~ミストラルシティ~
カレン、
トニーとバインザーの戦いを、
アポロンは離れた場所から窺っていた。
アポロン「あれが
オリジネイター。
シャカイナに近い気を感じる。が…」
落雷がバインザーを直撃するのと同じくして、彼は空を見上げていた。
視線の先には天空に浮かぶ島。そして中央にそびえる塔。
アポロン「あの塔は…まさか…」
彼はあることを確認するために、かの場所を目指して歩き始めた。
~ピエタ連邦~
巨大な城門を前に3人は奇妙な感覚に襲われていた。
ボルク「ここがピエタ帝国?間違いないのかアポロン?だって…」
彼らの前に城門。そしてその横には外敵の侵入を拒むべくそびえる城壁が…ないではないか!
どこのだれでも歓迎といわんばかりに、ただただ荒原が無限に続いている!
ボルク「国があった形跡なんてないじゃないか!」
そこには確かに巨大な帝国があったはずだった。
ところが周囲を見渡しても、国どころか人の住まうた痕跡すらない。
アポロン「ああ、ここで間違いない。間違いないのだ」
キノ「どうやら門を残して国ごとすっぽり消えてしまったみたいだね。シャカイナの塔を中心にして」
そう、ピエタ帝国は突如として塔を中心に数kmの範囲が消失してしまったのだ!
ボルク「信じられないけれどアポロンの話は本当だったってことか」
アポロン「ああ。ミストラルシティに出現した飛行島の正体…それは空間転移したピエタ帝国である可能性が高い」
キノ「途方もない力…これもオリジネイターとやらの力なの?」
ボルク「とんでもないやつらだ…ん?」
足元に転がっていたのはマッチの箱。
ボルク「これってミストラルシティの喫茶店のマッチ…」
キノ「どうやら彼らもここに来ていたようだね」
アポロン「当然
ディックもな。これではっきりした。ミストラルシティへ急ごう」
踵を返し、城門を背にして進むころには気づけばあたりは暗くなってきていた。
ボルク「ちょっと暗いね。おおおお」
うなりに合わせて炎が揺らぎ現れて、彼らの人影が大きく伸びた。
その数、いち、に、さん、し、ご、ろく…
アポロン・キノ「!?」
その場から飛び離れる二人。取り残される一人。
ボルク「よし!これで帰ろう!あれ?どうしでだろう、思ったより明るい…ん!!」
振り返ると、国に取り残された城門に煌々と松明が輝いていた。
そして門の前には黒いマントに身を包んだ男が三人、明りに照らされて佇む。
なびく彼らのマントには特徴的な紋章が刺繍されていた。
キノ「あの紋章は…」
アポロン「ピエタの民…地縛民!!」
~~
バティスト「我は地縛神官が一人、『縛音-バクオン』のバティスト!」
カンタータ「同じく地縛神官が一人、『縛視-バクシ』のカンタータ!」
ディムーム「そして吾輩が!地縛大神官!『縛行-バクギョウ』のディムーム!」
バティスト「貴様ら、ディック様の命を狙おうとする輩か!」
カンタータ「させぬ!ここでその思惑を断ち切らせてもらおう!」
ディムーム「覚悟しろ!!」
ボルク「ご丁寧にどうも。でもね…」
瞬時に炎を背負い走り出す!
ボルク「先手必勝さ!『フルスロットル』!」
バティスト「生憎だったな。我も同じ性分だ!『縛音』!!」
男が両の手で印を結ぶと…
バフォォォォォォォォオオオオオオ!!!!
重い金属の扉を開けているような、金属と金属がこすれるような、そんな巨大な音が地平の果から鳴り響く!
縛音による強大な音を聴いた人間は通常であれば立つことすらままならない!
