「天体戦士サンレッド ~激突!太陽の戦士VS炎の悪魔! (サマサさま)」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
天体戦士サンレッド ~激突!太陽の戦士VS炎の悪魔! (サマサさま) - (2009/01/07 (水) 22:31:05) のソース
かつて世界には、神より遣わされし蒼氷(そうひょう)の石が在った――― 古の聖者がその秘石を用い、炎の悪魔を封じた伝説――― それより千年。 解放の緋―――或る少女の血を受け、炎の悪魔は封印の蒼より解き放たれ、再びこの世に舞い降りた。 レコンキスタの鐘の音が響くイベリア半島。 人類同士の争いは、かの悪魔の出現により、人類と悪魔の聖戦へと変貌した。 更に千年――― 炎の悪魔<シャイタン>は、遥か東方の島国へ――― 「―――と、いう話なんだよ」 ここは何の変哲もない一戸建て(借家)。何を隠そう、世界制服を企む悪の組織<フロシャイム>の川崎支部で あることは、ご近所さんなら誰でも知っている。 居間のコタツでみかんの皮を剥きながら、川崎支部の最高責任者であるヴァンプ将軍は熱弁を振るう。 「けどヴァンプ様。このやたらシリアスな導入部が俺達に何の関係があるんです?」 「そうっすよ。」 せんべいを齧りながら戦闘員一号と二号が疑問を口にする。ヴァンプはそれに対し、こう答えた。 「うん、だからね。ウチに来てくれるの、その炎の悪魔さん」 「え…マジっすか!?」 「うっそー!なんで!?」 「なんでって…決まってるじゃん。ほら、レッドさん抹殺」 天体戦士サンレッド ~激突!太陽の戦士VS炎の悪魔! 天体戦士サンレッド。太陽の力でこの世を照らす(神奈川限定)正義のチンピラもといヒーロー。 周囲からは<フロシャイムとどっちが悪党か分からない>と評判である。 「シャイタンさん、日本で音楽やってる友達のコンサートにゲスト出演してくれって頼まれてさー。今日本に 来てるんだよ。でねー、ダメ元でアポ取ってみたんだけど」 「はあ…」 炎の悪魔と日本のアーティストとの間に何の関係が?とは思ったものの、一号はただただ頷いた。 「とりあえずウチに来て、話を聞いてくれることになったの。そこで改めて、レッドさんの抹殺をお願いする のね。何たって伝説の炎の悪魔だよ?伝説だよ、伝説!きっとレッドさんにだって勝てるよ!」 「そう上手くいきますかねえ?」 「だってホラ、アレだよ?神様から貰ったすごいアイテムを、すごい偉い聖者が使ってやっとこさ封印できた ってレベルの大物だよ。しかも千年前のイベリア聖戦じゃあ、たった一人で戦場に乱入して、それこそどこの 自由ガンダム?って勢いで暴れまわったんだから!」 拳を握り締めて力説する、我らがヴァンプ様である。顔を引き締め、威厳たっぷりに言い放った。 「ククククク…天体戦士サンレッドよ!太陽すらも焼き尽くす炎の悪魔の前に、燃え尽きるがよい!次こそは 貴様の最期の時だ!ワーッハッハッハッハッハ!…あ、一号君。コタツの温度上げてくれない?ちょっと足元 寒くてさ~…うん、強にしといて、強に!」 炎のように波打つ、紅い長髪。頭部には人ならざる異形の角。鋼をも容易に斬り裂く鉤爪。 身長2メートルを優に超える鋭い眼光のその男は、コンサートホールの前で溜息をついた。 「アーモウ…鎌仲ノ奴、コンナ立派ナ所デヤルナンテ聞イテナイヨー。ドッカショボイ会場デ内輪デワイワイ ヤルダケダト思ッテタノニ。アイツ、イツノ間ニコンナ人気者ニナッチャッタノサー。オ客サン大勢イタノニ コンナ普段着デステージニ上ガッチャッタヨ」 着古した紀元前物のレザージャケットを見下ろし、また溜息。 この男こそ、件の炎の悪魔・シャイタンである。 「出演者モ知ラナイ人多クテ、ジマサン位シカ我ノ知リ合イイナカッタヨ…アノ人、悪人ジャナイケドヤタラ唾トカ 汗トカ飛バシテクルカラ苦手ナンダヨナー…汗ッツーカアレハモウ汁ダヨ、汁…ン?」 前方に、地面にしゃがみ込んで何かを探している男がいた。 <其処にロマンはあるのかしら?>と書かれたTシャツに、短パン。 頭には真っ赤なヒーローっぽいヘルメット―――そう、彼こそが天体戦士サンレッドその人である。 「ドウカサレタノカ?」 「ん?財布落としちまったんだよ、財布!あーもう、やべーなあ…かよ子から小遣いもらったばっかなのによ。 おい、ワリーけどお前も探してくれよ!あれがないと今月パチンコできねーよ!」 「ヨカロウ。君ノ探ス物全テ、コノ腕デ見ツケヨウ」 一応言っておくが、シャイタンは千年前にイベリアを恐怖のドン底に叩き落した悪魔である。ヒーローと悪魔が 道端にしゃがみ込んで財布を探す姿は、なんというか、ただただシュールである。 「アッタ!アッタヨ、コレジャナイカ!?」 