SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ内検索 / 「過去編第005話 1-1」で検索した結果
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永遠の扉 過去編
...-8) 【過去編第005話 「始まりはいつも突然」】(1-1) 【過去編第006話 「時間も分からない暗闇の中で」】(1-1) (1-2) (1-3) (1-4) (1-5) (1-6) 【過去編第007話 「傷だらけの状況続いても」】(1-1) (1-2) (1-3) 【番外編】「広がる宇宙の中、小さな地球(ほし)の話をしよう」(1) (2) -
過去編第005話 1-1
私の名前は秋戸西菜。ぶ厚いメガネがトレードマークの小学3年生。 今日はまだ幼稚園の女のコ連れ込んじゃっています。ここは人気のない公園の裏手。今にもオバケや痴漢さんが出てき そうでこの上なく怖いです(ドキドキ) 「ママー」 「ママー」 「ママー」 しかしくじけてはなりません。私はこの子のお母さんを探すためにここまで来たのですから。この上なく大事な用事だって あります。頑張れ。負けるな私。ファイトです! 始まりはいつも突然! 大事な用事のために街を歩いていた私は、お母さんからはぐれたこのコと出会いました。そして ここまで来ました。 「ママー」 「ママー」 「ママー」 ……ぬぬっ。見つかりませんね? しかしそれもその筈、実はここにお母さんなんていません。「ここで見掛けたから一緒 に行きましょう」 連れ出すときに私はそう言いましたが実はこれ、真赤なウソだ... -
過去編第004話 1-1
「さてあれから20kmは駆けた不肖たち一行であります! 鐶どのの背中に乗りますればあっと言う間に移動は可能! さ れど副リーダー就任直後の任務がそれではしまりませぬ! よって不肖たちは走ってあの場を移動したのであります!」 ロッド代わりのマシンガンシャッフルを片手に小札は景気よく吠えていた。 「そもどうして移動をしたかといいますれば、先ほど鐶どののポシェットに潜んでいた愛らしき自動人形のせいであります! 自動人形は創造主と感覚を共有致しまするゆえ、不肖たちの所在は少なくても鐶どののお姉さんには筒抜けなのです! もしそれがあの方属する『組織』へ流されますれば大ピンチ! 9年前より不肖たちは追われる立場! 栴檀どのお2人の ように幹部級より逆恨みを買う片とているのですっ! よって大兵力を差し向けられる恐れアリ!」 ゆえに退避しました。などと捲し立てるお下... -
過去編第004話 1-6
(口に入れたのは1個です。あれも1個分。だから飲み干したのはフェイク……。わざと隙を作って攻めさせようとか、この 上なく性格悪いです) べっと吐き散らかされた白い粘塊はあたかも唾棄すべき嘘だらけとばかり供述書をねっとり汚した。 「毀損を承知でいわせてもらおうか。ヌシは義妹を逃がした。もちろん義妹自身その自覚はないよ。ただ迷って、帰れなくなっ た。そう思っておるだけじゃ。だがヌシは違うな? 方向音痴である事を承知の上で世に放った。不手際に見せかけて放逐 した……当たらずとも遠からずというところじゃろう」 『ただの不手際です。私の』 「じゃあどうしてヌシの自動人形は火薬の匂いがしとるのじゃあ?」 低い鼻がスンスンと動き始めた瞬間、青空は微かに体を震わせた。いつの間にか豊かな肢体すれすれに幼い高齢者が まとわりつきしきりに自動人形を嗅いでいる。静観していたクライマックスさえ... -
過去編第004話 1-2
……ゴン。 ゴン ゴン…… どこからか鈍い音がした。 装甲が叩かれているようだった。 よく耳を澄ますと「よくも言ってくれたわね許さない許さない許さない」的な呪詛が流れているような気さえした。 カリカリカリ カリカリカリ カリカリカリ カリカリカリ カリカリカリ ガリッ ガリガリ ゴリゴリ ズゾカリガリゴリカリゴギギ…… 殴る音はひっかくような音に変わってもいる。 思わず後ずさる。するとブォンという音が鳴り。 眼前いっぱいに青空がきた。 「ひィ!!!?」 ... -
過去編第004話 1-5
「あ。ねー」 雑踏の中、駆け寄ってくる光の顔はぱあっと輝いていた。それまで彼女は、自宅とはまったく反対方向、6kmは離れた隣 の市の繁華街を1人で歩いていた。心細かったのだろう、青空めがけトテトテ駆け寄ってくる。 空はとっくに暗く、ネオンと街灯が混じったけばけばしい光の中を仕事帰りのサラリーマンたちが賑々しく歩いている。それ らの影が交差する石畳からは街頭時計も生えている。目下その「6」「7」間で長いのと短いのが間でデッドヒートを繰り広げ ている。幼稚園児がうろついていい時間ではない……そう思いながら青空は聞く。 「で、今日はどうして迷ったの? よっこらせと抱き上げた光はしばらく目を白黒させてから「プラモがおれん」とだけ答えた。 「そう。いつも行っているおもちゃ屋さんに欲しいプラモがなかったのね」 「ほうじゃけん。ほかのお店行ことしたらいなげなトコに……」 ... -
