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「・・・あ」
「ん? どうしたのタマちゃん?」
「ジャージ置いてきちゃった・・・ごめん、ちょっと取ってくるね」
「うん」

いつものようにユージくんと帰ろうとしたところで、道場の更衣室に忘れ物をしてきたことに気付いたあたしは急いで取って返した。
鍵は・・・まだかかってない。よかった。
すぐにジャージを見つけ、道場を後にしようとしたら。
道場の裏手から、人の話し声が聞こえた。
なんだろう、ひょっとして泥棒?
そちらへと近づくと。

「やべ、誰か来た!」
「マジで!?」

焦ったような声が聞こえて、続いて走り去っていく足音。
誰だったんだろうと思いつつそちらを覗き込むと、やっぱり誰もいなかった。
あたしが近づいてきたのに気付いて、すぐにどこかへ行ってしまったらしい。
本当になんだったんだろう。こんなところでなにを・・・と考えたところで、地面の上になにかが落ちているのに気付いた。
・・・本?
近づいて見てみると、それは漫画雑誌だった。さっきの人たちが慌てて置いて行ったんだろう。ページが開いたままだ。
身体を屈めて、ちょっとだけ覗いてみる。
・・・うわ。
開かれたそのページに描かれていたのは、いわゆるその・・・まぐわっている男女の姿だった。
局部に修正こそ入ってるものの、これはつまり・・・えっち本というもの、だろうか。
一気に頭に血が上ってしまい、あたしは目を背けようとした・・・のだけれど。
その寸前で目に入ってきた、描かれている男女のうちの男の人の方の姿(もちろん下にはなにも身に付けてない)に、思わず動きを止めてしまっていた。


・・・なんだか、ユージくんに似てる、ような。
いやいや、そんなことはないと自分に言い聞かせて首を強く振る。
でも、一度意識するともう止まらなかった。そして目も離せなくなってしまった。
改めて、そこに描かれている男女の痴態を見てみる。
女の人の方は、なんだかアニメにでも出てきそうな奇抜な髪形をしているけれど、男の人の方は割と地味な顔立ちだった。
・・・益々、ユージくんに似ている。
といっても、あたしはユージくんがこんなふうに息を荒らげて、しかも顔を紅潮させてなにかに耐えているような表情なんて見たことがない。
・・・頭の中に、ユージくんの顔が浮かんだ。しかもその顔は、見慣れた笑顔じゃなくて・・・目の前のページの中の男の人と、同じ表情だった。
その瞬間、ずん、と身体のどこかに衝撃が走ったような気がした。
どこなのかはよくわからなかったけれど。頭のような気もするし、下腹部だったような気もする。
あたしは吸い込まれるような気分で、その雑誌に手を伸ばしていた。ページをめくってみる。

『○○ちゃん!』
『○○くん!』

男女がお互いの名を呼びながら、さっきのページよりも更に激しく体をぶつけ合っていた。あたしは更にページをめくる。
・・・が、そこで終わっていた。どうやら最後のページだったらしい。
あたしはページを逆にめくっていった。さっき見たページも通り越して、この漫画の最初のページに辿り着く。
そうして、最初から通して読んでみると・・・大体のストーリーが理解できた。
どうやら、この男女は幼馴染みらしい。
男の人(というか、少年だけど)の方が女の人に小さい頃からずっと好意を寄せていて、ある時ちょっとしたきっかけからそれを打ち明けてしまう。
そうしたら実は女の人の方も男の人のことが昔から好きで、互いに想いを確認し合った二人がそのまま・・・という内容だ。
・・・といっても、ページ数としては明らかに二人が体を重ねているシーンの方が多いんだけども。えっちな漫画って、こういうものなんだろうか。
読んでいるうちに、あたしは自分の中になにか得体の知れないものが広がっていくのを感じていた。
・・・幼馴染みの、男女。しかも男の人の方は、なんかユージくんに似てる。
知らず、あたしはページの中の男女を自分とユージくんに置き換えていた。
・・・ない、と思う。
あたしとユージくんがこんなことになるなんて、ない。幼馴染みって、そういうものじゃないはず。
でも・・・もう一度、さっきのユージくんの顔が頭に浮かんだ。荒い息をついて、切なげな表情であたしの名前を呼ぶユージくん。
・・・またしても、衝撃というか電流というか、そんなようなものが走った。脳天から下腹部にかけて。
堪えきれなくなって、あたしはページを閉じて立ち上がった。
なんだか、体が無性に熱い。特に・・・その、下半身の方が。あと、あまり大きいとは言えない胸の先端辺りも。
顔も真赤になっているかもしれない。心臓もうるさかった。頭までぼーっとしている。
あたし、変だ。
じっとしていられず、そしてもちろん猛烈な恥ずかしさもあって、あたしはその場から駆け出していた。急いで自転車置き場に戻る。