ボルク「くっ!!」
キノ「なんてひどい音!!(物理干渉じゃあないから僕の能力では防げない!)」
アポロン「終末の音か!!」
あまりの音に三人はとっさに目をつぶった。
そして続けざまに、もう一人が印を結ぶ。
カンタータ「いまだ!『縛視』!!」
一見すると何も起こらない。
そもそも縛音によって、カンタータの声は三人に届いていなかった。
ボルク「うるさいけどこのまま突き進むぜ…ってあれ?」
目を開けたボルク。しかし彼の足は思うように動かず、一瞬ふらつき、近くの岩に向かって倒れこんでしまった。。
巨大な音が鼓膜深くを揺るがすことによって平行感覚が失われたのだ!
ボルク「このままじゃぁぶつかる!右に避けよう…ってなにぃ!」
身体を動かそうとしているのに…目を動かしても岩から目が離れない…首を動かしてもなぜか岩ばかり注視しまう!
右を向きたいのに右を向くことができない…そして、さらに目をつぶることもできない!
ボルク「ぶつかる!!」
瞬間、ボルクは岩にぶつかることはなかったが、爆風に飲み込まれた!
ドゴォォォン!
縛視の対象となったものは、目を見開いた後最初に目に移ったものから目を離すことができなくなる!
そしてその三秒後、目に移ったものが爆発する!
さらに対象が消失した後は次に目に映ったものが爆発、さらに次と…爆発は永遠に止まらない!
カンタータ「さぁ突然の爆音、そして身体の不自由、爆発。仲間に助けを求めようものなら…」
ボルク「爆発した!?どうして…俺が見つめたから?やばい、どうしたら…そうだアポロンなら何とかできる…」
そしてアポロンを探し見つけたボルク。が、刹那、愚かな行動に気づいてしまった。
ボルク「ああアポロン。助けを求め君を見てしまった!敵の能力でおそらく十中八九、俺が見たものは爆発する!この騒音の中では声も届かない!」
後悔の念に駆られるボルクはアポロンのたぎる瞳に見とれていた。
ボルク「ああそうか、アポロン。君はこんな状況でも前を見つめ続けているんだね。でも君はもうすぐしたら爆発してしまうんだぁぁぁ」
ドゴォォォン!
爆発したのは…アポロン、ではなくカンタータ!?
アポロンはディックが彼を見るより前から、その眼にカンタータを見据えていたのだ!
カンタータ「なに…能力発現からおよそ三秒…最初から俺を見ていたということか!敵ながら天晴!途切れない意思の持ち主なのだな…」
バヒューーー!!
青白い炎とともにカンタータは消滅した。
~~
キノが目を開けたときには、門の前には二人の男しかいなかった。
キノ「三人いたと思ったけど、どうやらアポロンが倒したみたいだね。それなら次は僕の番だ」
腰に据えた2丁の拳銃を構えてバティストめがけて引き金を引く。
キノ「まずはその下品な騒音を止めさせてもらうよ」
バティスト「通常なら的確な判断かもしれませんが、この状況下では当たるわけがないだろうぅぅ!!」
縛音によって平衡感覚がマヒし、通常通りの行動は不可能!
ドュヒュン!ドュヒュン!タターーン!!
なはずだった。キノが放った弾丸はそれることなくバティストの心臓を捕らえる!
バティスト「ぐはっ!!両銃とも心臓めがけてなんと精確!非通常時でもこれほどとは、日ごろの鍛錬の成果か!だがこれしきでは負けんぞ!」
くらった弾丸を物とせず、バティストは再び印を結び、そのまま両腕を前方に突き出してキノめがけて走り出した。
彼の突進に追従するように、周辺に響いていた音が指先の先端に集約されはじめる。
指向性を持った音は極度に圧縮されて、鋭く研ぎ澄まされた槍のように姿を変えた!
バティスト「これが我の奥義!くらえ!『束縛の音速-バクオンザソニック』!」
音速の槍と化したバティストがキノの身体を貫く!
…しかし、それは彼の幻想だった。
バティスト「音の速さを持つ我が奥義を受け止めただと…」
キノ「いや、そんな動体視力と受け止める力なんてないよ。ただね、僕のオートプロテクトはあらゆる物理干渉を防ぐんだ」
進行がとまると同時に音が消えうせた。
キノ「さぁこの至近距離からの連撃、耐えられるかい?」
タタタターーーン!!
