SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ内検索 / 「永遠の扉 第081話」で検索した結果
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永遠の扉 第081話
「おかしい。どうして爆発した筈の道路が直っている?」 銀成市に残存する戦士のうち動ける者は秋水と総角のいるアジトへ急行中。 案内人の鐶を小脇に抱えた防人に斗貴子と千歳が並走し、根来は影のように飛んでいる。 冒頭の呟きが漏れたのは根来以外の一団が住宅街の一角を通り過ぎた時である。 そこは先ほど鐶が光線を見舞ってガス爆発を誘発した場所なのだが、今はまったくの無傷。 なにぶんアジトへ急行中の身だから斗貴子は質疑を引っ込めたが、しかし歩みを進めていく うち先ほどの戦いで破壊された建物や電柱や道路がことごとく修復しているのを見るにつけ、 斗貴子は思わず横目で鐶に詰め寄った。ゆらい彼女は率直だが短気な部分もあるのだ。 「……それは……この街全体に年齢を『与えて』いたから、です」 途切れ途切れにボソボソと喋るためどうも要領を得ないが、千歳の通訳によるとこう... -
永遠の扉 第080話
剣道場に横たわる青年がいた。 仰向けのまま床に背を預ける彼はまんじりとも動く気配がない。かすかな呼吸と共に胸を起 伏させていなければ死体と見まごうほどである。 剣道場は明るくもなく、また暗くもない。天井に照明の類はなく、どこからか差し込む光が屈 折の限りを尽くして青く変色して部屋を照らしている。光源にいかなる都合があるか不明だが とにもかくにも蒼然たる光波は所在なげに揺れ動き、横たわる青年の影を黒い炎(ほむら)の ごとくチロチロとあぶっている。 部屋にある明確な動きは先ほどからこれだけである。 あとはただ静寂に包まれ、あたかも純粋透明な氷柱に部屋を封じたように冷気ばかりが占 めている。 やがて──… それまで倒れ伏していた青年の口から痙攣を声にしただけの小さな呻きが漏れた。彼が瞑 目をむずがらせながら開眼するまでさほどの時間は要... -
永遠の扉 第087話
9月4日二度目の朝。 津村斗貴子は銀成学園の屋上の給水塔の上で蒼空を眺めると、予鈴とともに立ち去った。 久しぶりの教室に座る凛とした横顔には何の変化もなく、如何なる揺らぎもなく……。 その瞳に強い決意の光が宿っているのに気づいたのは、彼女と……いや、彼女の想い人と 親交の深い三名の男子のみであった。 岡倉英之、六舛孝二、大浜真史。 リーゼントを決めた不良風の少年と眼鏡の奥で瞳を醒ましている短髪の少年と、気弱そうで 体格のいいスクール水着好きの少年たちはここしばらくの異変や斗貴子の入院から何かを察 したような雰囲気を漂わせているが、何があったかまでは聞かずごくごく日常的な会話を二、 三交わしただけである。 斗貴子もそれでいいと思っている。 (カズキがいない今、私と必要以上に接点を持っても得にはならない。少なくてももうキミたち ... -
永遠の扉 第084話
踊り場から跳ねる月明かりしかない暗い階段を上り詰めると、消え入りそうな儚い鼓動ととも にどこか懐かしい花の匂いが鼻孔を通り過ぎた。 その時目の前にあったのは扉。 何の変哲もない、どこにでもありそうな扉。 開けるのに一瞬戸惑った理由は今になっても分からない。 薄れゆく意識の中で秋水は思った。 総ての始まりはその扉を開いた瞬間だったのではないかと。 ……ただ寒々とした暗い意識を声が撫でる。 「ま、今となっては継承者がいるかどうかさえ定かではない流派だが、一応明治期にはまだ 存在していたらしい。人斬り抜刀斉という継承者ともどもな。彼は不思議なコトに幕末が終わ ると同時に全国を流浪し始め、明治十一年に入って京都や東京で活動した後はどういう訳か ぷつりと闘いをやめている。島原へもう一人の継承者を倒しに行ったとか北海道でも活躍... -
永遠の扉 第083話
血煙はやがて平然たる手に覆われ、指の間より黒衣を濡らす滝と化した。 「フ。章印を突こうと思えば突けただろうに」 おびただしい血液の水たまりの中で首を押える総角には如何なる動揺もない。 頸動脈を突き破られ、人間ならばまず即死確定の傷を負ったにもかかわらずだ。 無論それで死ぬホムンクルスではないが、普通の精神の持ち主であれば激痛を感じ、惑乱 とてともすれば避けられない。 現に傍観者にすぎない小札ですら「ひっ」と短い声を上げたきりガタガタと震えている。 「君には聞きたい事が山ほどある。だから殺さずに捕えさせてもらう」 といいつつ秋水は章印へ刀を突き付けはしたが、こちらは脅迫というより残心だろう。 相手へ打突を加えた直後こそ最大の隙ができる。だからこそ現代剣道では残心なき場合に 一本を取り消すコトがあるし、古流剣術の様々な組太刀も最後は様々な形... -
永遠の扉 第086話
最後の一体になった月顔が歪んだ笑みを増殖させていく。 「おやおや。お久しぶりだねパピヨン君。無礼については謝るよ」 「しかし確かに先約を無視した私にも非はあるけれど」 「いきなり力づくでパーティを中止させようというのは感心しないね」 「第一、爆発物を会場に持ち込むのもマナー違反じゃないかな」 「しかも不意打ち」 「それに私はまだ君と争うつもりはないし」 「できれば末長くお付き合い願いたいと思ってるんだけど?」 壮年を迎えころころと太った欧州の女性のように甲高い声にはまるで緊張感がない。 それもその筈彼の武装錬金は不死鳥にも似た特性を有している。すなわち増殖さえすれば 同時に総てのムーンフェイスを斃すか拘束せぬ限りいつまでもいつまでも戦えるのだ。 しかも立ち向かってくるパピヨンと体面上は仲間だった時期もある。伝手と本来の狡猾な性 質を以... -
