乱戦(らんせん)

治安維持委員たちが静寂機関前に集まる数時間前、彼はそこにいた。
~EGO地下・秘密諜報部「無機室」~
にろく「緊急の招集…なんの任務だ」
PC端末に表示される任務内容。

「静寂機関社長静寂静峰が独自に持っている武力組織の排除。およびその武力組織『構成員(メンバー)』に与していた秘密諜報員を排除せよ」

ピッ!ピッ!

画面に表示されるデータ。そこには構成員(メンバー)の内容と静寂機関に与していた諜報員のデータが表記されている。
にろく「構成員…学生の素行不良の中でも能力が高いものを集めて作った部隊。諜報員のコードネームは不明。2名の諜報員が関与していると思われる、か」
秘密諜報員はEGOの暗部。表には出せない汚い仕事を引き受けるのが仕事だ。だがそれはあくまでEGOのため。諜報員が私欲で私設組織に与するのはもってのほかだ。
にろく「ん?」
データの隅になにか書いてある。なになに…特記事項だそうだ。

「特記事項:数時間後、学生組織の治安維持委員(セキュリティ)による静寂機関への大規模デモが行われる予定。治安維持委員にはEGOが応援に駆け付ける旨をうたっているが、EGOによる応援は行わない。治安維持委員のフォローを行い、協力して任務を遂行されたし」

にろく「ずいぶんとハードな任務だな。治安維持委員には正体を知られることなく、協力して任務を達成しろと」
なかなかな無茶ぶりだ。だがそれもこの男には関係ない。この男は与えられた任務をこなすだけだ。
にろく「いくか」
無機質を後にするにろく。

ヌッ…

にろくがいなくなったのを確認するように暗闇の中から姿を現す仮面をつけた人物。
N「コードネーム26。君は僕の駒として動いてもらうよ。Sへの保険としてね。だけどただ行かせたんじゃあつまらないから、諜報員の情報は伏せさせてもらったよ。さ~て、どこまでかき乱してくれるか楽しみだね♪」


~静寂機関・3階~
リヴィエラ「このスーツの男…」
リヴィエラにはわかる。数々の暗部としての仕事をこなしてきた経験が、目の前の男が只者ではないことを告げる。
スカイ「どう攻めるリヴィ?」
リヴィエラ「相手の能力はわからねぇ。まずは手のうちを出させるぞ!スカイ!」
スカイ「はいよ!」

ズッ!

両手を胸元に突っ込むスカイ。

バッ!

胸元から手を出すと、無数の小型爆弾が両手に握られている。
リヴィエラ「アンダー!お前はいつでもやれるよう準備しておけ!」
アンダー「わかった…」
スカイ「盛大にいきましょ!」

バサッ!!

両手に持った小型爆弾を空中に投げるスカイ。小型爆弾がにろくに降り注ぐ。
にろく(この爆弾…見たことがないタイプだ。自作したものか?形状…そして空中に散布して使うという点から時限式か。ならば!)

バッ!

スカイに向かって走り出すにろく。
にろく(爆弾を使うやつの弱点は対象との距離を詰められること。近距離では爆弾は使えないからな)
スカイ「くっ!」
手にナイフを持ち、スカイとの距離を完全に詰めるにろく。もう射程距離だ。
にろく(この距離…他の二人もフォローに周る気はない。まずは1人!)
にろくはこの時点で気づくべきだった。なぜ他の二人がスカイのフォローに周らないのか。それはスカイを守るつもりがないからではない。彼女に近づくのは危険だから。
スカイ「にやり!」

バッ!

服を開きその内側をにろくに見せつけるスカイ。
スカイ「これな~んだ!」
スカイの服の内側には多数のダイナマイトが炎をつけて、点火されている。
にろく「なっ!(こいつ…自爆する気か!?)」
スカイの目の前で攻撃態勢に入っているにろくには躱すすべがない。
スカイ「じゃね~!!」

カッ!!

激しい閃光が当たりを包む。と同時に

ドゴォン!!

爆炎が二人を包み込む。
リヴィエラ「ひゅぅ~。盛大にやったねぇ」
アンダー「すごい爆発…」

「けほ!けほ!」

爆炎のなかでむせる女性。

スカイ「けむい、けむい!」
服がボロボロになりながらもスカイが爆炎の中から出てくる。
リヴィエラ「うらやましい能力だね。あんだけの爆発に巻き込まれても無傷か」
スカイは服はボロボロでもその体は傷一つない。
スカイ「これが私の能力『炎蔽(えんぺい)』だからね」
スカイの能力『炎蔽』は自身の体に触れようとする一定以上の温度の物を遮断する能力。一定以上の温度があるものは、彼女が許可しなければまるで壁でもあるかのように彼女には触れることができないのだ。たとえそれが炎でも。
スカイ「自分には効かないってわかっていても、自爆はちょっと勇気いるよね~」
自作の爆弾は全て一定以上の温度を持つように温度調整を行って作成してある。それにより爆発の衝撃で飛んだ破片も彼女に刺さるどころか、触れることすらない。
スカイ「あの爆発を至近距離で受けたんだ…これで…」

シュゥゥ…

炎が何かに吸い込まれていく。
リヴィエラ「なんだ…」
にろく「自爆とは大胆な戦い方だな」
地面に手をつくにろく。その手からはプラグが地面に刺されている。
スカイ「何あのプラグ?」
アンダー「あれで炎を…吸い取ったの?」
リヴィエラ「ちっ!」
手をにろくに向け水弾を撃ちだすリヴィエラ。

バッ!

