第三話<そして、外れていく日常>
「おい、のび太、野球やんねえか?」
と、野比のび太に言ったのは、この町一番の暴れん坊でガキ大将の、ジャイアンこと、剛
田武だった。
ちなみに、言われたのび太は、ドラえもんと共にジャイアンのほかに骨川スネ夫がいる空
地の前の道路を歩いていたところだった。嫌そうな顔をしながら、答える。
「やだよ。だって、もしそれで負けたりしたら、『のび太、お前のせいで負けたんだぞ』とか
言ってくるじゃないか。」
というのび太の言ってることは別に言い過ぎではではない。ジャイアンは友達を大切にする
情に厚い一面もないこともないが、その一方で自分の失敗を人のせいにするなどの、自
分勝手な一面もあるのだ。というか、その一面のほうが先ほど言った一面よりも強いだろ
う。それだけははっきり言えた。
しかし、人というのは自分の欠点を言われると思わず逆上してしまう生き物だ。もちろん
ジャイアンだって人間だ。
「……なんだと、そんなに、お前は、俺のことが嫌いか、あぁ?」
と、なんだか一句一句を妙に強調しながら、言って……否、脅迫してくる。
思わずのび太は手を大きく振って誤魔化した。
「そ、そんなことは……」
「あるんだろ、違うか?」
「まあまあ、ジャイアン。」
さっきまで傍観を決め込んでいたドラえもんが、口を挟んだ。
「野球だったら、また今度でもいいじゃないか。第一、のび太くんを誘ったって、多分役に
立たないと思うよ。」
なんだか、すごく人を馬鹿にしてるような気もするが、ジャイアンはその言葉でなんとか怒り
を鎮めたようだ。
「まあ、のび太なんか役に立つわけないよな~」
いつの間にか、さっきまで空地の土管の上に座っていたはずのスネ夫が、ジャイアンの後
ろのその年齢にしては巨大な体の後ろに隠れるようにたちながら、嫌みったらしく言った。
思わず腹が立ったので反論しようと思ったが、のび太はそのまま黙ってしまった。スネ夫
の言ったことは反論しようのない事実なのだから。
そこに、のび太の心のオアシスがやってきた。
「のび太さ~ん。ドラちゃ~ん、武さん、スネ夫さ~ん。」
「あ、静香ちゃん!」
源静香。彼女の登場により、先刻まで陰険な表情だったのび太が、急に(もしこの状況
に擬音をつけるなら「ぱーっと」)明るくなった。普段は何時も笑みを浮かべている、整っ
た顔が、なんだか暗くなっていることに気づくまでだったが。
思わず、のび太は口を開いていた。
「ど、どうしたの?」
「あの、実は……」
静香は、一瞬言うのに迷ったようだったが、結局口を開いた。
「誰かに、見られてるみたいなの。家を出てから、ずっと……」
「え……?」
思わず、のび太は呆然とした。彼だけではなく、ジャイアンたちも。
誰かにずっと見られている。つまりそれは────俗に言う、ストーカーという奴か。
「一体、どこのどいつなんだ?」
ジャイアンの言葉に、静香は無言で首を横に振った。つまり、「わからない」という事であ
る。
それにしても、こんな小学生の少女を追いかけるストーカーとは……
「やっぱり変態だろうな……」
と、ドラえもんが言った。
その言葉の返答は、思わぬ所からきた。
「う~ん、変態か……それはちょっと心外だね~……」
「!?」
それに驚いた一同が振り向くと、土管の上に紫の瞳と髪の毛の、背の高いの細身の青
年が、立っていた。先刻まで驚いていたドラえもんたちが睨みつけるが、その視線をも気
にしていないように、青年はまだ続ける。
「ぼくは、一応ロリコンじゃないよ。かといって、熟女専門でもないけどね。」
と笑みを浮かべながら、いかにも軽く青年は言った。何故か、その笑顔と軽口の下に、
何か空虚を、底なしの、なにか深いものを隠しているような気がしたが。
「大体、ぼくの目的は、その子を追いかけることじゃなくて、そこの蒼いネコ型ロボットから
ちょこっと未来の道具を頂戴することだよ。その子を追いかけたのは、その目的を遂行す
るためのただの過程さ。」
その言葉に、五人……特に、のび太とドラえもんが驚いていた。
───昨日話した事件の犯人は、この男───?
