霞がかかったような意識がゆっくりと覚醒していく。
「ここは…どこだ?」
海馬はゆっくりと身体を起こし、周囲を見回す。どうやら自分はどこかの民家で寝かされていたようだった。
「オレは…どうなった?」
脳裏にあの瞬間が蘇る。
絶対にして無敵、最強の白龍をも呆気なく葬り去った<死神>。
「くっ…!」
踏み躙られた誇りと傷ついた魂が、海馬の心を苛んだ。
「ほっほっほ…気が付いたようじゃな、少年」
そんな憂鬱を吹き払うように軽妙な声が響き、海馬は胡乱げに顔を向けた。
そこにいたのは白髪の老人。長く伸びた白い髭を三つ編みにした、見るからに胡散臭い容姿ではあるが、どことなく
知性と慈悲を感じさせる、不思議な雰囲気の持ち主だった。
例えるなら穏やかな春の日、黄昏に佇む賢者―――
しかし海馬はこう思った。
(なんという胡散臭さだ…あのズヴォリンスキーとかいうジジイに似ている…!)
まことに失礼ではあるが、とにかく悪人ではなさそうだった。
「…どうやら、貴様に助けられたようだな。それについては礼を言おう」
「ほっほ…ワシは何もしとらんよ。感謝ならその子らにするがよいぞ」
老人が海馬のすぐ横を指し示す。膝を抱えて眠る、二人の子供。
「フラーテル…ソロル…」
「お主を抱えて彷徨っていた所をワシが見つけての。この村まで一緒に運んだのじゃ」
ほっほ、と老人は笑う。
「お主は三日ほど寝込んでいたが、その間この子らは片時も傍を離れようとせんかった。余程慕われておるようじゃ
な、少年。ほっほっほ…」
「ちっ…こいつら、結局あの場に戻ってきたのか」
そう言うものの、そのおかげで助かったのだ。そうでなければ、あのまま野垂れ死んでいてもおかしくなかった。
「ところで、少年」
「…海馬だ。少年などという名ではない」
「ほっほっほ、そうか。ワシはミロス。見ての通り旅の詩人じゃ」
どこが見ての通りだ貴様などただの胡散臭いジジイだ路地裏で背中を刺されて死ね変態と海馬は思ったが、口に
出すのは流石に慎んだ。彼とて世話になった相手に対してそんな暴言は吐かない程度の社会性はあるのだ。
「愚かな提案があるのじゃが、どうじゃろう…ワシでよければ、お主の話し相手になりたい」
「オレには貴様と話すことなどない」
それはすまんのお、とミロスは微笑んだ。
「お主を見ていると、不肖の弟子を思い出してしまっての…少し、話してみたかったのじゃが」
「貴様の弟子のことなど知るか」
「エレウセウス」
彼が口にしたその名に、海馬は目を見開いた。
「もう十年近く前になるかの…出会った時のあの子は、見ていられないほど酷いものじゃった。世界を憎み、運命を
憎み、何より自分を憎んでおった」
「…………」
「一度は掴んだ妹の手を離してしまったと、自分を責めておった。自分の無力さを、呪ってさえいた」
ミロスは静かに語り続ける。
「だからこそワシは、そんなあの子の話し相手になりたかった」
「…そうか」
「最初の内は随分と嫌われたがのぉ…ほっほっほ。丁度今のお主のような態度じゃったよ」
「だからオレとも話したいと?ふざけるな。いい迷惑だ」
「詳しい事情は訊かぬが、お主もまた無力に苛まれておる。そして、無力な自分が赦せんのじゃろう」
海馬の言葉を無視して、ミロスは言う。
「されど、どうにもならぬことは世界にはいくらでもある。運命はどこまでも無慈悲じゃ」
「…………」
「それに膝を屈したとしても、誰もお主を責めたりはせぬよ…」
しばしの沈黙。そして。
「く…くくっ…」
すすり泣くような声が、海馬から漏れる。だが、違う。
「く…く…ククク…ハァーッハッハッハッハッハッ!」
海馬は笑っていた。無力感と絶望からくる笑いではない―――
どこまでも不敵で自信に満ち溢れた、いつもの彼の高笑いだった。
「少しは賢いかと思ったがとんだ耄碌ジジイだったな―――貴様はオレという人間を何一つとして理解していない!