永遠の扉 第082話
対峙。 剣を振りかざせばすぐにでも口火が切られそうな距離で、剣士二人が睨み合っている。 鋭く山を睨めつけるような目つきのまま、秋水は右足を軽く前方に滑らせ、上半身をわずか に傾斜させた。剣道における相手の出方を見る方法である。「ためる」ともいう。そのままでは 攻めるという気配を相手に見せ、何らかの変化を及ぼし、それによって打突をどうするかを決 定する。 「フ」 しかし総角は面頬へ深い皺を湛えるばかりで微動だにしない。 剣道において最初の一撃は「初太刀(はつだち)」と呼ばれ、趨勢を決する重要な要素の一 つである。 まして二人の握るは真剣。迂闊に攻めればどうなるかは明白。 (どう攻める?) 熱気とも寒気ともつかぬひりついた空気の中、そればかりが秋水の脳髄を支配している。 空転、という方が正しいかもしれない。 相手か自分が... -
永遠の扉 第088話
早坂秋水。 武藤まひろ。 二人は病室で息を潜めてじっと対峙していた。 なお秋水については例のハズオブラブを既に一度使われていたため総角からの傷は平癒 せず、しばらく入院するコトになった。いまベッドの上で上体を起こしているのはそのせいだ。 一方のまひろは柔らかな頬を緊張に硬くし、パイプ椅子に腰かけたまま身じろぎもしない。 「君に話しておきたい事がある」 見舞いの花束を持って入室するなり秋水は間髪入れずに……しかし機先を制したにしては 戸惑いと恐れが色濃い声音で呼びかけた。 「…………時間は大丈夫だろうか?」 念を押しながらも澄んだ瞳の奥ではまひろが首を横に振るのを期待しているような光がほん の少しだけ見えた。ずるい……とはまひろは思わない。なぜなら彼女は罪科を人に曝け出す 恐ろしさというものを理... -
永遠の扉 第089話
「インディアンを効率良ーく殺す方法をご存じかしら?」 時系列不明。 坂口照星に振りかかった一つの出来事をここに記す。 まず目覚めた彼の眼前に一人の女性が居たという所からそれは始まった。 年の頃は20前後だろうか。肢体は細く優雅に椅子へ腰かけている。 彼女は照星の覚醒を認めると白磁のティーカップから口を離し、静かな笑顔で今一度問い かけた。傍らのテーブルにはソーサーがあり、そこにカップがカチリと小気味よく乗った。 「インディアンを効率良ーく殺す方法をご存じかしら?」 その問いかけを照星が半ば無視したのは彼自身の置かれている状況にある。 彼はシーツの匂いもまだ瑞々しいベッドに寝かされていたようだ。 ただ不思議なコトに掛け布団は二枚あった。上にあるのはシーツを掛けられた薄手の羽毛 布団。だが下にあるのは……つまり... -
永遠の扉 第085話
「ここが『もう一つの調整体』の眠る場所」 戦士たちが長く狭い通路を抜けると、蒼然たる光に満ちる地下施設に出た。 四角くくり抜かれた空間は軍隊一つが丸々と入りそうである。至る所から豆の木のようにパイ プが床から天井目がけて伸びて時折どくどくと脈打っている。何かの保冷剤だろうか。戦士たち の足もとには白い煙が立ち込め、十六本の足が八つのペースで歩みを進めるたびもわもわと 鋲打たれた鉄板の床を露にする。 (良く歩けるものだ) 部屋について防人へあれこれ説明しながら歩く総角を秋水は半ば呆れる思いで見た。 もっとも全身を血に濡らし自分と千歳の核鉄(斗貴子の物も使っていたが、秋水の出血の勢 いが弱まると同時に返却された。斗貴子自身にもまだ回復が必要なのだ)で止血処理しつつ 大儀そうにふらふら歩いてる秋水こそ「良く歩けるもの」だが。 先ほどの決着後、... -
永遠の扉 第001話 ~ 第009話
ここより前の話 永遠の扉 第003話 「探しものはなんですか?」 (1)(2) 第004話 「ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズ」 (1)(2) 第005話 「総ての序章 その1」 (1)(2) 第006話 「今は分からないコトばかりだけど」 (1)(2) (3) 第007話 「みんなでお食事」 (1)(2) (3) (4)(5)(6) 第008話「総ての序章 その2」 (1)(2) 第009話「例えばどんな風に悲しみを越えてきたの?」 (1)(2) 第010話 ~ 第019話 登場人物一覧 偽キャラクターファイル №2 小札零 №3 栴檀香美 -
永遠の扉 第071話
御前は次から次から出来(しゅったい)する異様な光景に呆れかえっていた。 「無茶苦茶だアイツ。何でもアリじゃねーか」 「……なんで俺との戦いで忍法使わなかったんだ?」 それはともかく、と桜花は瞳を薄桃の光にさらっと輝かせた。 「これで勝負の瞬間までこちらが攻撃されるコトはなさそうね」 「で、でも、どうするの?」 千歳は半泣きで路上を指さした。 見れば辺りに満ちた鏡のせいで、鐶の姿が十も二十も蠢いている。 「これじゃどこに向かえばいいか分からないよ!」 「いや、お前のヘルメスドライブならば本体のところへ俺達を運べるだろう」 「あ」 「後は彼が瀕死直前に追い込むのを待つだけだ」 斗貴子の期待を読んだかの如く、根来はいま一つの核鉄を突き出した。 それはシリアルナンバーLXXXIII(83)。元は貴信の物である。 「ダブル武装... -
永遠の扉 第051話
