part.2
聖戦終結から四年目になる聖域は、サガ期以降も含めてだいぶ様相を変えた。
皮肉なことだが。サガが政権を握り、以降自己基盤の磐石化を推進した結果は、内部改革につながっていたのだ。
教皇シオンは、たしかに名君だった。だが、その治世において失策が全く無かったかといえば嘘になる。
結果的に失策となってしまった、という件もあるが、その最たるものが「親族登用主義」だろう。
聖闘士は先天的要素に左右されがちだ。
潜在的に、親族登用主義が跋扈する要因足りえたのだろう。
教皇シオンの最初の妻、カシオペア座・セダイラの妹であり、
杯座・クレーターのメディアとの間に出来た三人の子が全て聖闘士となったことも遠因だろう。
結果的に、聖域出身者のみが重用されるこの体制は、サガが掌握した後々まで続くことになり、
完全に払拭されたのは星矢が聖域入りする直前、魔鈴が聖闘士となった頃である。
それでもまだ、名残はあった。魔鈴も星矢も東洋人というだけで侮蔑の対象となったり、
その星矢が聖闘士となるや、シャイナ一党が彼を私刑にかけようとしたのはこれに起因する。
聖戦終結から四年目になる聖域は、サガ期以降も含めてだいぶ様相を変えた。
皮肉なことだが。サガが政権を握り、以降自己基盤の磐石化を推進した結果は、内部改革につながっていたのだ。
教皇シオンは、たしかに名君だった。だが、その治世において失策が全く無かったかといえば嘘になる。
結果的に失策となってしまった、という件もあるが、その最たるものが「親族登用主義」だろう。
聖闘士は先天的要素に左右されがちだ。
潜在的に、親族登用主義が跋扈する要因足りえたのだろう。
教皇シオンの最初の妻、カシオペア座・セダイラの妹であり、
杯座・クレーターのメディアとの間に出来た三人の子が全て聖闘士となったことも遠因だろう。
結果的に、聖域出身者のみが重用されるこの体制は、サガが掌握した後々まで続くことになり、
完全に払拭されたのは星矢が聖域入りする直前、魔鈴が聖闘士となった頃である。
それでもまだ、名残はあった。魔鈴も星矢も東洋人というだけで侮蔑の対象となったり、
その星矢が聖闘士となるや、シャイナ一党が彼を私刑にかけようとしたのはこれに起因する。
魔鈴たちが聖闘士になった際、
一同に会した白銀聖闘士たちに向かいサガは、
新しい時代の礎となってほしい、
そう語ったそうだが、今となっては皮肉にもならないのが凄まじい。
サガ恩顧の聖闘士は最早一人としていないが、聖域職員にはまだサガの影響は色濃く、
所謂「サガの乱」が、聖域史においては「聖域浄化の戦い」と記され、
サガ自身の功を最大限鑑みられた措置が取られているのは、そういった裏事情が存在した。
確かにサガが自決という形で責を負わねば、
折角改革された聖域はまた以前の旧態然としたものに逆戻りしてしまっただろうし、
最悪、聖域が機能停止に陥りかけなかった。ましてや、本格的な聖戦の序盤にもならなかった頃だ。
聖域の最高幹部たる黄金聖闘士たち、彼らのフラストレーションを高める結果になる事をあえて承知の上、
サガの乱終結時、アテナたる城戸沙織は、サガの自決をもって一切を不問としたのである。
一同に会した白銀聖闘士たちに向かいサガは、
新しい時代の礎となってほしい、
そう語ったそうだが、今となっては皮肉にもならないのが凄まじい。
サガ恩顧の聖闘士は最早一人としていないが、聖域職員にはまだサガの影響は色濃く、
所謂「サガの乱」が、聖域史においては「聖域浄化の戦い」と記され、
サガ自身の功を最大限鑑みられた措置が取られているのは、そういった裏事情が存在した。
確かにサガが自決という形で責を負わねば、
折角改革された聖域はまた以前の旧態然としたものに逆戻りしてしまっただろうし、
最悪、聖域が機能停止に陥りかけなかった。ましてや、本格的な聖戦の序盤にもならなかった頃だ。
聖域の最高幹部たる黄金聖闘士たち、彼らのフラストレーションを高める結果になる事をあえて承知の上、
サガの乱終結時、アテナたる城戸沙織は、サガの自決をもって一切を不問としたのである。
そんな城戸沙織は、今年十七になる。
アイオロスが命をとして護り、
城戸光政が後生を費やして育てた彼女は、
まさしく凛として咲く華のような乙女だ。
神謀叡智をもって知られるアテナそのものである彼女が、
何ゆえニュートンアップル学園に通う事になったか?
