SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ内検索 / 「しけい荘戦記 第三十三話「出撃」」で検索した結果
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しけい荘戦記 第三十話 ~ 第三十九話
前作・しけい荘物語ならびにしけい荘物語外伝はこちら 第二十話 ~ 第二十九話 第三十話「MAX」 第三十一話「長い夜の終わり」 第三十二話「奇妙な一日」 第三十三話「出撃」 第三十四話「純・ゲバル対マホメド・アライJr」 第三十五話「立つ!」 最終話「昨日の敵は今日の友」 -
しけい荘戦記 第三十三話「出撃」
時は満ちた。 しけい荘とコーポ海王を巻き込み、ホームレスまでもが介入した闇討ち事件。泣いても 笑っても今日が決着の日となる。 純・ゲバルとマホメド・アライJr。両者の決闘によって白黒がつく。 しけい荘203号室。ゲバルはいつも通りロッカーの中で立ったまま目覚めると、あく びをしながら戸を開いた。 トーストを平らげ、水だけで洗顔し、歯ブラシを手に取る。毛先が若干曲がっていたが、 ゲバルが歯ブラシを高速で振ると、あっという間に毛先が整った。鼻歌を交えて陽気に歯 を磨くゲバル。 歯磨きを済ませると、寝巻きから普段着へ。締めに愛用のバンダナを巻き、いざ出陣。 靴を履き、ドアを開け、階段を降り、アパートを出る。試合場となるグラウンドは徒歩 にして十分程度。リズミカルに歩を進めるゲバル。 彼は決してこのたびの決戦をあなどっているわけではな... -
しけい荘大戦 第十話 ~ 第十九話
...ちら 前作・しけい荘戦記はこちら 第一話 ~ 第九話 第十話「開戦!」 第十一話「我、五体猛毒なり」 第十二話「殺し屋」 第十三話「駆け引き」 第十四話「エレファントキラー」 第十五話「オリバの予感」 第十六話「甘い」 第十七話「無呼吸の果て」 第十八話「チェックメイト」 第十九話「愛国心」 第二十話 ~ 第二十九話 -
しけい荘大戦 第一話 ~ 第九話
...ちら 前作・しけい荘戦記はこちら 第一話「シンクロニシティ」 第二話「ルーザールーズ」 第三話「祝福」 第四話「しけい荘最大の危機」 第五話「海王になろう」 第六話「幕開け」 第七話「挑戦者たち」 第八話「東西南北」 第九話「アメリカ合衆国大統領」 第十話 ~ 第十九話 -
しけい荘大戦(サナダムシさま)
...ちら 前作・しけい荘戦記はこちら 第一話 ~ 第九話 第十話 ~ 第十九話 第二十話 ~ 第二十九話 第三十話 ~ 最終話 -
しけい荘戦記 第一話「しけい荘再び」
第一話「しけい荘再び」 ひときわ異彩を放つ木造アパート、『しけい荘』。異臭かもしれない。 東京は新宿、真新しい住宅街の中にあって図々しくも居座っている。存在感はそんじょ そこらの建売住宅や高級マンションの非ではない。 構造はいたって単純である。 二階建て。上と下を繋いでいるのは狭い踊り場付きのくの字の頼りない階段。部屋は一 階に三つ、二階にも同じく三つ。それぞれで一人ずつ暮らしている。つまり、住民は全部 で六人というわけだ。 都会は恐ろしい。品行方正な秀才と他人を糧にする術しか知らぬ無法者が共存し、中に は秀才と無法者を兼ねる突然変異さえおり、さらにはそんな突然変異と五分に渡り合う凡 人までいる。しかし彼らとて、しけい荘の住人と比較されたなら、その他大勢と区分され る他ない。 しけい荘でもっとも朝が早いのは柳龍光。10... -
しけい荘戦記 第二十話 ~ 第二十九話
前作・しけい荘物語ならびにしけい荘物語外伝はこちら 第十話 ~ 第十九話 第二十話「犯罪者ハンターオリバ」 第二十一話「新たな強敵」 第二十二話「継承者」 第二十三話「夜は動く」 第二十四話「露泰同盟」 第二十五話「激突」 第二十六話「破られた誓い」 第二十七話「不死身の男」 第二十八話「しけい荘とコーポ海王」 第二十九話「ハイレベル」 第三十話 ~ 第三十九話 -
しけい荘戦記 第二十八話「しけい荘とコーポ海王」
夜が明けた。 シコルスキーとサムワンは通報で駆けつけた警官らによって、病院に搬送された。二人 の敗北は、すぐさま彼らの住処(すみか)に伝えられた。 これでしけい荘とコーポ海王、両陣営の犠牲者は計五名となった。 流派や思想はちがえど、武力を頼みにする彼らが受けた衝撃は大きい。 もはや一刻の猶予もない。 コーポ海王の管理人室で向かい合う劉海王と烈海王。称号の上では同格だが、椅子にゆ ったりと腰かける劉に対して、弟子である烈は立ったまま訴えかける。 「老師……私はこれ以上我慢なりません」 「うむ、オリバ氏とも連絡を取ったが、昨夜の二人はさらに凄惨な倒され方であったらし い。これは我ら武術家に対する完全なる挑戦──」 「そうではありません。私は海王の名が辱められることが我慢ならないのです」 さえぎる烈。彼には仲間や好敵手が倒された... -
しけい荘戦記 第二十一話「新たな強敵」
