実在するハリボテ…幻覚じゃあない!」
???「そう…そしてこの攻撃も幻覚ではないぞ?」
ドグアァァァ!
メルトの身体が宙にうかぶ。同時に強い衝撃を受けたことに気づく。
メルト「ぐはぁ!」
たった一撃で、メルトは戦闘不能に陥ってしまった。
実況者ラモン「最初の脱落者はメルト選手だぁぁ!」
途絶えそうになる意識の中でメルトは自身をそうした相手に目をこらした。
月の光に当てられたその姿は、異形と言わざるを得ない。
全身が青白く、筋肉が大きく隆起している。
そして頭には、そびえ立つ一つの角があった。
〜ハリボテのレンガ通り〜
黒ずくめの男二人が肩を並べて歩いている。
彼らはこの街の何かに気づいているようだ。
ジョルジュ「早くこの街を抜け、あそこへ辿り着かなければならぬ」
彼らの目線の先には煌々と明るさを放つ大きな城があった。
ニーノロータ「既に時刻は真夜中に差し迫っているのであるが、さてモリコーネはいずこ?」
脇道に目をやると、黒づくめの男のもう一人が少女に向かって走っていた
ジョルジュ「全く。モリコーネの性分には困ったものよ」
少女の寸前に至った男は、一呼吸のち、その姿を変容させていく。
その姿はまさに鬼。
全身が青白く、隆起した筋肉を唸らせて、彼は眼前の少女を力一杯殴りあげた。
ドグアァァァ!
ニーノロータ「早速『鬼人化』したのか?それほどの相手とは思えぬのだが」
ジョルジュ「少女といえどここまで勝ち残ったのだ。警戒するのもわかるというもの」
そうしているうちに少女は宙に舞い、その後姿を消した。
モリコーネ(青鬼人)「どこだぁぁぁ!我らが神の言葉を穢すものよぉぉ!」
誰かを探しているようだ。さてその相手というのは…
ディック(あいつ…やべぇっ…もしかして俺、狙われてる?)
ジョルジュ「モリコーネ!われらは先にいっておるぞ」
ニーノロータ「しっかり自分の役割を全うするのだぞ」
そう仲間に告げる二人は、ハリボテの街の奥、巨城に向かって歩いて行った。
モリコーネ(青鬼人)「ふん!まずやることは奴の息の根をとめることだぁぁ!」
建物を引き裂きながら周辺をくまなく探す。
獲物を求めてさまよう肉食獣などではほど足りぬ、その執念は狂気そのもの!
ディックは「ディスコネクト」により気配を消して建物のそばにかくれていた。
そしてモリコーネの暴れる様を見て、ふとあのときのことを思い出した。
それはピエタの地で
ディムームの修行を受けていた時、あまりの過酷な試練に耐え兼ね逃げ出そうとしたことがあった。
その時ディムームが追いかけてきたのであったが、その姿は鬼の如くだったと記憶がある。ディックはその姿をディムームの怒りの印象から受けたイメージだと思っていた。
今ディックを探している鬼人は、その時のディムームと同じなのでは、と直感が訴えた。
ディック「もしかしてあいつ、地縛民なのかも」
その瞬間ディスコネクトが解除された。気が緩んでしまったようだ。
ディック「あ」
モリコーネ「お」
目と目が合う二人。
すかさずディックは逃げ出した。しかし当然モリコーネはその後を追い、二人の距離は一瞬で目と鼻の先まで詰まってしまった!そして目の前には壁が迫る!
ディック「これは…だめかも」
諦めかけたその時、すぐ後ろにいたモリコーネの気配が消え去った。
ディック「あれ?」
ディックが振り返るとランタンに照らされたレンガ通りには人っ子一人いなかった。
ネコが一匹通りの上でウロウロしているくらいだ。
ディックは警戒を解かないままに周囲を見渡す。どこからあいつが襲ってくるかわからないから、と構えを取ろうとすると、ディックのすぐ後ろから男の声が聞こえた。
ロン「さすがに鬼はないよな。この物語に存在するなんてありえないぜ」
背筋が凍るのを感じる。だが既に臨戦態勢だ!果倉部流の力お見舞いしてやるぜ!