...うともせず捨て置いた永遠の扉に向かう時) ヴィクトリアは瞳を開くと、千里を見た。 自分をただの外国人の少女だと信じ、髪を梳き、心底から心配してくれる少女の姿を。 母の幻影の触媒としてではない、若宮千里という少女の存在を、初めて正面から見た。 「どうしたの? 私の顔に何かついてる?」 「ううん。でもゴメンね。ちょっと嫌なコトがあって。心配掛けて……本当にゴメンね千里」 声はあらゆる強張りから解放されつつある。もしかすると千里を本当の意味で直視できた せいかも知れない。 -
永遠の扉 第041話
銀成市市街地の山の手に、いまは住む者のない屋敷がある。 通称オバケ屋敷。かつては蝶野一族──明治時代から続く貿易業を営む資産家──とそ のボディーガードたちが住まっていたが、この初春、彼らは忽然と姿を消した。 以来ここに住む者もなく打ち捨てられるままになっている。 人々は常に成功者のスキャンダラスな話題を求めている。 だからマスコミは蝶野家の人々の、失踪として片付けるにはあまりに不穏な痕跡の数々を 一時期これ見よがしにあげつらい、銀成市市民の耳を楽しませたものだ。 曰く、彼らの失踪に先駆けて長男が寄宿先から姿を消した。 曰く、失踪したと思われる日に多くの銃声が響いた。 曰く、その直前、傷まみれの不審な高校生が蝶野邸を訪れた。 曰く、住民の服だけが残されていた。 曰く、屋敷の至るところに争ったような跡があった。 曰く... -
永遠の扉 第061話
病室のベッドの上で、斗貴子は意外な来訪者に目を丸くしていた。 「こんにちは。お見舞いにきたよ」 「まひろちゃん……」 開けていた窓から柔らかい風が流れ込み、白いカーテンが緩やかに波を打った。 一方、地下。 「ロバの敵が何かご存じでしょうか!」 めくれ上がり空中を飛ぶ床板を迎撃しながら、秋水は内心でかぶりを振った。 「意外や意外、それはヤモリっ! アリストテレスのおじさん曰く、ロバの飼葉桶に潜り込み、 ご飯の邪魔をするのです! 確かに赤のツブツブおぞましいトッケイヤモリどのがお茶碗に入 っていたらば不肖も”うげばー!”とご飯を吹いて気絶するでしょう! むろん不肖と秋水どの の戦いはそれとは次元を異にするいわば思想の戦い!」 石でできていると思しき床板は、星座の見立て図のようである。破片をエネルギーで結び床 板の形と成している。そ... -
永遠の扉 第031話
第031話 「斜陽の刻 其の参」 (いまだ非常ベルがけたたましく鳴り響く施設よりお送りします! さてさて当該下水道処理施設の地下にありますのは二つのお部屋! 処理施設 ← こちらがメインゆえ非常に広いっっ! 処理管制室 ← 不勉強ゆえ実情は分かりませぬが、ともかく階段 を下ってすぐにあり、ここを通らねば処理施設へは行けませぬ。 さーてさて! 階段を下るとそこは処理管制室でありました! 広さはおおよそ十畳ほど。むろん畳などある筈もなく床はタイル張り。 端っこの方にはビーズをまぶした巨大なカステラみたいな装置が幼児…… くすん。そう、サイズとしては幼児が潜り込めそうな幅をですね、壁と 一拍置いて設置されております。ちらりと見たところ、かような装置が 点々とありまするがいずれもサビが浮いて傷も多くどうにも古めかし いのが気になるところ。... -
永遠の扉 第030話
第030話 「斜陽の刻 其の弐」 下水道処理施設は現役ではあるが、古い。 真赤な煉瓦造りといえばさも洒脱な雰囲気が漂っており現に銀成市の 発行する観光案内のパンフなどにも同様の事柄が記載されてはいるが その実、建物自体の煉瓦はあちこちにヒビが入っており、日当たりの 悪い場所では浮き出た岩塩がほこりと混じって不快な黒ずみすら浮か べている。大体にして下水処理施設だ。務める者は平素嗅覚を苛む 悪臭によって汚いものへの抵抗を日々奪われ掃除の意欲を勤続年数 と反比例して低下させていると思われた。 さて、その務める者の一人に信奉者がいた。信奉者とは自らの財産を 捧げる代わりにホムンクルスへの格上げを望む者である。 彼がL・X・E残党の集結場所として職場を提供するに到った経緯はさ ておき、ほどよく人家から離れた場所にある故、実に円滑に怪物ども が... -
永遠の扉 第024話
第024話 「演じるというコト」 『彼女』は寄宿舎での生活を不思議そうに眺めている。 共に行動する機会の多い少女たちは、まさか自分が友人を演じている とは思ってもいないのだろう。 眼鏡を掛けた理知的な少女も、いつもほんわか笑っている栗毛の少 女も、どこか自分と似ている幼げな少女も、きっと。 時間がきた。 『彼女』は日常を演じるための必要事項を実行するコトにした。 衛生上の必要はない。 信ずる者も命じてはいない。 焦がれる者もまた同じく。 それでも『演じる』コトには不可欠だから、行くコトにした。 ヴィクトリアは浴場につくと、とりあえず中を見渡してみた。 幸い誰もいない。ホッとした心持になるのは百年来の地下生活のもた らした厭世ゆえか。 地下の静謐に比べればこの地上はうるさくて仕方ない。始めてココに 案内され... -
永遠の扉 第026話
第026話 「変調(後編)」 一部を除けば意外に片付いた部屋だ。 人の部屋をあれこれ詮索する癖のない秋水でも、素直に感じた。 ここにはひどく清浄な空気が漂っているようにも思われた。 部屋の右手には寄宿舎備え付けの木製ベッドが壁と平行に横づけさ れており、淡い無地のピンクで統一された寝具一式が、柔らかそうな 感触を放っている。秋水はそれに見覚えがある。寄宿舎転入後ほど なくして千歳がつきつけてきたブ厚いカタログだ。 新鮮なインクの匂いもすがすがしいカタログには、色とりどりの寝具が 幅やら長さやら価格やらの羅列とともに載っていた。 聞けば布団や枕などの安い備品については各自好きなモノを選べる らしい。 きっとその時、寝具のついでに選んだのだろう。 少なくても秋水の殺風景な自室にはない、余裕ある物体がベッドボー ドの間に挟まれている。 ... -
