「へっ…大物登場ってわけか。相手にとって不足なしってね!気張れよ、レッドアイズ!」
ゴアアアアア!黒き竜が気勢を上げる。それを見たアレクサンドラは、コキコキと首を鳴らした。
「む…?お前は、その竜と一緒に闘う気か?私はてっきり、お前との一対一の勝負と思っておったのだが」
「は?」
思わず間の抜けた声を漏らす城之内。アレクサンドラは、ふうっと溜息をついた。
「少しばかり失望したぞ、オードブルくん…一騎打ちの申し入れに対し、そのような無粋な答えとは…残念ながら、
お前はそこまで大した相手ではないようだ。それなら私は、これで十分」
ポイとアレクサンドラは剣を捨て、ボクシングのような構えを取る。周囲からは怒涛のアレクサンドラコール。同時
に城之内に対して、怒涛の大ブーイングである。
「よい、よいとも。周りの者など気にするな、オードブルくん」
アレクサンドラは、鷹揚に頷く。
「例えお前が剣すら捨てて素手の女を相手に、そのように強そうで獰猛そうな黒竜と共に二対一で私に挑むという、
男の風上にもおけぬ蛮行を働いたとしても、私はお前を責めはせぬ。なに、戦場とは非情なものだ。私は決してお前
を卑劣と罵りはせぬ。いや、私はそれでも本当によいのだぞ?オードブルくん。ただ、お前自身はどうかと少しだけ
気になってな…いやいや、所詮は女々しい独り言だ。本当に、ほんっっっとうに気にしなくてもよいのだぞ?」
「だぁぁぁぁぁぁっ!うっせえな、チクショウ!」
城之内はデュエルディスクを投げ捨てた。レッドアイズは心配そうというか、とにかく悲しげに一声鳴いて消える。
「上等だ、ゲロマブ脳筋女!オレだってケンカじゃ負けなしだったんだからな…タイマンでやってやらあ!」
「ふふ…そう来なくてはな!やはり相手を知るには肉体言語よ!さあ、拳と拳で語り合おう、オードブルくん!」
「オレはオードブルじゃねえ―――城之内克也だ!」
城之内は吼えて、地を蹴り殴りかかる…しかし、彼は忘れていた。
この世界において、英雄・勇者と呼ばれる者達の戦闘力は、まさしくモンスター顔負けであるということを。
具体的に言うと、全員がレッドアイズを素で倒せるレベルである。
レッドアイズ、涙目。
「ぐはっ!」
思いっきりカウンターを受けて、地面に転がる城之内。
「くっ…まだまだこれからだぜ!」
それでも果敢に挑みかかる城之内。アレクサンドラは彼を好ましげに見つめつつも容赦なく殴り付け、蹴り飛ばす。
断わっておくが、この結果は城之内がヘボいわけではない。例えこれがジュラルミンケースを手にした海馬であった
としても、同じ事だ。神話時代の英傑を相手に、現代人が素手で挑む方が無謀なのである。
「まずい!」
城之内の窮地に、闇遊戯が駆けつけようとするが、女傑部隊が行く手を阻む。
「くっ!邪魔をするな―――<ブラック・マジシャン>召喚!」
端正な顔立ちの、黒衣の魔術師―――闇遊戯が最も信頼を置くモンスターにして、最強の黒魔導師である。
「<黒・魔・導(ブラック・マジック)>!」
膨大な魔力が黒き光と共に吹き荒れ、一瞬にして女傑族の戦士達を吹き飛ばす。血路を開いた闇遊戯は、城之内
の元へと急いだ。
「城之内くん!待ってろ、今オレが…」
「来るな、遊戯!」
駆け寄ろうとする闇遊戯を、城之内は血反吐を拭いながら制した。
「どれだけバカバカしかろうが、経緯はどうだろうが、オレはこの女との一騎打ちを…タイマン勝負を受けちまった
んだ…そして、まだ勝負は付いてねえ!」
「バカな…ならせめてデュエルディスクを使うんだ!生身で神話の英雄に勝てるはずがない!」
「確かにな…正直、全然勝てる気がしねえ…ロシア人が地上最強生物に挑む気分だぜ…」
ぺっと血の混じった唾液を吐き捨て、城之内はそれでも笑う。
「けどよ…オレには何となく分かるんだ。あの女王様はよ、理屈抜きで闘いが…ケンカが好きなんだ。だったらよ…
それに応えてやるのが男の子ってもんだろうが!」
「城之内くん…分かったよ。気の済むまでやるがいい。ただし!」
闇遊戯はアレクサンドラを睨み付けた。