…
……
その力が振るわれることはなかった。通りは再び静けさに包まれる。
ロン「だから言ってるだろ?この物語に鬼はいらないって。お前のようなやつはネズミがお似合いだ!」
道の上には先ほどのネコに加えてもう一匹、ネズミが小さく鳴いていたのだった。
〜街外れのボロ家屋〜
ハリボテの街外れに、今にもくずれそうなボロボロな家がポツンと建っていた。
その家の前に、くたびれた服を着た長い黒髪の女性が、街の向こうに見える城を眺めている。
ルージュ「準備はできたわ。それじゃあお願いね」
フェアリーゴット十也「お任せあれ♪そーれビビデバビデブー!」
何かに取り憑かれたような十也は理解不能な呪文を唱えながら杖を振る。
すると庭にいた四匹のネズミは白馬に、二匹のトカゲは侍従に、一匹のネコは業者に、二匹の鳩がドレスを加えてルージュに着せ、そしてかぼちゃは馬車になった。
ルージュ「ありがとう。それじゃあ行ってくるわ」
フェアリーゴット十也「夜中の零時までに帰ってくるのよー」
大きくてお振りながら十也は白馬に引かれたカボチャの馬車を見送った。
馬車は風を切るように王城へ向かって走り続ける。
そう、これはシンデレラの世界、物語の中。
能力の射程範囲内の人物に物語の
登場人物の役柄を与え、それを演じることを強いる。
演じることを拒絶すれば、舞台を降ろされて強制的に観客となる!
観客となった後は物語の行く末を見届けるまで、その場から動くことができないのだ!
これが「鎖国覇権の語り部(クディアクレイル・テイラー)」の能力!
バトルグランプリ決勝戦の決闘者たちは、この能力に取り込まれてしまったのだ!
そのなかで主人公の役柄を演じるのはルージュ。
この能力の持ち主は一体…?
〜王城〜
きらびやかな王城では盛大なパーティが開かれていた。
国中から人々が集められているようだ。その誰もが派手に着飾り、自身の魅力を最大限に表現しようとしているのだろう。
なぜなら今晩、この国の王子の妻となるものが決まるから。
そうなれば御察しの通り王族の仲間入りとなるのだ。
そこにルージュが到着すると、城内はざわめきに包まれる。
これほどの美女がどうしてこれまで現れなかったのか!
集まった貴族だけでなく、王子までもがその容姿に、品位に目を奪われた。
王子「ぜひ私とダンスをともにしてはくれぬか」
ルージュ「喜んで」
二人のダンスを見て、あるものは悔しがり、あるものはうっとりと見つめた。
そのとき、人ごみの中から高らかな声が響き渡った!
スライ「シャイニーマジック!フォースキャリア!」
人ごみ、と思いきやハリボテのそれらをなぎ倒し、光の弾丸がルージュと王子のめがけて放たれる!
ルージュ「やっと出てきたわね!現実と同じ貴族の役柄が与えられるなんて笑えるわ」
攻撃を避けようと身体を動かそうとするが、動かない!王子の腕がルージュを掴んで離さないのだ!
ルージュ「!?これはドッペルゲンガー!」
気づいた時には遅かった。フォースキャリアは着弾し轟音をあげて周辺を吹き飛ばしていた。
スライ「やったか」
土埃が立ちふさぎ視界が不良、状況が上手く掴めない。
スライ(ドッペルゲンガーはフォースキャリアの着弾時に消えてしまったな。それなら)
スライ「シャイニーマジック!ライトライン!」
スライの足元から光の線が延び進み、土埃の中を光が照らした。
そこにはだれもいない様子。どうやらルージュを倒すことに成功したようだ。
…だが、そこからぬっと白髪の男が現れる。そして彼はスライを一瞥する。
ロン「おいおい貴族が淑女を攻撃するのは物語としてありえないぜ。お前も降板だ!」
スライ「なにっ」
ロンはスライを降板(退場)させようと手を掲げた!
が、その手を目印にするかのように、先ほどの爆発で開いた天井から雷
降り注ぐ!
バチィィィッ!
トニー「なんとか間に合いました!スライ大丈夫ですか?」
スライ「助かった。ところでお前もどこにいたんだ?」
トニー「気づいたら牧師の格好をしていたのでついその気になって神に祈りを捧げていました…」
スライ「緊張感のないやつだな。」
トニー「いえそんなことはないです。神に捧げた祈りの内容は…」
トニー「このトーナメントで必ず優勝するのを見守ってください、ですから!」
バシュゥゥゥン!