ドラえもんは、いつでも道具を取り出せるように身構えてから、のび太たちよりも一歩、青
年の前に出た。
青年は、相変わらず土管の上で、笑みを浮かべているだけである。いや、のび太たちに
手のひらを向けて─────
その手のひらから、紫色の光が放たれた。
麻帆良学園は、埼玉県に存在している、日本でもCLAMP学園を除けば一番の規模
を持つ学園である。
基本的に生徒は学園都市内に存在している寮に住んでおり、小等部に通っている、十
歳にも満たない子供まで、親のもとを離れて学校に通っている────というのが表の
顔。
明治時代の中盤ころに、魔法使いに創られており、しかも現在も魔法使いによって学園
内の治安が守られている────などといかにも現実感のない話だが、しかし事実であ
り、ほかに説明のしようがない。
んで、その女子中等部の3年A組にて。
このクラスの担任である英語教師、ネギ・スプリングフィールド10歳は、暗い顔で自分の
机から窓の外をぼーっと見ていた。さっきから、大きなため息をつく以外に、まったくの動き
を見せていない。そんな様子を見ていた生徒の皆が、心配そうな顔をして、ネギの顔を覗
き込むが、ネギはまったく反応しない。というか、もう授業の時間なので、さっさと授業を始
めてもらいたいのだが。
そこに、このクラスの生徒である、───髪はオレンジ色のツインテール、そして瞳は両
目の色が違うオッドアイの少女───神楽坂明日菜が、立ち上がった。
「ネギ、ネギ!ちょっと、何ぼーっとしてるのよ!」
と、ペシペシとネギの頭を叩く。背後から、ネギ大好きなショタコンの委員長の抗議が聞
こえてきたが、それは完全に無視した。
「あ、明日菜さん?」
自分が叩かれていることにようやく気づいたネギは、彼女の顔を見上げた。
明日菜は一度ため息をつくと、ネギの耳元に顔を近づけ、ほかの皆に聞こえないように
言った。
「一体、どうしたのよ?また魔法関係?なんだか、エヴァちゃんも茶々丸さんも、ハカセも
いないみたいだし……」
「あ……まあ……はい。」
ネギの返事は、なんだか力がない。
ネギ・スプリングフィールド。彼は10歳にして(実際のところは9歳だが)ウェールズの魔
法学校を主席で卒業。そして、立派な魔法使いになるための修行として、この学校の教
師をやることになったという、なんだかものすごい経緯を持った少年だ。ちなみに、彼が魔
法使いであることを知っている人物は、明日菜を除いてもすでにこのクラスの半分くらいの
人数にまで及んでいる。魔法使いが一般人に魔法の存在を教えると、罰としてオコジョ
にされてしまうことから、明日菜いわく「もう70パーセントオコジョ」らしい。
それはともかく。ネギの事情を知っている───どころか、魔法使いの世界に足を突っ
込んでしまっている明日菜としては、こういう風にネギが落ち込んでいるのを放ってはおけ
ないのだ。
ネギは、なんとか明日菜に説明しようと、口を開いた。
「実はエ《きーんこーんかーんこーん》
が、授業の終わりのチャイムに邪魔をされて、結局言うことはできなかった。どうやら、ネギ
がぼーっとしていたのは、授業時間約1時間に及んでいたらしい。
「まったく、一体あんたどれくらいボーっとしてんのよ!」
「いはいいはいいはい!ふいまへん!(いたいいたいいたい、すいません)」
さすがに怒った明日菜は、そのままネギのほっぺたをつねり上げた。もはや、彼の事情な
んて知ったこっちゃない。自分の後ろで委員長が文句を言っているが、それは無視した。
そこで、教室のドアががらがら……と開いた。
「やあ、少し失礼するよ。」
入ってきたのは、長身のナイスミドル……高畑・T・タカミチだった。
「た、高畑先生?」
それに気づいた明日菜は、慌ててネギのほっぺたから手を離す。
さきほどまで明日菜につねられていたほっぺたをさすりながら、ネギは高畑に問うた。
「どうしたの、タカミチ?」
「いや……ちょっと来てほしいんだよ……ああ、明日菜くん、刹那くんも、ちょっといいか
い?」
「あ、はい。」
突然呼ばれた刹那───妙におでこが広い、サイドポニーの背は低く、手に木刀を持
った少女───は、慌てて返事をして、高畑のもとにすぐに行った。
明日菜も、自分が呼ばれたことに驚きながらも、すぐに「はいっ!」と敬礼つきで妙に気