中国ナンバーワンの毒手使い李海王が、何者かによって倒された。 この報せがコーポ海王の面子に与えた動揺は大きかった。しけい荘と並び立つほどの武 力を持つ彼らにとって、武術における敗北は絶対に許されないからだ。 コーポ海王を束ねる立場にある劉海王は、すぐさま李を除く全メンバーを集めた。 「すでに知っておる者もおろうが、昨夜李海王が路上で発生した立ち合いにて不覚を取っ た。中国最高峰の拳法家であるべき“海王”が野試合とはいえ敗北したのだ。──否、野 試合にもかかわらず、というべきか」 ゆっくりと絞り出すように劉海王が告げた。表情にこそ出ていないが言葉の節々に悔し さがにじみ出ている。 凶報に驚きと焦りを禁じえない海王たち。兄である範海王は特に不機嫌な面持ちをして いる。 気まずい沈黙を断ち切るように、烈海王がいった。 「ところで範海王よ... -
しけい荘戦記 第十話 ~ 第十九話
前作・しけい荘物語ならびにしけい荘物語外伝はこちら 第一話 ~ 第九話 第十話「七人目」 第十一話「戦士として」 第十二話「開けるな」 第十三話「戦争」 第十四話「走れルミナ」 第十五話「敵地へ」 第十六話「シコルスキー対マウス」 第十七話「絶体絶命」 第十八話「集結!」 第十九話「老人会」 第二十話 ~ 第二十九話 -
しけい荘戦記 第二話「真剣勝負」
第二話「真剣勝負」 笑顔で自分を迎えるクラスメイト。手渡される刃渡り十五センチほどのナイフ。坂道を 転げ落ちるように状況は悪化していく。 「じゃあこれ持って、あのアパートに行って来い」 「で、でも……」 「そんでアパートの誰でもいいから、ナイフ突きつけて『俺と勝負しろ』っていってこい。 それだけでいいんだ、簡単だろ?」 いじめっ子のリーダー格は目で威圧しながら、一方的に命令を与えてきた。 「頑張れよ。応援してるぜ、鮎川」 「大丈夫だよ、殺されやしないって」 リーダーの後ろでは、同じくいじめっ子に属する二人組が無責任な励ましを飛ばしてい る。あくまで主犯ではないように振舞いいざという時の逃げ道を残しながら、なおかつい じめによる愉悦をとことんまで味わおうとしている。 「さ、行って来い」 「ちょ、ちょっと待ってよ……僕は……」... -
しけい荘戦記 第十三話「戦争」
鮎川ルミナは成長した。 シコルスキーとの決闘で芽生えた男としての覚悟が、彼を変えたのである。 「鮎川君、変わったよね」 「うん。おどおどしなくなったっていうか、堂々としてるっていうか」 「もうあいつを弱虫だなんていえないや」 本人が一皮むければ周囲の評価も当然変わる。あの日を境に、ルミナの人生は明らかに 好転した。 しかし、これが面白くないのは今までルミナをいじめていた級友たちだ。いじめはある 意味「世論」によって成り立つ。世論に弾かれた者だからこそ、堂々といじめという名の 制裁を加えることが可能になるのだ。クラスの大多数の支持を得ようとしているルミナを いじめることはもうできない。彼らは楽しみを失ってしまったのだ。 特にルミナをしけい荘に向かわせた三人組は先陣を切っていじめていたので、クラスで の立場も微妙なものとなっていた。 ... -
しけい荘大戦 最終話「夜明け」
決着を迎えた時刻──暁光がホテルに淡く差し込んだ。 シコルスキーがゲバルに対抗できる点は指だけだった。指しかなかった。だからこそシ コルスキーは指を根こそぎ生かし切ることで、勝利をもぎ取ることができた。 敗北を喫したゲバルがまもなく意識を取り戻す。清々しい表情をしている。 「よう……シコルスキー。グッドゥモーニング」 「ゲバル……」 「……敗けちまったな。こうなった以上、俺はもうボッシュに手を出す気はない」 ゲバルは潔く敗北を宣言した。余力はある。力を出し尽くした今のシコルスキーならば、 襲いかかれば百パーセント倒せるにもかかわらず、だ。 戸惑うシコルスキーに、ゲバルは爽やかに微笑む。 「胸を張ってくれよ。おまえはテロリストからも、俺たちからも、ボッシュを守り抜いた。 ボディガードをやり遂げたんだからな」 右手と右手。互いに傷つい... -
しけい荘戦記 第一話 ~ 第九話
前作・しけい荘物語ならびにしけい荘物語外伝はこちら 第一話「しけい荘再び」 第二話「真剣勝負」 第三話「老いと青春」 第四話「ドリアン対スペック」 第五話「パス」 第六話「護身開眼」 第七話「ソムリエ五人衆」 第八話「宴」 第九話「お茶の間デビュー」 第十話 ~ 第十九話 -
しけい荘大戦 第三十四話「ダヴァイッ!」
飛んでくるのは軽快なジョークでもなければ、陽気な笑い声でもない。荒海を狩猟場と してきた戦士による、純度百パーセントの闘争心のみ。シコルスキーの意地と底力が、つ いにゲバルの全力を引き出した。 立ち上がったシコルスキーは、たちまち背筋が凍りついた。 「これが、ゲバルの本気……。ここから……ってワケか……ッ!」 海賊時代の化粧を施し、より引き締まった肉体を手中にしたゲバル。格段に上昇した戦 力は、ゲバルの間合い(エリア)内の空間を捻じ曲げるほどだ。 歪曲した領域に、シコルスキーは切り裂く拳とともに果敢に侵入を果たす。 「出航(ふなで)の刻(とき)」 ゲバルは竜巻になった。遠心力をたっぷりと吸収した右フックが、シコルスキーの頬骨 にめり込む。風車のように横に一回転したシコルスキーの顎には、待ちかねていた左アッ パーが来訪する。 首を根... -