過去編第004話 1-3
仮にもマレフィックな以上、もっとこう強力な特性だとしても不思議じゃ──…) インラインスタンスに似た相手を威嚇する構えの青空。その腕に彼女そっくりの自動人形がぴょこりと乗った。 (モニター! さっき消したモニター! あれでリバースちゃんの様子見なきゃ、この上なくマズいです!) ダイアルやレバーやスイッチを乱雑に押しまくった甲斐あって、砂嵐まみれの画面は視界を回復した。 その中では、ちょうど。 青空に似た人形が銃口にブラ下がるところだった。 どうやらその人形の頭頂部から延びる毛は、ストラップよろしく楕円の輪へ変じるらしい。 それが、銃口に掛った。 (初めて見る形態です! まさか! まさか『特性』はあの形態から──!?」 サブマシンガン、イングラムM11の先端にあるサプレッサーから空気の奔流が射出された。不可思議だったのはその 瞬... -
過去編第004話 1-4
『で、続ける?』 「お断りに決まってるじゃないですか! というか、ななななななんなんですかアレはあ! 怖かったです! この上なく怖か ったですよおっ!」 装甲列車を解除したクライマックスはまず、そう絶叫した。えぐえぐと泣きながら。 『何っていわれても……。アレが私めの武装錬金の特性だから仕方ないじゃない』 「じゃ、じゃあこの顔とか手は何なんですか!」 「おうおう。相変わらず第一段階からして怖いのう♪」 楽しげに見上げ、時にはぴょこぴょこ跳ねさえするイオイソゴとは裏腹に。 冴えなさが造詣の良さを台無しにしている27歳の顔は──… あちこちの皮膚が剥落していた。赤い肉を剥きだしにしている部分がほとんどだったが、右頬に至っては全ての肉さえ削 げ落ち、白い珠の羅列が露になっていた。人体標本じみた醜さだ。それを訴えたクライマックス自身、すぐに右手でそこを 覆... -
過去編第004話 1-8
「リバースに狙い撃たれ、崩壊した家庭。その後どうなったかは色々や。一家心中したトコもあるし娘が寝とる父親襲てハン マーで殴り殺したっちゅうのもある。いっちばんヒドかったのはスーパーで見ず知らずの4歳児殺した奴やな。隠し持っとった 出刃包丁ですれ違いざまに首バッサリ。だいたいああいう場所の天井って3mぐらい上にあるやん? 男児の心臓っちゅうの は元気なんやろな。水圧カッターみたく噴き上がった血しぶきが今でもベットリや。板変えろ? ムリムリ、そこな、事件のせー で潰れたよって。いま廃墟。でやな。犯人……よーするにリバースに家庭ブッ壊された奴の言い分はこうや。『子供と幸せそう に話している父親が許せなかった。自分は不幸なのになんでコイツだけ』……てな。ま、何のひねりもないアレや。裁判なら 『自己中心的、かつ悪質で』とかいうお馴染の枕詞確定、ベッタベタな動機や。ちなみにソイツの母親はな... -
過去編第004話 1-7
ややあって。 イオイソゴは瓦礫残る広場に1人佇んでいた。顔つきは厳しい。腕を揉みねじり溜息さえ時々つく。 その部屋に──装甲列車が景気よく開けた穴を抜け──入ってきたのは美人だがどこか冴えない女性で、 「あれ? リバースちゃんは?」 と呟いた。澄んでいるが間の抜けた感じもいなめぬ声はもちろんクライマックス。きょろきょろきょろきょろ落ち着きなく 辺りを見回す元声優の体は、さきほど耆著でゲル状になった筈だが、しかしいますっかり元通りで、 「その様子じゃとぐれいずぃんぐめに治療して貰ったようじゃの」 「飛んでった先が診療室でした! いまはこの上なく快調ですっ!」 問いかけに明るく、とても明るくブイサインを繰り出した。 そんな27歳にはあと嘆息の555歳。 「気楽でええのう。ヌシは。わしは奴めを説き伏せるのに難儀したと... -
過去編第007話 「傷だらけの状況続いても」 1-1
当事者 3 (ウチを舐めたらあかんで。今いるマレフィックの中では一番若手。けれどまだまだ伸び盛りや) 筒の中。疵のある目がくつくつと歪んだ。 実感があった。 これからの運命を総て総て掌握しているという……実感が。 目論見の初手は──… 当事者 1 あっという間に決着した。 車の影から躍りあがった瞬間、金髪の持ち主がゆるやかに振り返った。目が合うより早く手にした凶器を振り下ろす。日 本刀。鎖分銅ほど馴染のない武器が相手の腕へ吸い込まれるまで1秒と掛からなかった。腕が飛び、血の匂いが立ち込 める。ここは地下駐車場、換気はすこぶる悪い。鉄錆の、ねっとりとした臭気が吐胸をつく。舞い上がる腕を見た瞬間、貴 信の全身から血の気が引いた。 (切断するつもりはなかった。……なかったんだ) ただ... -
永遠の扉 過去編 第001話 (1-1)
玉城青空(たまき あおぞら)の声帯は生後11か月にしてその機能の大半を奪われた。 母親のせいである。彼女は新婚生活に夢のみを描いている若い女性にありがちな育児ノイローゼを発症し、いまだ座らぬ ──11か月にして、まだ。発育不良によって将来を悲観させるには十分な──青空の首を発作的に絞めた。 治るはず、締まるはず、みんなのように座るはず……時に人は攻撃の暴発をもたらしたありとあらゆる悪感情を行為ごと その中で無自覚に弁護し、整合性を取りたがるらしい。少なくても青空の母親はそうであった。我が子の首にかけた十指 におぞましい力を込めながら「治るはず、締まるはず、みんなのように座るはず」と頑なに信じていた。我が子がむせ、チア ノーゼをきたし非定型的縊死への道を緩やかに歩んでいるのを見てもなお、たとえば首ヘルニアへ牽引を用いるような加療 意識によって我が子の首を絞めていた。それが... -