オレは奪われたまま泣き寝入りなどしない…踏み躙られたなら、今度はオレがそいつの頭を踏み付けて笑ってやる!」
「…運命とは云わば決して越えられぬ壁じゃ。神の摂理を識って、尚それに挑むか?」
神に比して余りにもか弱き、人間の身で。ミロスはそう問うた。
「越えられぬ壁なら、砕いて進む。それだけだ」
運命(かみ)如きが、人間を侮辱(なめ)るな。海馬の瞳はそう言っていた。
「どうやらワシの言葉など、本当に蛇足じゃったな…」
ミロスは呆れと感嘆が入り混じったように笑う。
「既に心が決まっておるのならば、胸を張ってお往きなさい―――お主はお主の地平線を目指して!」
「貴様に言われるまでもない―――オレが見据えるは、未来のみ」
海馬は立ち上がり、コートを翻らせる。そして、寝息を立てている兄妹を見下ろした。
「…こいつらは、歌と竪琴が上手いんだ。吟遊詩人として生きていく道があるだろう」
海馬はそう呟く。
「それまではどうか面倒を見てやってくれないか。オレはもう…こいつらと共にいることはできんだろう」
「よかろう。この子らのことは任せなさい」
その言葉に頷いて、海馬はしゃがみ込み、眠る二人にそっと顔を近づけた。
「オレはこれから最後の闘いへと往く。そして、お前達の世界からは消えるだろう」
だから、オレのことなど忘れて生きていけ。
「これから手にするものを愛するために、お前達は生きていくんだ―――生き延びるんだ」
海馬はそう言い残し、二人に背を向ける。
「そしてどんな困難があろうと、決して諦めるな…それがオレの、唯一の望みだ」
扉を開けて、外へ出る。降り注ぐ太陽の光を全身に浴び、海馬は顔を引き締めた。
「来い―――ブルーアイズ!」
彼の力の象徴たる、蒼き瞳の白龍。それは烈風を纏いながら大地に降り立つ。突如出現した幻獣の姿に慌てふためく
村人達を意に介さず、海馬はその背に飛び乗った。
「オレは、己の信じる道を往くのみ…ブルーアイズと共に!全速前進だ!」
翼を羽撃(はばた)かせ、白龍は大空へと舞い上がる。その姿には、激しい怒りすら感じられた。
だがその怒りに、澱みはない。どこまでも突き抜ける閃光のように、真っすぐな怒りだ。
空を、雲を、世界を貫き、白龍は主を乗せて駆け抜けていく―――
「ここは…どこだ?」
海馬はゆっくりと身体を起こし、周囲を見回す。どうやら自分はどこかの民家で寝かされていたようだった。
「オレは…どうなった?」
脳裏にあの瞬間が蘇る。
絶対にして無敵、最強の白龍をも呆気なく葬り去った<死神>。
「くっ…!」
踏み躙られた誇りと傷ついた魂が、海馬の心を苛んだ。
「ほっほっほ…気が付いたようじゃな、少年」
そんな憂鬱を吹き払うように軽妙な声が響き、海馬は胡乱げに顔を向けた。
そこにいたのは白髪の老人。長く伸びた白い髭を三つ編みにした、見るからに胡散臭い容姿ではあるが、どことなく
知性と慈悲を感じさせる、不思議な雰囲気の持ち主だった。
例えるなら穏やかな春の日、黄昏に佇む賢者―――
しかし海馬はこう思った。
(なんという胡散臭さだ…あのズヴォリンスキーとかいうジジイに似ている…!)