合の入った返事をした。
「うん。じゃあ行こうか。」
それを笑いながら見た後、高畑はそう言いながら廊下に出た。その後に、ネギと明日菜
と刹那がついていく。
「おい、のび太、野球やんねえか?」
と、野比のび太に言ったのは、この町一番の暴れん坊でガキ大将の、ジャイアンこと、剛
田武だった。
ちなみに、言われたのび太は、ドラえもんと共にジャイアンのほかに骨川スネ夫がいる空
地の前の道路を歩いていたところだった。嫌そうな顔をしながら、答える。
「やだよ。だって、もしそれで負けたりしたら、『のび太、お前のせいで負けたんだぞ』とか
言ってくるじゃないか。」
というのび太の言ってることは別に言い過ぎではではない。ジャイアンは友達を大切にする
情に厚い一面もないこともないが、その一方で自分の失敗を人のせいにするなどの、自
分勝手な一面もあるのだ。というか、その一面のほうが先ほど言った一面よりも強いだろ
う。それだけははっきり言えた。
しかし、人というのは自分の欠点を言われると思わず逆上してしまう生き物だ。もちろん
ジャイアンだって人間だ。
「……なんだと、そんなに、お前は、俺のことが嫌いか、あぁ?」
と、なんだか一句一句を妙に強調しながら、言って……否、脅迫してくる。
思わずのび太は手を大きく振って誤魔化した。
「そ、そんなことは……」
「あるんだろ、違うか?」
「まあまあ、ジャイアン。」
さっきまで傍観を決め込んでいたドラえもんが、口を挟んだ。
「野球だったら、また今度でもいいじゃないか。第一、のび太くんを誘ったって、多分役に
立たないと思うよ。」
なんだか、すごく人を馬鹿にしてるような気もするが、ジャイアンはその言葉でなんとか怒り
を鎮めたようだ。
「まあ、のび太なんか役に立つわけないよな~」
いつの間にか、さっきまで空地の土管の上に座っていたはずのスネ夫が、ジャイアンの後
ろのその年齢にしては巨大な体の後ろに隠れるようにたちながら、嫌みったらしく言った。
思わず腹が立ったので反論しようと思ったが、のび太はそのまま黙ってしまった。スネ夫
の言ったことは反論しようのない事実なのだから。
そこに、のび太の心のオアシスがやってきた。
「のび太さ~ん。ドラちゃ~ん、武さん、スネ夫さ~ん。」
「あ、静香ちゃん!」
源静香。彼女の登場により、先刻まで陰険な表情だったのび太が、急に(もしこの状況
に擬音をつけるなら「ぱーっと」)明るくなった。普段は何時も笑みを浮かべている、整っ
た顔が、なんだか暗くなっていることに気づくまでだったが。
思わず、のび太は口を開いていた。
「ど、どうしたの?」
「あの、実は……」
静香は、一瞬言うのに迷ったようだったが、結局口を開いた。
「誰かに、見られてるみたいなの。家を出てから、ずっと……」
「え……?」
思わず、のび太は呆然とした。彼だけではなく、ジャイアンたちも。
誰かにずっと見られている。つまりそれは────俗に言う、ストーカーという奴か。
「一体、どこのどいつなんだ?」
ジャイアンの言葉に、静香は無言で首を横に振った。つまり、「わからない」という事であ
る。
それにしても、こんな小学生の少女を追いかけるストーカーとは……
「やっぱり変態だろうな……」
と、ドラえもんが言った。
その言葉の返答は、思わぬ所からきた。
「う~ん、変態か……それはちょっと心外だね~……」
「!?」
それに驚いた一同が振り向くと、土管の上に紫の瞳と髪の毛の、背の高いの細身の青
年が、立っていた。先刻まで驚いていたドラえもんたちが睨みつけるが、その視線をも気
にしていないように、青年はまだ続ける。
「ぼくは、一応ロリコンじゃないよ。かといって、熟女専門でもないけどね。」
と笑みを浮かべながら、いかにも軽く青年は言った。何故か、その笑顔と軽口の下に、
何か空虚を、底なしの、なにか深いものを隠しているような気がしたが。
「大体、ぼくの目的は、その子を追いかけることじゃなくて、そこの蒼いネコ型ロボットから
ちょこっと未来の道具を頂戴することだよ。その子を追いかけたのは、その目的を遂行す
るためのただの過程さ。」
その言葉に、五人……特に、のび太とドラえもんが驚いていた。
───昨日話した事件の犯人は、この男───?