しけい荘戦記 第三十話「MAX」
「貴様は我が拳を以って──全身全霊にて叩き潰す!」 烈の拳がさらに速さを増す。まるで無数の手が生えたような、残像を生じるほどのスピ ード。体を丸めガードを固め、なすすべなく打たれまくるゲバル。止まる気配のない拳と いう名の豪雨。手を出すどころではない。 待とうが祈ろうがてるてる坊主を吊るそうが、止みそうもない。ならば、立ち向かう。 ガードを外すゲバル。いいのを二、三発まともにもらいながら、強引すぎる胴タックル を実行する。 執念は実った。ゲバルは烈の腰に組みつくことに成功する。 しかし、鍛え抜かれた足腰はビクともしない。打撃戦を嫌い、寝技に持ち込もうという ゲバルの目論みは崩れた。 「無駄だ……」 鉄の肘がゲバルの脳天に落とされる。 頭蓋が割れてもおかしくない一撃だったが、しつこくしがみつくゲバル。ゲバルは両足 をぴたりと地... -
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しけい荘戦記 第二十三話「夜は動く」
スーパーで購入した焼き鳥の盛り合わせを挟み、缶ビールで乾杯するシコルスキーとゲ バル。 シコルスキーが指だけで飲み終えた缶をパチンコ玉の大きさに丸めてみせると、ゲバル は指の力で缶を紙のように平らにしてみせた。ピンチ(指でつまむ)力に自信がある者同 士、どうでもいい局面でも張り合うことを忘れない。 シェイクした缶ビールを手渡しながら、話を振るゲバル。 「アンチェインもいっていた闇討ちの話だが、狙われてる海王ってのはそれほどに強いの か?」 気づかずに開けてしまい、ビールをもろに浴びるシコルスキー。 「あいつらは中国拳法のエリート集団だからな。強くないはずがない。特にずば抜けてい るのが、烈海王と寂先生だ」 お返しにと缶ビールをシェイクし、そっとゲバルの近くに置くシコルスキー。 「寂海王はたしかアンタの師匠だったな。烈海王は初耳だが…... -
しけい荘戦記(サナダムシさま)
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しけい荘戦記 第三十五話「立つ!」
アライJrのベストショットに、グラウンド中が沸騰する。 接近から接触までの全動作が最高速で実行され、しかも美しい。F1カーに乗りながら ライフルでピンポイント狙撃を行うようなものだ。偉大なる遺伝子を受け継いだ神の申し 子がついに到達したのだ。 なすすべなく沈むゲバル。受け身を取ることなく墜落し、沈黙する。 うつむくしけい荘の面々。勝てる戦いであった。土壇場でアライJrが完成さえしなけ れば。 「ゲバル……ッ!」無念そうに唇を噛むシコルスキー。 四千年の歴史にはない一打に、コーポ海王サイドもどよめく。 「みごとな試合だった」烈は動じずに素直な感想をもらした。 終わった。だれもが決着を確信した。ところが、 「ヤイサホーッ!」 ゲバルのよく通る声がグラウンドに響き渡る。 全員が振り返ると、ゲバルはもう起き上がっていた。 「…... -
しけい荘戦記 第三話「老いと青春」
窓から景色を眺め、ため息をつくドリアン。 年代物のオーディオから流れる、無名歌手が歌う上品なシャンソンも今は耳に入らない。 久しく忘れていた感情──彼は恋をしていた。 じっとしているだけで心に胸を締めつけられ、痛み、消耗する。 七十を過ぎた我が身に突如降りかかった事態にドリアンは戸惑っていた。豊富な人生経 験を持つ自分が、人生の途上で誰もが味わうこの感情に成す術がない。恋は泳ぎ方や自転 車の乗り方とは違う。しばらくご無沙汰にしていれば忘れてしまうものだ。 キャンディを一気に五個も口に含み、噛み砕き、飲み込む。気持ちが少し静まった。 「やはり相談するしかないようだな」 年下に悩みを打ち明けるのは避けたい。ましてや恋の悩みなど。となると、相談相手は 一人しかいない。 「ハハハハハ! ンナモン、ムリヤリ押シ倒シチマエバイイダロウガッ... -
しけい荘戦記 第八話「宴」
ソムリエ五人衆のテレビ出演は驚くほどあっさりと決定してした。 「ソムリエ五人衆!?」 「えぇ、実は我々しけい荘の住人は大家さんから日頃からワインについて教えてもらって ましてね。資格こそ持ってませんが、ワインの知識には自信がありますよ」 「……面白い。いいでしょう、是非あなた方で特集を組ませて下さい!」 テレビ局のプロデューサーと熱い握手を交わすドイル。 こうしてしけい荘が誇る手品師の野望の第一歩がようやく幕を開けた。 「ここからだ……。ここから私はスターダムに駆け上がるッ!」 テレビ収録はちょうど一週間後。しかも生放送。ドイルの報告を受けた他の四人も闘志 をあらわにする。 「決まりましたか。これでもう引き返せませんな」 「ふむ……面白くなってきたな」 「ウォッカで鍛えた俺の舌を披露する時が来たか」 「ジャア、サッソク特訓ト... -