まことに失礼ではあるが、とにかく悪人ではなさそうだった。
「…どうやら、貴様に助けられたようだな。それについては礼を言おう」
「ほっほ…ワシは何もしとらんよ。感謝ならその子らにするがよいぞ」
老人が海馬のすぐ横を指し示す。膝を抱えて眠る、二人の子供。
「フラーテル…ソロル…」
「お主を抱えて彷徨っていた所をワシが見つけての。この村まで一緒に運んだのじゃ」
ほっほ、と老人は笑う。
「お主は三日ほど寝込んでいたが、その間この子らは片時も傍を離れようとせんかった。余程慕われておるようじゃ
な、少年。ほっほっほ…」
「ちっ…こいつら、結局あの場に戻ってきたのか」
そう言うものの、そのおかげで助かったのだ。そうでなければ、あのまま野垂れ死んでいてもおかしくなかった。
「ところで、少年」
「…海馬だ。少年などという名ではない」
「ほっほっほ、そうか。ワシはミロス。見ての通り旅の詩人じゃ」
どこが見ての通りだ貴様などただの胡散臭いジジイだ路地裏で背中を刺されて死ね変態と海馬は思ったが、口に
出すのは流石に慎んだ。彼とて世話になった相手に対してそんな暴言は吐かない程度の社会性はあるのだ。
「愚かな提案があるのじゃが、どうじゃろう…ワシでよければ、お主の話し相手になりたい」
「オレには貴様と話すことなどない」
それはすまんのお、とミロスは微笑んだ。
「お主を見ていると、不肖の弟子を思い出してしまっての…少し、話してみたかったのじゃが」
「貴様の弟子のことなど知るか」
「エレウセウス」
彼が口にしたその名に、海馬は目を見開いた。
「もう十年近く前になるかの…出会った時のあの子は、見ていられないほど酷いものじゃった。世界を憎み、運命を
憎み、何より自分を憎んでおった」
「…………」
「一度は掴んだ妹の手を離してしまったと、自分を責めておった。自分の無力さを、呪ってさえいた」
ミロスは静かに語り続ける。
「だからこそワシは、そんなあの子の話し相手になりたかった」
「…そうか」
「最初の内は随分と嫌われたがのぉ…ほっほっほ。丁度今のお主のような態度じゃったよ」
「だからオレとも話したいと?ふざけるな。いい迷惑だ」
「詳しい事情は訊かぬが、お主もまた無力に苛まれておる。そして、無力な自分が赦せんのじゃろう」
海馬の言葉を無視して、ミロスは言う。
「されど、どうにもならぬことは世界にはいくらでもある。運命はどこまでも無慈悲じゃ」
「…………」
「それに膝を屈したとしても、誰もお主を責めたりはせぬよ…」
しばしの沈黙。そして。
「く…くくっ…」
すすり泣くような声が、海馬から漏れる。だが、違う。
「く…く…ククク…ハァーッハッハッハッハッハッ!」
海馬は笑っていた。無力感と絶望からくる笑いではない―――
どこまでも不敵で自信に満ち溢れた、いつもの彼の高笑いだった。
「少しは賢いかと思ったがとんだ耄碌ジジイだったな―――貴様はオレという人間を何一つとして理解していない!
