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永遠の扉 過去編 第002話 (1-1)
妹の誕生によって玉城青空が最初に被った被害はインフルエンザだった。 小学校卒業を控えた冬、生後間もない妹──玉城光──が原因不明の高熱で入院した。義母は泊まり込みで看病し、 多忙な実父は会社から病院に直行し、家で少し寝てからまた出勤という生活をするようになった。 青空は、結果からいえば放置された。 「もうすぐお姉ちゃんになるんだし自分のコトは自分でやってね」 とは病院へ行く義母が放った伊予弁の翻訳結果だが、青空自身は心から素直に従うコトにした。もし病気が長引いて、 妹のノドがつぶれ自分のようになっては大変だと思ったのだ。もともと自立的で、周りに迷惑を掛けたがらない──言いか えれば他人に頼れない──性格である。誰も待っていない暗い自宅の鍵を開ける日々を受け入れた。(この頃祖父母は 4人とも死没していた) だがある朝起きると、ぞっと寒気に覆われるのを感じ... -
永遠の扉 過去編 第001話 (1-1)
玉城青空(たまき あおぞら)の声帯は生後11か月にしてその機能の大半を奪われた。 母親のせいである。彼女は新婚生活に夢のみを描いている若い女性にありがちな育児ノイローゼを発症し、いまだ座らぬ ──11か月にして、まだ。発育不良によって将来を悲観させるには十分な──青空の首を発作的に絞めた。 治るはず、締まるはず、みんなのように座るはず……時に人は攻撃の暴発をもたらしたありとあらゆる悪感情を行為ごと その中で無自覚に弁護し、整合性を取りたがるらしい。少なくても青空の母親はそうであった。我が子の首にかけた十指 におぞましい力を込めながら「治るはず、締まるはず、みんなのように座るはず」と頑なに信じていた。我が子がむせ、チア ノーゼをきたし非定型的縊死への道を緩やかに歩んでいるのを見てもなお、たとえば首ヘルニアへ牽引を用いるような加療 意識によって我が子の首を絞めていた。それが... -
永遠の扉 過去編 第002話 (1-5)
(…………身内との確執、か。慕う者に虐げられるとは、哀れな) そう憐みながらも「もし自分が小札や総角に見捨てられ、人型になれぬコトを誹られたらどうするか」を考え、胸をチクリと 痛ませる無銘はいかにも少年臭い。彼は自分の勝手な想像に怯えた。親のように慕う彼らの役に立てるなら不惜身命の 心構えでいかなる痛苦も避けないが、見捨てられるコトだけは恐怖だった。 (だが!) つぶらな瞳に怒気を孕んだ光が燃え盛るのを無銘は止めようがなかった。 (こやつの姉はこやつを見捨てたも同然! 5倍速で年を取るだと! フザけるな! 不死のホムンクルスが年老いていく というのなら先に待ちうけるのは果てしのない地獄! 20年もすれば死ねぬだけの老体を引きずりまわすだけの存在に 成り下がる! なぜよりにもよって身内をそうしたのだ!!) 無銘は改めて玉城を見る。まだまだランドセルが似合う幼い姿... -
永遠の扉 過去編 第002話 (1-4)
齟齬の形は三角形のよう……玉城光はそう思う。緩やかな勾配が突然途切れる直角三角形。衝撃の中、肺腑から 全ての空気を絞り出しながら玉城はゆっくりと振り向いた。這いつくばった姿勢のまま、首だけを、ようやく。そして見た。直 角三角形の石を。走ってる最中それに足を取られた。だから速度が制御不能の浮遊感になった。直角三角形の勾配を全 力で登ってる最中不意に出てきた直角の断崖をどうする事も出来ずただただ加速の赴くまま身を投げるように。そして頭か ら地面に突っ込んだ。無防備に叩きつけられ、肺腑は全体重と堅い大地のサンドイッチになって酸素も窒素も一切合切吐 きつくした。真空状態の肺は端と端の内壁が癒着しているようだった。息を吸おうにも肺は縮こまったまま動かない。だが 皮肉にもその窒息の苦しさが何分かぶりの正常意識を取り戻した。 件のアリス。完全な直撃を避けなければ転んでもなお悪夢に... -
永遠の扉 過去編 第003話 (1-1)