それは虹の彼方を読んでいただくとして、嘘です、冗談です、ごめんなさいミドリさん。
アイオロスが命をとして護り、
城戸光政が後生を費やして育てた彼女は、
まさしく凛として咲く華のような乙女だ。
神謀叡智をもって知られるアテナそのものである彼女が、
何ゆえニュートンアップル学園に通う事になったか?
それは虹の彼方を読んでいただくとして、嘘です、冗談です、ごめんなさいミドリさん。
閑話休題
普通の学校生活に憧れていた、というのが主だ。
ニュートンアップル学園。
明治五年、華族の子女の心身の健全なる育成を理念に創設された。
神奈川県横浜市にあるこの学園は、ミッション系の規範の厳しい学園であり、
外部からの進入が難しいという点をはじめとして、
さらには聖域・影の集団・グラード財団特別情報部のグランドスラムによって
出入り業者の全社員の五親等まで調べ上げられるという、
キチガイ沙汰のような徹底した調査に耐えられた唯一の学園でもある。
無論、その過程においてヴィクター一家の存在まで聖域が知ることになり、
聖域諜報部と紫龍に一仕事増えたのはいうまでもない。
錬金戦団という非合法非公開組織は、彼ら自身が思い至る由もない(くだらない)理由から
その存在を地上最強の戦闘集団に敵視されていたのだ。
元々、年三回の外交会談に参加している組織だけに、その素性を明らかにするのは容易いものだったが、
改めて行われた調査結果の末、聖域が彼ら錬金戦団に下した評価は「危険」だった。
「錬金術による一般社会への被害を防ぐ組織」というその業績から信じるに値しない存在意義、
ヴィクター事件以降も隠蔽体質は変わらず、秘密裏の人体実験を繰り返している節もある。
なにより、目撃者に対してのケアが非常に荒っぽいのだ。
この点に関しては聖域もあまり大きな声は出せないのだが、それにしてもなんとなくおざなりな、
という評価はぬぐえなかった。
ニュートンアップル学園。
明治五年、華族の子女の心身の健全なる育成を理念に創設された。
神奈川県横浜市にあるこの学園は、ミッション系の規範の厳しい学園であり、
外部からの進入が難しいという点をはじめとして、
さらには聖域・影の集団・グラード財団特別情報部のグランドスラムによって
出入り業者の全社員の五親等まで調べ上げられるという、
キチガイ沙汰のような徹底した調査に耐えられた唯一の学園でもある。
無論、その過程においてヴィクター一家の存在まで聖域が知ることになり、
聖域諜報部と紫龍に一仕事増えたのはいうまでもない。
錬金戦団という非合法非公開組織は、彼ら自身が思い至る由もない(くだらない)理由から
その存在を地上最強の戦闘集団に敵視されていたのだ。
元々、年三回の外交会談に参加している組織だけに、その素性を明らかにするのは容易いものだったが、
改めて行われた調査結果の末、聖域が彼ら錬金戦団に下した評価は「危険」だった。
「錬金術による一般社会への被害を防ぐ組織」というその業績から信じるに値しない存在意義、
ヴィクター事件以降も隠蔽体質は変わらず、秘密裏の人体実験を繰り返している節もある。
なにより、目撃者に対してのケアが非常に荒っぽいのだ。
この点に関しては聖域もあまり大きな声は出せないのだが、それにしてもなんとなくおざなりな、
という評価はぬぐえなかった。
世界各国、といいつつも、国連主要先進国のみに限定された支部。
アフリカ大陸やユーラシア大陸中部・中央アジアやイスラム圏などは、
ハッキリいってしまえば手付かずに近い。
イスラム圏に強いコネクションを有する聖域の情報網に、
活動履歴らしきものは何も引っかからずじまいだった。
挙句の果てに、聖域がこの四年の間にイスラム圏で排除した正体不明の化け物十三体の正体が