永遠の扉 第036話
どこまでも続く闇の回廊をただ一人で歩いた。 歩いて、歩いて、歩き続けた。 熱で頭が眩み、無音の通路に風吹く幻聴すら運んでくる。 ツと足を留め、ヴィクトリアは振り返った。 煉瓦が闇を囲いどこまでも伸びていく虚ろな通路に、変哲はまるで見 当たらない。 そう、自分以外の者が生息する気配はない。 人が追ってくる気配は、ない。 (そんなものよ) 再び前を向き、歩みを進め始める。 百年以上生きているから、かすかに芽生えた期待を分析し、文章体裁 のある感情論へ昇華するなど容易い。 『秋水がこの地下をひた走り、もう一度止めに来るのを望んでいた』 と。 けれど彼は来ない。 再び前を向いて歩きだしたとき、その事実に深い失意が生じた。 ……いうまでもないがこの時、秋水はL・X・Eの残党を殲滅する必要 があり、苦渋の思いでヴィクトリア... -
永遠の扉 第055話
産科医療の定義では。 人間は妊娠第八週目から「胎児」と呼ばれる。 そう。人間は個人差こそあれ大体その頃になれば「胎児」という「人間らしい」形態になる。 ではそれ以前……妊娠第七週目まではどうか? 受精後二十四時間以内に受精卵は二つに分裂し、二日目には四つ、三日目には八つと分 裂しつつ卵管を移動しやがて子宮に着床する。 そして妊娠第三週目に入る頃に、心臓と主要な血管ならびに脳や脊髄の元たる「神経管」が 発達を始めるが、この頃はまだ「タツノオトシゴ」のような形状であり、つまりはおよそ妊娠第八 週目までは(徐々に人間に近づくとはいえ)、「人間とはやや異なる形状」である。 鳩尾無銘が人間の形態になれないのは、上記の「人間とはやや異なる形状」の頃にホムン クルス幼体を埋め込まれたからである。 よって彼はチワワをやらざるを得ないのだ。 ... -
永遠の扉 第040話
剛太は幼い頃に家族全員をホムンクルスに殺された。 といっても物心つく前の出来事だからホムンクルスに対する明確な憎悪はない。 会えば容赦なく殺そうとするのは、自分の立場に対する現実的思考と、尊敬する斗貴子への 同調がそうさせているだけなのだ。 信奉者、というホムンクルスにつき従って彼らが人を喰いやすいよう裏工作をする人種に対 する悪感情もまた同じく。 そんな彼が最近、元・信奉者の女性に付きまとわれている。 客観的にいえば彼女は美人だ。黒い髪を腰まで伸ばした清楚な雰囲気漂う和風美人。肢体 も隅々まで豊麗で、初対面の時は斗貴子一筋の剛太ですら不覚にも目を奪われかけたほどだ が、しかし元・信奉者というコトに変わりはない。 何しろ彼女の一面が投影された武装錬金はヒドい造りの毒舌人形。 その一時だけでもいかに「元・信奉者」に相応しい性質かが分... -
永遠の扉 第068話
(羽根が) (やんだ!) 路上を覆い尽くすミサイルとベアリングの合わせ技。 その静止に戦士一同は身を固くし、一方の鐶はクジャクの羽根を畳んだ。 「……あ」 鐶の無表情の中で、スターサファイアの瞳だけがゆっくりと下を向いた。 「ダメージを……受けています) 腹部には蜘蛛の巣のようなヒビ割れが入り、一の腕やのびやかな足といった部分には無数 の創傷ができている。 (当然だ。戦士長の攻撃を受けて無事でいられるホムンクルスなどまずいない。しかも私たち が追撃したからな。つまり、考えるまでもないが) 斗貴子の見るところ、少なくても絡め手さえ使われねばダメージを与えられる相手。 そう、傷ついた戦士たちでも一斉に攻撃をしかければ攻略は可能。彼女はそう判断した。 「『命に関わるケガ』…………でしょうか」 すくりと面を上げて虚ろな瞳を投げか... -
永遠の扉 第043話
(あのバリアーを破らないコトには私の攻撃は届かない) 桜花は小札を冷静に観察する余裕がある。この辺りも対象的だ。のみならず小札がテンショ ンを上げて騒いでる間にも、実はある程度の思考の手がかりをまとめていた。 それは。 (なぜ、紙吹雪を媒介に使う必要があるのかしら?) そういえば以前、廃墟で小札が総角とともに秋水たちと戦った時もそうだったという。 (しかも崩落した壁の跡も使っていたとか) 牽制も兼ねて小札に矢を撃つ。状況は特に変化がない。矢が反射され、それを避ける。 (……ヒントはその辺りにありそうね) もし無制限かつ無条件にバリアーを作れるのなら、紙吹雪なり壁の崩落跡なりを使わずとも 良いのだ。例えば桜花の矢のように自分の好きなタイミングで好きな場所へ放てばいい。 (ま、どっちみちバリアーしか作れないなら適当に攻めながら考えればいいだ... -
永遠の扉 第023話
第023話 「人(?)それぞれ」 この三日間(斗貴子・剛太敗北から秋水が演劇やるまで)について。 Case.01 中村剛太 敗北後、桜花とともに下山。彼女の呼んだタクシーでサンジェルマン病院へ運ばれた。 その際に目を丸くしたのはかつて打ち破った根来が待合室にいて、しかも生々しい傷を浮か べていたコトだ。 根来は根来で敵と戦ったとは後で聞いた話だが、あまりに意外な場所での再会に血液不足 の頭が不可解さでさらに眩む思いをした。 しかもそばには千歳がいて、以心伝心というか。会話はなけれど妙に息があっていた。 (アイツ、戦友いたのか?) 入院生活でヒマな剛太は、ベッドの上で時々そういう疑問を考えてみるが特に答えは出ない。 斗貴子には会っていない。 まさか彼女が負けて、剛太に一拍遅れて入院する羽目になろうとは。 斗貴子の強さ... -
永遠の扉 第046話