しけい荘戦記 第五話「パス」
株式会社クードー。日本最大手の暗器メーカー。 元々は「空道」という闇武術の使い手が副業として暗器の精製、販売を行っていたこと に由来する。それを現取締役社長である国松が本格的に企業として立ち上げ、事業所を海 外にも展開し、近年では年商百億円を超えるほど。彼自身が空道の達人であることはいう までもない。 しかし、今クードーには国松をも上回る猛者があった。 製品開発部統括部長、柳龍光。国松の部下であり弟子でもある柳は、入社するなり社長 との立ち合いを切望し、国松の右腕を奪った。その後は優秀なアイディアマンとして次々 に暗器を企画・開発し、今ではクードーになくてはならない人物となっている。 相手を一瞬で失神させる大ヒット商品『6%未満酸素』、毒の塗られた手袋『毒手グロ ーブ』、鞭打と同じ機能を持つ『鞭打ロープ』、絞殺専用黒帯『セイケン』、銃を所持す... -
しけい荘戦記 第三十二話「奇妙な一日」
ゲバルと烈の果たし合いは、辛くもゲバルが勝利を収めた。 これにより闇討ち事件の総括となる最終決戦、「ゲバル対アライJr」が正式に決定さ れた。日時は一週間後正午、場所は草野球場を借りて行われる。 全ての段取りは、しけい荘の大家であるオリバが誰かが口を挟む間もなく進めてしまっ た。いうまでもなく逆らう者はいない。 しかし、闇討ち犯人を協力して倒そうとしていた柳、ドイル、スペックは複雑だった。 柳が住む102号室に集結し、愚痴の吐き合いを展開する三人。 「あれだけ張り切ってたのに……すっかり先越されちまったな」 煙草の煙を吐き出し、寂しそうに呟くドイル。 「完敗ですな。明日から動こうとした我々に対し、彼は今日から実行してみせた。ゲバル さんの情熱を読み切れなかった」 うつむき首を振る柳。 「シッカシマァ、烈海王ヲ倒シチマウトハナ。正... -
しけい荘大戦 第三十三話「ヤイサホーッ!」
一枚のバンダナをきっかけに、二人の闘士は期せずして「ルーザールーズ」の形を取っ ていた。 元々はゲバルがしけい荘に広めたゲームであり、シコルスキーもルールは知っている。 かといって、二人がバンダナを握り合ったのは偶然に過ぎない。ルーザールーズを始め る義務はどこにもない。 しかし、なぜかどちらもバンダナから指を離そうとはしない。 すでに二人の間で暗黙のルール変更は成されていた。 「俺もルーザールーズはずいぶんやったが、こういう始まり方はさすがに経験したことが なかったな」 「天の上にいる誰かさんが、やれっていってるのかもしれないな」 「……だったら、なおさらやらないと天罰が下るな」 「じゃあ始めようか」 規格外のピンチ(つまむ)力を二つも受け、バンダナが軋む。偶然か、はたまた必然か、 神が命じた天然ルーザールーズが幕を開ける。... -
しけい荘戦記 第十話「七人目」
古びたロッカーがぽつんと置かれていた。 突如として、しけい荘に出現したスチール製の直方体。正体や背景は一切不明。目撃者 もいない。分かることはただひとつ「何も分からない」ということだけ。 未知なる侵略者に対し、オリバを除く五人はとりあえず包囲することにした。しかし、 取り囲むだけでは謎は解けない。緊張が汗を増し、水分と体力が奪われる。 「マドロッコシイゼ、俺ガ拳(フィスト)デブッ壊シテヤル!」 「むやみに刺激を与えるのは止めた方がいい。爆発物が入っていればアパートごとドカン、 ですよ」 はやるスペックに、冷静に忠告する柳。たしかに中身が分からない以上、粗暴な接触は 得策ではない。これを瞬時に理解したのか、舌打ちしてスペックも引き下がる。 「では私が仕掛けてみよう」 ドリアンが髭を撃ち込む。が、ロッカーから反応はない。 「ふむ、やはり... -
しけい荘戦記 第三十一話「長い夜の終わり」
五指に付着させた土と血で、隈取に似た化粧を描くゲバル。眠れる力の全てが開放され、 凶暴な戦士が誕生する。もはやゲバルにとってここは路地ではなく、四方を海に囲まれた 大海原に他ならない。 日本刀は鞘から抜き、拳銃は安全装置を外し、初めて性能をフルに生かすことができる。 烈も同じである。烈海王は靴という足枷を脱いでこそ、魔拳たる性能を百パーセント発揮 することができるのだ。 「宝を逃すな野郎ども……出航ォッ!」 「全てを出しきる……来いッ!」 アライJrは生唾を飲み込む。 互いに消耗しすぎている。長期戦にはなるまい。 「次で、決まる……ッ!」 昨夜の公園でのやり取りが、アライJrの中で鮮明な映像となって蘇る──。 刀は寸止めされていた。青ざめた表情で目を白黒させるアライJrに、本部は静かに語 りかける。 「……分かったか... -
しけい荘戦記 第六話「護身開眼」
