ミストラルシティの中心部にその雑居ビルはひっそりと構えていいた。
3階建て程度の小さく古くさいその見た目は、高層ビルが立ち並ぶ街並みにはまったくそぐわないでいる。
こんなところ、誰が入居するのだろうと思うだろうが、以外にもひっきりなしに人が出入りしている。
~雑居ビルの中・喫茶店かざぐるま~
にろく「…」
俺はこの店のマスター、いかした黒スーツに身を包み、カウンターの奥でコップを磨いている。
店内にはクラシック音楽が流れており、常連客はこの雰囲気を愉しんでいるのだ。
喫茶店とはそう、その店の雰囲気と苦いコーヒーを味わう大人の社交場なのだ。
言葉など不要、だからマスターである俺も寡黙を貫く。
カランコローン
新しい客が来たようだ。それを出迎えるのは...
ナル「いらっしゃいませ。おひとりですか?どうぞこちらへ」
客対応はナルに任せている。
ナル「マスター。ブレンドひとつお願いします。」
にろく「…」コクリ
こぽこぽこぽ
コーヒーを淹れる至高の時間、これも喫茶店の醍醐味だ。
カランコローン
おっと今日は客の入りがいいな...っと厄介な奴らが来たようだ。
ナル「やぁいらっしゃい。いつものでいいかい?」
スライ「ああ。モゴラマウンテン200gね。あと今日は...」
トニー「甘いものが食べたいそうなんです。何かありましたっけ?」
こいつらは上の階に住み着いて道場やらを開いている騒がしい兄弟だ。
ナル「甘いものですか。なるべくお客さんの要望に応えたいんだけど、困ったなー」
ちらっと俺のほうを見て、どうする?と小さな声が聞こえた。
俺の店ではコーヒーしか出さないことをこいつらは知っているはずなのに
ナルの人の好さに付け込んで、毎度ナポリタンだ、オムライスだと要求してくる。
にろく「…」コクリ
いつものことだ、何とかしてやろう。さて戸棚から普通の調理器具を引っ張っりだす。
すっと机に手をかざすと、その下にプラグが出現した。
これが俺の能力『プラグオン』!
あらゆる平面にプラグを出現させることが可能!プラグはあらゆる電化製品のコンセントに対応している!
そしていかなる環境でも上限なしの電力を供給することが可能なのだ!
プラグに調理器具を接続し超過電力を供給、通常では発揮できない極冷却状態を生み出し、コーヒー他甘味料を投入した。
...完成だ。極限まで冷えた黒蜜入りカフェオレアイスだ!
にろく「…」スッ
ナル「はいおまちどうさん♪」
スライ「へえ。アイスなんてしゃれたもんあるんじゃん。かもめさんも気に入りそうだ」
トニー「な!こんなに冷たいアイスは初めてです!さては朝から仕込んでたんですね!」
スライ「おい。味見するなら俺にも一口食べさせろ」
トニー「なりません。これは私とかもめさんの分です。スライは甘いもの苦手でしょう」
まったくもって騒がしい。こいつらは喫茶店の何たるかを知らなすぎるんだ。
ナル「ありがとうございました。またよろしく」
ようやく静かな店内に戻った。これだよこれ。
ナル「なるほど、カフェオレを急速冷凍してアイスにするとはね。ナイス能力!」
ナル「またお客さんからリクエストがあったらよろしくね。にろくにかかればたいてい何とかなるから助かるなー」
おいナルよ、俺を便利なコックと勘違いしていないか?俺は喫茶店のマスター。
客が満足するコーヒーを淹れるために俺は存在しているのだ。
おっとそしてもう一つ。俺には課せられて使命がある。
カランコローン
ナル「いらっしゃい。おひとりですか?」
あの男「間違ってたらすまないが、ここは”ヴィントミューレ”であってるかい?」
ナル「あーそっちのお客さんね。マスター、依頼人だよ」
にろく「…奥へどうぞ」
この店のもう一つの顔、探偵事務所ヴィントミューレ。
招き入れた奥の部屋には小さな机といすが並んでいる。
俺はこの事務所の探偵、いかした黒スーツに身を包み、依頼人に向かってこう囁く。
にろく「それで。依頼内容は何なんだい?」
~雑居ビルの中・探偵事務所ヴィントミューレ~
にろく「つまり、人を探してほしいと」
ディック「そうそう、生き別れた俺の両親を探してほしいんだ」
ナル「両親の名前がわかるなら簡単だ。これから行くところに君もついてくるといいよ」
にろく「報酬は後払いで構わない。さあいくぞ」
ディック(やべえ超かっこいい。この人たちなら何でもできちゃうんだろうなー)
~地球連邦統合治安維持機関E.G.Oミストラルシティ支部・データベース室~
ディック「いや、万能すぎでしょ!なんで治安維持局の最深部にあるデータベース室まで簡単にこれるんだよ!」
ザル警備なんですかああああ!?とがーがー喚くディックをしり目に作業に取り掛かるにろくとナル。
にろくが持ち込んだ小型のスーツケースからスマートホンサイズの電子端末を取り出すと、
データベースが保存されているスーパーコンピュータに向かって無造作にケーブルを差し込む。
セキュリティ上この部屋にあるスーパーコンピューターは外部から容易にアクセスできるようにはなっていない。
しかし俺にかかれば…
にろく「プラグオン!」
手をかざしたスパコンの側面に、プラグが出現した。
こうしてスーパーコンピュータと端末がいともたやすく接続されたのだ。
さらに、生成されたプラグから供給される電力には、出現場所の”情報”が含まれているのだ!