「あ、タマちゃん遅かったね。ジャージ見つかった?」
「ううう、う、うん」
まったくもっていつも通りの(当たり前だけど)表情で聞いてきたユージくんに、あたしは思いっきりどもってしまった。
・・・どうしよう。ユージくんの顔をまともに見られない。
「・・・? タマちゃん、どうしたの? なんか顔が赤いよ?」
「は、走って戻ってきたから・・・じゃないかな」
「息もなんか荒いし・・・」
「そ、それも、走ってきたから・・・だと、思う」
「動きもぎくしゃくしてるし」
「き、気のせいだよ」
ユージくんの指摘を必死で誤魔化しつつも、しかしあたしの体調は悪化する一方だった。
・・・というより、ユージくんの声を聞いているせいかもしれない。
体が熱い。頭に靄がかかったみたいに、ぼーっとしてしまう。
「・・・タマちゃん、ちょっとごめん」
「え?」
ユージくんがあたしの頭に手を伸ばした。
・・・体の熱さが、一気に限界に達した。
「うわ! タマちゃん、顔真っ赤だよ!? 大丈夫!?」
「だ・・・」
大丈夫、と言おうとしたけれど、できなかった。脚から力が抜けていく。
倒れそうになったあたしの体を、ユージくんがすぐに受け止めた。

・・・さっきまで感じていたのとは段違いに強烈な衝撃が、全身に走った。びくん、と体が震える。

「た、タマちゃん!? なんか、ホントにおかしいよ!? どうしたの!?」
「わ・・・わかんない・・・」
辛うじてそれだけを言うことができた。
・・・ユージくんに触れられている箇所が、ものすごく熱くなっている。
全身が、剣道の試合の時とは比べ物にならないほど敏感になっていた。
でも、それ以上に熱くなっているのは・・・胸の先と、下腹部の方。
そして頭の中には、やっぱりさっき思い浮かべたユージくんの顔が張り付いていた。
「ゆ・・・ユージくん・・・」
異様に熱気を帯びた吐息と共に、ユージくんの名前を呼ぶ。
・・・さっき見た漫画の中で、女の人が男の人に対してそうしていたように。
「タマちゃん、ちょっとごめん」
・・・けれどユージくんは、漫画の中の男の人と同じ反応をしたりはしなかった。当たり前だけれど。
いわゆるお姫様抱っこの形であたしの体を持ち上げ、そのまま校舎の方に向かって歩き出す。
「まだ開いてるはずだから、保健室行こうタマちゃん。それまで我慢してね?」
「う、うん・・・」
なんとか頷いたけれど、やっぱりユージくんに触れられている部分が熱いままだった。ひょっとしたらじっとりと汗ばんでいるかもしれない。
胸の先は既に下着と擦れて痛いくらいにまでなってるし、下半身に至ってはなんだか妙な感触までしてわけがわからない。
あたしの体・・・一体どうしちゃったんだろう。


あたしが自分の体の異変の正体を知ったのは、保健室で先生に話を聞いてからのことだった。
ちなみにその間、ユージくんは先生に言われて保健室を出ていたので、羞恥で真っ赤になったあたしの顔を見られずに済んだ。

・・・先生から替えの下着を借りてから帰ったけれど、やっぱりあたしはユージくんの顔を直視できなかった。
とりあえず、明日からどうやってユージくんと接すればいいんだろうか。

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最終更新:2008年06月23日 23:12