永遠の扉 過去編 第002話 (1-1)
妹の誕生によって玉城青空が最初に被った被害はインフルエンザだった。 小学校卒業を控えた冬、生後間もない妹──玉城光──が原因不明の高熱で入院した。義母は泊まり込みで看病し、 多忙な実父は会社から病院に直行し、家で少し寝てからまた出勤という生活をするようになった。 青空は、結果からいえば放置された。 「もうすぐお姉ちゃんになるんだし自分のコトは自分でやってね」 とは病院へ行く義母が放った伊予弁の翻訳結果だが、青空自身は心から素直に従うコトにした。もし病気が長引いて、 妹のノドがつぶれ自分のようになっては大変だと思ったのだ。もともと自立的で、周りに迷惑を掛けたがらない──言いか えれば他人に頼れない──性格である。誰も待っていない暗い自宅の鍵を開ける日々を受け入れた。(この頃祖父母は 4人とも死没していた) だがある朝起きると、ぞっと寒気に覆われるのを感じ... -
永遠の扉 過去編 第003話 (1-1)
そのマンション襲撃の後始末は他の戦士長の管轄だったから筋からいえば別に防人衛が心痛を覚える必要はなかった のだけれど、例えば誰かが事後処理の進捗具合──といっても手がかりのなさを再確認するだけの空虚なやりとり──を 囁きあっているのを聞くだけでもう覆面の奥が蒼い哀惜で、だからだから剣持真希士は当惑した。 「燻ってんのさ。奴はずっと」 橙色の光輝のなか面白くなさそうに呟いたのは火渡赤馬。何かの任務で珍しく同じ班になった彼がこれまた珍しくかつて の同輩評をさほど親しくもない真希士に漏らしたのは、会話の端緒が、この時まだ新人(ルーキー)に毛が生えた程度の 後輩への文句づけだったからで、それはやがて師匠筋の防人へのダメ出しにスライドした。 「燻ってんのさ。奴はずっと」 とはつまり日頃抱えているかつての朋輩への他愛もない不満の表れなのだろう。 「... -
過去編第007話 「傷だらけの状況続いても」 1-2
当事者 2 灰色で塗り固められた部屋が闇に沈んでいた。 元は何かの研究所だったらしい。ディスプレイのついた筐体や巨大なカプセルが無造作に並べられ、それらは部屋の隅 から差し込む青白い光の中で錆や罅割れを無残に晒している。使われなくなって久しいらしい。 天井から剥離したと思わしきコンクリートが点在する床には空のペットボトルやコンビニの袋、染みのついた割り箸なども 散乱しており、ここが若者たちからどんな扱いを受けているか雄弁に物語っている。 ちょっとした講堂ほどある部屋の隅に、奇妙な一団がいた。 見た限り彼らはとても人間とは思えない。もし肝試しと称し侵入してきた若者がいれば、あまりの異様さに声を失くし全速力 で踵を返して逃げるだろう。 奇妙な格好の鳥と。 1mほどの筒と。 鎖で繋がれた子猫がいた。 そしてまず、鳥と筒の間で何かが爆... -
過去編 第003話 (1-8)
数十分後。森の一角は異様な変貌を遂げていた。 何もかもが、凍りついていた。葉の燃えカスも炭となるまでコンガリ焼かれた木も全て氷に包まれていた。 「忍法薄氷! 炎自体の直撃をもりもりさんと貴信どののW鎖分銅で咄嗟にいなした直後、無銘くんの自動人形で辺り一 面構わず凍らせ消火したのであります! 見まわったところ延焼の心配もございませぬ!」 説明御苦労。そういいつつ総角は前髪をくしゃりとかきあげた。 「……フ。どうやらあのポテトマッシャーは『普通』の物。武装錬金ではないらしい」 「ゆえにホムンクルスの不肖たちを斃すコトあたわず。結構な爆圧こそ浴びましたが、致命傷とはなりませぬ。……ですが」 「があぁ! せっかく見つけたのに目くらましされたら追えんじゃん! やっぱあの人形おらんし!」 「恐らくあの人形は武装錬金。我の兵馬俑と同じ自動人形。爆発で我たちの眼を晦まし... -
過去編第007話 「傷だらけの状況続いても」 1-3
文字だけで考えると分かり辛いコトこの上ない!! これでなんで遠くの敵を爆破できるか、ウチ自身慣れるまで苦労した。 えーと。図で考えよう。 ”媒介”は「ハンカチ」としよ。誰でもポケットにしまっとるからな。 で。次のような条件の場合なら。 条件1 ウチと敵の距離は3km。 条件2 ウチと敵の間にはハンカチが等間隔で落ちている。 条件3 敵のポケットにはハンカチがある。(=敵と媒介は同じ地点にいる) 条件4 ウチのすぐ前にもハンカチがある。 条件5 便宜上、前述の「一定範囲」は500mとする。 ※ 媒介を爆破するごとに、「500m以内にある媒介」の前にワームホール出現。 位置関係はこうや。 デッドからの 距離(km) 3.0 ‐┨ハンカチ …… 条件3の「敵のポケットのハンカチ」 . ┃... -
過去編 第003話 (1-6)
