本気の決闘!兄弟の絆を越えろ!

突然道場へと連れてこられたスライトニー
ツバメは二人に何を告げようというのだろう…

~果倉部道場~
ツバメ「まだそんな素っ頓狂な顔をして。ダメね、全然ダメ!」

突然の駄目だし、しかし二人はなれたものだ。
だが、次の言葉に耳を疑うことになる。

ツバメ「あなたち、今ここで決闘しなさい!そして『ロードの系譜』を継ぐもの決めるのよ!」

スライ「お前どうして…」
トニー「どうしてその名を知っているんです…」

二人の問いかけは当然だ。
『ロードの系譜』とは、彼ら一族に伝わる称号であり、一族以外に知りえない名前なのだ。

ツバメ「当然じゃない。今寄咲家の当主として、それくらい当然の教養よ」

今寄咲グループは世界でも有数の財閥であり、ツバメは若くしてその采配を担う社長を務めている。
幼いころからあらゆる学問を修めてきたため、彼女の思考即断力は明解であって迅速だ。
その過程で果倉部流すら免許皆伝し、彼女のレベルに至る段位をを飛鴎段と呼ぶことになったのだ。かもめすら彼女の伸びしろをはかり知ることはできなかったそうだ。

ツバメ「準備はいい?構え…」

ツバメが戦いを促そうとしたところを、トニーが慌てて静止した。

トニー「ちょっちょっと待ってください。確かに私たちは『ロードの系譜』を継ぐために武者修行をしている身です。ですが称号は兄であるスライが継ぐのが妥当でしょう?戦って決める意味なんてないですよ!」

スライ「いいやトニー、ツバメは正しい。頭がいいせいか唐突な言い方で意表を突かれたけどさ。戦うなら今、俺たちの戦いに今、決着をつけよう!」

スライが構えをとる。それは実戦を想定した戦闘に特化した構え。
ぴりっと空気が張り詰める。
トニーはスライの本意気を感じとった。

トニー「…ようやくらしくなったじゃあないですか」

彼もまた同じ構えをとる。

トニー「スライ、あなたはいつからか兄であり続けなければと、それを大きな重しと感じていた。私はそれに気づいていました」

スライ「お前が気づいていたことに、俺は気づいていた。そしてお前が弟としてふるまってくれることに俺は甘えていた」

ツバメ(双子とはただの兄弟とは違う存在。あなた達はその狭間で揺らいでいる…この状況はあなたたちお互いの未来を阻害することになっているわ)

兄弟の絆を超えた戦いが、今始まる。

~果倉部道場「飛翔の間」~
ツバメ「ルールは昇段戦と同じ。どちらかが負けを認めるか,立会人が見極めるまで。立会人は私が務めるわ」

それから,と続けてツバメは腕輪に光る鉱石を触れながら続ける。

ツバメ「そうそう,あなた達に全力を出してもらうために,私の能力で外部からの介入を遮断しておくわ。二人の能力は問題なく使えるように調節しておくから心配しないで」

彼女の能力である「秘密の箱庭『シークレット・ベース』」は,任意の空間を切り取り外部から遮断する。
いつもは特別な商談や密談をするために使うものだが,今回は彼らに全力を出し切らせるために能力を使うことにしたのだ。

一瞬,飛翔の間が白い光に包まれ,そして元に戻る。
どうやらこれで外部とは切断されたようだ。

スライ「そりゃあいい。思う存分能力を使えるってことだな」

トニー「…秘策でもあるんですか?なんにせよ,今日は私が勝たせてもらいますけどね」

ツバメ「思う存分やりなさい。両者構え……はじめ!」

最初に動いたのはスライだった。
トニーに向かって走り出しながら能力を発動する!

スライ「シャイニーマジック!フォースキャリア!」
彼の周りに無数の光が刃状の結晶となって現れ,そしてトニーに向かって放たれた。

トニー「お決まりの戦法ですね。いつも通りの戦い方なら,私には効きませんよ!」
彼の頭上に暗雲が立ち込める。その奥には光がうごめいているようだ。

トニー「ライトニングボルト!」
雷が降り注ぎ,光の刃を叩き落とした。

トニー「それからスライならきっと…」
雷をかいくぐり,トニーに走り寄るスライをトニーは見逃さなかった。

トニー「甘いですよスライ!」
渾身の突きを近寄るスライにカウンターで食らわせた!
苦痛にゆがむスライ…いや違う。
トニーの突きは空を切り,蜃気楼のごとくスライが揺らいだのだ。

トニー「しまった!これはドッペルゲンガー!スライはすでに次の光魔法を発動していた!」

フォースキャリアを放ったスライは,即座に光の分身を作り出しトニーめがけ走らせていた。
そして本人はというと…

スライ「ふん!」
トニー「ごふっ!!」

背後から不意の一撃がさく裂した!トニーの防御が間に合わず,壁際まで吹き飛ばされてしまった。

スライ「おらおらおら!!」
トニーめがけて走り出す!