「オレはそこまで人格ができてるわけじゃない…キミが必要以上に甚振られるようなことになったなら、オレがその
女を倒すぜ!一騎打ちの邪魔だろうと、知ったことか!」
その眼光を受けて、アレクサンドラは慄くどころか、歓喜で身体を震わす。
「オードブルくんよ…良き心意気と、良き友を持ったな。嬉しいことだ…まさかこれほどいい男達が存在しておった
とは…滾る!滾るぞ!漲ってきた!」
「けっ!どうせ前菜呼ばわりならよ―――他のモンが喰えねえくらいに腹一杯にしてやるぜ!」
勢いよく突っ込んでは倒され、また立ち上がっては無様に地面に転がり―――それを幾度繰り返しただろう。
それでも―――
「まだ…まだ…これからだぜ…」
「もうよせ、城之内くん!こんなバカなことは…!」
闇遊戯の声に、城之内は自嘲の笑みを返しながらも、足を止めることはない。
「へへ…ホントにバカらしいよな。戦場でなんでこんな殴り合いなんかしなきゃならねえんだろうな…おまけにこっち
は、一発も当てられねえときた…だからよ…」
城之内は、ふらふらの足取りで、なおも一歩一歩、アレクサンドラの元へと大地を踏み付ける。
「一発くらいはブチ抜かねえと―――カッコ悪すぎるだろうがぁっ!」
蟻が歩むようなふらつく踏み込みで。蝿が止まりそうな速度で。蚊も殺せないような威力で。
城之内は、最後の拳を叩き付けた。そんなものが、アレクサンドラに届くわけがない―――
(城之内くーーーーーん!)
「城之内くーーーーーん!」
遊戯と闇遊戯が同時に叫び、それに続くであろう惨劇から思わず目を背ける。だが―――
―――パシン
「え…!?」
アレクサンドラは、城之内の拳を避けようともしなかった。微動だにせず―――顔面で、受けた。
「いい、拳だった」
蚯蚓腫れすらできていない、美しい顔でアレクサンドラは笑い、城之内の手を自らの両手で包み込んだ。
「見事だ…オードブルくん…いや、城之内」
アレクサンドラは城之内を―――名前で呼んだ。どこか、愛おしそうですらあった。
「お前の拳―――確かに、私に届いたぞ」
ゴアアアアア!黒き竜が気勢を上げる。それを見たアレクサンドラは、コキコキと首を鳴らした。
「む…?お前は、その竜と一緒に闘う気か?私はてっきり、お前との一対一の勝負と思っておったのだが」
「は?」
思わず間の抜けた声を漏らす城之内。アレクサンドラは、ふうっと溜息をついた。
「少しばかり失望したぞ、オードブルくん…一騎打ちの申し入れに対し、そのような無粋な答えとは…残念ながら、
お前はそこまで大した相手ではないようだ。それなら私は、これで十分」
ポイとアレクサンドラは剣を捨て、ボクシングのような構えを取る。周囲からは怒涛のアレクサンドラコール。同時
に城之内に対して、怒涛の大ブーイングである。
「よい、よいとも。周りの者など気にするな、オードブルくん」
アレクサンドラは、鷹揚に頷く。
「例えお前が剣すら捨てて素手の女を相手に、そのように強そうで獰猛そうな黒竜と共に二対一で私に挑むという、
男の風上にもおけぬ蛮行を働いたとしても、私はお前を責めはせぬ。なに、戦場とは非情なものだ。私は決してお前
を卑劣と罵りはせぬ。いや、私はそれでも本当によいのだぞ?オードブルくん。ただ、お前自身はどうかと少しだけ
気になってな…いやいや、所詮は女々しい独り言だ。本当に、ほんっっっとうに気にしなくてもよいのだぞ?」
「だぁぁぁぁぁぁっ!うっせえな、チクショウ!」
城之内はデュエルディスクを投げ捨てた。レッドアイズは心配そうというか、とにかく悲しげに一声鳴いて消える。
「上等だ、ゲロマブ脳筋女!オレだってケンカじゃ負けなしだったんだからな…タイマンでやってやらあ!」
「ふふ…そう来なくてはな!やはり相手を知るには肉体言語よ!さあ、拳と拳で語り合おう、オードブルくん!」
「オレはオードブルじゃねえ―――城之内克也だ!」
城之内は吼えて、地を蹴り殴りかかる…しかし、彼は忘れていた。
この世界において、英雄・勇者と呼ばれる者達の戦闘力は、まさしくモンスター顔負けであるということを。