姉への罪の意識は口実だ。 本音は別の部分にある。 本当はただ死んで楽になりたいだけだろう? 彼は厳しい声を上げながら執拗に迫ってくる。 「姉が好きだと!? 笑わせるな! 本当に好きであれば客死によって再会を諦めるような所業などは絶対にせん! 少な くても我は違う! 師父と母上の元に戻るためならば臓物を引き摺ってでも前に進んでみせる!」 「それは──…」 「いまの貴様はかき消される叫び声の中で立ち尽くし後悔だけ抱えているに過ぎん! 姉へ悔い姉を恐れ、いま以上の傷 を浴びぬよう浴びぬよう隷属しているだけだ!」 無銘は、咆哮した。 「だが分かっているのか! いまここで貴様が贖罪気分で死のうが、姉は決してその態度を変えないのだぞ!」 息を呑む。寒気がした。すっかり乾いた筈の背筋がまた潤い出した。 「むしろその態度を世界に認められたとさえ思... -
過去編 第003話 (1-5)
手を振りかざした戦士の足もとで地面が割れた。 割れた、というより罅(ヒビ)が入った。例えば鋭利なスコップを突き刺したよう……転瞬なり響く轟音の中、衝撃波が玉 城の両隣を通りすぎる。総ては一瞬。注視していた筈の玉城でさえ一瞬なにが起きたか分からない。 濛々たる土埃の中で振り返る。丸太の山がはじけ飛び質素な山小屋は倒壊中。ほぼ中央が大きくえぐれ木片や石くれが 舞い飛ぶ真っ最中。しかし玉城の心を決定的に砕いたのはその破壊力ではなく 「チワワさん……!? 無銘を飛ばした辺りがすでに巨大な地割れに見舞われているからだ。 幅およそ3メートルのそれが幾筋も幾筋も地平へ向かっているのを認めた瞬間、ただでさえ虚ろな玉城はみるみると血色 を失った。長大で凶悪な裂け目が4つ、広場を侵食している。むしろ罅(ひび)割れの中にたまたま切り立った地面が3つ残っ ているとさえ... -
過去編 第003話 (1-7)
「鳥型だと……!」 鋭い声がかかった。鉤爪は見た。森から広場へ躍り込んでくる影を。ひどくがっちりとした大柄の男だ。彼はぎょろりとし た三白眼の下で鋭い犬歯も露に吠えている。待て。勝負しろ。ありきたりの制止をひっきりなしに上げている彼はいうまで もなく先ほど総角に昏倒させられた戦士──… 剣持真希士。 「やはり遭遇していたか。怪我は?」 巨体に見合わぬ軽捷さで奈落を飛び越えてきた真希士、屈託ない笑みを浮かべた。 「ダイジョーブ! タンコブできたけどオレ様まだまだ戦える!」 なるほど言葉どおり後頭部にはひどく戯画的な瘤がある。それを彼は『三本目の腕』でさすってもいる。無駄な使い方を… …鉤爪の口から嘆息が漏れた。 (西洋大剣(ツヴァイハンダー)の武装錬金、アンシャッター・ブラザーフッド。本来その三本目の腕は剣を持ち替え相手の 虚を突くためのものだろうに) ... -
過去編 第003話 (1-9)
着のみ着のまま家を出た青空は、まずありったけの貯金を下ろし、都内のカプセルホテルを転々とした。 ライブ用に服も用立てた。チェック柄のロングスカートを履き、黒いボウタイブラウスの上にスタンドカラーのブルゾンを身 につけた。そしてチョーカーとブラウンのブーツも装備。 会計を終えてからさも「買った物をご賞味ください」とばかり入口に備え付けられている鏡の前でクルリと回りガッツポーズ。 「よし!」。どこも変じゃない。きっとオシャレ。 特にロングスカートについては青空会心のチョイスだった。ダークブラウンとカーキグレーのチェック模様を遮るようにパ ッチワークされたレース編みニットとトーションレースと花柄のコーデュロイはとても可愛かった。ドレープがなみなみと寄っ てギザギザとした裾のラインを描いているのも最高にいい。まるで自分に買われるため生まれたような気がして思わ... -
永遠の扉 過去編 第002話 (1-5)
(…………身内との確執、か。慕う者に虐げられるとは、哀れな) そう憐みながらも「もし自分が小札や総角に見捨てられ、人型になれぬコトを誹られたらどうするか」を考え、胸をチクリと 痛ませる無銘はいかにも少年臭い。彼は自分の勝手な想像に怯えた。親のように慕う彼らの役に立てるなら不惜身命の 心構えでいかなる痛苦も避けないが、見捨てられるコトだけは恐怖だった。 (だが!) つぶらな瞳に怒気を孕んだ光が燃え盛るのを無銘は止めようがなかった。 (こやつの姉はこやつを見捨てたも同然! 5倍速で年を取るだと! フザけるな! 不死のホムンクルスが年老いていく というのなら先に待ちうけるのは果てしのない地獄! 20年もすれば死ねぬだけの老体を引きずりまわすだけの存在に 成り下がる! なぜよりにもよって身内をそうしたのだ!!) 無銘は改めて玉城を見る。まだまだランドセルが似合う幼い姿... -
永遠の扉 過去編 第003話 (1-2)