「帰って」 冷然たる眼差しを浴びたまひろは、「ふぇ?」と目をしぱぱたかせた。 「ココに来たってコトは大体の事情は知ってるでしょ。でもあなたにどうこう……」 「あ、大丈夫だよびっきー!」 ヴィクトリアは肩に異様な外圧が加わるのを感じた。見ればまひろがいつの間にやら正面に 回り込み、細い肩を砕けんばかりの力で握っている。ヴィクトリアがホムンクルスでなければ 痣の一つか二つは平気でつくのではないかと面喰ったのも無理はない。傍にいた秋水でさえ 「もうちょっと加減するんだ、骨が少し軋んでいる」 と制止に入ったほど、まひろは加減がなかった。 「あ、ゴメン」 ひとまず手を肩から剥がされたヴィクトリア、 「痛いわね。いきなり何するのよ」 と、目を吊り上げて抗議すると、まひろはちょっと頭に疑問符を浮かべた。どうやら寄宿舎 生活におけるヴィクトリア... -
永遠の扉 第074話
桜花はここぞとばかり桃のような甘い声をあげた。 「正確には『換羽』の年齢版じゃないかしら? 瀕死をきっかけに、すり切れた年齢へと新しい 年齢を上書きして、元の状態に戻しているとか」 『換羽』とは鳥における重要な生理現象の一種である。 元来、羽根(羽毛)は摩擦や寒風などの様々な刺激から身を守っているが、その役割上、絶 えず摩耗を強いられてしまい、およそ一年もあればボロボロになってしまう。 『換羽』とはそんな古い羽根を定期的に抜き落とし、新たな羽根へと換える鳥の一大行事だ。 鐶は頷いた。 「これは偶然の産物……です。種子さえ巨木にし……街の時間さえも進められるクロムクレイ ドルトゥグレイヴと……あらゆる人や鳥に変形できる特異体質……そしてその副作用による 五倍速の加齢に……鳥に備わる換羽の機能と、人としての生存本能。それらが合わさった結 果……... -
永遠の扉 第057話
遠い記憶。 十年前の記憶。 「名前ですか?」 「連れてくなら無ければ不便だろ? さっさとしろ。俺は急ぐ」 「じゃあ、無銘くん。刀に『銘』が『無』い時の呼び名のごとく、無銘くん」 「……なんでそういう名前をつけるんだお前は?」 「え、えーとですね。本名も必ずありましょう。されどいまは不肖にこの子の名前を知る術があ りませぬゆえ、暫定措置として名づける次第。とはいえ『名無しの権兵衛』では呼び名として はいささか可哀想。それに、その」 「なんだ。お前はもっと実況をするようにハキハキと喋れないのか?」 「えと、……見たところ男の子…………ですし。カッコよくないと……」 「だから無銘か。なら姓は俺が名づけてやる。俺が総角、お前が小札と大鎧の部位が揃って いるから、鳩尾。鳩尾だ。大鎧の左胸を保護する板の名前を呉れてやろう」 「というしだ……... -
永遠の扉 第032話
第032話 「斜陽の刻 其の肆」 その瞬間の秋水の行動は、逆向の想像を遙かに上回っていた。 タラップと水面の境界にある柵へ猛然と走りつつそれを瞬間のうちに 三斬。 鳥居の形でしぶきあげつつ倒れる鉄策を学生服が飛び越えた。 着水した処理施設の深さは脛の中ほどまで。だが日々鍛えた健脚は 水圧を感じさせぬ速度で風すら呼び──… 一気に逆向へと肉薄した。 口火を切ったのは大上段のソードサムライX。 十分に加速の乗ったそれはチェーンソーの高速回転する刃に巻き込ま れみるまに威勢を失し、弾かれはしたが、すぐさま右切上に転じた。 驚いたのは逆向である。チェーンソーの刃先をまっすぐ下に向けて刀 を受け止めるも力が爆発して押し切られそうな錯覚がある。 それが去った。 秋水が手を引いた。と知ったのは逆胴迫る瞬間だ。 (おおお! 放胆にも秋水殿、刀... -
永遠の扉 第033話
第033話 「斜陽の刻 其の伍」 一瞬、場にいた全ての者の動きが硬直した。 まず、L・X・E残党。 処理施設のタラップや水面に点在する彼らは、幹部たる逆向の負傷に 息を呑んだ。 いうまでもなくこの場で最も強いのは逆向だ。 だからこそ彼を旗印に寄宿舎襲撃をやろうとし、集結した。 だがその末に見た光景は彼の、偶然でない、力量的な必然による負傷。 ──逆向が敵わぬのなら戦っても死ぬだけではないか? 動揺は緩やかに残党どもの中に広がりつつある。 一方の管制室の中でも沈黙する者がいた。 動揺ではなくむしろ歓喜を以て沈黙を選んだコトは、開きかけた口を両 手でマスクのように覆ったコトから見て明らかだ。 (ぬぅぅぅ! 声を上げて実況したいっ!! なんというジレンマ! 声に 乗せて表現すべき事象状態が眼前にありながら実現できないもどかし... -
永遠の扉 第012話 1
第012話 「混戦」 「あ、聞いたとおり垂れ目じゃんコイツ。やっぱあたらしいの!」 『こら香美! あまり僕たちの知っているコトを教えるな!! 情報は何より大事だ!』 (なぜ知ってるんだ) 訝しみながら、剛太は傷口を確認する。 幸い、右腕は服が破れた程度。 頬からは血がカーテンのようにだらっと溢れているが、放っておいても治るレベルだ。 「こら剛太! 何をボサっとしている! さっさとモーターギアを拾え!」 斗貴子の鋭い叱責の声が飛ぶ。 見れば彼女はすでに香美目がけて突進中だ。 (いや先輩。俺の体勢が整うまで待ってくれたって) などと剛太は思わない! いささか短慮な先輩をたしなめない! 「やっぱ先輩はカッコイイ!」と内心で喝采すら送っている。 ちなみに斗貴子がくすんだアスファルトに足裏を叩きつける度、白い美脚が濃紺のミニスカ ートをひらひらたなびかせる。 剛太... -
永遠の扉 第066話