しけい荘から徒歩十分、『コーポ海王』には大家劉海王を始め、十一名の海王が暮らし ている。元は中国で高名を馳せたというオリバたちに負けず劣らずの格闘士(グラップラ ー)軍団である。 寂海王は彼らの中で唯一の日本人であり、コーポ海王に引っ越したと同時に近所に彼の 流派『空拳道』の道場を立ち上げた。 彼の理想は高い。空拳道という武術を通じて若者を心身ともに鍛え、日本という国自体 をより良い方向へと導こうとしている。 だからこそ彼は優れた人材を望んでいる。共に空拳道を発展させるために。そんな寂に とってしけい荘のメンバーは文字通り宝の山である。筋肉の権化オリバを筆頭に、オリン ピック選手を遥かに凌駕する肉体の持ち主が何人もおり、その上なぜか世の脚光を浴びる でもなく、平凡な生活を営んでいるのだから。 「私は必ず彼らを手に入れてみせるッ!」 ... -
しけい荘戦記 第二十二話「継承者」
ドリアンは我が目を疑った。対決を申し込んできたのは、かつて祖国アメリカで英雄と 謳われた人物であった。 「君はまさか、あのマホメド・アライなのか?」 元プロボクシング世界ヘヴィ級王者、マホメド・アライ。一切ガードをせず、打たせず に打つを体現したファイトスタイルは「蝶のように舞い、蜂のように刺す」と全世界に畏 怖された。 リングを降りても彼は戦士であり続けた。ベトナム戦争の徴兵を拒否しタイトルを剥奪 され、根深かった黒人差別とも懸命に戦った。いかなる相手にも屈しない彼のハートを称 え、いつしか人々はマホメド・アライを史上もっとも偉大(グレーテスト)なチャンピオ ンと呼んだ。 アメリカで暮らしていた頃、ドリアンも彼の活躍に熱狂していた一人であった。自分が 使い古したシューズをアライが練習で使用したシューズと偽って、ファンに十万ドルで売 ... -
しけい荘戦記 第十八話「集結!」
すでにシコルスキーたちは包囲されていた。 交番を出ると、ざっと数えても五十人は下らない警官が緊張の面持ちで拳銃や警棒を構 えていた。 「ご苦労様、といったところかな」 包囲網の中心で笑う、サングラスをかけた中年の西洋人。 予想だにしなかった状況に、シコルスキーとルミナの顔が強張る。 「私は新宿署の署長、マイケル・ホールズだ。君たちの活躍は“交番”に備えられた監視 カメラでじっくり拝見させてもらったよ」 シコルスキーの地肌で脂汗と冷や汗が混ざる。なぜ日本の警察署なのに署長が外国人な のか、などという指摘をする余裕はなかった。 「俺たちの勝利を祝福してくれる……ってムードではないな」 「いやいやとんでもない。君の勝利を祝して、すばらしいシナリオをプレゼントしようと 思っていたんだよ」 「シナリオ?」 「例えば……君はそこにいる少... -
しけい荘戦記 第十九話「老人会」
「みな集まったようじゃな。変わらず元気そうでなによりじゃ」 会長である郭海皇がメンバーを見渡し、嬉しそうにいった。 不定期(会長の気まぐれ)で開催される老人会。本日はしけい荘近くにあ市民会館の一 室に召集がなされていた。 「近頃は物騒だからな。この間私の近所の交番では、凶悪犯が立てこもったとかでえらい 騒ぎになっておった」 元米軍将校の老人がウイスキーを一気に飲み干す。この老人会においても現役時代と同 じく『Sir(サー)』と呼ばれている。 緑茶をすすり、小柄な老人がSirに目を向ける。名は渋川剛気。自ら道場を経営する 合気柔術の達人である。 「カッカッカ、護身を極めりゃ危険に遭遇することはない。Sirさん、アンタもわしの 道場に来たらどうかね。授業料は勉強しますぞ」 「残念ながら、戦場で育った我が身は安全を望んでいなくてな。あとSi... -
しけい荘戦記 第二十五話「激突」
高級ホテルにて、ウォームアップに余念がないアライJr。壁一面の鏡に映る己と向き 合い、実戦さながらにシャドーボクシングを繰り返す。 しかしいくら汗を流しても、昨夜の公園でのやり取りが忘れられない。 父より格下だと、戦士として不足していると、断ぜられた。ホームレスのたわごとだと 割り切ろうとしても、心の底では本部の言葉を肯定している部分がある。 迷いが戦士を蝕む。無尽蔵のスタミナを持ちながら、なぜか息が上がる。 「私は父よりも強い。完成させた全局面的ボクシングに穴はない。相手を殺す覚悟だって できた。なのになぜ、私は惑わされているんだッ!」 苛立ちが頂点に達し、アライJrは右ストレートで鏡を叩き割った。 「行くしかない……。今日も彼らは私の挑戦を待ち受けているはずだ。戦って、私が正し いことを私自身に証明するしかない!」 夜に溶け込むた... -
しけい荘戦記 第十五話「敵地へ」
三つ子の警察官“マウス”に連れ去られたいじめっ子たちを救うべく、シコルスキーと ルミナはひた走る。 シコルスキーはオリバがよこした忠告を思い返していた。 「二人ともよく聞いておけ。マウスのコンビネーションは一種の“化学反応”に例えられ るほどに強力らしい。へヴィ級ボクサーの上位ランカーをたやすく仕留めたという逸話も あるほどだ」 どうやらマウスは想像以上の強敵のようだ。生唾を飲み込むシコルスキー。 「や、やっぱり相手が三人じゃあ、いくら俺でも不利かもな。なぁ大家さんも一緒に来て くれないか……?」 オリバは満面の笑みを浮かべた。ただし前腕と上腕が膨張し、拳は異常な硬度を以って 固められている。失禁寸前に陥るシコルスキー。これ以上弱音を吐けば、マウスと戦う前 に火葬場に送られてしまう。 「嘘、嘘だよ、大家さん! ロシアンジョークに決まっ... -
