移る状況(うつるじょうきょう)

~静寂機関・5階~
零軌「久しぶりにここに来たけど、やっぱりあまりいいところじゃないわねぇ」
№25「ふっ。おまえの墓場にふさわしい場所だ。『ヴェジテイトオン』!」

ゴッ!

地面から生えた植物の触手が零軌の体を貫こうと襲い掛かる。
零軌「よっ、と!」
触手を回避する零軌。
零軌「あなたの思考はみえみえなのよぉ」
№25「そうか。なら…」

スッ…

仮面を取り出し被る№25。
№25「これでどうかな!」

バッ!

地面を蹴り、零軌へと迫る№25。
零軌「くっ!」
反応が遅れる零軌。

ドッ!

零軌の脇腹に放たれる№25の蹴り。勢い零軌がよく吹き飛ばされ、地面に倒れる。
零軌「ぐっ…う…。対策はしてきたってわけねぇ」
№25「そういうことだ。おまえの能力の推測はついていた。そしてその仮定は今証明された。お前の能力は電磁波を操る。それを人の脳に作用させ、異常を起こさせる。だがこの仮面は電磁波を遮断する。お前の能力は効きはしない」
零軌「これは…まいったわねぇ」
№25「せめて苦しまず殺してやる。『ヴェジテイトオン』!」
地面から生えた触手が零軌に迫る。

バッ!

何者かが倒れている零軌のもとへ現れる。
零軌「あなたは…」
きゅっぱ「掴まれ!」
零軌を担いで、触手を避けるきゅっぱ。
零軌「助かったわぁ。どこに行ったのか心配していたのよぉ」
きゅっぱ「そうかい(こいつを助けるつもりはなかったが…ついでだね)」
零軌を壁際に下ろし、№25と対峙するきゅっぱ。
きゅっぱ「あんたこの街の諜報員だね?」
№25「そういう物言いをするということは…お前も同類か」
きゅっぱ「あぁ。あたしはコードネーム№98。あんたと同じ秘密諜報員さ」
零軌(やはり彼女も諜報員…狙いは)
№25「俺は№25。お前他所の諜報員だな。なぜミストラルシティにいる。しかもこの狙ったようなタイミングで」
きゅっぱ「このタイミングがベストだったのさ。あんたたち諜報員が出張ってくるのが」
拳銃を構えるきゅっぱ。
№25「このまえ捕まえたデータを盗み出したどこかの諜報員…あいつの仲間か」
きゅっぱ「59(ごくう)のことか…やはりお前たちに」
№25「奴は情報を最後まで吐かなかった。お前には情報を吐いてもらうぞ」
きゅっぱ「情報を吐いてもらうのはあんたの方さ!」

パン!

拳銃の引き金を引くきゅっぱ。
№25「気の早いやつだな」
№25の前に触手が壁のように展開され銃弾が弾かれる。
零軌「そいつは植物を操るわ!」
きゅっぱ「なるほどね」
№25「能力がわかったところで対策を練れなければ意味はない!」

シュルル!!

植物の触手がきゅっぱに襲い掛かる。

ガッ!

きゅっぱ「くっ!」
きゅっぱの両腕を触手が拘束する。強く腕を締め付けられ手に持っていた銃が落ちる。
№25「さて」
きゅっぱへと歩み寄る№25。
№25「もう反撃もできまい。お前を尋問させてもらおうか。その次は響零零軌の番だ」
きゅっぱ「ふっ」
№25「何が可笑しい?」
きゅっぱ「これで勝った気かい?」
№25「その強がりはいつまでもつかな!」

ガッ!

きゅっぱの首を掴む№25。
零軌「まずいわね…(このままじゃあの諜報員はやられてしまう…ちょっと期待外れだったかしら)」
№25「さぁ!はけ!お前はどこの所属だ!」

ピト…

きゅっぱの指が№25の胸に触れる。
№25「なんだ…」
きゅっぱ「『トリガーオン』」

ガキン!