こんがりと焦げ目のついたおいしそうなステーキが端っこの方からゆっくりと切り分けられていく。湯気が立ち、おいしそう な匂いが玉城の鼻孔をくすぐった。できたてホヤホヤ。食卓にのぼって間もない小判型のステーキ皿の上でじゅわじゅわ 溶けるバター。黄色く透き通ったジャガイモの破片。青々としたパセリ。普段なら食欲を掻き立てるそれらを前に玉城は ただ欝蒼とした表情を浮かべていた。 「どうしたの光ちゃん?」 ステーキ──病的なまでの均等さで切り分けたうちの1つ──を笑顔で口に放り込んだ青空はにこやかに聞き返した。 悪寒が走る。身が竦む。息を呑んだ口がもごもごと不明瞭な言語ばかりを呑みこんでいく。姉の手からこぼれ落ちた銀 の刃が黒皿と打ち合って凄まじい音を立てた。全身がさざめく。恐怖。覚えるのはそれしかなかった。姉がこっちを見てい る。見つめている。笑顔のままで微動だにせず、じっと見つ... -
永遠の扉 過去編 第003話 (1-4)
必死の思いでヒビだらけの核鉄に手を伸ばす。兵馬俑。発動したところで玉城にやられた傷のせいでまともには戦えない だろう。だが総角たちが来るまでの時間稼ぎぐらいはできる。 そう思い伸ばした右前脚の先で核鉄が爆ぜた。 吸息かまいたちなる忍法を知悉している無銘は理解した。真空の奔流。カマイタチ。それが核鉄の表面に炸裂して、弾 き飛ばしたのを。 哀れひゅらひゅらと旋回しながら丸太の向こうへ飛ばされる核鉄。小型犬は首を旋回、戦士に向けるは煮えたぎる眼差し。 相手は右腕を鉤手甲ごと前に突き出している。何らかの衝撃波で核鉄を吹き飛ばした。唯一の武器の発動を、封じた。一拍 遅れて玉城の腹部が大きく裂け、錆びた臭い──血とはやや違う匂いに無銘は迸る液体が血液を模した擬態用だと初めて 気付いた──が立ち込める中。 「貴様!」 「大丈夫……大丈夫……です」 顔を... -
永遠の扉 過去編 第003話 (1-3)
「終わり……です」 無銘は地面めがけ放り捨てられた。その損害状況を玉城はただ観察した。 チワワの尾は根元から千切れている。左後ろ脚もまた紙一重で繋がっている様子だ。両の前脚もあちこちが歪み、その 傍で吐瀉物が点々と水溜まっている。もはや彼は余喘も露わ。うずくまりか細くか細く震えるその姿はもはやあと一撃で絶 息する他ない残酷な事実を雄弁に物語っている。 「でも……しません。…………勝とうと思えば勝てたのに……私を気にして……話を聞いてくれたのは……嬉しかった…… です……だから……とどめは……さしたく……ありません。……さよなら、です」 後はあの金髪剣士たちを倒すだけ──…真っ白な踵が湿った土の上で方向転換をしようとした時、それは起こった。 この場を離れるべく身を反転しようとした玉城はまず、奇妙な引っかかりを覚えた。引っかかり。それは流転する戦闘局 面を制する... -
永遠の扉 過去編 第002話 (1-4)
齟齬の形は三角形のよう……玉城光はそう思う。緩やかな勾配が突然途切れる直角三角形。衝撃の中、肺腑から 全ての空気を絞り出しながら玉城はゆっくりと振り向いた。這いつくばった姿勢のまま、首だけを、ようやく。そして見た。直 角三角形の石を。走ってる最中それに足を取られた。だから速度が制御不能の浮遊感になった。直角三角形の勾配を全 力で登ってる最中不意に出てきた直角の断崖をどうする事も出来ずただただ加速の赴くまま身を投げるように。そして頭か ら地面に突っ込んだ。無防備に叩きつけられ、肺腑は全体重と堅い大地のサンドイッチになって酸素も窒素も一切合切吐 きつくした。真空状態の肺は端と端の内壁が癒着しているようだった。息を吸おうにも肺は縮こまったまま動かない。だが 皮肉にもその窒息の苦しさが何分かぶりの正常意識を取り戻した。 件のアリス。完全な直撃を避けなければ転んでもなお悪夢に... -
永遠の扉 過去編 第002話 (1-2)
青空の肢体がすくすくと伸び第二次性徴を遂げ始めた頃、周囲の男性の目はそれまでの人形を眺めるような憧憬をや め、より具体的な、若者らしい獣性の光を湛えはじめた。 原因は青空自身をも悩ます肉体の変質である。乳児期の発育不良の反動だろうか。例えば胸部などは13歳の頃すでに 元モデルの義母と並び、高校時代になってもなお成長をやめなかった。 にも関わらず胴は悩ましくくびれ、臀部もまた豊かな隆起を描く。 青空は自分の身体をどうすればいいか深刻に悩んだ。美しさを誇り、男性諸氏に売り込むという選択肢はなかった。 服飾に関しては声質上ひかえめな性格の青空であるから、年頃になってもセーターにジーパンというそっけない物を好んで いた。が、身体の発育はむしろ質素をして淫靡たらしめているらしく、周囲の男性の目は否応なしに注がれた。 更に170センチという長身も相まって、街頭でモデルにスカ... -
永遠の扉 過去編 第001話 (1-2)
蒼い碧い天蓋を滑らかに突っ切る影一つ。 鳥が一羽、空を飛ぶ。 その鳥はまるで航空機のような直線的な意匠に彩られていた。翼も爪も嘴も全て図面から抜け出てきたと見まごうばかり に角張り、金属的で無機質な光沢を黙々と放っていた。 翼をモノクロなツートンに塗り分け白いマフラーから赤黒い首をぼんやりとむき出している姿はコンドルにやや似ていたが 前述の通り”そのもの”ではなく、誰かが機械的にしつらえたような雰囲気を無愛想に振りまいていた。 ただ一つ生物らしさがあるとすれば、胴体にかけている白いポシェットであろうか。強風に煽られるたび、それを見るコン ドルの瞳に生命らしい機微が宿った。風にさらわれるのを危惧しているのかも知れない。 そうして大空を滑空していたコンドルのような物体は一度大きく翼をうねらせると、下方に向かって猛然と疾駆した... -