具体的に言うと、全員がレッドアイズを素で倒せるレベルである。
レッドアイズ、涙目。
「ぐはっ!」
思いっきりカウンターを受けて、地面に転がる城之内。
「くっ…まだまだこれからだぜ!」
それでも果敢に挑みかかる城之内。アレクサンドラは彼を好ましげに見つめつつも容赦なく殴り付け、蹴り飛ばす。
断わっておくが、この結果は城之内がヘボいわけではない。例えこれがジュラルミンケースを手にした海馬であった
としても、同じ事だ。神話時代の英傑を相手に、現代人が素手で挑む方が無謀なのである。
「まずい!」
城之内の窮地に、闇遊戯が駆けつけようとするが、女傑部隊が行く手を阻む。
「くっ!邪魔をするな―――<ブラック・マジシャン>召喚!」
端正な顔立ちの、黒衣の魔術師―――闇遊戯が最も信頼を置くモンスターにして、最強の黒魔導師である。
「<黒・魔・導(ブラック・マジック)>!」
膨大な魔力が黒き光と共に吹き荒れ、一瞬にして女傑族の戦士達を吹き飛ばす。血路を開いた闇遊戯は、城之内
の元へと急いだ。
「城之内くん!待ってろ、今オレが…」
「来るな、遊戯!」
駆け寄ろうとする闇遊戯を、城之内は血反吐を拭いながら制した。
「どれだけバカバカしかろうが、経緯はどうだろうが、オレはこの女との一騎打ちを…タイマン勝負を受けちまった
んだ…そして、まだ勝負は付いてねえ!」
「バカな…ならせめてデュエルディスクを使うんだ!生身で神話の英雄に勝てるはずがない!」
「確かにな…正直、全然勝てる気がしねえ…ロシア人が地上最強生物に挑む気分だぜ…」
ぺっと血の混じった唾液を吐き捨て、城之内はそれでも笑う。
「けどよ…オレには何となく分かるんだ。あの女王様はよ、理屈抜きで闘いが…ケンカが好きなんだ。だったらよ…
それに応えてやるのが男の子ってもんだろうが!」
「城之内くん…分かったよ。気の済むまでやるがいい。ただし!」
闇遊戯はアレクサンドラを睨み付けた。
「オレはそこまで人格ができてるわけじゃない…キミが必要以上に甚振られるようなことになったなら、オレがその
女を倒すぜ!一騎打ちの邪魔だろうと、知ったことか!」
その眼光を受けて、アレクサンドラは慄くどころか、歓喜で身体を震わす。
「オードブルくんよ…良き心意気と、良き友を持ったな。嬉しいことだ…まさかこれほどいい男達が存在しておった
とは…滾る!滾るぞ!漲ってきた!」
「けっ!どうせ前菜呼ばわりならよ―――他のモンが喰えねえくらいに腹一杯にしてやるぜ!」
勢いよく突っ込んでは倒され、また立ち上がっては無様に地面に転がり―――それを幾度繰り返しただろう。
それでも―――
「まだ…まだ…これからだぜ…」
「もうよせ、城之内くん!こんなバカなことは…!」
闇遊戯の声に、城之内は自嘲の笑みを返しながらも、足を止めることはない。
「へへ…ホントにバカらしいよな。戦場でなんでこんな殴り合いなんかしなきゃならねえんだろうな…おまけにこっち
は、一発も当てられねえときた…だからよ…」
城之内は、ふらふらの足取りで、なおも一歩一歩、アレクサンドラの元へと大地を踏み付ける。
「一発くらいはブチ抜かねえと―――カッコ悪すぎるだろうがぁっ!」
蟻が歩むようなふらつく踏み込みで。蝿が止まりそうな速度で。蚊も殺せないような威力で。
城之内は、最後の拳を叩き付けた。そんなものが、アレクサンドラに届くわけがない―――
(城之内くーーーーーん!)
「城之内くーーーーーん!」
遊戯と闇遊戯が同時に叫び、それに続くであろう惨劇から思わず目を背ける。だが―――
―――パシン
「え…!?」
アレクサンドラは、城之内の拳を避けようともしなかった。微動だにせず―――顔面で、受けた。
「いい、拳だった」
蚯蚓腫れすらできていない、美しい顔でアレクサンドラは笑い、城之内の手を自らの両手で包み込んだ。
「見事だ…オードブルくん…いや、城之内」
アレクサンドラは城之内を―――名前で呼んだ。どこか、愛おしそうですらあった。
「お前の拳―――確かに、私に届いたぞ」