しけい荘大戦 第十九話「愛国心」
ここを守りきれるか否かで勝敗は決する。最後の防衛ラインとなった徳川ホテル北門は これまでにない猛攻に晒されていた。テロリストの中でも特に優秀な精兵が、格闘、ナイ フ、銃火器とあらゆる手段を用いて殺到する。 これに対し、警察側も園田が東、西、南から応援を向かわせたことによってどうにか五 分五分の戦いを演じていた。 とりわけ、しけい荘メンバーであるドイルの活躍はめざましかった。 「スッゲェ……あいつ一人でもう百人は倒してるんじゃねぇか?」 「体中から武器が飛び出るし、いったいどんな構造してやがんだ」 「とにかく、心強い戦力だということはたしかだな」 場違いなタキシード姿の二枚目イギリス人に手も足も出ないなど、テロリストらは想像 すらしていなかったことだろう。 磨きに磨き上げた体術と、仕込みに仕込んだ武器(タネ)。並大抵の人間では太刀打ち ... -
しけい荘戦記 第十七話「絶体絶命」
弾丸を同じ場所に三連続でヒットするのではなく、一度に三発の弾丸を被弾させる。ど れほど射撃の腕を磨こうと不可能な技術であるが、三位一体ならば可能となる。シコルス キーの右膝は完全に粉砕された。 「フフフ……すばらしかったよ、シコルスキー。君の戦力は我々の予測以上だった。しか しいかに強かろうが所詮は個人、我々“マウス”に勝てる道理はない」 得意げに勝ち誇る唇(リップ)。西部劇のような仕草で拳銃を回している。 脂汗まみれで、シコルスキーはなおも立ち上がろうしていた。右足がダメなら、左足だ けで戦ってみせる。 「フン……拳銃がなけりゃ、怖くて逮捕もできない臆病な警官には、ちょうどいい……ハ ンディだ……」 「減」と唇。 「ら」と歯。 「ず」と舌。 「口」と唇。 「を」と歯。 唇がさっと手を上げると、歯(トゥース)と舌(タング)... -
しけい荘戦記 第十二話「開けるな」
退屈な午後だった。予定もなければ気力もない。中途半端な暑さだけが大気中を漂って いる。時計の針までもが気だるく動いているような錯覚を受ける。 シコルスキーは部屋で寝転がりながら小説に目をやっていた。読んでいるわけではない。 単に目で追っているだけ。字を読む活力すら失われている。 一方、同居人であるゲバルは小さな瓶に耳を当てていた。身体を一切動かさないという 点ではシコルスキーと同様だが、こちらは真剣な表情で耳を澄ませている。 退屈に耐えかねたシコルスキーが尋ねる。 「ゲバル、さっきから何をやっているんだ?」 ゲバルが瓶から耳を離し、答えた。 「故郷の音を聴いていたんだ」 「故郷の音?」 「雨と風と波と雷が、この中には詰まっている」 再び耳を瓶にくっつけるゲバル。 「もし、蓋を開けたらどうなるんだ?」 「決して開けるな。しけ... -
しけい荘大戦 第十五話「オリバの予感」
もし一匹のカマキリと殺し合いになったとしたら、人間はどう対処するだろうか。 足で踏み潰すだろうか、それとも手で叩き潰すだろうか、あるいは残酷にも体をバラバ ラにしてみせるだろうか。手段はどうあれ、人間の圧勝という結果は揺るがないだろう。 だが、カマキリのサイズが少し変わるだけで、結果は大きく揺らぐ──。 「テロリストト戦ウッテノハ聞イテタガヨ……相手ガカマキリダトハ聞イテナカッタゼ」 巨大カマキリを前に、さすがのスペックも動揺していた。 幻覚などでは、断じてない。 嫌でも目につく巨大な二丁鎌の前脚、細長く硬そうな胸部、重そうに大きく膨れた腹部、 表情を持たない逆三角形の頭部──いずれも緑色を基調として染色されている。 カマキリの後ろには、さっきまで勇敢に戦っていた警官とテロリストが無数に散らかっ ている。ケントが危惧した通り、敵味方の区... -
しけい荘大戦 第三話「祝福」
スペックは不愉快だった。 この間のしけい荘が生まれた日は、アパート全員で回転寿司を食べに行き、盛況のうち に幕を閉じた。 なのになぜ──。 「チクショウッ! 今日ハセッカク俺ノ誕生日ダッテノニ、アイツラ“オメデトウ”ノ一 言モアリャシネェッ!」 スペックは今日でめでたく97歳を迎える。しかし、だれも祝ってくれない。それどこ ろか、スペックの誕生日に気づいている気配すらない。 この日のために一週間前からスペックは入念に伏線を張っていた。 わざと大声でハッピーバースデートゥーユーを歌い、しけい荘全員の郵便受けにケーキ の広告を挟み、ことあるごとに「モウスグ俺モ97歳カ」と口ずさんだ。 結果、これらの努力は実ることなく、彼は一人部屋でくさっていた。 「ヤッテラレネェヤッ!」 ドアを乱暴に蹴破り、スペックは外に飛び出した。 ... -
しけい荘戦記 第二十四話「露泰同盟」