その情報をもとに端末で高速解析を行えば…
ナル「名前検索っと。これだ。んーディック、残念なお知らせだ」
にろく「ディック、君の両親はすでに死亡している」
ディック「…」
ナル「あまり落ち込まなほうがいいですよ」
ディック「そうだな。うん、今更仕方ないよな」
にろく「…(この反応、死んでいることはすでに知っていた?ならどうしてわざわざ依頼なんてしたんだ?)」
ナル「ここにはこれ以上の情報はありませんね。いったん事務所に帰りましょうか」
とその時、ブブーブブーと
にろくの首に巻いたチョーカーが微振動を起こし”招集”を知らせていた。
にろく「すまない。俺は少し寄り道してから帰る。先に行っててくれ」
ナル「あー。チョーカーのあれね。遅くなるなよ」
~同支部地下・秘密諜報部「無機室」~
にろく「これが今回の任務か。了解した」
無人の無機質な室内に置かれたPC端末から、素早くデータを入手し部屋を出る。
俺は秘密諜報部の構成員のひとり。といっても末端の手足にすぎないけれど。
それにしても厄介な仕事になりそうだ。
この任務内容…そうか。ディック、お前が今日来たのは偶然じゃあなかったんだな。
~探偵事務所ヴィントミューレ~
ナル「おいにろくやばいぞ!ディックが…」
事務所に入るなりナルが大声をあげて近づいてきた。
にろく「…あいつ、何かしたのか?」
手を床に向けていつでも対応できるように身構えるも、それは杞憂であった。
ナル「ディックのやつ、まったく金をもっていないんだ。依頼料はどうするんだよ!」
ディック「だからいってるだろ!ここで働いて返すって」
ナル「いやいやいや。無理だから!探偵業はそんな簡単じゃあないからね。通信教育でとれる空手有段とはわけが違うからね」
ディック「だったら喫茶店のほうでもいいよ。俺レジ打ちとかしてみたかったんだよね」
ナル「あーもう。何とか言ってよ、にろく!」
成り行きをみていたが、まあなんてことはなかった。
とりあえず今のところは、だけれども。
にろく「いいんじゃないか。最近客も多いことだし、ディックでもできる仕事を任せればいいだろう」
ディック「話がわかるねーよろしくにろく!」
にろく「職場ではマスターとよびたまえ」
ディック「御意。マスター!」
ナル「えぇぇぇ。まじかよ。。。これ、なんとかなるのかな…」
波乱の幕開けか、それとも日常のばたばたで済むのか。
ナルの心境は不安でたまらなかったのだが、にろくがなんとかするでしょう、と以外に早く割り切った。
~喫茶店かざぐるま~
ナル「マスター!チョコパフェフラペチーノトールサイズクリーム増二つ!それから…」
にろく「おいいい!いつからそんなメニューできたんだよ!雰囲気おしゃれカフェのコーヒーもどきなんて出せるか!」
ナル「メニューを作ったのはディック。ディックを雇ったのはにろくだよ。責任とってチョパフラペつくりなさいよ」
にろく「ぐぬぬ」
ディック「それなら俺がやってやらぁ!!!!」
調理場に飛び込んでくるディックは予想外に起用に調理を始める。
ナル「マスター!次はチョコパフェフラペ三つだよー!」
ディック「これはすごい売れ行きだ。。。伝説が今始まろうとしている!!」
感動するディックの前にはオーダーリストがひっきりなしに回ってきている。
にろく「口より手を動かしてよね!!すでに俺の両手がオートマシンガン並みに動き続けてるんですけど!!」
ディック「なんの!いくらでもやってやらぁ!!!!」
こうしてディックの開発した新メニュー「チョコパフェフラペチーノ」は、それまでの店舗売り上げ記録を大幅に塗り替えて、
かざぐるまの目玉商品になったとさ。
to be continued
最終更新:2016年09月04日 02:15