ややあって。 交差点の一角で、もはや買い替え時期の見えた消しゴムよろしく縮んだ千歳が、天を向いて 滝のような涙を飛ばしていた。 「ああもう~! どうして私ばっかり~!!」 (狙いやすいからだ) (一番狙いやすいからだな) (貴殿はまったく以て判じ難い) 以上は防人、斗貴子、根来の順である。 群衆が行き過ぎるたび、戦士一行の平均年齢は低下の一途をたどっていた。 (以下は本来の年齢 → 現在の年齢) 防人 27 → 27 根来 20 → 16 斗貴子 18 → 15 千歳 26 → 10 ※ 斗貴子の年齢は一巻ライナノートでは「17」。 ただし年齢発表時の作中時間が春先のため、誕生日(8/7)後の9/4は「18」とした。 防人が無事なのはシルバースキンあらばこそ。 「例え群衆に... -
永遠の扉 第064話
話は、八月二十七日の夜──屋上で空を見上げて泣くまひろを秋水が見た頃──に遡る。 銀成学園の職員室で鐶は生徒手帳を広げ、沙織の写真と、それそっくりの顔を並べていた。 「……似てますか?」 「カッコは似てるけどさ、そのタルい話しかたは何とかならんワケ?」 「やっぱり? 私このコの喋ってるとこを無銘くんの忍法で見たけど、すぐ覚えるの無理みたい」 「……うーんとさ。うまいかもしれんけど、キャラかわりすぎじゃん」 突然の豹変に香美は鼻の頭にシワさえ寄せて困惑した。 「はぁ……でも……まだ定着しないというか……友達の呼び方を間違えてバレそうな……」 『ふはは!! その不備を補うべく僕たちはココにいる!! まぁ僕は人間関係について努力 しようとして挫折したクチだが!!』 「ところでさひかりふくちょー。あたしのマネとかできる?」 沙織に扮した鐶の口が明... -
永遠の扉 第042話
日本における甲冑の歴史は古い。弥生時代後期にはすでに木製の「短甲」(たんこう。みじ かよろいとも読む)という、胸と胴体のみを保護する原始的な物が確認されている。具体的な 形状だが、古代ギリシアにおけるリネン・キュラッサの胴体部分や古代ローマのロリカといっ た「袖のない上着を膨らませて鎧にしたような」物である。ただしその上着は前をボタンで閉じ るタイプの物だと想像して頂きたい。何故ならば右脇の蝶番によって前の右側だけがパカリと 開くようになっており、着用にはそこから身を入れて(ボタンはないけれど)前を閉じ、両肩を 橋渡す紐でしっかり縛るからだ。 短甲は五世紀前半には鉄板を鋲で留める形式へと姿を変えたが、六世紀に入る頃から徐々 に姿を消し始め、代わりに「挂甲」(けいこう)へと移り変わる。 その過渡を見るのに相応しい一例が壬申の乱であろう。当時は豪族たち... -
永遠の扉 第029話
第029話 「斜陽の刻 其の壱」 電話を切ると千歳はため息をついた。 現在寄宿舎にいるのは彼女を除けば、桜花(と御前)、防人、そして 斗貴子。 非戦闘員とようやく怪我から復帰した男、まだ入院が必要な戦士。 もし秋水が奇襲にしくじった場合、なだれ込んでくるであろうホムンク ルスたちに対してあまりに無力である。 それにムーンフェイス。 彼ほど後世、次々と世界に害悪を振りまいた者も少ないであろう。 この時期ではまだ目覚めていないが、彼の手によってホムンクルスに 改造された戦士・剣持真希士は、その顛末によってカズキと斗貴子の 心に深い傷を残す事となる。 更にカズキと斗貴子の子息、武藤ソウヤが今の彼らと同じ年になる頃 には、ムーンフェイスの作り出した真・蝶・成体なる怪物によって地球 は後輩の憂き目に遭う。 いずれも発覚時には「ムーンフェ... -
永遠の扉 第035話
第035話 「斜陽の刻 其の漆」 目を閉じていても、体に染み付いた術技は功を奏するものだ。 光輪を飾り輪のエネルギーで相殺すれば、目の前で凄まじい光が起 きるのは明らかだった。 よって秋水は手に斬撃の感触が通り過ぎるまで、目を閉じていた。 次に開いたその時。 「まだだ! せめててめえも道連れに!」 死にゆく逆向がチェーンソーをかざし、迫ってくる。 (そうか。『もう一つの調整体』の効果で震洋の体に宿った以上、普通 のホムンクルスのようには死なない……だがこうなったら震洋にはすま ないが、戦闘不能になるまで斬り伏せる!) 秋水は激しい息をつきながら再び構え──… 一体何が起こったのか、十体のムーンフェイスは判断に困った。 「特異体質発動」 気づけば彼らは密集していた。ひどく狭い場所に。 そのまま視界が空へ向かって流れた時、よ... -
永遠の扉 第020話
ヴィクトリアはまひろが嫌いだ。 もっともこの気難しい少女にかかれば地上にあるモノはほとんど嫌いなモノになってしまうが まひろについてはとりわけ別格なのである。 錬金の戦士、ホムンクルス、核鉄、武装錬金といった錬金術の産物に次ぐかも知れない。 まひろは、非常に馴れ馴れしい。 平気で自分の領域に踏み込んできて、取り繕っているペースを乱してくる。 いつも幸せそうにニコニコ笑っているのも気に入らない。 彼女は陽の存在だ。 近くに居るだけでその霊性の光がさぁっと自分の本性を照らし出し、陰々滅々とした本性を 暴いてきそうで嫌なのだ。 また、カズキの妹という点も嫌悪の対象だ。 それも、よく心の流れを知覚してみると、「ヴィクトリアの父・ヴィクターを月に追放した戦士の 妹」としてではなく、「月に消えた戦士の妹」として嫌悪している。 (いいわね気楽で。あなた... -
永遠の扉 第011話 1