永遠の扉 過去編 第002話 (1-3)
長い金髪は白霧の中でいっそう際立つ。玉城光はその10メートル先からくる強烈な色彩感覚を浴びながら、口を開く。 淡々と、淡々と。 「無効化……した筈です。あの光は……確かに……切り札」 「ああ。絶縁破壊。小札の奥の手だ。まともに喰らえば確実に行動不能」 「さっきは土壇場……でした。だから……一番強い技を……出すと…………思ってました……。だから…………利用…… しました。爆発でも……拘束……でも……一番強い技なら……あなたにも……効くと……。ハヤブサの急降下さえ…… 致命傷にならなかった……あなたにでも…………効くと……」 ほう、と感嘆した男は緩やかに貴信と兵馬俑を手放した。重力の赴くまま地面にぐなりと伏した彼らを見る瞳は妙に暖かく 玉城は軽く首を傾げた。 「フ。それをあの一瞬で見抜き、この俺にブツけたのは見事としかいいようがない。なにしろ俺さえ封じれば実... -
永遠の扉 第090話 ~ 第099話
第080話 ~ 第089話 第090話 「まひろと秋水、悩む」 第091話 「剛太と桜花、残党に挑む」 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) 第092話 「斗貴子が防人に報告。そして影、遂に過去より来(きた)る!」 第093話 「パピヨンvsヴィクトリア&音楽隊の帰還」前編 (1) (2) (3) (4) 第094話 「パピヨンvsヴィクトリア&音楽隊の帰還」後編 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) 第095話 「演劇をしよう!! (前編)」 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12-1) (12-2) (13-1) (13-2) (14) (15) (16-1)(16-2) (17... -
第006話 「時間も分からない暗闇の中で」 1-1
当事者 4 バラけていく。崩れていく。脚部に力が入らない。張り詰めていた神聖な集中力が虚空の彼方へ散っていく。脇を見る。男 3人が割れた人混みへ吸い込まれる。彼らは山のように連なっていた。揺れていた。両端の屈強な水色の間で貧相な緑が 揺れる。その緑の嵐が飛びかかってきたのは何秒前? もう何分も? 追いつかない。縮められない。 バラけていく。崩れていく。 ──積み上げてきたからこそ分かるものがある。 規約にある数値。観測で明文化される数値。それらは決して感情的な挙措で覆せるものではない。規約に従い観測に 照らさなくてはならない。栄冠を目指すという事はつまりそれだ。タバコを控え酒を控え節制に励み好物の脂身さえ口にせず 友人どもが恋人とベッドの中で甘く囁いている明け方にはもう20kmほど走っている、そんな生活を年単位で送り、足から 少しでも多くブヨつい... -
第006話 「時間も分からない暗闇の中で」 1-6
当事者 3 冗談じゃない。 『最後に残った戦士』は叫びたい気持ちで走っていた。 廃工場の敷地はすでに出た。いまは全力疾走仲。視界の横をギュンギュン過ぎるは高い塀。世界と工場、区切る塀。 来るときはここを8人で通り過ぎた。 まず頬傷の戦士がやられた。次に2名。次に茶髪。向かっていった3人も恐らくは、もう。 (7人が瞬く間にやられた。俺が最後の1人) 「お前は逃げろ。やられた連中の核鉄を回収し、戦団に連絡しろ」 走るたび、ポケットの中で3つの核鉄が小うるさく打ち合う。戦闘初期に死んだ奴らの所有物。よく戦闘のドサクサにまぎ れ回収できたものだと思う。 「ハシビロコウの足を凍らせた時に」 落ちている核鉄にも氷を伸ばし、引きよせた。もしそれを見咎められていたらタダでは済まなかっただろう。 世界に100しか... -
第006話 「時間も分からない暗闇の中で」 1-3
当事者 4 様々なコトから逃げ続け。 泥まみれの姿でたどり着いたのは。 手狭な診察室だった。 2つの椅子の横にがっしりとした灰色の机があった。机上にはカルテやレントゲン写真を貼る器具があった。 名前を知りたい気もしたが憂鬱な気分なのでどうでもいい。 今自分は人生最悪最低の憂鬱を味わっている。今は亡き上司や同僚にすがりたい気分だった。 「へえー。やっぱり死にたいっていいますの?」 向かいに座った女医が聞き返す。ひどく冷たいキツネ目はからかいと興味深さを湛え自分を見ている。見ているだけだ。 自殺やめるといえば「ああそうですの」と突き放すだろう。幇助を頼めばあっけなく叶えるだろう。それがよく分かった。 まったく、医者にあるまじき姿態だ。 なのにそれを倫理的局地から責める気概が、自分にはまるでなかった。 結局この診療室にい... -
第006話 「時間も分からない暗闇の中で」 1-2