スライの目の前から、トニー(ドヤ顔の)が消え去った。
スライ「まさか…」
バシュゥゥゥン!
続けてスライも消え去る。
ロン「やれやれ、だれも役柄を演じようとしない。これじゃあグットエンドは程遠いぜ」
なぜロンが無事なのか!それは彼が物語の語り部だから!彼の能力の発動中、何人も彼を攻撃することはできない!だって物語には、語り部は登場しないのだから、接触のしようがないのだ!
ロン「これで俺以外の15人の決勝トーナメント出場者は役柄になりきって戦意を喪失したか、あるいは降板(退場)済。残った俺が優勝ってことだなぁ!」
トニー(貴族)→降板
スライ(牧師)→降板
メルト(街女)→敗北
ディック(ネズミ)→戦意喪失
モリコーネ(ネコ)→戦意喪失
ニーノロータ(ネズミ)→戦意喪失
ジョルジュ(ネズミ)→戦意喪失
十也(フェアリーゴット)→戦意喪失
ルージュ(シンデレラ)→敗北
その他6名(ネズミ、トカゲ2匹、鳩2羽、カボチャ)→戦意喪失
かっかっかっかっか!
勝ち誇るロン!だが…
ドス!
ロン「な…なに……」
彼の懐を二対のナイフが貫いていた。
語り部である彼が攻撃されるなんてありえない、そもそも一体誰が…
リョウガ「本当の主人公は遅れてやってくるものさ」
両の刃を引き抜き仁王立しながら、ロンを見下ろす。
リョウガ「ディックがネズミに変わる瞬間、俺を呼び出していたんだよ」
リョウガ(そして俺のナイフは能力を切り裂く牙、お前の無敵バリアなんて簡単にかみ砕けるんだよ)
ロン「クソぉぉまさか17人目の登場人物がいるなんて…」
ゴーーーンゴーーーンゴーーーンゴーーーン
零時を告げる鐘が鳴り響く。
リョウガ「俺が勝ち残ってしまったよかったのか…」
バツが悪そうに頭を掻く。
ゴーーーンゴーーーンゴーーーンゴーーーン
ロンの身体が少しずつ消えていく。
リョウガ「俺とディックは一心同体。ディックの優勝ってことになるのか?」
ゴーーーンゴーーーンゴーーーンゴーーーン
そして鐘が鳴り止んだ。と同時にロンの身体は消え去った。
ハリボテの城がゆらゆらと揺らぎながらその実体薄めていった。
ロンの能力をが解除されたのだろう。
すると周りの景色はもとに戻り、そして見覚えのあるあの会場が現れたのであった。
〜煌めく満月のその下で〜
実況者ラモン「観客の皆さあああん!これほどに劇的な闘いを見たことがあっただろうかぁぁぁなんと激戦を勝ち抜いたのはディック選手ゥゥゥでいいんでしょうか…この場合…」
ステージの周りには敗北した決闘者たちが、もとの姿に戻って、怪我もなく、行儀よく座っている。じっとこの物語の行く末を見届けていたのだ。
十也「はっ!一体今までおれは何を…なんだかとても恥ずかしかった気がする!!!」
スライ「負けたな」
トニー「はい、私たちの力不足ですね。さ、気を取り直して修行しましょう!」
スライ「そうだな」
ディック「チュー…はっ!一体今までおれは何を…ピーン!これは優勝してしまった気がする!!!」
歓喜の舞を踊るディックだが、そばにいたメルトが突如大声をあげた。
メルト「何を浮かれているんですか!ステージにはリョウガ以外にまだ決闘者が残っていいますよ!」
ディック「な…なに!」
そうステージには、トニーのライトニングボルトを受け敗北したと思われていた彼女が、ルージュが残っていたのだ。先ほどと同様シンデレラのドレスでその身を着飾ったままで。
ルージュ「全くおめでたい人とたちね。あまりに隙がありすぎて攻撃する気にもなれなかったわ」
リョウガ「そうかい。だったら後悔するんだな、その隙に攻撃しなかったことを!」
ディック「いや、だめだリョウガ!攻撃するんじゃあなぁい!」
ディック「安心しろディック、今俺のナイフは能力を切り裂くことができる!どんな攻撃も噛み砕いてやるぜ!」
彼のナイフがルージュを襲う!だがどうしてだろうか、そのナイフは彼女の脇に大きくブレて床に突き刺さってしまった!