第011話 「READY STEADY GO!」 (1) 何年前だっただろうか。その言葉を掛けてもらったのは。 ──キミにもいつか戦う目的が出来る時が訪れるかも知れない。 樹海でのサバイバル訓練で、傷を負い、無様にはいつくばった自分へその人は。 ──どうしても斃さねばならない存在(モノ)が現われた時 ──どうしても守りたい存在(モノ)が出来た時 ──その時、自分の非力に涙しない様、キミは今、ここで強くなっておけ 優しく真っ向から語り掛けてくれた。 ──さあ、立ち上がろう剛太 赤ン坊の頃、家族をホムンクルスに皆殺しにされ、過去も現在も実感できなかった自分へ。 未来への指標を見せてくれた。 だから剛太はその人──津村斗貴子に対して、憧憬を抱いている。 助力できるコトがあれば断じて惜しまないし、現にこの夏の前半部は火渡率い... -
永遠の扉 第028話
第028話 「動き出す闇(後編)」 地下を貫く正六角の通路が真暗な闇の彼方まで煉瓦造りを伸ばし、 けたたましいほどの足音を残響させている。 寄宿舎管理人室から姿を消したヴィクトリアだが、瞬間移動を用いた ワケではなく、ただ足元にこの空間を発生させ没入したに過ぎない。 そして喘ぐように息吐きながら駆けている。 母の肉片を喰らって生きてきた者が、母に似た少女に食人衝動を覚え ている。人間じみた情愛を人に抱いたせいで自らの怪物性をより深く 認識する羽目になっている。 今のように地下にいれば良かった。 光のない場所ならいかなる闇も常態として過ごす事ができた。 けれど暖かな景色を知ってしまったから、こうなっている。 いまはただ、一人になりたい。 それを叶えるためには、華奢な足を内角百二十度に窪んだ不格好な床 の上で運動させるほかなく、... -
永遠の扉 第027話
第027話 「動き出す闇(前編)」 まず本稿を描く前に一つの武装錬金に対する注釈を設けておく。 アンダーグラウンドサーチライト。 創造者 … ヴィクトリア=パワード。 形状 … 避難壕(シェルター)。 特性 … 亜空間への避難壕(シェルター)製造。 特徴 … 入口を閉じた状態での発見はほぼ不可能。 広さと内装は変幻自在。 (ただし広さや複雑さに比例して創造者への負担は大きくなる) 水・電気は現実空間の水道管や電線から拝借可能。 秋水が斗貴子に半ば連行される形で管理人室に入ると、すでに見慣 れた顔が卓を囲んでいた。 防人は斗貴子の顔を見ると困ったように頭をかき、千歳はいつものよう に無表情、桜花は秋水に「まひろちゃんとの会話は楽しかった?」とい いたげな顔... -
永遠の扉 第067話
194 名前:名無しさん 投稿日:[ここ壊れてます] ID kakukoto0 193 頑張れスネーク そっちに行けないオレのためにまずは美少女をうpするんだ 195 名前:193 投稿日:[ここ壊れてます] ID 876543210 http //*******/***/*****.jpg (マジでグロ注意。画面の端にあるのはID書いた紙な) 見ても文句いうなよホント… 俺なんかメートルぐらいの場所にいるんだぜorz 196 名前:名無しさん 投稿日:[ここ壊れてます] ID kakukoto0 ぎゃあああああああああああああああああああああああ!!!! こっち見んな!! 首だけこっち見て笑うなあああああああああああああ!!!! そのグロ画像がリアルで 193の頭上を滑空した... -
永遠の扉 第090話
「秋水先輩、空気ってどう読めばいいのかなあ?」 「君はいきなり何をいっているんだ?」 ゆらっと扉を開けてしょんぼり佇んでいる。 秋水の病室へやってきたまひろは正にそんな状態だった。 幽鬼のごとく部屋に入るなり、閉じたての扉の前で一歩も動かず秋水を眺めている。 グっと太眉の下がった困惑満面はもはや見慣れた感がある。何かといえばこの顔だ。.しかしどうであろうこの眉毛の明瞭 さは。古来「目は口ほどに物をいう」というが、まひろの場合「眉毛は目ほどに物をいう」のかも知れない。 (というか、そういう話の切り出し方は困る) 病室へ見舞いにくるなり「空気ってどう読めばいいのかなあ?」は如何なものか。質問それ自体がすでに空気を読めてお らぬ。ヴィクトリアがこの場にいれば「いきなりそういう質問をしなければいいのよ」と冷笑混じりに茶化すだろう。秋水はた だ... -
永遠の扉 第078話
話は斗貴子がダブル武装錬金を発動する前に遡る。 倉庫のあちこちで紅蓮の炎がくすぶり、焦げたダンボールがいくつも中身をブチ撒けている。 それらを一瞥した斗貴子は壁際の三列四段のロッカーの群れへと足を進め、バルキリースカー トで総ての扉を吹き飛ばした。するとひしゃげた扉が36枚、壮烈な音を立てて床に転がった。 ロッカーを素早く見まわすと、果たしてこういう張り紙をされた衣装ケースを発見。 『所有者:演劇部。品目:ドレス。用途:文化祭の演劇用!』 開ける。取り出す。出てきたのはピンクと赤を基調としたドレスだ。全体的にひらひらとし、翼 のような形をした半袖にある銀糸の刺繍は瀟洒な光をキラキラ放っている。 ドレスの胸元に花開いたヒマワリの飾りへ手を当て、捩る。 (これはあくまで推測だが、その昔、舞台の上でよほどの熱演をした者がいて、その演技に反 ... -
永遠の扉 第045話
その頃、地上では。 「うああああぅ~! 気張って攻撃したらちょっと疲れましたぁ~」 戦闘が休憩に入っていた!! というのも、ひとしきり謎の白い塊を飛ばした小札が俄かにぜーぜーと目をナルトの渦のよう にさせながら大きく喘ぎだし、ホワイトリフレクションという結界の中で休みだしたからだ。 障子はにわかに赤い光を失い、地面にバラバラと落ちた。 「おう。蔵見てきたぜ。やっぱ俺たちの推測通り」 小札から十メートルほど距離を置いて佇む桜花の肩に、御前が飛んで寄ってきた。 「お疲れ様。ところで小札ちゃん、お茶飲みたいでしょ? そのホなんとかとっていう馬鹿馬鹿 しい結界解いてくれたら、お茶あげるわよ~。今なら二本おごっちゃう!」 麗しい笑みの桜花に小札は「ほうっ!」と興味を示したが、慌てて首を振った。 「いやいやいや! このホワイトリフレクション解きま... -