乾いた音が空に荒野に響いた。
バティスト「くはぁっ」
青白い炎に包まれて彼は消滅した。
~~
10秒に満たないその間に脇に控えた二人の神官が消えてしまった。
大神官と名乗る彼はまだその状況を理解できないでいるのだろう。
青白い二つの炎が消えたころにようやく、彼は最期のひとりになったことを理解した。
ディムーム「…やるではないか。さすがメサイアの意志を継ぐ者たちだな。だがディック様の命を奪わんとする限りはここから返すわけにはいかん!」
鼻息あらく意気込む大神官は背中から大剣を取り出すと、アポロンたちに向けて構えた。
ディムーム「ディック様しか、我らを救うことは出来ぬのだ!はぁぁ!」
怒号とともに大剣を震わせながらアポロンに向かって突き進む。巨体からは想像できないスピードだ。二人の距離はすぐに眼前まで迫った。
カキンッ!
アポロンの顔の寸前で大剣は止まった。
ディムーム「…なぜ防ごうとしない。なぜ刃を交えん!」
アポロン「地縛民よ、我々はディックの命をもう狙ってはいないのだ」
ディムーム「嘘だ!ミストラルシティでディック様への所業、忘れたとは言わせないぞ!」
キノ「それも知ってるんだ。確かにあの時はディックを殺そうとしたけど」
ボルク「今となっては彼の命どうこうで解決できる問題ではなくなったんだよね」
ディムーム「…貴殿らは気づいておるのだな。ディック様がなすべきことに目覚めたことに」
アポロン「ああ」
ディムーム「ディック様は他の地縛民とは比較にならないほどのカルマを魂に蓄えておられる」
アポロン「カルマ…ソナタら一族の教えにある魂の精度示す指標か」
ディムーム「…元をたどれば我ら地縛民はシャカイナ神を信仰する一族だった。しかし勇士メサイアによって神がこの地から離れた後は神の再臨を待つためにその生涯をカルマの増大に捧げることとなった」
キノ「その生涯は苦行としか言えません。苦行が神の再臨をもたらす根拠は無いにもせよ、あなたたちはそれにすがるしかなかった」
ディムーム「シャカイナ神は身体を失った。再臨の際には、その器たる身体が必要だ。カルマが満ちた魂であるほど、器にふさわしいと考えているのだ」
ボルク「同時にシャカイナが再臨するときのために、シャカイナの塔を大切に守るように周辺に国を作っていった」
アポロン「ソナタらは外部からの侵入を拒み、国自体を隠すため、国を中心に大きな円を描くように外遊しながら魔法陣を形成していた」
キノ「魔法陣の効果は絶大だったね。なんせ国民総出の能力発現だもの。これまでに地縛民が固定された国を持つとはだれも気付かなかったのがその証拠だ」
ディムーム「国民が持つ単一能力『ディスコネクト』だ。我ら神官だけは固有能力を有するがな」
アポロン「私たちもまた、長い間あなた方を観測してきた。シャカイナの復活の可能性は否めなかった故、その力が芽生える場となりえましたから」
ピエタ帝国はかくして永きに渡りその存在を隠してきたのだ。
それはすべてシャカイナ神を迎え入れるためだけのために。
ディムーム「ディック様が生まれたのは外遊隊の一派の中。両親は生まれてすぐにそのカルマの純度に気づいたが、シャカイナ神の器となる運命から抗おうとその存在を隠したのだ」
ボルク「わかる気がする。教えに背いてでも子供の自由を保ちたかったんだね」
キノ「国を隠すのと同じ理屈ですね。ディックという存在を他者に認識されないように『ディスコネクト』をかけたんですね」
存在を隠されたディックは外遊の途中で国外の貿易商に預けられ、ミストラルシティの孤児院に入ることとなった。
記憶すら曖昧なその幼少期にはなにも起き得なかったが、『ディスコネクト』の影響で能力発現すら生じなかった。
まるで見えない力とのつながりすら途絶えたように。
その後、年を重ねる中で『ディスコネクト』の影響は薄れていく。途切れた糸がもまれ紡がれるがごとく、ディックの存在は地縛民に知られることとなった。