「ホムンクルス」であると判明したのだ。
幸いにも、青銅聖闘士・ユニコン邪武、ヒドラ市のコンビや、
白銀相当位聖闘士・コーマの盟らによって粉砕されていたが、
聖域の知るあらゆる怪物化け物魑魅魍魎にも該当しないアンノウンの存在は、留意されていたのだ。
さらに南北米・ロシア支部による軍事企業との癒着も明らかにされた。
調査が進むにつれて、核金とホムンクルスの関係が明らかになった時点で聖域が彼らへの評価は
「敵性組織」へと変化していた。
これだけ状況証拠がそろっていれば、錬金戦団なる組織が聖域から「敵性組織」と判断されても仕方ないだろう。
全世界的に流行している「錬金術への憧憬」を鑑みれば仕方ない点もあるのだが、
それを踏まえても、彼らを敵視せざるを得ない大きな理由が二つ存在する。
まず一つ、聖闘士の証である聖衣と彼らの持つ「核金」との類似性である。
闘争本能に比例して形態を変化させ、質量保存の法則すら突き破るこの不可思議な物体は、
聖闘士にとって最も見慣れたものとの類似性を、見出さずにいられなかったのだ。
錬金戦団の活動開始年代が、前々聖戦直後、という点も聖域が注意した点である。
実のところ、前々聖戦は聖域が最も多くの聖衣を喪失した聖戦でもあった。
ゆえに、完全な形で回収できなかった聖衣も数多く存在する。
アフリカ大陸やユーラシア大陸中部・中央アジアやイスラム圏などは、
ハッキリいってしまえば手付かずに近い。
イスラム圏に強いコネクションを有する聖域の情報網に、
活動履歴らしきものは何も引っかからずじまいだった。
挙句の果てに、聖域がこの四年の間にイスラム圏で排除した正体不明の化け物十三体の正体が
「ホムンクルス」であると判明したのだ。
幸いにも、青銅聖闘士・ユニコン邪武、ヒドラ市のコンビや、
白銀相当位聖闘士・コーマの盟らによって粉砕されていたが、
聖域の知るあらゆる怪物化け物魑魅魍魎にも該当しないアンノウンの存在は、留意されていたのだ。
さらに南北米・ロシア支部による軍事企業との癒着も明らかにされた。
調査が進むにつれて、核金とホムンクルスの関係が明らかになった時点で聖域が彼らへの評価は
「敵性組織」へと変化していた。
これだけ状況証拠がそろっていれば、錬金戦団なる組織が聖域から「敵性組織」と判断されても仕方ないだろう。
全世界的に流行している「錬金術への憧憬」を鑑みれば仕方ない点もあるのだが、
それを踏まえても、彼らを敵視せざるを得ない大きな理由が二つ存在する。
まず一つ、聖闘士の証である聖衣と彼らの持つ「核金」との類似性である。
闘争本能に比例して形態を変化させ、質量保存の法則すら突き破るこの不可思議な物体は、
聖闘士にとって最も見慣れたものとの類似性を、見出さずにいられなかったのだ。
錬金戦団の活動開始年代が、前々聖戦直後、という点も聖域が注意した点である。
実のところ、前々聖戦は聖域が最も多くの聖衣を喪失した聖戦でもあった。
ゆえに、完全な形で回収できなかった聖衣も数多く存在する。
主戦力であるが故に、全損を免れなかった白銀聖衣に多く、
例をあげるとヘラクレス座の聖衣など、回収されたのが三割弱でしかなく、
元は黄金聖衣に勝るとも劣らない美麗なフルプレートメイルだったのだが、
胴回りのみしか回収できなかったのである。そこからシオンは苦心して再建したのだ。
他にも、教皇シオンの妻となる女性がまとう杯座の青銅聖衣などは完全に死亡状態であり、
復元こそなったものの、本来の能力である傷ついた聖闘士の回復能力は失われてしまっていた。
その一部が彼らの核金技術の根幹になったのではないか、というのが現時点での結論である。