引き金は引かれた。それは雌雄を決する引き金。その一手で彼女の勝利は確定した。
№25「なにをした!?」
きゅっぱ「ちょっとおまえの心の引き金を引かせてもらっただけさ。さぁ能力を解除してもらおうか」
№25「そんなこと…」

シュルル…

№25の言葉とは裏腹に触手がきゅっぱを開放する。
№25「な、なんだ!なぜ俺は今お前の言葉に従った…」

スッ…

№25の首元に顔を寄せるきゅっぱ。彼女は小声で№25に話しかける。
きゅっぱ「答えな。ミストラルシティの暗部、あんたたちの根城はどこにある?」
№25「EGOミストラルシティ支部の地下だ。そこに「無機室」はある(なぜ俺は今こいつに喋ってしまった…これがこいつの能力)」
きゅっぱ「そうかい…」
気づいた時にはもう遅い。№25には成す術がないのだ。

ズッ…

№25の首に突き刺さるナイフ。
きゅっぱ「感謝するよ。あんたのおかげであたしの目的を達成できそうだ」

ブシュゥゥ!!

首から大量の血を出しその場に倒れる№25。
№25「ば…かな…」
息絶える№25。きゅっぱの元に歩いてくる零軌。
零軌「どんな手品を使ったのかしらぁ?」
きゅっぱ「たいしたことじゃないさ」

バッ!

互いに手を相手に向けるきゅっぱと零軌。
きゅっぱ「おや?なんのつもりだい?」
零軌「それはこっちのセリフよぉ」
二人の間に走る緊張。まさに一触即発。
きゅっぱ「あんたの能力もあたしと似たタイプの能力か」
零軌「さてどうかしらぁ?受けてみたらわかるんじゃないかしらぁ」
きゅっぱ「それもそうか。だがその気はない…あたしの正体を知ったあんたをそのままにはしておけない」
零軌「やる気ねぇ」
一瞬の静けさ…そして状況は動いた。

きゅっぱ「『トリガーオン』」
零軌「『開錠(アンロック)』」

ガキン!!

~~

零軌「……」
あおむけに倒れている零軌。

パチン!

目を開け零軌が起き上がる。
零軌「あの諜報員はいないわねぇ」
ことの顛末。同時に能力を発動したきゅっぱと零軌。だがきゅっぱのほうが一瞬早かった。零軌のきゅっぱに関する記憶の全てを忘れるように引き金を引いたきゅっぱ。きゅっぱは零軌が意識を失い倒れたのを確認すると静寂機関のビルの外へと姿を消したのだ。
零軌「記憶の消去…私に近い能力。でもだからこそ対策できたのだけれどぉ」
零軌はきゅっぱと№25が戦っている隙に、自分に対して能力を使いその記憶を改ざんしていた。きゅっぱのことをただの敵として認識するように。そしてその記憶が消えた場合、本来のきゅっぱに関する記憶が蘇るように設定していたのだ。
零軌「記憶が戻ってあの諜報員がいないということは…予定通りではあるけどあの諜報員に敗けたってことねぇ。まっあの諜報員がなにを何を企んでいようが私には関係ないことだしぃ」
敗けたことに対する鬱憤はあるが、それはそれと自分に言い聞かせるように話す零軌。
零軌「状況はどう動いたのかしら。私も上に行ってみないといけないかしらぁ」

~静寂機関・最上階社長室前~
一凛「やっとついたわね」
社長室の前に到着した一凛。背負っている美天は意識を失ったままだ。
一凛「この扉の先に静寂機関の元締めがいるってわけね」

スッ…

美天を下ろす一凛。
一凛「美天さんはここで待っててね。すぐに片づけて戻ってくるから」

バン!

部屋の扉を勢いよく開く一凛。部屋の中には椅子に座った男性が待ち構えていた。
静寂静峰「治安維持委員(セキュリティ)か…いやお前は見たことがある。確か也転一凛か」
一凛「あなたが静寂機関の一番偉いやつね。観念しなさい!」
静寂静峰「なにもわからない子供が大人の世界に干渉してくるな。私が今まで築き上げてきたものを子供ごときに破壊されてたまるか!」
一凛「それはあんたの勝手な都合でしょ。散々汚いことをしてきて、あんたが更生院を使ってやってきたことを許すわけにはいかない!」
静峰「許すだ許さないなどお前が決めることではない!学徒ごときがこの私をここまで追い詰めたという事実だけでも許せはしない!その戯言を叩けぬようにしてやる!こい!」
何かを呼ぶ静峰。

シーン……

だがその呼びかけに反応するものはない。
静峰「なぜだ!?なぜ何も来ない!」
予想外の事態に慌てふためく静峰。
一凛「なんだかわからないけどチャンスみたいね。おとなしくしてもらうわよ!」

ドカッ!バキッ!