本部以蔵率いるホームレス軍団は、かつてしけい荘に決戦を挑んだ。五対五の団体戦と なったスペシャルマッチは大将戦までもつれ込み、本部はシコルスキーによって打ち倒さ れた。結果、スペシャルマッチはしけい荘の勝利にて幕を閉じる。 あの日以来、本部はより過酷な鍛錬を自らに課した。技を磨き、仲間との組み手にも力 を入れ、徹底的に己を鍛え直した。敗北が、本部をさらなる高みへと押し上げたのだ。 むろん、これらの経緯を知る由もないアライJrだが、本部が生半可な半生を歩んでい ないことは全身から感じ取っていた。 「鳥肌が立つようなオーラだ。日本の武術家(マーシャルアーティスト)とはみんなこう なのかい。とてもホームレスだとは信じられない」 アライJrの賛辞に、本部はくすりともせずに告げた。 「わしも信じられん。貴様のようなボンクラが、あのマホメド・アライの息子... -
しけい荘戦記 第十一話「戦士として」
ロッカーの中から、しけい荘に新たなメンバーがやって来た。オリバ曰く、この若者は 一国を統べる大統領だという。 困ったような笑顔で謙遜するゲバル。 「ハハ、国とはいってもまだまだ未熟な国だがね。元々はアメリカの領海内にあった小さ な島さ」 柳がたずねる。 「しかし、大統領が国を離れてしまって大丈夫なんですか?」 「ノープロブレム。外政も内政も信頼のおける者に任せてある。それに詳しくは話せない が、日本には仕事で来ていてね」 「なるほど」 柳は本心から納得したわけではなかった。 ゲバルの若さから考え、立国がさほど昔でないことは間違いない。しかし、毎日新聞に 目を通している自分でさえ、ゲバルの名を一度も目にしたことがなかった。 ──若者がリーダーに立ち、超大国(アメリカ)からの独立を果たす。 これほどマスコミ映えしそうなニュー... -
しけい荘戦記 第十四話「走れルミナ」
放課後を知らせるチャイムが作戦決行の狼煙。学生の本分を終えた級友たちが次々と帰 宅する中、いじめっ子たちは昇降口でルミナを待ち伏せていた。 にこやかに近づいてくる三人組に、警戒するように身構えるルミナ。 「お、おい、そう怖い顔すんなって!」 「実は俺たち、今までのことを謝ろうと思って待ってたんだ」 「その証拠にほら……」 リーダー格の少年は自らの携帯電話を取り出すと、保存されていた『恥ずかしい写真』 を丸ごと消去してみせた。これで脅迫の材料は失われた。 「ごめんな、鮎川」 「許してもらえないかもしれないけど……」 「これからはおまえと友人(ダチ)としてやっていきたいんだ」 昨日までとは打って変わって和解の提案をする彼らに面食らいながらも、ルミナは頷い た。 「別に、いいよ」 許せるレベルのいじめではなかった。彼らの言葉を額面... -
しけい荘大戦 第十三話「駆け引き」
郭春成が嗤(わら)う。 これから味わえる殺しという美酒を予感するだけで、彼の唇周辺を構成する筋肉が快楽 に歪む。 身体中の全細胞が「殺させろ」と叫んでいる。 狂える獣が、その異名に恥じぬ速度と狂気を帯びて、駆け出す。 ドリアンは百戦錬磨である。が、それゆえに、数十年間で初めて体感する猛烈な殺気に、 体を一瞬硬直させてしまった。反応が遅れる。 ダッシュの勢いをそのままに、まともに鳩尾に突き刺さる崩拳。 しけい荘においてスペックに次ぐ巨躯が、拳の一撃で吹き飛ぶ。 ──が、春成はすかさずドリアンの足の甲を足刀で潰した。これでドリアンの体は吹き 飛ぶことなく、停止した。 「ぶん殴るたびに間合いが開いてちゃあ、面倒だからなァ」 正中線──喉、鳩尾、ヘソを貫き手が抉る。 さらに折れやすい鎖骨めがけ、放物線を描く変則ハイキック。ぶ厚... -
しけい荘戦記 第二十六話「破られた誓い」
全力あるのみ──中指を突出させた一本拳を両手に備え、シコルスキーは猛スピードで 間合いを詰める。 異常な指の力を誇るシコルスキーだからこそ可能な、切り裂く拳。打つための軌道では なく斬るための軌道を描くので、非常に読みにくい。ボクシングを基礎とするアライJr にとっては相性の悪い技といえる。 なのに、かすりもしない。 空しく大気ばかりを切り裂く中高一本拳。 逆にカウンターの右ストレートをもらい、続く左フックはわずかに外れたが、シコルス キーの右頬を鮮やかに切り裂いた。 「こっちが切られるとはな……」 舌打ちし、右頬の傷を拭うシコルスキー。 攻防再開。 来ると分かっていても、打たれると分かっていても、かわせない、防御できない。ヒト の反射神経の介入を許さぬ高速ラッシュが、シコルスキーの全身を刺す。まるで凶悪なス ズメバチ... -
しけい荘戦記 第二十九話「ハイレベル」
コンマ数秒で、ゲバルと烈は互いの戦力を測定し終えた。 全くの初対面の二人であるが、手がかりはいくらでもある。身体的特徴から漂わせる雰 囲気に至るまで、あらゆる要素を瞬時に照合する。 奇遇にも、両者は同じ計測結果を得る。 ──とてつもなく強い。 充分である。手合わせしなければ真の力が読めぬことが分かった。もしかすると勝てぬ かもしれない相手だということが分かった。充分である。 住宅街で戦闘態勢に入った烈は、ゲバルの目にはまるでアスファルトの上にそびえ立つ 巨木のように映った。樹齢はむろん、四千年。生半可な覚悟で立ち向かえる相手ではない。 「初めて海に出た時……丁度こんな感じだったな」 退かず、止まらず、進め。 振り絞れ、勇気を。 間合いに入り、ゲバルは固めた拳をピンポイントで烈の顎めがけて突き上げる。 アッパーに対し烈は... -