当事者 1 二茹極(にじょきょく)貴信は回想する。 もしあの日雨が降っていなければ、自分はもっと違う運命を辿っていただろう。 ……と。 中学2年のころ母親と死別した二茹極貴信は内に熱さを秘めた気弱な青年へと成長した。父の影響かも知れない。父と きたら40の半ばを過ぎてなおヒラだった。フィリピンの企業相手に液晶の売り上げをグングン伸ばす部長、とっくに役職2 つ分は上に行った同期、入社して間もないが「使いやすい」先輩を嗅ぎわけるに長けた女子社員。彼らに頤使(いし)され ても文句一ついえず「はい、はいっ」と甲高い声で応じあくせくと走りまわる。それが貴信の父だった。 そんな彼にも誇れる物が2つあった。 1つは名字である。 二茹極。 このひどく変わった名字は生来のものではない。妻の物である。「山田じゃ本当冴えないでしょ? あたしの名... -
第006話 「時間も分からない暗闇の中で」 1-5
当事者 4 夜。都心にある廃工場でハシビロコウはため息をついた。ハシビロコウとはペリカンに似た大型鳥類の名称だ。全身はネ ズミ色。トレードマークは、異様に大きいクチバシ&何を考えているか分からない三白眼。 ああ。憂鬱だ。 すぐ横の錆びた鉄柱が火を吹いた。何か刃物のような物が掠ったようだ。というか簡単にいえば「投げつけられた」。銀色 の円弧が鉄骨に似た柱を一削り。そして反転。遡行。遠ざかっていく。元来た軌道をブーメランのように、持ち主へ。入れ替 わるように響く怒号、飛びこむ殺意。人影が来る。辺りに散らばる塗料の缶──昔ここで生産された物らしい──をガタガタ ガタガタ吹き飛ばし。 ああ。憂鬱だ。 ディプスレス=シンカヒアという名のハシビロコウは何度目かの溜息をついた。 工場は暗い。天井に空いた大穴から月明かりが射しこんでいる以外、... -
第006話 「時間も分からない暗闇の中で」 1-4
当事者 1 香美、と名付けたネコはひどく体が弱かった。普通、子ネコというものは母ネコの初乳から免疫力を獲得(移行抗体)し、 1~2か月ほど様々な感染症から守られるものだ。 が、香美は生後数か月の間、何度も何度も感染症にかかり生死の境を彷徨った。ひょっとするとだが、母ネコ自体が 免疫力を持っていなかった(または免疫力の薄れた状態だった)のかも知れない。 『僕が拾った時もそうだった! 担ぎこんだ病院で一晩に何度も死にかけた!』 「そう……ですか」 (でも生命力自体は強いという話だ!) いよいよ駄目だという時、貴信はケージの隙間からそっと前足を握ってやった。 * * * * * * * * * * * * * * * * 「先生! 僕は泊まり込んででもこの子の面倒を見てあげたい!」 突拍子もない申し出に、獣医は面喰らったようだった。5... -
永遠の扉 第064話
話は、八月二十七日の夜──屋上で空を見上げて泣くまひろを秋水が見た頃──に遡る。 銀成学園の職員室で鐶は生徒手帳を広げ、沙織の写真と、それそっくりの顔を並べていた。 「……似てますか?」 「カッコは似てるけどさ、そのタルい話しかたは何とかならんワケ?」 「やっぱり? 私このコの喋ってるとこを無銘くんの忍法で見たけど、すぐ覚えるの無理みたい」 「……うーんとさ。うまいかもしれんけど、キャラかわりすぎじゃん」 突然の豹変に香美は鼻の頭にシワさえ寄せて困惑した。 「はぁ……でも……まだ定着しないというか……友達の呼び方を間違えてバレそうな……」 『ふはは!! その不備を補うべく僕たちはココにいる!! まぁ僕は人間関係について努力 しようとして挫折したクチだが!!』 「ところでさひかりふくちょー。あたしのマネとかできる?」 沙織に扮した鐶の口が明... -
第098話 (4-1)
「とにかくだ。武術に筋量は必要ない」 「本当にそうなんスか? キャプテンブラボー」 手を挙げたのは中村剛太。武術……というか鍛錬とは無縁そうな人物である。 「剣術はなんとなく分かりますけど、殴ったり蹴ったりするのはけっこう力要りますよ? そうでもしなきゃナックルダスターや スカイウォーカー通りませんってホム相手に」 前半耳にした瞬間わずかに目の色変えた男がふたり。 (……フ。剣士でもマッチョな奴は居たけどな) (飛天御剣流。総角の振るう流派の何代目かの継承者が確か……) 最近思うところあり古流について調べている秋水だから思い当たる。平生バネの付いたひどく重い外套で力を押さえていた 男の話を。 「ブラボー。流石は戦士・剛太。なかなか鋭い質問だ」 話の腰を折られた形だが防人は涼しい顔だ。むしろ質問大歓迎という風でこう述べる。 「じゃあとりあえず順を追って説明す... -
永遠の扉006-3
第006話 「今は分からないコトばかりだけど」 (3) なぜ、こういう状況に置かれているのか。 正直理解に苦しむ。 けれど苛烈であろうと馬鹿げていようと、処して目的を果たすのが自分という存在に許された たった一つの在り方だ。 そう。 迷い込んだのは夢なんかじゃなくて現実。 自分を変えたいのなら動き出すしかないから…… 「司令…!! もはやこれまで!! 私はゾンビになどなるのは御免です。……お先に!!」 教壇の上で河合沙織がこめかみにつきつけた銃を弾くと、傍らのまひろは手にしたジッポラ イター(設定上は起爆スイッチ)のフタを開けた。 声に出すなら「むむむ……」といった面持ちをする彼女は、七三分けのカツラやつけヒゲと あいまってなかなかにコミカルである。 そしてその眼前へジッポライター入りの握りこぶしを荘重に掲げた後、下唇をかみしめてや や寂しげな目をし... -