次に、これこそが最大の要因でもあるのだが、ホムンクルスの存在である。
公的に、それすらも裏だが、ホムンクルスを打倒できるのは核金による攻撃のみとされている。
それが聖域からは疑問視されたのだ。
ありていに言えば、マッチポンプである。
生臭い話になるが、聖域的にはポッと出の新人同業者に、
姑息極まる方法でシェアを奪われる可能性を懸念したのだ。
世界的に流行している錬金術への傾倒がなければ、一笑に付しただろう組織だったとしても、
アメリカにトルフィン・カルルセフニ・トールズソンが入植する遥か以前から、
人類社会を守ってきたと自負する聖域は、面子にこだわるのだ。
ファロス中心主義的組織であるがため、
いかにシオン、サガと言えどもこれだけは改善する事ができなかったのだ。
このあたり、錬金戦団もたいした差がないと思われる方も多かろうが、
それは聖域が己自身を信じているからこそに他ならない。
それが結果として新たな戦端を開く羽目になるのだから、救われない。
例をあげるとヘラクレス座の聖衣など、回収されたのが三割弱でしかなく、
元は黄金聖衣に勝るとも劣らない美麗なフルプレートメイルだったのだが、
胴回りのみしか回収できなかったのである。そこからシオンは苦心して再建したのだ。
他にも、教皇シオンの妻となる女性がまとう杯座の青銅聖衣などは完全に死亡状態であり、
復元こそなったものの、本来の能力である傷ついた聖闘士の回復能力は失われてしまっていた。
その一部が彼らの核金技術の根幹になったのではないか、というのが現時点での結論である。
次に、これこそが最大の要因でもあるのだが、ホムンクルスの存在である。
公的に、それすらも裏だが、ホムンクルスを打倒できるのは核金による攻撃のみとされている。
それが聖域からは疑問視されたのだ。
ありていに言えば、マッチポンプである。
生臭い話になるが、聖域的にはポッと出の新人同業者に、
姑息極まる方法でシェアを奪われる可能性を懸念したのだ。
世界的に流行している錬金術への傾倒がなければ、一笑に付しただろう組織だったとしても、
アメリカにトルフィン・カルルセフニ・トールズソンが入植する遥か以前から、
人類社会を守ってきたと自負する聖域は、面子にこだわるのだ。
ファロス中心主義的組織であるがため、
いかにシオン、サガと言えどもこれだけは改善する事ができなかったのだ。
このあたり、錬金戦団もたいした差がないと思われる方も多かろうが、
それは聖域が己自身を信じているからこそに他ならない。
それが結果として新たな戦端を開く羽目になるのだから、救われない。
そんな中、城戸沙織は、下校途中のリムジンの中でメールを打つのが日課である。
相手は勿論星矢だ。
グラード財団総帥として、ニュートンアップル学園生徒会役員として、
そして聖域の主アテナとして、彼女は多忙である。
因みにメールの内容は、やれ同級生が転校していって寂しいだの、
やれ先輩とお茶しただの、生徒会役員の一人が自分をあまりよく思っていないだの、
やれ生徒会会長がおっとりとした人で面白いだのといった、年相応の少女らしい取りとめもないものだ。
数々の肩書きをもつ彼女が唯一、生身の「少女」でいられるのは、星矢の前だけなのだ。
星矢だけは、彼女を一人の人間とみている。それが城戸沙織にはとても嬉しかった。
相手は勿論星矢だ。
グラード財団総帥として、ニュートンアップル学園生徒会役員として、
そして聖域の主アテナとして、彼女は多忙である。
因みにメールの内容は、やれ同級生が転校していって寂しいだの、
やれ先輩とお茶しただの、生徒会役員の一人が自分をあまりよく思っていないだの、