オレは奪われたまま泣き寝入りなどしない…踏み躙られたなら、今度はオレがそいつの頭を踏み付けて笑ってやる!」
「…運命とは云わば決して越えられぬ壁じゃ。神の摂理を識って、尚それに挑むか?」
神に比して余りにもか弱き、人間の身で。ミロスはそう問うた。
「越えられぬ壁なら、砕いて進む。それだけだ」
運命(かみ)如きが、人間を侮辱(なめ)るな。海馬の瞳はそう言っていた。
「どうやらワシの言葉など、本当に蛇足じゃったな…」
ミロスは呆れと感嘆が入り混じったように笑う。
「既に心が決まっておるのならば、胸を張ってお往きなさい―――お主はお主の地平線を目指して!」
「貴様に言われるまでもない―――オレが見据えるは、未来のみ」
海馬は立ち上がり、コートを翻らせる。そして、寝息を立てている兄妹を見下ろした。
「…こいつらは、歌と竪琴が上手いんだ。吟遊詩人として生きていく道があるだろう」
海馬はそう呟く。
「それまではどうか面倒を見てやってくれないか。オレはもう…こいつらと共にいることはできんだろう」
「よかろう。この子らのことは任せなさい」
その言葉に頷いて、海馬はしゃがみ込み、眠る二人にそっと顔を近づけた。
「オレはこれから最後の闘いへと往く。そして、お前達の世界からは消えるだろう」
だから、オレのことなど忘れて生きていけ。
「これから手にするものを愛するために、お前達は生きていくんだ―――生き延びるんだ」
海馬はそう言い残し、二人に背を向ける。
「そしてどんな困難があろうと、決して諦めるな…それがオレの、唯一の望みだ」
扉を開けて、外へ出る。降り注ぐ太陽の光を全身に浴び、海馬は顔を引き締めた。
「来い―――ブルーアイズ!」
彼の力の象徴たる、蒼き瞳の白龍。それは烈風を纏いながら大地に降り立つ。突如出現した幻獣の姿に慌てふためく
村人達を意に介さず、海馬はその背に飛び乗った。
「オレは、己の信じる道を往くのみ…ブルーアイズと共に!全速前進だ!」
翼を羽撃(はばた)かせ、白龍は大空へと舞い上がる。その姿には、激しい怒りすら感じられた。
だがその怒りに、澱みはない。どこまでも突き抜ける閃光のように、真っすぐな怒りだ。
空を、雲を、世界を貫き、白龍は主を乗せて駆け抜けていく―――
白き翼を見送りながら、兄妹は互いの手を強く握り締めていた。
「よいのか?別れの言葉くらいあってもバチは当たるまいに」
ミロスの言葉に、フラーテルは首を振った。
「いいんです。あの方の重荷になるようなことは、したくない」
「既にこれ以上ないほどの恩が、皇帝様にはあります…これ以上は望みません」
ソロルもそう言って、悲しそうに笑った。
「…どこから起きておった?」
「皇帝様が高笑いしたところからです」
何せあんな笑い方、皇帝様以外はやりませんから。二人揃ってそう言った。
「ほっほっほ…そうかそうか。しかしまあ、とんでもない大器の持ち主じゃった。ありゃあ本当に運命の一つや二つ
ぶっ潰してしまうかもしれんのぉ。ワシのような凡人の想像の斜め上を往くぞ、奴は」
ミロスは楽しげな口調で語る。
「さて…ワシもそろそろ旅に戻るとしよう。お主らのことも彼から頼まれておるが、ワシのような妙なジジイでもいい
なら一緒に来るか?ワシも詩人の端くれじゃ。少しはお主らのためになることを学ばせてやれよう。何ならばもっと
いい詩人も紹介するぞ。レスボス島にいる旧知の友じゃが、聖なる詩人と呼ばれていての…」
「は、はあ…」
「これがまた、賢く美しいという女性の鑑とも言うべき女でな。ほっほっほ、お嬢ちゃんも大人になったらああいう
女になれという見本になるぞ」
「そ、そうですか…」
「思えば彼女との付き合いは、まだワシが渋い中年の魅力を発しておった頃から始まる。幼くして既に聡明であった
彼女の目に、ワシというナイスミドルはどのように映ったのか…」
口を挟む間もなく繰り広げられるミロストーク。何と言うべきか、すでに一緒に行く以外の選択肢はないような気が