プラグを水弾に向けるにろく。プラグが水弾を吸い取るように吸収する。
リヴィエラ「吸い取れるのは炎だけじゃねぇってか」
スカイ「どうしようリヴィ…私たちの能力じゃあいつには…」
弱気になるスカイ。
リヴィエラ「うるせぇ!ピーピーわめくな!そのためにアンダーがいるんだろうが!アンダー!」
アンダー「うん」
地面に両手をつくアンダー。
アンダー「『下限空間(アンダースペース)』」

ヴォン!

空間が展開される。
にろく「なんだ…?」
にろくのプラグが突然消える。
リヴィエラ「能力がうまくつかえないだろ!スカイ!」
スカイ「こんどこそ爆弾の餌食ってね!」
どこからか取り出したロケット型の爆弾を投げるスカイ。

ボシュゥ!!

ロケット型の爆弾はにろくに向かって飛んでいく。
にろく「くっ!」

ドゴォン!

爆弾が直撃し、にろくが炎に包まれる。
スカイ「やりぃ!」
リヴィエラ「アンダー!まだ能力は解除するなよ!」
アンダー「わかった」
リヴィエラ「あいつを確実に仕留めたのを確認するまでは気を抜くな…」

バラララ…

何かがリヴィエラたちの頭上から降ってくる。
スカイ「えっ…これって」
それはスカイがよく知っているものだ。なぜならそれは彼女が造ったものだから。
リヴィエラ「爆弾!?」
スカイ「だ、大丈夫!これは時限式のタイプ。私が時間設定しなければ爆発は…」

カッ!

ドゴォン!!!

リヴィエラたちの頭上から降ってきた爆弾が爆発する。爆発に巻き込まれるリヴィエラたち。アンダーの能力により、能力をまともに使うことができない彼女たちはまともに爆発を受けてしまう。
リヴィエラ「がぁ!」
スカイ「あつい…あついよぉ!!」
アンダー「うぅ…」
炎に飲まれ苦しむリヴィエラたち。
にろく「どうやら俺の勝ちみたいだな」
炎の中から姿を現すにろく。にろくはロケット爆弾を食らったはずなのにピンピンしている。
リヴィエラ「な…んでだ?」
にろく「あの爆発はこれだ」

スッ!

にろくが手に持っているのはスカイが先ほど投げた時限式の爆弾だ。それをロケット爆弾に当て爆発させたのだ。
スカイ「あれは…ブラフで爆発設定はしてないのに…」
にろく「わかっていた。だからお前が投げた爆弾をおれが時限式から接触式にプログラムを書き換えた」
1回目の接触で起動、2回目の接触で爆発に設定することで落下した時点で起動し後はいつでも使える状態にしていたのだ。
スカイ「そんな…こと」
にろく「できるのさ俺の『プラグオン』ならな」
リヴィエラ「こいつの能力を…見誤った」
にろく「お前たちもよくやったさ。だが俺とお前たちとでは年季が違う」
秘密諜報員として幼い時から訓練させられてきたにろくとリヴィエラたちでは経験の差が天と地ほどある。その差を埋めるのは不可能。この結果は必然だ。
リヴィエラ「くっ…」
にろく「構成員はあくまで排除…殺せとまでは言われていない。本命は裏切者と静寂静峰だ。さっきの治安維持委員たちを追うか…」

「おいおい…」

ブシュゥゥ!!!

消火器から散布される粉。何物かが消火器で炎を消化する。

「まったく…このまえの学生の侵入からいいことがないな。今度は治安維持委員は押し寄せてくるわ、構成員(メンバー)と協力して戦えなんて…」

随分とけだるそうな様子でスーツの男は話す。
にろく「秘密諜報員…じゃあないな」

「秘密諜報員?違うね。僕は会社員だ」

男はネクタイをキュッと締め、にろくのまえに立ちはだかる。
涅尤(くりゅう)「 静寂機関掃除部(スィーパー)、黒咬 涅尤(くろかみ くりゅう)。今日も一段とゴミが多い日みたいだな 」
にろく「ゴミ?」
涅尤「子供相手に本気で戦うなんて大人のすることじゃないだろ?大人じゃない大人はゴミと大差ないと思うが?」
にろく「人をゴミ扱いするとは…大した奴だな。だが俺は仕事で手を抜くつもりはない。たとえ相手がだれだろうとな」
涅尤「そうか。だったら僕も遠慮なくゴミ掃除をさせてもらう。これ以上減給されたらたまったもんじゃないからね」