全身を縄で結ばれ口も塞がれ拘束された静峰。
静峰「むぐぐ!!(ばかなこの私がこんな終わりだなど…)」
一凛「いっちょあがりってね。あとは十一たちに連絡をして終わりね」
こうして静寂機関での戦いは幕を閉じた…とはならない。静寂静峰…S(エス)は所詮はNにより足切りされた存在。彼が捕まった程度でこの戦いは終わりはしないのだ。

~静寂機関・地下2階特殊研究室~
ここは表には出せないような非合理的な研究がおこなわれている静寂機関の能力者研究室だ。そこに彼女はいた。
リヴィエラ「…」

カタカタカタ!

パソコンを操作するリヴィエラ。隣の部屋のカプセルのような装置にアンダーとスカイの遺体が入れられている。
リヴィエラ「能力の仮想理論実験…いいねぇ。これならスカイとアンダーと共に戦える。私の体で試してみようじゃないの!」

~静寂機関・6階~
にろく「はぁ!」
激しくぶつかるにろくと№27、涅尤。

ピピピピ!!

涅尤の携帯端末に連絡が入る。
涅尤「なんだ?」

ピッ!

携帯端末に応答する涅尤。
涅尤「もしもし。…はい、えぇ。えっ、社長がですか。はぁ…」
にろく「なんだ…?」
№27「戦闘中に電話に出てる場合じゃないでしょ…」
涅尤「でしたら僕は…はぁ、掃除部は解体。えぇ、えぇ。わかりました…」
通信が切れる。なにやら落ち込んだ様子の涅尤。
№27「なんなの?」
涅尤「静寂機関の親会社から連絡が入った。静寂機関の運営及び管理は親会社に移行された。僕のいる掃除部は解体。僕はお役御免だそうだ…」
にろく「…(敵とはいえ、気の毒だな)」
№27「なんともいえないわね…」
涅尤「さてどうしたものか…」
急に戦う意思を無くし、その場に呆然と立ち尽くす涅尤。金をもらえねば、仕事をする意味もない。会社員とはそういうものだ。
涅尤「…決めたぞ」
№27「どういうつもりかしら?」
涅尤が№27の前に立ちはだかる。
涅尤「僕を切った会社へのささやかな抵抗をさせてもらう。」
にろく「俺の味方になるのか」
涅尤「いいや。おまえと協力はしない。僕は勝手にあいつを倒す。その邪魔はお前にもさせない」
にろく「そうか…なら俺は!」

ボッ!

にろくの服から煙が発生するとともに彼が姿を消す。
にろく「お前にあいつは譲ってやるよ。ほかにも俺はやることはあるんでな」
涅尤「会社を負われた鬱憤…ありがたくこいつをいたぶらせてもらう」
№27「静寂機関の掃除部(スィーパー)…もう元(もと)ね。諜報員をいたぶることができるなんて…なめるんじゃないわよ!」
涅尤「なめてはいない。それが事実だということだ」
№27「よほど自分の力に自身があるようだけど所詮は表の世界の住人。それにあんたの能力も底が知れているわ。自身の両腕の炭化した細胞を操り、爆発させたり武器として使うことができる程度の能力」
涅尤「そうだね」
№27「この問答も戦いのうちっていうのも気づいているかしら?」

ズズズズ…

涅尤の背後に現れる影が彼の首を切ろうと勢いよくその手を振るう。
№27「終わりね」

ザシュン…

涅尤の首を切断する影…それが№27の予想した未来。だが現実はそうはならなかった。

ガキン!

涅尤の首へ放った一撃は黒い壁に阻まれる。いや違う。涅尤の体を漆黒が覆っている。その漆黒があらゆる攻撃を弾くのだ。
№27「なに!?」
涅尤「炭素装甲(カーボンアーマー)。お前は子供じゃないからな。本気を出してもアンフェアじゃない」

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最終更新:2020年12月28日 21:59