しけい荘戦記 第七話「ソムリエ五人衆」
101号室から話し声が聞こえた。 好奇心に駆られたドイルは、わずかに空いているドアの開き口から中を覗いてみた。 「お願いしますよォ~絶対受けますって!」 「いやしかしね、困るよ君」 「大丈夫ですって! ギャラもはずみますから!」 「私は別に報酬を求めているのではなく……む」目ざとくドイルの気配を感じ取ったオリ バ。「悪いが来客だ。今日のところは引き取ってくれたまえ」 これでしつこくオリバを誘っていた男も大人しく引き下がった。ドイルも入り口で一瞥 したが、大人しそうでそれでいて粘着質な印象を持たせる男であった。 「ふぅ、助かったよドイル。なかなか帰ってくれなくてね」 「なんだったんですか、彼は」 「どうやらテレビ番組の制作者らしくてね。今度局でやるソムリエ特集に私を出したかっ たらしい」 オリバはソムリエの資格を所持しており、技量も... -
しけい荘戦記 第二十七話「不死身の男」
手応えあり。わずかだが骨がひび割れた感触が、生々しく伝わってきた。拳と指との正 面衝突は、指に軍配が上がる。シコルスキーの信仰が、ボクサーの命ともいうべき拳(ボ ックス)を、片方ではあるが奪ってみせた。 苦痛にうめくアライJr。 「うぐァア……!」 一般にボクサー骨折と呼ばれる、中手骨の損傷。アライJrにとっては初めての体験で あった。 絶好のチャンスだが、シコルスキーもすぐには追撃に移れない。マウントポジションか ら数十発とパウンドを浴びたのだ。息を整えるのが先決だ。 総合的なダメージはシコルスキーの方が上だが、攻撃の要である右拳を傷つけたのは大 きい。事実上、二人の戦力は五分五分になった。 「ラウンド2ゥ~」 シコルスキーがずたずたに切れた口で告げる。 「くっ……!」優勢を覆された悔しさから、唇を噛みしめるアライJr。「く... -
しけい荘戦記 第九話「お茶の間デビュー」
ドイルたちの出番は番組内の『町のソムリエ』という1コーナーだ。役割自体は至って 単純で、番組側が用意した最高級のロマネコンティを試飲して一言感想を述べるだけ。知 識も経験も要求されず、はっきりいって玄人である必要はない。おそらくプロデューサー は元々五人にソムリエとしての力量はさほど期待しておらず、人間離れした肉体を誇る男 五人がワインについて熱く語るという珍奇な絵が欲しかっただけなのだろう。 無難にこなせば大過なく終わらすことができる仕事ではある。が、彼らの辞書に『無難』 の二文字はない。 大成功か、大惨事か、二つに一つ。 そうこうするうちに本番が始まった。 「皆様お待ちかね、『町のソムリエ』のコーナーです。今日は生放送ということで、新宿 区に在住のしけい荘の方々にお越し頂きました。それではどうぞっ!」 拍手と喝采が飛び交う中、五人並... -
しけい荘大戦 第三十話 ~ 最終話
第二十話 ~ 第二十九話 第三十話「最終決戦」 第三十一話「BOMB」 第三十二話「シコルスキー対純・ゲバル」 第三十三話「ヤイサホーッ!」 第三十四話「ダヴァイッ!」 第三十五話「登頂」 最終話「夜明け」 -
しけい荘戦記 最終話「昨日の敵は今日の友」
珍しい光景だった。試合が決した瞬間、立っていたのは敗けた方であった。 ゲバルは立ち上がると、意識を失っているアライJrの手を取り、上に掲げた。しけい 荘とコーポ海王の面々は一人の例外もなく、彼らに惜しみない拍手を与えた。 審判を終えたオリバが、大家としてゲバルに話しかける。 「よくやったな、ゲバル」 「ありがとうアンチェイン。しっかし日本はすげぇのがいっぱいいるな。今日だけはロッ カーを使わず今すぐ眠りたい気分だよ」 「ふふふ……残念だが、まだ休めそうもないぞ」 「ん?」 オリバが指差した方角からは、ドリアン、柳、ドイル、スペック、シコルスキーが駆け 寄ってきた。──否、突進してきた。 「ラヴィ~ッ!」歌いながら迫るドリアン 「良き立ち合いだった」称えながら迫る柳。 「おめでとうッ!」祝いながら迫るドイル。 「胴上ゲダッ!」叫... -
しけい荘戦記 第四話「ドリアン対スペック」
二頭の雄が同じ雌に恋をした。 アダムに予備はいらぬ。ゆえに取り合いは必然であった。 スペックは宣言通りのラブレター攻勢。愛と性欲を全てぶち込んだ恋文を、一日百通の 勢いで送りまくる。ただし相手の住所を書いていない(知らない)ので、一通たりとも相 手に届くことはなかった。 対するドリアンは自慢の歌声で気を引く作戦を取る。蕎麦屋の近くで夜な夜なシャンソ ンを披露したが、近隣住民の通報を受けたオリバと警察によってあっけなく取り押さえら れた。 程度の低さはともかく、両者とも本気(リアル)であった。 何としても彼女が欲しい。たとえ掛け替えのない友人を失うことになったとしても。 そしてついに二人は決定的な対立を迎えることになる。 アパート近くの土手で、ドリアンとスペックは向かい合った。 「やはり我々はこうなる運命だったということだ... - @wiki全体から「しけい荘戦記 第三十三話「出撃」」で調べる