~静寂機関・2階~
メルト「はっはっはっ!!どんなもんですか!!」
械理「くっそ~覚えてろ!!」
メルトの圧倒的な力の前に膝まづく械理…となるはずだったのだが(メルトの妄想では)

メルト「ひぇぇ~~!!!」
無数の警備ロボットたちに追われるメルト。倒しても次から次へと沸いてくるロボットにメルトの魔導力が追い付かない。
械理「ははは!!どうした?威勢がよかったのは最初だけだったな!」
メルト「ダメかもしれませんシィイン…(格好つけなければよかったかも…)」
械理「もう鬼ごっこは終わりだ」

ザザザ!!

警備ロボット、多数のドローンがメルトを取り囲む。
メルト「に、逃げ場がない…」
械理「一斉射撃!」

ババババ!!

メルトに撃ち込まれる無数の銃弾。メルトの体が穴だらけになる。

ユラッ…

メルトの体が揺らぐ。
械理「なんだ?」

シュゥ…

メルトの体が消える。

ザシュ!!

械理「ぐっ!!」

械理の体を後ろから貫く宝剣。械理の後ろにはメルトの姿があった。
メルト「『蜃気楼(シェンズィン)』。あれは私の幻。蜃気楼ですよ」
械理「…まさか追い詰められたふりを…」
メルト「え、えぇ!そ、そうです!(本当はピンチでしたけど…とっさに『蜃気楼(シェンズィン)』を使ったおかげで一発逆転でした)」
械理「だが…」

グルン!

械理の首が180度曲がり、メルトを捉える。
械理「ここまでは予測できなかったようだな」

グリン!!

両腕も普通では曲がらないはずの方向に曲がりメルトの両腕を掴み捉える。
メルト「ば、化け物!!」
械理「化け物とは失礼な。これが研究の成果だ。僕は僕自身が機械の体になることで限界を超えたんだよ。この体ならば脳さえあればいくらでも替えが聞く上にアップデートし続けられる!」
メルト「ひぇぇ~~!!」
械理「もう逃げられないよ。君が使っているのは魔導だよね?実は僕はね魔導というのにも興味があってね。僕の改造体に取り入れられないかと思っていたんだ。君もちょうどいい実験体として使わせてもらおうかな」
メルト「か、勘弁してください!!」
械理「さ~て、まずは麻酔で体を動けなくしてそれから脳をいじくりまわしてみるかな」
メルト「や、やめて~!!」
械理「いいサンプルだ。実験がはかどりそうだね」

「嫌がる女の子を無理やり襲うのは嫌われるわよぉ」

械理「だれだ?」
部屋の中に響く女性の声。その声の主は…
零軌「まったく、随分気持ち悪い体ねぇ。そんな体になってまで生きていて楽しいのかしらぁ?」
響零零軌だ。彼女が姿を現す。
メルト「だ、だれでもいいけど助けてください~」
零軌「ほら~そんなにいやがっているじゃないのぉ」
械理「おまえ…知っているぞ。第6位の響零零軌。なんでこんなところにいるのかわからないがちょうどいい!おまえもサンプルとして僕のものになれ!」
零軌「それはお断りよぉ」
械理「なに?」
零軌「だ、か、ら。あなたみたいなぁ、機械大好き~な根暗君はタイプじゃないのよねぇ」
械理「なんだとぉ!!なめやがって!だったら力づくで!」
警備ロボット、ドローンたちが一斉に零軌に襲い掛かる。だが…

ビリリリ!!

一瞬何かが流れたと思った次の瞬間。

ドサッ!ドン!

ロボット、ドローンたちが一斉に機能を停止する。
械理「な、なにが起きてる!?」
零軌「おバカさんねぇ。あなたじゃぁ私に勝てる見込みは万に一つ、いえ兆に一つもありはしないのよぉ」
械理「な、な、な……」

バキ!バキ!バキ!

械理の体が自由を聞かない。
械理「なん…で…」
零軌「相性最悪ってやつなのよぉ♪」
械理「ぐっ…」

ドサッ!!

その場に倒れ意識を失う械理。
メルト「ありがとうございました!」
零軌「いいのよ。私もここに用事があって来たのだからぁ」
メルト「あなたも上に向かうんですか?」
零軌「そうねぇ…(一緒に来たあの諜報員の子はビルに入った途端姿を消しちゃったし…でもぉこの子は一凛さんの連れだろうからぁ。一凛さんたちと一緒にいくのもねぇ)」
少し考えた後、零軌が出した答えは。
零軌「私はいろいろと野暮用があるのよねぇ。上にはあなた一人でいってもらえるかしらぁ」
メルト「わかりました!ではどうもありがとうございます!」
そういって上階へと向かうメルト。
零軌「さ~て。秘密諜報員…どこにいるのかしらぁ。必ず見つけ出すわよぉ」

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最終更新:2020年12月10日 23:20