ドラえもんは、いつでも道具を取り出せるように身構えてから、のび太たちよりも一歩、青
年の前に出た。
青年は、相変わらず土管の上で、笑みを浮かべているだけである。いや、のび太たちに
手のひらを向けて─────
その手のひらから、紫色の光が放たれた。
麻帆良学園は、埼玉県に存在している、日本でもCLAMP学園を除けば一番の規模
を持つ学園である。
基本的に生徒は学園都市内に存在している寮に住んでおり、小等部に通っている、十
歳にも満たない子供まで、親のもとを離れて学校に通っている────というのが表の
顔。
明治時代の中盤ころに、魔法使いに創られており、しかも現在も魔法使いによって学園
内の治安が守られている────などといかにも現実感のない話だが、しかし事実であ
り、ほかに説明のしようがない。
んで、その女子中等部の3年A組にて。
このクラスの担任である英語教師、ネギ・スプリングフィールド10歳は、暗い顔で自分の
机から窓の外をぼーっと見ていた。さっきから、大きなため息をつく以外に、まったくの動き
を見せていない。そんな様子を見ていた生徒の皆が、心配そうな顔をして、ネギの顔を覗
き込むが、ネギはまったく反応しない。というか、もう授業の時間なので、さっさと授業を始
めてもらいたいのだが。
そこに、このクラスの生徒である、───髪はオレンジ色のツインテール、そして瞳は両
目の色が違うオッドアイの少女───神楽坂明日菜が、立ち上がった。
「ネギ、ネギ!ちょっと、何ぼーっとしてるのよ!」
と、ペシペシとネギの頭を叩く。背後から、ネギ大好きなショタコンの委員長の抗議が聞
こえてきたが、それは完全に無視した。
「あ、明日菜さん?」
自分が叩かれていることにようやく気づいたネギは、彼女の顔を見上げた。
明日菜は一度ため息をつくと、ネギの耳元に顔を近づけ、ほかの皆に聞こえないように
言った。
「一体、どうしたのよ?また魔法関係?なんだか、エヴァちゃんも茶々丸さんも、ハカセも
いないみたいだし……」
「あ……まあ……はい。」
ネギの返事は、なんだか力がない。
ネギ・スプリングフィールド。彼は10歳にして(実際のところは9歳だが)ウェールズの魔
法学校を主席で卒業。そして、立派な魔法使いになるための修行として、この学校の教
師をやることになったという、なんだかものすごい経緯を持った少年だ。ちなみに、彼が魔
法使いであることを知っている人物は、明日菜を除いてもすでにこのクラスの半分くらいの
人数にまで及んでいる。魔法使いが一般人に魔法の存在を教えると、罰としてオコジョ
にされてしまうことから、明日菜いわく「もう70パーセントオコジョ」らしい。
それはともかく。ネギの事情を知っている───どころか、魔法使いの世界に足を突っ
込んでしまっている明日菜としては、こういう風にネギが落ち込んでいるのを放ってはおけ
ないのだ。
ネギは、なんとか明日菜に説明しようと、口を開いた。
「実はエ《きーんこーんかーんこーん》
が、授業の終わりのチャイムに邪魔をされて、結局言うことはできなかった。どうやら、ネギ
がぼーっとしていたのは、授業時間約1時間に及んでいたらしい。
「まったく、一体あんたどれくらいボーっとしてんのよ!」
「いはいいはいいはい!ふいまへん!(いたいいたいいたい、すいません)」
さすがに怒った明日菜は、そのままネギのほっぺたをつねり上げた。もはや、彼の事情な
んて知ったこっちゃない。自分の後ろで委員長が文句を言っているが、それは無視した。
そこで、教室のドアががらがら……と開いた。
「やあ、少し失礼するよ。」
入ってきたのは、長身のナイスミドル……高畑・T・タカミチだった。
「た、高畑先生?」
それに気づいた明日菜は、慌ててネギのほっぺたから手を離す。
さきほどまで明日菜につねられていたほっぺたをさすりながら、ネギは高畑に問うた。
「どうしたの、タカミチ?」
「いや……ちょっと来てほしいんだよ……ああ、明日菜くん、刹那くんも、ちょっといいか
い?」
「あ、はい。」
突然呼ばれた刹那───妙におでこが広い、サイドポニーの背は低く、手に木刀を持
った少女───は、慌てて返事をして、高畑のもとにすぐに行った。
明日菜も、自分が呼ばれたことに驚きながらも、すぐに「はいっ!」と敬礼つきで妙に気
合の入った返事をした。
「うん。じゃあ行こうか。」
それを笑いながら見た後、高畑はそう言いながら廊下に出た。その後に、ネギと明日菜
と刹那がついていく。