永遠の扉 第079話
ひとまず戦いは終わり、事後処理に移る。 「何なのよ一体」 千歳が消えた廊下に不服そうな声が響いた。 彼女は銀成学園の制服を着ているが、憤怒に赤く染まる頬からは年齢退行から戻った瞬間に それなりの混乱を味わったコトが見て取れる。 何しろ短剣を浴びて胎児になったのだ。必然的に衣服は脱げる。その後の顛末については 読者皆さまの鍛え抜いた想像力に一任する。 「よく考えれば声で気付くべきだったな」 へたり込んだまま斗貴子が見上げる少女は、完全に元の姿に戻っている。 もしかすると既にクロムクレイドルトゥグレイヴは解除されているのかも知れない。 だが外はまだ九月四日の昼のまま。九月三日の夜に戻る気配はない。 そも市街まるまる一つの時間を強制的に進めていたクロムクレイドルトゥグレイヴだ。 もしかすると対象範囲の広さゆえに、解除されても... -
永遠の扉 第049話
「あ。そうだびっきー。さっき”ありがとう”っていってたよね。聞こえたよ~?」 アーモンド型の瞳がみるみると驚愕に開くと、まひろはますますニヤけた。 「え! まさか聞いて……ちがっ、い、いってないわよそんなコト!」 「ほんとぉ~?」 否定するものの、まひろときたらばっくりと口を開けてカバがニヤけたような表情で迫ってくる からたまらない。。 「何よそのフザけた顔! 本当にいってないわよ!」 否定しながらも耳たぶに血が上ってくるのを禁じ得ない。 「ふふふ。照れない照れない」 袖で口を覆ってまひろはからかうように笑った。 (まさか、アイツにも聞こえたり…………してないわよね? なによこの感情……ああもう。こ れだから地上は嫌なのよ……!) もちろん筋からいえば別に礼などいってもさほどの紛糾材料になどなりえないのだが、あの 状況でポンと自... -
永遠の扉 第044話
「……分かった。でもこれだけは聞いて欲しい」 ヴィクトリアの拒絶を察したのか、秋水は手を離した。 「君は俺や姉さんと似ているんだ。ホムンクルスになって二人だけの世界で生きていたい…… そう願っていた俺や姉さんと」 秋水はアレキサンドリアのコトを引き合いにだした。 彼女とヴィクトリアが地下で百年も二人だけで生きていた姿は、桜花と秋水の目指していた 物とほとんど同じだったと指摘し、そしてそれが崩壊するコトをどれだけ恐れていたかを告げた。 「だから無関係とは思いたくないんだ。力になりたいと思っている」 せっかくの解放にも関わらずヴィクトリアはその場にとどまっている。ただし俯いたまま表情 を見せないのは彼女なりの『説得』への抵抗なのだろう。 「…………」 握られていた左手首を腰の横で一撫でしたきり、ひたすらに黙っている。 「今の君は錬金術... -
永遠の扉 第063話
河合沙織という名の少女は悩んでいた。 「……えーと。オバケ工場を歩いてた筈なのになんでこんな所に?」」 幼い顔が皺くちゃになるんじゃないかと思えるほど微苦笑しtつつグルリと周囲を見回した。 暗く湿った空気は人気とは無縁だ。ひたすらに澱んでいる。何故か照明はついているが、そ こに群がる名称不明の小さな虫たちや蛾の姿はそぞろに戦慄を禁じ得ない。 「う」、と思わず鼻をつまんだ沙織の足元には、干からびた大きな溝が続いている。 照明のない暗い彼方まで伸びているそれは下水道だろう。ならばココは。 「地下なのかな。でもなんで私こんなトコにいるの? 服も何かヘンだし」 とりあえず、沙織は微苦笑を止めた。 「あまり皺寄せてると一気におばあちゃんになりそうだし、やめとこ」 防人はそろそろ受話器を叩きつけたい気分になり始めていた。 「やあ何度もすまな... -
永遠の扉 第062話
(不肖がこれより始めまする攻撃はっ!) 光線を避けていた秋水は、異変に気づいた。 (倒せればよし、倒せずとも距離を縮められる撒き餌のような攻撃!) 部屋を床や壁に展開していた銀の線は、いつしか白く半透明な『面』を形成している。 (かつて金城を退け、廃墟でも使ったホワイトリフレクション──…) 転瞬、極太の光線がバリアーと化した壁へ激突。反射。 それに引きつけた刀が当たらぬよう左半身の輪郭をちりちりと焦がしつつ避けた秋水だが、 しかし彼は同時に腰部右側面に灼熱を感じ、俄かに硬直した。 うなだれるように視線を下げた彼は見た。 右手から右大腿部に引きつけた刀身に、光線が命中しているのを。 (極太の方は囮なのであります! 本命はこちら!) 壁や床や天を繋ぐ斜線の連続──ブロック崩しの玉のように何度も何度も反射を繰り返し ついに秋水へたど... -
永遠の扉 第072話
焦点、という言葉がある。 光学においては平行光線が収束する点を指し、日常的な言葉の意味ではもっぱら人々の 関心や注意が集まるところを示してやまない。 これよりしばし時系列は物語上の描写要求により巻き戻さざるを得ないが、その中において、 『焦点』は先に挙げた二種の意味で一人の戦士へと向き、或いは彼自身を焦点に変ずるコト となる。 (ここは住宅街。戦士・カズキの突撃槍のようにブラボチョップで捌くコトはできない!) 防人衛は放たれた光線に鋭い眼光を吸いつけながら、肩の広さまで広げた両足を重々しく アスファルトに預け、右拳だけを腰の辺りで軽く起こした。 「全員、俺の背後に隠れろ」 仁王に似ている。斗貴子は無言の気迫に頼もしさと一抹の畏敬を覚えつつ、防人と背中合 わせで素早く膝立ちにしゃがみ込み、混濁中の千歳を正面切って抱き抱えた。 ... - @wiki全体から「永遠の扉 第081話」で調べる