「おお!それだよ、それ!いやー、助かったぜ。ありがとよ。しっかし、長いこと探し回ったんで腹が減ったなー」 「フム。我モ小腹ガ空イタナ…」 「お、そうか。じゃあ財布見つけてもらった礼に、奢ってやるよ。あっちにいきつけのラーメン屋があるからよ、 ついでにビールでも飲もうぜ、ビール!」 しつこいようだが言っておく。 レッドは正義の味方であり、シャイタンは恐るべき炎の悪魔である。 「けどさー。そのシャイタンさん、炎の悪魔なんでしょ?下手したら同じ炎属性のレッドと仲良くなっちゃう可能性 もあるんじゃないっすか?」 「大丈夫だってー。何せシャイタンさんは伝説の炎の悪魔だよ?ヒーローと相容れるわけないよ。むしろ太陽の 戦士VS炎の悪魔なんて、いいキャッチコピーじゃない。劇場版みたいで!」 「うーん…まあそれはいいんですけど、本当にあのレッドに勝てるんですか?悪魔とかいうけどレッドの奴だって 鬼みてーに強いんですよ」 「心配性だなあ、もう…シャイタンさんはもうアレだよ。<不死身>なんだよ。何度も言うけど、神話の時代からの 生きた伝説なんだよ。もう存在としては神様に近いくらいなんだって。いくらレッドさんでも、神様には勝てないよ、 きっと」 ヴァンプは楽観的に、そう言ってのけるのだった。 ラーメン屋・宝来軒にて。 「へー。じゃあお前、そのライラって女に尻に敷かれちゃってるの?」 へらへら笑いながら、レッドはラーメンを啜る。 「仕方ナイジャン。我ハライラノオカゲデ封印解ケタンダシサ、人間ダッタアノ子ヲ我トノ契約デ、我ト同ジ存在 ニシチャッタンダシ、負目ガアルンダヨ」 熱々のラーメンをフーフー冷ましながら、シャイタンは答える。 「でもよー、大怪我したそのライラって女の血が、たまたまお前の封印されてた石だか何かに当たって封印が 解けたって言ってたけどさー。お前が助けてやらなきゃ、そいつ死んでたじゃん。それを助けて永遠の命まで 与えてやったんなら、むしろお前が感謝されてしかるべきじゃねーの?」 「…永遠ヲ生キルトイウ事ハ、残酷ダヨ。其レハモハヤ、苦イ毒ダ」 シャイタンは、深い苦悩を浮かべる。 「生ケトシ生ケル全テニトッテ、死ハ平等―――ナラバ、我ハ何ダ?冥王ノ定メニ抗イ、永遠ヲ生キル我ハ、 赦サレルノカ?」 「あん?」 「我ハ―――生キテイルト言エルノカ?」 シャイタンの手は、微かに震えていた。 「ライラニ永遠ヲ与エタノモ…彼女ノタメナドデナク…共ニ永遠ヲ連レ添ッテクレル存在ガ欲シカッタダケデナイ ノカ…?ソンナコトノタメニ、彼女ヲ…痛ッ!」 「なーにウダウダ管を巻いてんだ、オメーはよ」 シャイタンの頭にかました拳骨を握ったまま、レッドは語る。 「だってお前、ラーメン美味いだろ?」 「ウム…中々ノ味ダ」 「ビールだって美味いだろ?」 「…ウム」 だったらよ。レッドは仮面の上からでも分かる、爽やかな笑みを浮かべた。 「お前、ちゃんと生きてんじゃん―――それにその女だってきっと、お前のことを恨んだりしてねーよ。憎い相手 と、千年も一緒にいられるわけねーだろ…愛されてるじゃん、お前」 「レッド…」 「へっ!ガラにもねーこと言っちまったぜ。おい大将、ビールじゃんじゃん持ってこい!今日はトコトン呑むぞ! ほれシャイタン、カンパイだ、カンパイ!」 「…ソウダナ。今夜ハ呑モウ」 シャイタンはジョッキを持ち上げ、レッドのジョッキに軽くぶつける。 「新タナ友トノ出会イニ―――乾杯!」 「―――遅いっすねー。シャイタンさん」 「うん…アジトの地図は渡してあるんだけど、迷ってるのかもしれない。私、ちょっと見てくるよ」 ヴァンプがコタツから出た時、<ピンポーン>と間の抜けた音が響いた。 「あ、きっとシャイタンさんだよ!はいはい、今行きまーす!」 ドタドタと今から出ていき、意気揚々と玄関を開けたヴァンプ様が見たものは。 「よーヴァンプ。コイツ、お前のとこに用があるって言ってたから、案内してやったぜ」 赤ら顔でへらへら笑うレッドと。 「遅レテスマナカッタ。レッドト呑ンデタラ、コンナ時間ニナッチャッテサー」 彼と肩を組んでへべれけになっている、炎の悪魔シャイタンであった。 「…………あの、なんでレッドさんが、シャイタンさんとご一緒に?」 「あー。財布を落として困ってたら、コイツに探してもらっちゃってさー。宝来軒で食って呑んでの大騒ぎ! すっかり意気投合しちゃってなー。もうマブダチだよ、マブダチ!」 「ウン、我トレッドハマブダチー!」 けたけた笑う、すっかり出来上がっているシャイタンである。 「デ、ヴァンプ。我ニ用件ッテ何ダッタノ?」 ―――今更<炎の悪魔シャイタンよ!我らに歯向かう天体戦士サンレッドを抹殺するのだ!>だなんて言える はずのないヴァンプ様だった。 おしまい♪