やれ生徒会会長がおっとりとした人で面白いだのといった、年相応の少女らしい取りとめもないものだ。
数々の肩書きをもつ彼女が唯一、生身の「少女」でいられるのは、星矢の前だけなのだ。
星矢だけは、彼女を一人の人間とみている。それが城戸沙織にはとても嬉しかった。
そして、当の星矢がそのメールを受け取るのは、檄に電話を懸ける直前だった。
檄に電話したのは仕事上がりに晩飯に誘おうと想ったからに他ならない。
星矢は、二年前から高宮モータースというバイクショップに勤めている。
彼はモータースポーツが好きなのだ。
経営者は、高宮鋼太郎と高宮鉄兵兄弟。
まだ二十台だが、祖父から受け継いだこの家業を立派に継いでいる。
先代・高宮藤兵衛は、戦後裸一貫でこのバイクショップを立ち上げた好漢で、
息子夫婦が若くして亡くなった後も、男手一つで兄弟を育て上げた偉丈夫である。
若さと野心が満ち溢れた職場環境は、常にエネルギッシュだ。
因みに、店の看板は「TAKAMIYA MORTORS」となっている。
Rが一つ多いが、これは鉄兵が間違えて書いた為だ。兵器という意味があるのだが、
星矢が勤めている事を考えると、あながち間違っちゃいないのが恐ろしい。
職場で星矢ともっとも信頼関係を結んでいるのが、彼、風間虎太郎である。
銀成駅前で檄と合流した星矢に、当然のように同席してることからもその親しさが伺われる。
星矢は、二年前から高宮モータースというバイクショップに勤めている。
彼はモータースポーツが好きなのだ。
経営者は、高宮鋼太郎と高宮鉄兵兄弟。
まだ二十台だが、祖父から受け継いだこの家業を立派に継いでいる。
先代・高宮藤兵衛は、戦後裸一貫でこのバイクショップを立ち上げた好漢で、
息子夫婦が若くして亡くなった後も、男手一つで兄弟を育て上げた偉丈夫である。
若さと野心が満ち溢れた職場環境は、常にエネルギッシュだ。
因みに、店の看板は「TAKAMIYA MORTORS」となっている。
Rが一つ多いが、これは鉄兵が間違えて書いた為だ。兵器という意味があるのだが、
星矢が勤めている事を考えると、あながち間違っちゃいないのが恐ろしい。
職場で星矢ともっとも信頼関係を結んでいるのが、彼、風間虎太郎である。
銀成駅前で檄と合流した星矢に、当然のように同席してることからもその親しさが伺われる。
「で、檄。ちょっとは進んだのかよ?」
何が、とは聞き返さない檄。
「オニィさんも知りたいねぇ」
とニヤニヤしながら、青い恋愛を楽しむ虎太郎。
風間虎太郎、28歳独身、星矢の同僚である。
高宮モータースに勤める以前は風来坊、つまり住所不定無職だったわけだが、
不思議と機械系に明るく、その人好きのする性格もあいまって、今ではすっかり高宮モータースの一員だ。
星矢と虎太郎が組むと、まるで大きい悪戯小僧のようだとは星華の弁である。
彼らは、馬があうのだろう。
風間虎太郎、28歳独身、星矢の同僚である。
高宮モータースに勤める以前は風来坊、つまり住所不定無職だったわけだが、
不思議と機械系に明るく、その人好きのする性格もあいまって、今ではすっかり高宮モータースの一員だ。
星矢と虎太郎が組むと、まるで大きい悪戯小僧のようだとは星華の弁である。
彼らは、馬があうのだろう。
「今日、挨拶したよ!」
「それだけ?」
「それだけだ!」
檄としては、こうして普通に社会人をやっている星矢が不思議でならない。
聖域中枢を成し、いまや聖域最強格の聖闘士の彼がなぜにこうして故国で勤労学生をやっているのか?
星矢の回答を聞いたら檄とて爆笑するに違いない。
星矢は、平穏をしらなかったのである。
聖域中枢を成し、いまや聖域最強格の聖闘士の彼がなぜにこうして故国で勤労学生をやっているのか?