トニー「ライトニングボルト!!」

頭上から雷が降り注ぐ!しかしスライにはあたらない!

スライ「シャイニーマジックは光の軌道を操る魔法,雷は俺を避けるのさ。お前の能力には最悪な相性だよな!」

トニー「ふふふ,私が無駄に能力を使うと思いますか?」

スライ「時間稼ぎもほどほどにしろよ。いくぜっ!!」
拳を繰り出す一瞬の束の間,雷がトニーに直撃した!!

スライ「!?」
トニーに拳は届かなかった!それとは反対にスライの体に衝撃が走る!

スライ「これは…電気!まさか…」

スライは後方に退き距離をとり,トニーの姿をあらためた。
そこには凶悪な電気の竜のごとき雷を纏った,トニーが立ちはだかっていた。

トニー「スライも初めて見るでしょう?これが私の奥の手「ライト・リアイランス」!!はぁぁぁぁ!!!」

先ほどの攻撃をものともせず突進するトニーの攻撃を,スライは受けきることができなかった。
スライ(このスピードは雷の電気による筋肉刺激か!速度に比例して力も増しているうえに電気衝撃!)
一瞬ではあるが身体が動かない。この戦いにおいては致命的だ。

トニー「ライトニングボルトォォォ!!」
三度雷が降り注ぐ!それらはすべてトニーへと集約されていく!
トニー「ライトリアイランスゥゥゥ!!」

全身が光輝くその姿はまさに雷神!

トニー「いきますよぉぉぉ!!」

光の速度とそん色ないスピードとなったトニーの連撃!!
前後左右から飛び交うその攻撃に翻弄されるスライ!

スライ「…っく!このままでは…まずい…」
光の速度の攻撃をよけられるはずがない!…ん?光の攻撃…!!

スライ「シャイニーマジック!スペリオルミラージュ!!」

ライトリアイランスによる攻撃は光と同格!極限の速度を手に入れた代償として光魔法の影響を受ける攻撃となりえてしまったのだ。
ゆえにトニーの攻撃は次第スライをよけ始める…

トニー「この速度を私自身が制御しきれていない上に,光魔法の影響でもはや相手に術中の中…仕方ありません」
足を止めていったん攻撃の手を緩めると,彼は帯電した電気を両手で身体の前にかき寄せ始めた。
まるで雷の球体を練り上げるように。

トニー「奥の手のその先です。これでしまいにしましょう!!貫け!『ライトパルスウェイブ』!!」

高密度の光球が,迷うことなくスライに向かって,トニーの手から放たれた!!
あまりの輝きに部屋の隅が暗闇に包まれている!

スライ「お前の攻撃ならいくらでもいなせるって何度もいわせるな。シャイニーマジック!」

トニー「無駄なことはしない,と何度も言わせないでほしいですね」

スライ「どういう意味だ…」

光球は一直線にスライに向かって突き進む。

トニー「あなたが操作できるのは『光』。私の能力により副次的に生じた「電気」は操作できない!先ほど電気による痙攣を無効にできなかったことからも明らかです!」

スライ(落雷が持つ電気は一筋でも致死量!それを数十と束ねた光球を受けたらひとたまりもない!だが,よけられないなら…)

スライ「俺は,よけない!」

トニー「!?」

ばちぃぃぃぃいいぃぃぃ!!

電流がスライの身体を走り抜ける。
ぷすぷすとスライの身体から煙が立ち上る。
あれだけの雷が集約した光球を受けたのだから当然だ。もう意識もないだろう。

トニー「はぁはぁ…やりました…でも私ももう身体が限界です…」
ライトリアイランスによる帯電状態はトニー自身にも大きな負荷となっていたのだ。
膝をつきそうになったその時…

スライ「シャイニーマジック!フォースキャリア!」

まさか,そんな!
ありえない,あの電流を受けてなお,立ち向かえるなんて!

トニーはスライの足元に,鎖がまかれた刀身の長い剣が落ちているのに気付いた。
まさか…あれを使ってコイル化し,スライを中心に磁界を発生させて,電磁誘導により電流を地表に受け流した?
いや,そんなことを考えている暇はない,まずはあの攻撃をよけないと!

トニー「ライトニングボルト!光の刃を叩き落とせ!」

幾重の落雷により刃のいくつかは消し去るが,数本の刃が依然として飛んでくる!