そのマンション襲撃の後始末は他の戦士長の管轄だったから筋からいえば別に防人衛が心痛を覚える必要はなかった のだけれど、例えば誰かが事後処理の進捗具合──といっても手がかりのなさを再確認するだけの空虚なやりとり──を 囁きあっているのを聞くだけでもう覆面の奥が蒼い哀惜で、だからだから剣持真希士は当惑した。 「燻ってんのさ。奴はずっと」 橙色の光輝のなか面白くなさそうに呟いたのは火渡赤馬。何かの任務で珍しく同じ班になった彼がこれまた珍しくかつて の同輩評をさほど親しくもない真希士に漏らしたのは、会話の端緒が、この時まだ新人(ルーキー)に毛が生えた程度の 後輩への文句づけだったからで、それはやがて師匠筋の防人へのダメ出しにスライドした。 「燻ってんのさ。奴はずっと」 とはつまり日頃抱えているかつての朋輩への他愛もない不満の表れなのだろう。 「... -
永遠の扉 過去編 第002話 (1-2)
青空の肢体がすくすくと伸び第二次性徴を遂げ始めた頃、周囲の男性の目はそれまでの人形を眺めるような憧憬をや め、より具体的な、若者らしい獣性の光を湛えはじめた。 原因は青空自身をも悩ます肉体の変質である。乳児期の発育不良の反動だろうか。例えば胸部などは13歳の頃すでに 元モデルの義母と並び、高校時代になってもなお成長をやめなかった。 にも関わらず胴は悩ましくくびれ、臀部もまた豊かな隆起を描く。 青空は自分の身体をどうすればいいか深刻に悩んだ。美しさを誇り、男性諸氏に売り込むという選択肢はなかった。 服飾に関しては声質上ひかえめな性格の青空であるから、年頃になってもセーターにジーパンというそっけない物を好んで いた。が、身体の発育はむしろ質素をして淫靡たらしめているらしく、周囲の男性の目は否応なしに注がれた。 更に170センチという長身も相まって、街頭でモデルにスカ... -
永遠の扉 過去編 第002話 (1-3)
長い金髪は白霧の中でいっそう際立つ。玉城光はその10メートル先からくる強烈な色彩感覚を浴びながら、口を開く。 淡々と、淡々と。 「無効化……した筈です。あの光は……確かに……切り札」 「ああ。絶縁破壊。小札の奥の手だ。まともに喰らえば確実に行動不能」 「さっきは土壇場……でした。だから……一番強い技を……出すと…………思ってました……。だから…………利用…… しました。爆発でも……拘束……でも……一番強い技なら……あなたにも……効くと……。ハヤブサの急降下さえ…… 致命傷にならなかった……あなたにでも…………効くと……」 ほう、と感嘆した男は緩やかに貴信と兵馬俑を手放した。重力の赴くまま地面にぐなりと伏した彼らを見る瞳は妙に暖かく 玉城は軽く首を傾げた。 「フ。それをあの一瞬で見抜き、この俺にブツけたのは見事としかいいようがない。なにしろ俺さえ封じれば実... -
永遠の扉 過去編 第003話 (1-4)
必死の思いでヒビだらけの核鉄に手を伸ばす。兵馬俑。発動したところで玉城にやられた傷のせいでまともには戦えない だろう。だが総角たちが来るまでの時間稼ぎぐらいはできる。 そう思い伸ばした右前脚の先で核鉄が爆ぜた。 吸息かまいたちなる忍法を知悉している無銘は理解した。真空の奔流。カマイタチ。それが核鉄の表面に炸裂して、弾 き飛ばしたのを。 哀れひゅらひゅらと旋回しながら丸太の向こうへ飛ばされる核鉄。小型犬は首を旋回、戦士に向けるは煮えたぎる眼差し。 相手は右腕を鉤手甲ごと前に突き出している。何らかの衝撃波で核鉄を吹き飛ばした。唯一の武器の発動を、封じた。一拍 遅れて玉城の腹部が大きく裂け、錆びた臭い──血とはやや違う匂いに無銘は迸る液体が血液を模した擬態用だと初めて 気付いた──が立ち込める中。 「貴様!」 「大丈夫……大丈夫……です」 顔を... -
永遠の扉 過去編 第003話 (1-3)
「終わり……です」 無銘は地面めがけ放り捨てられた。その損害状況を玉城はただ観察した。 チワワの尾は根元から千切れている。左後ろ脚もまた紙一重で繋がっている様子だ。両の前脚もあちこちが歪み、その 傍で吐瀉物が点々と水溜まっている。もはや彼は余喘も露わ。うずくまりか細くか細く震えるその姿はもはやあと一撃で絶 息する他ない残酷な事実を雄弁に物語っている。 「でも……しません。…………勝とうと思えば勝てたのに……私を気にして……話を聞いてくれたのは……嬉しかった…… です……だから……とどめは……さしたく……ありません。……さよなら、です」 後はあの金髪剣士たちを倒すだけ──…真っ白な踵が湿った土の上で方向転換をしようとした時、それは起こった。 この場を離れるべく身を反転しようとした玉城はまず、奇妙な引っかかりを覚えた。引っかかり。それは流転する戦闘局 面を制する... -