リョウガ「なぜだ…俺は確かにあいつにむかって刃を向けていたはずなのに」
ディック「さっき12の鐘が鳴ったのに、ロンの能力が解除されたのに、ルージュのシンデレラが解除されていない!あれはおそらく、彼女自身の能力だぁぁぁ!」
ルージュ(ご名答♪私の能力「シンデレラタイム・テンミニッツ」は10分の間だけ名実ともに私を王女に代えて、あらゆるわがままを融通するの。発動条件が満月の夜、午前零時からの10分間だけ、制約は厳しいですが、今はそれで十分ですわ)
ルージュはシンデレラの姿とは似つかぬ大きな鎌を取り出した。
そしてリョウガに、避けないでね、と囁くとその鎌を大きく振るった。
リョウガは静かにそれを受け入れた。
実況者ラモン「ま・さ・かのどんでん返しぃぃぃぃぃ!優勝はルージュモアザンディーーーーノォオォォォだぁぁぁぁ!」
@秘密結社スピノザ本拠地
クロオ「バトルグランプリを見届けて参った。結果は、隕石の欠けらの持ち主ルージュモアザンディーノが優勝、時点で自縛の民ディック、ついで隕石の欠けらの持ち主ロンモアザンディーノ、公国の双子スライ・トニーでござった」
かもめ「そう。これでバトルグランプリは閉幕ね。大富豪ジャーラの目的は強者を集めて私兵団を作ることみたいですけど、あの子達があの成り上がりにつくわけないわ。文字通り、強者を決める大会として決着するでしょう」
クロオ「これからどうするでござるか」
かもめ「しばらくはこの子の復活に時間がかかりそうね。ただ手伝ってくれそうな子を見つけたわ。暗示にかかりやすそうなまっすぐなあの子、フェアリーゴットの演技よかったわよ十也くん♪」
大会からしばらくして…
@ミストラルシティ
ナル「おお久しぶりのかざぐるま!やっぱりここは落ち着くね」
メルト「これからの生活が楽しみですね!」
にろく「なぁお前な、本当にここに住み込むのか?」
メルト「だめ…ですか」モジモジ
にろく「…まずは接客から覚えてもらうからな」
ナル(やっぱりにろくはいいやつだな…さてここはメルトに任せて俺は少し研究しないとな。『虚無』の魔導書…これがどれほどの力を秘めているのか解き明かすんだ。グレートノウムの爺さんの名にかけて!)
彼らはこれからもミストラルシティで和気藹々と(?)すごしていくのだろう。
@カリナン公国
スライ「…というわけで今日も修行だな!」
トニー「大会では負けましたが、次勝てばいいんです!大公に認めてもらうまで何度でもチャレンジしましょう!」
スライ「おうよ!」
ロン「まったくビルドの野郎、決勝に二人が勝ち残ってないからって引き続き継承戦をするなんて難癖つけやがって」
ルージュ「事実ですけどね」
ロン「ルージュお前な…」
ルージュ「あら、隙を突かれて決勝の最後の二人になれなかったのだ誰のせいかしら」
ロン「ぐぬぬ」
ルージュ「冗談よ、それに私は楽しかったわ。やっと彼らと本気で戦うことができたんですもの」
ロン「ああ!だがな、次やるときは負けねぇ!絶対にだ!!!」
こうしてカリナンの若い萌しはこの大会をきっかけに、相反することなく、ともに育っていくことになる。
@ピエタの地にて
ディック(この間のあいつら、おそらく
シャカイナ狂神者の一員だ。あいつらを暴走させたままだとまずい)
ディック「そこでお前らに手伝って欲しい。教えてくれないか、お前らが知っていることを」
キノ「はぁ…」
アポロン「いいだろう。われらとソナタの因縁、そして常世が孕む狂神の鼓動を、ソナタには知る権利がある」
多くの波乱を孕んでいたバトルグランプリであったが、表向きには無事終焉を迎えた。しかし一度ついた火種は簡単には消えそうになない。今はまだ小さなその炎が、燃え上がり
周りには燃え移っていくかどうか鍵は、図らずも十也が持つことになろうとは、だれも知る由はなかったのであった。
バトルグランプリ編〜Fin〜
最終更新:2017年06月30日 23:53