トニー「!?まさか,スペリオルミラージュ!認識がずれている!仕方ない刃は無視です!スライは…」

周りを注視すると落雷の隙間から,スライが走り寄ってきていた。

トニー「同じ手は二度くいませんよ!十中八九後ろから,と見せかけて!」

スライの行動を予想して,後ろではなく頭上を仰ぐ,しかしそこに誰の姿もなかった。

スライ「果倉部流…」

トニーの正面から声が聞こえる。それは落雷の中をすり抜けてきたドッぺルゲンガー,ではなくスライ本人だった。

スライ「飛鴎破壁拳!!」

だだだだだっ!!
帯電状態ではないトニーの体を,スライの正拳がえぐる!えぐる!えぐる!
だだだだだっ!!

トニー「ぐはっっ」

倒れこむトニー。限界を超えた彼にもう立ち上がる力はなかった。
トニー「やっぱり…スライは強いですね…」

スライ「お前もやるじゃぁないか」
彼もまた大きなダメージを身に受けふらつくも,その身体は力強さを保って立ち残っていた。


ツバメ「勝負あり!勝者…スライ!」


~秘密の箱庭内「飛翔の間」~
スライ「ようやく分かった。俺とおまえ双子であり,兄弟だが,それ以上に最大のライバルだ。兄であることを理由として,俺たちの未来を制限してしまったんだな」

トニー「私も同じです。これからは本当の意味で対等です!まぁロードの系譜を継ぐのはスライに決まりましたけどね。いやー」
トニー「本気で負けるって,こんなにも悔しいんですね」
おどけたように手を横に広げるトニーはぽつりとつぶやいた。

本気で戦ったからこそ,二人は兄弟を超えた双子として認識を新しくしたのだが,スライの中にはこんな思いが湧き上がってきた。

スライ「そのことなんだが,ロードの系譜は俺たち二人で継ぐことにしないか?」

ツバメ「え!?この激戦の後に何をいっているの?」

トニー「確かに,私たちならそれがふさわしい。いや,それがいい!」
どうやらトニーの中でも同じ思いらしい。

ツバメ「まぁ確かに初代ロードは双子だったというし,それもいいかもしれないわね」

スライ「え,そうだったのかよ」

トニー「知らなかったです」

ツバメ「はぁぁ?あなた達やっぱり駄目ね,全然だめよ!!」


こうしてスライとトニーは,ロードの系譜を兄弟で受け継ぐことに決めた。
彼らの一族に伝わる伝統を,彼らはこれからも守り続けるのだ。







○○「ご歓談中ちょっとよろしいですかぁ?」

一同「???

○○「勝手にロードの系譜の継承者を決めないでほしいなぁ」

●●「ほんと。お前たちだけで決めていい問題じゃあないんだからさ」

ここは秘密の箱庭。外部から侵入することは決してできない。
それなのにこの空間に見知らぬ二人が存在している奇妙奇怪!!

スライ「誰だ…おまえら,誰なんだ!!」

○○「はぁ?忘れたってのかよ,ありえねぇ」
白髪の男がかったるそうに答える。

●●「どうせ私たちメレダイヤ(屑ダイヤ)のことなんて眼中にないってことなんでしょう」
黒髪の女が当然のごとく答える。

トニー「メレダイヤ…私たち一族のなかで,ロードの系譜を受け継げなかった家の者たち…」

彼ら一族「ライトリンクス」には二つの家系が存在する。
長となりロードの系譜を受け継いだダイヤ・モンド家。
そして,ロードの系譜を受け継げなかった家々の俗称メレ・ダイヤ。
当然ながら,二つには大きすぎる溝がある。

長が崩御した際には,家々から代表者が選出されて次の長を決めるのだが,もはやそれは形骸化し,現継承家であるダイヤ・モンド家が世襲する形となっていた。

メレダイヤは決してダイヤモンドにはなれない。
そう,10年前にあの事件が起きていなければ…


○○「仕方ないなぁ。自己紹介してやるよ」

二人は一瞬の間にスライ,トニーの隣に移動してきた。
あまりのことに,そして決闘の後ゆえに二人は身動きが取れなかった。

○○「俺の名前はロン=モアザンディーノ。今度は忘れるなよぉ!」

●●「私はルージュ=モアザンディーノ。いいこと,ロードの系譜は」

ロン・ルージュ「我らモアザンディーノが継承する!」

そう告げる二人の指には,煌めく鉱石の指輪がはめられていた。

ロン「今日は挨拶だけで済ませてやるからなぁ!」

ルージュ「次に会うのは,ロードの系譜継承戦のその時よ!」



兄弟のきずなを超えた二人の前に現れた,同じ一族の二人。
彼らが告げる現実は,未来を照らす光なのか闇なのか。
それは怪しく光る鉱石のみが知っているのであった。


to be countinued

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最終更新:2016年11月14日 01:23