◯今から20年ほど前のこと
広大な荒原を一頭の馬が走る。
その背中には一人の女性が、屈みながらその行先を見据えていた。
「あそこが特異な能力の集まるところ…
シャカイナの塔!」
さあ急ぐよ、と馬に鞭を撃つ。
あたりは夕闇に包まれつつあったのだ。
ところ変わって地縛民の集落ではディヴァインという男がこっそり村を離れようとしていた。
しかしそれはいつものことですぐに門番に見つかり追い返されるを繰り返す。
門番の男「ディヴァイン、またお前か。何度やっても懲りないな」
ディヴァイン「やぁ今日もいい天気だな」
住民「いやもう夜だよ」
他の住民も半ば呆れつつあるようだ。
ディヴァインは強制的に家に連れ戻された。
独り身の彼にしては広めの一軒家。とはいえ移動式住居であるから質素な作りだ。
ディヴァインはベッドに身を投げ思巡した。
「地縛民はそろそろ外界に出るべきだ。厄介なのは村のオキテ。おばばがぽっくりいってくれれば手っ取り早いのに」
彼はこの村から、地縛民から離れたがっていた。
その理由は一口に表現できないが、このまま彼がこの村にいるととてつもない災を引き起こす、そんなことするら考えてしまうのだ。
他の住民はそんなことも気にせず儀式に邁進している。もちろんシャカイナ復活の儀式だ。
「あんなことしてもシャカイナはもどってこない。だれもそのやり方に気づいていないのは何故なんだろう」
盲信する地縛民は時としてその方法を見失う。
まれに人身供物するほどだ。前時代的にも程がある。
「…そうはいっても、やっぱりあそこには心惹かれるんだよな」
ベッドから身をおこし、彼はその足をあそこへ向けた。
◯新月が照らすシャカイナの塔
ディヴァインが塔に近付くと異変に気付いた。
塔の中から明かりが漏れているのだ。
おかしい、地縛民は年に一度の儀式以外この塔には入らないはずなのに。
中を覗くと異国の女性が倒れていた。
ディヴァイン「!…大丈夫か?」
息絶え絶えの彼女は返事をできない、相当苦しいようだ。
ディヴァイン「安心しろ、私は医者だ」
そうしてディヴァインは彼女の看護を行うこととなった。
しばらくすると彼女の症状は緩和したようだった。
話を聞いてみると、彼女は異国で能力の研究をしている学者だという。ルーツは魔導の民なんだとか。
統一能力を持つ地縛民に接触し、研究対象としようとしたが、その前に無理がたたり倒れてしまったと。
ディヴァインは直感で理解した。
この女性こそ、ディヴァインをこの村から解き放つキーパーソンだと!
そして素晴らしいパートナーだと!
どうやら彼女も同じようなことを思っていたようだ。
「それはとてもいい話だけど、もう少しここにいさせて。まだ研究が済んでないから」
彼女は自分の名前をルンフイと名乗った。
◯それからしばらくして
ディヴァインは地縛民の集落から離れられることがたまらなく嬉しくて、反対に仕事に精を出すようになった。
他の住民も、門番も、何があったのか気になったが、そこは地縛民の性格良し、特に詮索はされなかった。
そうこうするうちにディヴァインとルンフイの間に新たな命が誕生することになる。
ルンフイはとても喜んだ。しかしディヴァインは一抹の不安を感じていた。
昔から自分が危惧していたこと、それはこの子の誕生日だったのではないかと。
ルンフイもまた違った感覚を覚えていた。
この子は途方もない力を備えている。地縛民固有能力ではない、その先の力を。
まだ発現していないにもかかわらず、その力の一端を見出せたのはルンフイが長年能力と向き合ってきたからだろう。
そして二人の結論は、この子をこの世界から隠すこと、だった。
ディヴァイン「地縛民に見つかったら間違いなく供物にされる」
ルンフイ「ディヴァイン、これを使って」
差し出されたのは蒼く輝く宝石だった。
ルンフイ「世界を回る中で偶然見つけたの。これを使えばディスコネクトが一時的に特化されるから」
ディヴァイン「蒼き宝石の力を借りて、この子を世界から隔絶せよ!ディスコネクト!」
ディヴァインから放たれた光に包まれ、赤子はその姿を消した。
ルンフイ「さて出発するわよ」
ディヴァイン「あの子を探しに、だな。大丈夫、ディスコネクトで見つけられなくなって入るけど、私たちなら必ず見つけられる。なんたって親子だから!」
ルンフイ「待っててね、
ディック」
◯しかしそこに衝撃が響き渡り…
ディヴァイン「!!ルンフイ!!」
一瞬の間にその身体から命が抜け落ちた。
駆け寄るディックの前に五人の男女が立ち塞がる。
ワッパ「もう遅い。力を失し耐えることができなかったのだ」
サーズ「命までは無くさなくてもすみそうだったのに。人は見かけによらないものだね」
ナマンハート「さて渡してもらおうか。シャカイナの魂の一端を」
ディヴァイン「お前らぁぁぁぁ!」
両の手から放たれた光が彼らを包み込んだ。
バドリカ「これは…ディスコネクト!しかも余程強力であるぞ!」
アナータ「やむを得ない。時を改めよう」
ディヴァイン「この世界からきえされぇぇぇ!」
ばしゅぅぅぅん…
彼らは消え去った。この世界から消せたのか、それともどこかへ飛ばしたのか、ディヴァインにはわからなかった。
そんなことはもうどうでもいい。
ルンフイのそばに座り込み、彼は涙を落と声を上げた。
その慟哭は地縛民の集落にまで響き渡る。
村のものが駆けつけた頃、ディヴァインの声は聞こえなくなっていた。
ルンフイを抱えるディヴァインもまたその命が終えていたのだ。
彼らの周りにはもとは宝石だった蒼い砂がさらさらと散らばっていたという。
宝石の力は強力だ。その代償に命を差し出さなければならないこともある。
それはつまりディヴァインとルンフイを襲った彼らがそれだけの力を有していたということ。
彼らが生きているとしたら、ディックが危ない!
でも今は大丈夫。ディヴァインの放った力で彼らもただじゃぁいられないから。
でも、彼らが、普通の人間じゃなかったら…
…そう、それはこれからディックが紡ぐ物語。
ほどこうとしても絡まる運命の鎖は、そう易々とディックを離すことはない。
◯目を覚ますと
ディック「またあの夢か」
幼子だった自分が覚えている刹那の記憶。
両親が身を挺して守ってくれたからここにいる。
ディック「人の姿をした災厄…そんなイメージなんだよな」
災厄がディックの運命にからみ始めていることディックは感じ始めたのであった。
SIDE 5 (五人の災厄は長く生き、よく食べる) Fin
最終更新:2020年01月10日 17:34