永遠の扉 過去編 第003話 (1-2)
こんがりと焦げ目のついたおいしそうなステーキが端っこの方からゆっくりと切り分けられていく。湯気が立ち、おいしそう な匂いが玉城の鼻孔をくすぐった。できたてホヤホヤ。食卓にのぼって間もない小判型のステーキ皿の上でじゅわじゅわ 溶けるバター。黄色く透き通ったジャガイモの破片。青々としたパセリ。普段なら食欲を掻き立てるそれらを前に玉城は ただ欝蒼とした表情を浮かべていた。 「どうしたの光ちゃん?」 ステーキ──病的なまでの均等さで切り分けたうちの1つ──を笑顔で口に放り込んだ青空はにこやかに聞き返した。 悪寒が走る。身が竦む。息を呑んだ口がもごもごと不明瞭な言語ばかりを呑みこんでいく。姉の手からこぼれ落ちた銀 の刃が黒皿と打ち合って凄まじい音を立てた。全身がさざめく。恐怖。覚えるのはそれしかなかった。姉がこっちを見てい る。見つめている。笑顔のままで微動だにせず、じっと見つ... -
永遠の扉 過去編 第001話 (1-2)
蒼い碧い天蓋を滑らかに突っ切る影一つ。 鳥が一羽、空を飛ぶ。 その鳥はまるで航空機のような直線的な意匠に彩られていた。翼も爪も嘴も全て図面から抜け出てきたと見まごうばかり に角張り、金属的で無機質な光沢を黙々と放っていた。 翼をモノクロなツートンに塗り分け白いマフラーから赤黒い首をぼんやりとむき出している姿はコンドルにやや似ていたが 前述の通り”そのもの”ではなく、誰かが機械的にしつらえたような雰囲気を無愛想に振りまいていた。 ただ一つ生物らしさがあるとすれば、胴体にかけている白いポシェットであろうか。強風に煽られるたび、それを見るコン ドルの瞳に生命らしい機微が宿った。風にさらわれるのを危惧しているのかも知れない。 そうして大空を滑空していたコンドルのような物体は一度大きく翼をうねらせると、下方に向かって猛然と疾駆した... -
永遠の扉007-1
第007話 「みんなでお食事」 (1) 客足が遠のいたとはいえそれなりに忙しいお昼時をすぎると、バイト少女は一息ついた。 銀成市にはある意味でとても有名なハンバーガーショップが存在する。 名をロッテリや。 一時期、銀ピカの全身コートや蝶マスクのタイツ男、中国風の巨漢2人などなど、筆舌に尽く し難い変態どもの巣窟となっていたため、「変人バーガー」という蔑称の方が市民になじみ深い。 さて、お昼をすぎたとはいえやらねばならんコトはたくさんある。 例えばハンバーガーを入れる袋。 これは大きさに応じて4号袋(たい)、6号袋、10号袋とそれぞれ分かれているが、この内6 号袋はかなりの頻度で使用されるので、消耗が激しい。 うっかりしていると折角ハンバーガーができても入れる袋がないという事態を招き、お客様へ の円滑な商品引渡しが不可となるので補充はこまめに行わなければならない。... -
第097話 「演劇をしよう!!」(後編) (8)
鐶たちがヴィクトリアと戯れているころ、武藤まひろは走っていた。 「お財布~!! お財布返してよー!!」 住宅街の中、遥か前を灰色の影が走っていく。ニット帽を被っているせいで年のころは分からない。 彼女は、ひったくりに遭った。顛末はこうである。 デパートからの帰り道、急にノドが渇いたまひろは桜花たちといったん別れ、自動販売機を探した。 この春寄宿舎に入ったばかりだから土地勘はあまりない。ただこの少女は時々妙に勘がいい。自動販売機さんカモン 自動販売機さんカモンと念じつつ適当にホクホク歩いているとものの5分で発見した。 とりあえず冷たいお茶を買い釣り銭を取ろうとしたところで、不意に、さっき見たヴィクトリア(ゲームに夢中)への連絡を思 い出した。思いつくとすぐ取り掛かるのが美点であり欠点だ。常人ならまず釣りを財布にしまいケータイを持つ。だがまひろと きた... - @wiki全体から「永遠の扉 過去編 第002話 (1-1)」で調べる