ヴィクティム・レッド 54-2
翌朝、サイボーグ研究施設の一角、なにかの実験に立ち会っているバイオレットを捕まえ、 レッドはセピアのことを彼女に切り出した。 「セピアの……過去だと? なぜそんなことを聞く?」 自動販売機の横の長椅子に腰掛け、缶コーヒーのタブを開けながらバイオレットは問い返した。 ぐっと言葉に詰まるレッドだったが、その様子でなにかを察したのか、彼女はそれ以上問うような事はしなかった。 代わりに、缶の飲み口に目を落として淡々と語り始める。 「セピアがカラーネームを獲得する以前……『M-107』と呼ばれていた頃、 わたしと彼女は同じラボに登録された実験体(ヴィクティム)だった。 ある合同実験に被検体としてわたしと彼女が選抜され、それ以来、顔を合わせれば言葉を交わすようになった。 といっても、それほど親密な付き合いがあったわけではない。 本当に世間話程度のことしか... -
第094話 「パピヨンvsヴィクトリア&音楽隊の帰還」後編 (5)
【9月12日】 まひろ所属するところの演劇部は最近とみに活気を帯びている。 もちろん元々みんな演劇に意欲的だったのはいうまでもないが、それが最近とても良い方向に刺激されている。 だからまひろは最近部活がとても楽しい。 「でもびっきー、あまり部活に来てないよね。カゼかなあ? 体の調子が悪かったらどうしよう」 「しばらくアルバイトで忙しいみたいよ。何でもやりたいコトのためにお金貯めたいんだって」 「お父さんたちから仕送り貰っているのに立派だねびっきー。メイドカフェでも毎日一生懸命働いているし」 「そういえばヴィクトリアのご両親って何してる人なんだろう。今は離れて暮らしているらしいけど、あの子、家族のコトはあ まり話したがらないから……」 「そそそそそそれはきっとホームシックになりそうだからだよ! う、うん。きっとそうだよ」 「? ? なんでまっぴーが慌て... -
P2!~after 10 years~ 51-1
―――時は西暦2017年。週刊少年ジャンプにおいて、ある意味伝説と化した一つの漫画があった。 其の名は<P2!>。21世紀最大のトンデモ卓球漫画とも称される名作にして問題作である。 世に卓球ブームを巻き起こし、アニメ化・実写映画化・カードゲーム化・ミュージカル化・その他ありとあらゆる メディアミックスを行いながら、連載開始から足掛け11年。 ついに久瀬北と王華学園との、波乱に満ちた全国大会決勝戦が始まろうとしていた――― 「とうとうここまで来たな…」 大歓声の中、感慨深げに眼鏡の男―――久瀬北卓球部部長・遊部(あそべ)が呟いた。 ここは全国大会決勝の地、中学生で卓球を志す者ならば誰もが憧れる場所―――そう、聖地・甲子園である! そしてグラウンドのド真ん中にどっしりと設置された、神々しさすら放つ一つの卓球台――― それこそが両雄相まみえる、最終最後の... -
「演劇をしよう!! (前編)」 (15)
【翌日。銀成学園地上1F。廊下】 「感謝する」 「何がよ?」 ヴィクトリアは怪訝な顔をした。目の前には秋水がいて深々と頭を下げている。地上に戻るなりそれだ。まったく訳がわか らない、愛らしい顔つきを不快に歪め詰問する。 「相談に乗ってくれたのだろう。ありがとう」 「確かにそうだけど、なんでアナタが礼をいうの?」 武藤姓でもないクセに。からかうように笑うと瞳の光が揺らめいた。 辺りには人気がない。いくつかある校舎のうち一番南側の更に隅っこというところだ。敷地的にも辺境らしく窓の外には フェンスがある。錆やほつれの編み目を縫うように広がる裏道を一台、豆腐販売の車が通った。うら寂しい笛の音は訳も なくヴィクトリアの感傷を誘った。フェンスから校舎までは3mほどあり、薄い黄土色の校庭にはコーンやバレーボールが無 造作に転がっている。いずれも乾いた泥や埃の洗礼をたっぷ... -
第094話 「パピヨンvsヴィクトリア&音楽隊の帰還」後編 (7)
奇しくも彼女が気付くと同時に向こうも気が付いた。彼はひどく嫌そうな顔をした。蝶々覆面の上からでさえ露骨に分かるほど両頬に皺を 寄せ、瞳を濁らせた。そしてそのまま速度を上げ、去っていこうとした。 「待ちなさいよ!!」 気づけば、ヴィクトリアは走っていた。 (ああもう。なんで追っかけなきゃいけないのよ) さまざまな建物の上を飛ぶパピヨン。 地べたを走るヴィクトリア。 走るヴィクトリアはまったくただごとではないという顔である。 ふだん冷たくすました顔がウソのようにあどけなく、ひたすら懸命になっている。 走り始めたのが昼ごろだからかれこれ数時間は走っている。住宅街を抜け商店街を抜け、このまえ時間進行の時ごった がえした大交差点を走り抜け、全身汗だくで走っている。華奢な体に纏わりつくセーラー服は疾走の風にくしゃくしゃとなり... - @wiki全体から「過去編第005話 1-1」で調べる