した。それはそれとして、二人は白龍が去っていった空を見上げる。
「皇帝様…たった一つだけ、あなたの言葉に背きます」
「私もお兄様も、あなたのことを忘れません」
そう。あの力強い翼を、僕達は忘れない。誰よりも誇り高き彼の姿を、僕達は忘れない。
そして、世界中に語り継ごう。白龍の詩を。
奈落という名の楽園に堕ちることなく、兄妹で憎み合い、殺し合うことなく。
「よいのか?別れの言葉くらいあってもバチは当たるまいに」
ミロスの言葉に、フラーテルは首を振った。
「いいんです。あの方の重荷になるようなことは、したくない」
「既にこれ以上ないほどの恩が、皇帝様にはあります…これ以上は望みません」
ソロルもそう言って、悲しそうに笑った。
「…どこから起きておった?」
「皇帝様が高笑いしたところからです」
何せあんな笑い方、皇帝様以外はやりませんから。二人揃ってそう言った。
「ほっほっほ…そうかそうか。しかしまあ、とんでもない大器の持ち主じゃった。ありゃあ本当に運命の一つや二つ
ぶっ潰してしまうかもしれんのぉ。ワシのような凡人の想像の斜め上を往くぞ、奴は」
ミロスは楽しげな口調で語る。
「さて…ワシもそろそろ旅に戻るとしよう。お主らのことも彼から頼まれておるが、ワシのような妙なジジイでもいい
なら一緒に来るか?ワシも詩人の端くれじゃ。少しはお主らのためになることを学ばせてやれよう。何ならばもっと
いい詩人も紹介するぞ。レスボス島にいる旧知の友じゃが、聖なる詩人と呼ばれていての…」
「は、はあ…」
「これがまた、賢く美しいという女性の鑑とも言うべき女でな。ほっほっほ、お嬢ちゃんも大人になったらああいう
女になれという見本になるぞ」
「そ、そうですか…」
「思えば彼女との付き合いは、まだワシが渋い中年の魅力を発しておった頃から始まる。幼くして既に聡明であった
彼女の目に、ワシというナイスミドルはどのように映ったのか…」
口を挟む間もなく繰り広げられるミロストーク。何と言うべきか、すでに一緒に行く以外の選択肢はないような気が
した。それはそれとして、二人は白龍が去っていった空を見上げる。
「皇帝様…たった一つだけ、あなたの言葉に背きます」
「私もお兄様も、あなたのことを忘れません」
そう。あの力強い翼を、僕達は忘れない。誰よりも誇り高き彼の姿を、僕達は忘れない。
そして、世界中に語り継ごう。白龍の詩を。
奈落という名の楽園に堕ちることなく、兄妹で憎み合い、殺し合うことなく。
「あなたのいる世界にまで、届かせる。白龍の詩を…あなたの詩を―――」
「死すべき者達よ…我は詠おうぞ。<エレフセイア>愛すべき友の、闘いの詩を―――」
―――こうして<死せる英雄達の戦い>と称されし戦乱は幕を閉じた。
<紫眼の狼><白龍皇帝>についてはそれ以降の足取りは完全に途絶え、歴史の表舞台からは姿を消すこととなる。
詩人が紡ぐ叙事詩にのみその姿を現す二人は、後世においてはその実在そのものを疑問視され、最後には架空の英雄
に過ぎないと片付けられた。
だが―――<奴隷達の英雄>は、確かに存在していた。
残酷な運命に屈することなく真っ向から闘った英雄達。その誇り高き生き様は、消えはしない。
老賢人が詠うは狼の詩。兄妹が詠うは白龍の詩。
それは遥かな時代を越えて、遠く未来にまで語り継がれることとなるのだった。
<紫眼の狼><白龍皇帝>についてはそれ以降の足取りは完全に途絶え、歴史の表舞台からは姿を消すこととなる。
詩人が紡ぐ叙事詩にのみその姿を現す二人は、後世においてはその実在そのものを疑問視され、最後には架空の英雄
に過ぎないと片付けられた。
だが―――<奴隷達の英雄>は、確かに存在していた。
残酷な運命に屈することなく真っ向から闘った英雄達。その誇り高き生き様は、消えはしない。
老賢人が詠うは狼の詩。兄妹が詠うは白龍の詩。
それは遥かな時代を越えて、遠く未来にまで語り継がれることとなるのだった。