同時にメサイア勢に対しても。
ディムーム「ディック様の『ディスコネクト』が完全に解除されたのはつい最近、我らが接触するより先に貴殿らが手を下さんとした」
アポロン「そうだ。だが幾度の接触のあと、ミストラルシティで直接補足した際に、ディックが器にはなりえないと判断した」
キノ「カルマ純度は確かに高域ではあるが器には程遠い、そう僕たちは評価したんだ」
ボルク「これからその純度が増大していく可能性もあったけど、現状の彼からそこまでのポテンシャルは感じなかった。個別監視は終了さ」
ディムーム「間違ってはおらんな。だがディック様の特異性は変わらん。ゆえに神託者として迎え入れようとしたのだ」
アポロン「だが状況が変わった。シャカイナの塔がミストラルシティに出現し、この地から消失したのだな」
ディムーム「これは我らも想定外だ。国民の多くも同時に消失してしまった。入れ替わりにディック様がこの地に来られたのは必然だったのかもしれん」
ボルク「ディックは驚いたろうね。ついに出身国にたどり着いたと思ったら国そのものがないんだもの」
キノ「そしてディックはあなたと出会い、すべてを理解したんだね」
ディムーム「塔が消えはしたが、ここがピエタの国である限り、我は国民が戻ってくる場所を守らねばならん。ディック様にすべてを委ねたのだ」
こうしてディムームはこの地に残り、ディックはミストラルシティに戻り、それぞれに為すべきことのため動くこととなったのだ
アポロン「復活するかもわかないシャカイナよりも、今はオリジネイターのほうが厄介だ」
キノ「おじいさん、話してくれてありがとう。僕たちも為すべきことのために動くことにするよ」
ボルク「ところで、さっきの二人はあなたの能力?具現化した人間に能力を使わせるなんて破格だな!常人レベルじゃぁないよ!」
ディムーム「ほっほっ。我の能力はそんな器用ではない」
ボルク「え…それじゃあ一体…」
キノ「…アポロン。念のため、彼の監視は続けたほうがいいかもね」
アポロン「…そうだな」
メサイア勢はぬぐい切れぬ思いともに、ミストラルシティへ帰還する。
オリジネイターとの邂逅がさらなる可能性の扉を開く予感を抱きながら。
~ディック修行の一幕~
ディムーム「ディック様。我が能力『縛行』は対象者の能力を高めるために苦行を与えるものですぞ!超えてくだされ!」
ディック「生半可な修行じゃあない。けどピエタのみんなのため、俺はやり遂げなければならない!」
ディックが胸元で印を結ぶ。そして頭の中にイメージを膨らませる。
ディック「まだ会ったことはないけれど、にろくに見せてもらった皆の姿をこのまぶたに焼き付ける!ハァァァ!!」
ディック「障壁の向こうに広がる景色のために、俺とともに皆を導け!幻想の騎士団『イマジナリーフレンド』!」
青白い炎が現れたかと思うと、その炎はカンタータとバティストの姿へと変えた!
ディック「できた!できたよディムーム!」
ディムーム「おおかつての神官を現出させるとは、さすがのカルマですぞ」
ディック「んー消し方はわからないけど、そろそろミストラルシティに戻らなきゃ。カンタータ、バティスト、ディムームを補助してやってくれ」
ディムーム「なんと、古代の神官といえ我より官位の高いお二方ですぞ」
ディック「こまかいなーなら、ディムーム、お前は今から神官の上位、大神官になれ。いや大神官に任ずる」
ディムーム「だい…大神官…むふふ。承知つかまった!我ら三神官でこの国をまもりまする!」
ディック「それでよし。それじゃあまたね。落ち着いたらゆっくりさせてよ!」
かくしてディックは自身の生い立ち、そして為すべきことを胸に刻み、ミストラルシティに戻っていったのだ。
その能力『イマジナリーフレンド』とともに!
to be continued
最終更新:2016年10月23日 18:28