星矢の回答を聞いたら檄とて爆笑するに違いない。
星矢は、平穏をしらなかったのである。
星矢は、平穏をしらなかったのである。
今まで、神の理不尽から必死で地上を守ってきた星矢は、それゆえに平和を、
理不尽のない世界を知らない。
殴られなくても飯を食えるし、血反吐を吐かずとも水が飲める。
そんな世界を知ったのは聖戦が終結した後だ。
星矢の母、星織(さおり)は星矢を生んですぐに死亡し、
以降は姉弟そろって親戚をたらいまわしにされた挙句に、
児童養護施設・星の子学園へと預けられる事になった。
このときの記憶が星矢の中でもっとも平穏に近いのがまたもの悲しい。
その後は知ってのとおりだ。
城戸家に引き取られ、姉ともども城戸姓になったのはまだいい。
だが、高慢ちきなガキ(沙織の事だ)にいびられ、反抗すれば辰巳に殴られ、虐待じみたトレーニングの日々。
それを平穏と呼べるほど、星矢は壊れていない。
聖域入りしてからは文字通り死と隣り合わせだ。
師・魔鈴は一人前の聖闘士を育てるのではなく、即戦力を育てたのである。
死ななかったのは奇跡に近い。
今まで、神の理不尽から必死で地上を守ってきた星矢は、それゆえに平和を、
理不尽のない世界を知らない。
殴られなくても飯を食えるし、血反吐を吐かずとも水が飲める。
そんな世界を知ったのは聖戦が終結した後だ。
星矢の母、星織(さおり)は星矢を生んですぐに死亡し、
以降は姉弟そろって親戚をたらいまわしにされた挙句に、
児童養護施設・星の子学園へと預けられる事になった。
このときの記憶が星矢の中でもっとも平穏に近いのがまたもの悲しい。
その後は知ってのとおりだ。
城戸家に引き取られ、姉ともども城戸姓になったのはまだいい。
だが、高慢ちきなガキ(沙織の事だ)にいびられ、反抗すれば辰巳に殴られ、虐待じみたトレーニングの日々。
それを平穏と呼べるほど、星矢は壊れていない。
聖域入りしてからは文字通り死と隣り合わせだ。
師・魔鈴は一人前の聖闘士を育てるのではなく、即戦力を育てたのである。
死ななかったのは奇跡に近い。
星矢と同じく魔鈴の弟子になった少年は居たが、そのあまりにきつい鍛錬から逃げ出してしまったのだ。
後に魔鈴に師事することになる貴鬼の他、彼女の元から五体満足で巣立ったものは居ないのだ。
そんな星矢ほどひどくはないが、姉・星華もなかなかに危機的人生を送っている。
城戸家に引き取られてすぐに、二人は別離を言い渡された。
そこまではまだいいだろう、だが、星矢がギリシアに行った事を知った彼女の行動は常軌を逸している。
母が彼女たちの為に残してくれた貯金を崩して旅券を取るや否や、単身ギリシアに乗り込んだのだ。
当時十歳。恐るべきバイタリティである。
後々の星矢を鑑みると、さすがというべきだが、ギリシアにたどり着いたあたりでその体力も息切れした。
ロドリゴ村で雑貨商爺さんの手伝いをしていたものの、魔鈴に拾われるまで彼女は記憶そのものを喪っていた。
その喪った期間を取り戻すかのように、星華は今輝いている。
その姉を見守れる事が、星矢自身の平穏だったと気がついたのは最近なのだ。
後に魔鈴に師事することになる貴鬼の他、彼女の元から五体満足で巣立ったものは居ないのだ。
そんな星矢ほどひどくはないが、姉・星華もなかなかに危機的人生を送っている。
城戸家に引き取られてすぐに、二人は別離を言い渡された。
そこまではまだいいだろう、だが、星矢がギリシアに行った事を知った彼女の行動は常軌を逸している。
母が彼女たちの為に残してくれた貯金を崩して旅券を取るや否や、単身ギリシアに乗り込んだのだ。
当時十歳。恐るべきバイタリティである。
後々の星矢を鑑みると、さすがというべきだが、ギリシアにたどり着いたあたりでその体力も息切れした。
ロドリゴ村で雑貨商爺さんの手伝いをしていたものの、魔鈴に拾われるまで彼女は記憶そのものを喪っていた。
その喪った期間を取り戻すかのように、星華は今輝いている。
その姉を見守れる事が、星矢自身の平穏だったと気がついたのは最近なのだ。
だが、星矢自身理解している。
この平穏はかりそめの物だと。
冥王をもってしても殺せなかった己は、まだ平穏を甘受するには程遠い存在なのだと。
檄をダシにしつつも、平穏な日々は過ぎていく。
やがて来る戦の為に。
この平穏はかりそめの物だと。
冥王をもってしても殺せなかった己は、まだ平穏を甘受するには程遠い存在なのだと。
檄をダシにしつつも、平穏な日々は過ぎていく。
やがて来る戦の為に。